
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
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SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)が実現する世界においては、車両は単なるハードウェアではなく、モビリティサービスを提供するソフトウェアプラットフォームとなる。そして、そのプラットフォームの一部を構成する重要な要素がクラウドである。
SDVでは、車両におけるリアルタイムの操作やモニタリング、データ処理がクラウドを介して実行され、各車両が生成するデータは、単なる車両運行情報にとどまらず、ユーザー体験を向上させる多様なデータを含む。例えば、エンジンの動作状況や車内の快適さを測定するセンサー情報、ユーザーのハンドル操作の傾向を示すデータ、課金や決済に必要となるサービス利用情報などさまざまである。これらの情報をリアルタイムで処理し、クラウド側で分析・最適化するため、クラウド環境は極めて高いスケーラビリティとデータ処理能力を持つ必要がある。
さらには、車両からのデータが、単一のクラウドに保存されるだけではなく、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)を含め複数のクラウド環境にまたがって処理されるケースも増加する。このような状況下で、クラウド環境は分散型でありながらも、一貫したデータ処理を行う能力が求められ、効率的かつスケーラブルなクラウドアーキテクチャの設計と実装がますます重要となる。
これらのSDV開発を支えるためには、クラウドネイティブアーキテクチャの採用が不可欠である。クラウドネイティブアーキテクチャは、動的な要件に適応するスケーラブルで柔軟なシステムを構築することを目的とする。主要な要素には、異なる車両環境での一貫したソフトウェア展開を可能にするコンテナ化や、自動運転やインフォテインメントなどの機能をモジュール化してシステムの柔軟性を高めるマイクロサービスアーキテクチャが含まれる。イベント駆動型アーキテクチャは、センサーや運転データを即時のシステム応答のトリガーとして処理することで、リアルタイムの意思決定をサポートするだろう。
また、SDVを実現するためのクラウドインフラは、単なるスケーラブルなシステムだけではなく、柔軟性と信頼性を両立させる必要がある。クラウドインフラの信頼性向上には、障害を前提とした「Design for Failure(デザインフォーフェイラー)」の設計思想が重要である。これは、システムが障害を発生してもサービスを継続できるよう冗長化を図るアプローチである。また、カオスエンジニアリングを用いて意図的に障害を発生させ、システムの耐性を検証することで信頼性を高めることも有用だ。
さらに、オブザーバビリティを活用し、システムの状態をリアルタイムで監視し、異常を早期に検知することで、SDVの高い可用性と信頼性を維持する。オブザーバビリティは、ログやトレース情報を収集し、システム全体の振る舞いを可視化することで、異常検知やパフォーマンスの最適化を可能にする。これにより、迅速な根本原因分析と対応策の実施が可能となり、高い可用性を維持しながら運用を継続できる。
昨今の生成AI(人工知能)に代表されるようにテクノロジーの進化のスピードは激しい。利用者に新たな価値や体験を提供し続けるソフトウェアプラットフォームであるSDV自体と同様に、それを支えるクラウド環境も一度構築して終わりということではなく、新しい技術や思想を適宜取り入れながら、進化し続けていくことが求められる。
※本稿は、日刊自動車新聞2025年1月27日付掲載のコラムを転載したものです。
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