【2022年】PwCの眼(5)持続可能なモビリティ・都市の実現にむけて

2022-12-19

2022年11月にエジプトで開催されたCOP27では、引き続き脱炭素目標実現に向けた決意が各国首脳から表明されている。一方、これまで二酸化炭素(CO2)を排出してきた先進国に対して新興国での「損失・損害」への資金支援が求められるなど、今後、先進国は自国のCO2削減にとどまらない貢献が求められつつある。本稿では、改めて日本の運輸部門が自国の脱炭素化、新興国の支援を推進する上での要諦を考察したい。

国立環境研究所によると、わが国の運輸部門におけるCO2直接排出量は2020年度時点で17%、そのうち自家用乗用車由来が約半数、貨物自動車が約4割を占めている。そのような中、昨今世界的に電気自動車導入の気運が高まっているものの、資源高などにより車載電池コストが高止まりしうることや、相対的に大型商用車の電気自動車化は経済性が成り立ち難い、再生可能エネルギー化が進まないと導入効果が限定的となるなど、不確実性を内包している。

従って、運輸部門では今後、電気自動車化にとどまらない、脱炭素化にむけた包括的な取り組みも必要とされていくだろう。具体的には、再生可能エネルギーシフト、移動手段を変えるモーダルシフト、移動量を抑制する行動・生活変容を進めることが望まれる。

まず、再生可能エネルギーシフトは、スコープ3でのCO2排出量管理が今後導入される見通しの中で、更なる再生可能エネルギーの導入加速が求められている。輸送部門としても、例えば電気自動車の蓄電池を系統の調整力として用いるなど、再生可能エネルギーの導入量増加に貢献していく余地がある。

次に、移動手段を変えるモーダルシフトは、電気自動車導入よりも他移動手段への移行のほうが脱炭素化コストを抑えられる都市部では積極的に導入されうる。輸送部門としては、いわゆるMaaS化を通じて、よりCO2排出量が少なく効率的な公共・大量輸送手段、徒歩・自転車等の移動を促進することで貢献しうる。移行先の移動手段として、今後、公共交通としての自動運転車両導入も想定される。

最後に、移動量を抑制する行動・生活変容は、リモートワークの浸透、メタバースなどの仮想・拡張現実の広がりから、移動しないことで脱炭素化を図ることも一つの選択肢となりうる。輸送部門としては、例えば自動車販売時にデジタルショールームも提供する等、サイバー・フィジカル双方の体験を融合させていくデジタルサービス基盤を構築・提供していくことが望まれる。

そのため、都市の設計・開発と連動していくことが不可欠となっていく。例えば、フランス・パリでは自転車専用レーン敷設によるモーダルシフトが促されているほか、サウジアラビアのグリーンフィールド型スマートシティとして計画されているNEOM LINEでは都市の機能・生活自体が再定義される見込みである。

以上のような国内外における都市・モビリティの再形成によって、自動車産業は成り行きでは販売台数減少という脅威や、特に新興国ではこれまでのCO2排出に対する贖罪としての義務を負うことが想定される。自動車産業は、この変化を事業機会として捉え、先手を打っていくことが望まれるため、今後は内燃機関車での収益維持、電動化への投資に加え、脱炭素化にむけた包括的な取り組みという3軸目を持つことが期待される。

執筆者

阿部 健太郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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※本稿は、日刊自動車新聞2022年11月28日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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