{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
2024-10-31
※本稿は、『日刊工業新聞』2024年8月29日付「経営リーダーの論点(8)」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
サーキュラーエコノミー(CE、循環経済)とは、いかに“資源の非効率性(ムダ)を減らし、資源・製品価値の最大化を図るか”である。CEは経済効率性が高い二酸化炭素(CO₂)削減手法であり、資源争奪戦の一環となっているため、資源循環政策は気候変動対策のみならず、産業政策や経済安全保障にも直結している。リニアエコノミー(大量生産、大量消費、大量所有)型のビジネスが限界を迎える中、企業は資源調達リスク対応だけではなく、新規ビジネスとしてもCEに係る取り組みを加速させている。
人類による自然資源消費が、地球の持つ一年分の資源の再生産量とCO₂吸収量を超える日であるアース・オーバーシュート・デー(年間資源使い切り日)。日本は世界よりも3カ月早い2024年5月16日に迎えた。労働力とエネルギーが安価に手に入り、資源に限りがないと思われていた時代に構築されたリニア型は限界を迎えている。
諸外国はリニア型からサーキュラー型の経済への転換(図表1)を進めるべく、欧州連合(EU)の「エコデザイン規制」「バッテリー規制」「ELV規制」、米国の「インフレ抑制法」、国際標準化機構(ISO)の国際規格化など、22年頃からCE関連のルールを整備している。日本でも24年に入り、レアメタル(希少金属)回収や再生プラスチック導入の義務化など、さまざまな規制やインセンティブの検討が始まっている。
国連環境計画(UNPE)は、気候変動対策と経済成長を両立させるためには、脱炭素対策と資源効率性向上をセットで実施する必要があると指摘している(図表2)。CEは環境負荷を軽減させるだけではなく、資源循環によって調達リスクを極限まで下げることで、資源の海外依存度の低減、国内産業の競争力を維持した持続可能な経済の実現に資することが期待されている。
CEに転換する理由は、世界的な人口増加や新興国の経済成長による資源消費量の増加、気候変動の影響だけではない。昨今の地政学リスクの高まりも重なり、資源を特定の国に依存し続けるリスクが顕在化している。
国際資源パネル(IRP)の19年のシナリオ分析では、世界の資源採掘量は50年に15年比の2倍以上である1830億トンになると推計されている。国際エネルギー機関(IEA)の21年の報告書では、グラファイト、コバルト鉱石は80%、リチウム鉱石、レアアースの加工は90%の供給が、上位3国からの生産に偏っているとしている。
レアメタル、アルミニウム、銅などのベースメタルは、消費拡大により、将来的な資源制約が高まっている。
加えてカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会の実現に必要な再生可能エネルギー発電設備や電気自動車(EV)の製造には、鉱物資源やレアメタルが不可欠で、グローバルでの資源争奪がさらに激化すると予測される。資源外交の軸足は原油から鉱物資源に移りつつある。企業の存続も経営戦略にいかにうまくCE施策を組み込めるか、資源を効率的かつ持続可能に調達できるかにかかっている。
CEは経済効率性が高いCO₂削減手段であることも、それを後押しする要因となっている。経済産業省の「成長志向型の資源自律経済戦略2023」では、再生材はバージン材よりも製造に係るCO₂排出量が圧倒的に少なく、2割から9割程度の削減効果に資すると試算されている。
マテリアル製造には化石資源の3割強が利用されている。50年のカーボンニュートラル達成のためには、この脱炭素化が不可欠となっており、企業においても再生材やバイオ資源などの循環資源への転換が喫緊の課題となっている。循環資源の活用は、資源調達リスクの低減にもつながる。サプライチェーン(供給網)も変革し、資源価値と製品価値の最大化を図ることで、経済効率的なCO₂削減も可能となる。
カーボンニュートラル達成のほか、廃棄物量削減、海洋プラスチック問題なども背景とし、CEへの移行が加速している。CEはPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)、SaaS(サービスとしてのソフトウエア)、リコマース、リファービッシュ、リマニュファクチャリングなどの新規ビジネスとしても注目されており、もはやコストではなく投資となっている。
PwCスウェーデンの23年のリポートによると、電気・電子機器分野において、循環型ビジネスモデル、特にPaaSモデルは従来の線形型モデルと比較して平均12%のコスト削減、平均10%のCO₂削減につながると試算されている(図表3)。新規ビジネスも拡大し、政府の「成長戦略フォローアップ工程表」では、CEの国内市場規模が30年頃に80兆円に達すると推計している。
昨今のトリプルクライシス(気候変動、生物多様性の喪失、汚染・廃棄物)に加え、地政学リスクの高まりにより、グローバル規模で資源の需給バランスが大きく崩れている。各国、自国内の経済システムに投入した資源を可能な限り循環させることで、資源の海外依存の低下、マテリアル製造におけるCO₂削減を図ることが合理的であると考え、リサイクル関連の技術開発に取り組んでいる。
例えば、水だけでリチウムイオン電池(LiB)のセルをリサイクルできる素材の開発が進められている。使用済み炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル技術、人工知能(AI)とロボティクス技術による素材や製品の分別・分離・解体などの技術開発も進んでいる。
サプライチェーン変革は大変な労力とリクスを伴うが、資源調達リスクに対応するため、せざるを得ない状況である。本来であれば、欧米のようにリスク起点で対応するべきだが、日本はルール起点で対応する傾向が強く、ルール形成が遅いため諸外国に比べて後手に回りがちである。
CEは今後、大きく発展していく領域であり、まだ先行者利益を狙える。それだけに、従来のような横並び主義ではなく、リスク起点でサプライチェーンやサービス・製品をCE型に転換することが望ましい。少資源国である日本だからこそ、関連技術開発も含めて積極的に推し進められることに期待したい。
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}