{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
2024-07-05
※本稿は、『日刊工業新聞』2024年2月29日付「経営リーダーの論点(2)」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
東京証券取引所は1月15日、企業価値向上への取り組みを開示した上場企業一覧を公表した。PBR1.0未満の企業の7割弱が開示(検討中を含む)したことで、企業価値向上に繋がる財務・非財務を統合した「価値創造経営」の取り組みは今後加速するだろう。企業は、企業価値の目標値を設定し、経営層による全社横断的な変革を行うべきである。その際、企業価値の現状と目標のギャップ分析、価値創造ストーリーに沿った強化すべき無形資産の特定と投資判断を、AIなどのテクノロジー活用を通じて科学的・持続的に実施することが要諦となる。
東京証券取引所は2024年1月15日、全上場企業に対して要請していた企業価値向上(「資本コストや株価を意識した経営の実現」)に対して、要請に基づく取り組みを開示した企業の一覧表を公表した。プライム市場では1656社のうち、40%の企業が開示済み、かつ9%が検討中としていること、PBR1倍未満の企業の7割弱が開示(検討中を含む)し、そのうち、時価総額が1,000億円以上の企業に限れば、78%が開示(検討中を含む)したことが明らかになった。
東証の要請は、日本企業の低いPBR(株価純資産倍率)が背景にあった。PBRの日本平均は1.4であり、世界平均が2.7、米国平均が4.4であるのと比較して低く、TOPIX500を構成する企業の43%がPBR1.0未満である。業種別平均でも20業種のうち6業種(自動車、銀行、素材、エネルギー、保険、電気・水道・ガス)が1.0未満となっており、日本企業の企業価値は世界及び米国と比較して相対的に低い。これが、資本収益性・市場評価・成長性を要素・組織別に分解・分析し、課題となる要因を特定の上、改善施策・目標を開示することを東証が求めた背景である。
また、日本企業では企業価値向上に寄与する無形資産の評価も低い。日経225でみると企業価値に占める有形資産の割合が69%である一方、S&P Europe350では29%、米国S&P500では16%に留まっており、欧米では企業価値に占める無形資産の割合が高い。2000年を1とした各国通貨による研究開発費の指数が米国は2.4、中国は24.7なのに対して日本は1.2に過ぎず、OJT以外の人材投資をGDP比で国際比較した場合、米国が2.08%なのに対して日本は0.1%であり、無形資産に対する過小投資が低い成長期待に繋がっているといえる。旧東証一部上場企業では、65.5%が実質無借金経営であり、間接金融依存度が減少して担保能力や返済能力などの短期的な財務実績の重要性が低下していることを踏まえると、自社株買いなどの短期的な施策ではなく、無形資産を含めた中長期的な価値創造経営が必要だと考えられる。
今後、東証が開示企業一覧を月次で公表することもあり、企業価値向上に向けた取り組みが進むだろう。しかし、経営としてどうすれば実際の成果につなげられるのか不明瞭なところもあるのではないか。本質的なところに絞って見解を述べたい。
測定できないものは管理できない、管理できないものは改善できない。そうであるならば、最終的なゴールである企業価値自体に目標値を設定すべきだ。売上高や利益などの財務指標は「中間指標」に過ぎない。また、ESG起点で企業価値や無形資産に関する議論が喚起された経緯があるがゆえに、誤った認識と行動に繋がっているケースもみられる(図表2参照)。本質的なポイントは「企業価値の最大化」に向けて体系的に取り組むことにある。これは、投資家の今後の関心事が実効性と継続性にあると予見され、企業には、財務・非財務の連鎖や因果を可視化することに留まらず、価値創造ストーリーを可視化した上で、各要素の相関関係と傾向を継続的・科学的に分析し、変化の検出やストーリーの見直しを継続的に実施することが求められることからもいえる。
この時、財務・非財務を統合した価値創造経営を実現する経営管理が必要となり、必然的に大きな企業変革を伴うことになる。そのため、開示制度やガイドライン対応に起因する単発的な施策ではなく、企業内の各機能が所管する様々な資本(財務資本、製造資本、人的資本、社会的・関係資本、知的資本、自然資本)を統合的に捉えて、グループ全体で俯瞰的に価値創造経営を推進することが肝要となる。
次に先進企業が具体的にどのような取り組みを進めているのかを見てみよう。例えば、現状と目標を定量的に把握して重点強化ポイントを定めた上、テクノロジーを活用して先読みしながら施策を推進しているケースがある。具体的には以下のような取り組みである。
(1)企業価値の現状と目標、それらのギャップを定量的に把握・測定・シミュレーションし、企業価値に貢献するそれぞれの要素(事業収益改善、固定費改善、新規ビジネス創出、財務レバレッジ、従業員エンゲージメントなど)が、どの程度ギャップを埋められるかの内訳をシミュレーションしている。
(2)企業のパーパスやビジョンを基に、中長期的に何を目指すのか、そのための足腰として、どの無形資産を強化するのか、そこに、どれだけ投資するのかを明確にするため、「価値創造ストーリー」を作り、重要ポイント(例えば知財無形資産)に焦点を当てた経営管理を行い、各要素毎に設定したKPIの値や相関関係を経営ダッシュボードで測定・管理している。
(3)企業価値向上の度合いを持続的かつ科学的に管理するだけでなく、テクノロジー(AIなど)を活用して先読みしている。テクノロジー活用では「汎用性」「精度」「保守性」の担保だけでなく経営の意思決定に対する「説明性」を担保した予測モデル構築に取り組んでいる。
時代は常に変化しており、一度決めた価値創造ストーリーが変わらないともいえないため、変化を捉えることを経営者の責務と捉え、事業環境や社会の変化を踏まえて経営管理を「戦略性のある価値創出活動を管理する状態」に至らしめるためには、経営層による全社横断的な変革が必要となるが、本質的なポイントを意識しながら、先進企業の事例も参考に様々な企業に取り組みが進展することを期待したい。
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}