【2023年】PwCの眼(1)自動車産業における企業変革の方向性

2023-05-09

コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字をとった“CASE”という用語が2016年に欧州で提唱されてまだ10年も経たないが、世界の自動車産業では過去100年の歴史を塗り替えるほどの大きな変化が起きている。グローバル規模での大型投資や企業の合従連衡、異業種の新規参入などのニュースが、日常茶飯事のように流れるようになった。

一方、日本の自動車産業では、変化の大波の到来に右往左往している会社がまだまだ多いように見受けられる。これは日本の企業が概して、非連続な環境変化に弱いということが主因であろう。多くの企業は、戦後復興期から最近にいたるまで、「Do better, do more(より良く、より多く)」を実践してきた。日本企業ならではの勤勉な改善努力で、欧米企業よりも性能やコスト面で勝る製品を開発し、販売する地域を拡大し、現地化によってさらに改善するという事業拡大サイクルの確立が、その結果だ。この成長体験は、プロダクトアウト思考や技術至上主義という慣性を組織内に生み出し、「顧客起点でビジネスモデルを組み直す」「目指す姿からバックキャストをする」といった、昨今求められている抜本的な変革の足かせになっている。

では、この先の日本企業がとるべき変革の方向性はどのようなものか。まずは今一度、「自分たちは何をする会社なのか?」という存在意義を再構想することだ。今後のビジネスの大前提となる長期的な社会課題や技術展望をとらえ直し、「どういう顧客に、どういう価値を提供するのか」というぶれない北極星を見定める。ひたすらよいものを求め続けるのではなく、それらを通じて世の中に提供する究極的な価値、そして他社に勝る自社ならではのユニークなケイパビリティをしっかり定義することが一丁目一番地となる。

自前主義から脱却し、外部連携を最大活用することも重要である。顧客視点で真に求められているものを揃えようとすると、自社の製品やサービスだけでは全く足りないことが判明する。技術や顧客ニーズの進化は加速する一方であるため、外部との迅速で拡張性のある連携により対応すべきである。そしてエコシステムの中で自ら構築し強化する領域と、外部パートナーを活用すべき領域を見極めた投資のメリハリも必要になる。

社内に目を向けると、多様性を強化することが日本企業の大きなチャレンジである。大多数の企業が新卒入社の男性中心であり、忠誠心が高くハードワークもいとわない人材が多くいる一方、考え方や働き方が同質な中では真の変革は起きにくい。今後は、中途入社や女性や外国人の比率といった属性的な偏りの解消にとどまらず、多様な価値観や柔軟な働き方を歓迎し、従来にない発想を促したり、優秀な人材をひきつけたりすることで、企業の競争力にまで昇華させることがカギである。

これらの実行には、経営リーダーが自ら率先して10~20年先を見据えた変革アジェンダを設定し、誰よりも強いオーナーシップをもって全組織にメッセージと行動を示し続けることが最も重要である。強い現場力やたゆまぬ改善意識を持つ日本企業であればこそ、全社一丸となって変革に取り組むことができれば、得られる価値は大きいだろう。

執筆者

北川 友彦

パートナー​, PwCコンサルティング合同会社

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※本稿は、日刊自動車新聞2023年4月24日付掲載のコラムを転載したものです。

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