【2022年】PwCの眼(1)持続可能な発展にむけたLCA推進

2022-06-01

自動車・モビリティ産業において、サステイナビリティーの観点からLife Cycle Assessment(LCA)への関心が高まっている。本稿では、LCAの取り組みが先行するEUにおける推進の背景や、運用面および企業の課題を考察する。

現在、気候変動問題が地球規模での課題となっている中、自動車業界では環境負荷低減の観点からLCAの重要性が認識されており、企業はライフサイクル全般において責任ある対応が求められると同時に、ビジネス機会の探求が課題となっている。

EUでは、電動車両の主要な要素であり、製造段階における二酸化炭素(CO2)排出量の多くを占める電池を対象としたLCAの制度化が先行しているが、エネルギーセキュリティを含む国家安全保障上の必要性も背景にあると考察される。従来は化石燃料への依存度が高く、その大半を輸入に頼ってきたため、自動車の利用が拡大するほどに、域外産油国への利益流出や域外依存リスクを高めてしまうジレンマを抱えていた。よって、再生可能エネルギ―導入と厳しい環境規制により化石燃料消費量を減らし、気候変動問題への対応という喫緊の政策課題への取り組みと歩調を合わせて自動車の電動化を推進し、域外産油国への依存軽減を図ってきた。一方で、今度は電動化車両の価値の多くを占める電池を域外依存する可能性が生じたため、サプライチェーンの域内化を図る欧州電池規制の策定に取り組んだと考えられる。EUの戦略は、エネルギーや資源の安全保障に関して、類似の課題を抱える日本において大きな示唆となるだろう。

一方、LCAの運用面では、自動車の「製品LCA」の開示の有無や算出・開示方法が、会社・製品毎に統一されていないことから比較が困難であるなど、課題は多い。解決に向け、まずLCAを運用するためのデータベースや算出方法の統一が急務であることに加え、企業の枠を超えてサプライチェーンを構成するさまざまなステークホルダーが提供するデータを連結可能にするデータ流通基盤が必要だ。さらに、データ流通の推進にはブロックチェーンなどのテクノロジーを活用したデータ基盤でのデータガバナンスでの取り組みも重要だ。

企業単位では、事業活動におけるバリューチェーンの各段階での対応が必要だ。例えば、企画段階では、ライフサイクルを通したLCA対応策の全体像の設計やLCAを考慮した新たなビジネス構想の企画・決定、製造段階では、工場のゼロエミッション化に加え、エネルギー消費量の削減や使用電力の調達最適化の検討など。また、製品利用やリサイクル段階では、コネクティッドのデータ活用による車両や搭載バッテリーの稼働率の最大化を図り、電池を中心にリサイクルサプライチェーンを構築することで、資源循環による環境負荷軽減や再価値化を行うことが重要だ。それらのライフサイクル全体における活動から得られたデータを収集・管理するためのプロセス構築や制度設計、LCAデータ開示対応なども必要となる。

持続可能な発展は、温室効果ガス削減に向けた解決策やイノベーションなくしては実現しえない。業界全体で制度化やデータ基盤構築を図った上で、企業としてはライフサイクル全体を俯瞰した戦略を立案して各事業プロセスに落し込み、着実に実行・管理していくことが重要となる。

※本稿は、日刊自動車新聞2022年5月30日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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