IFRSを開示で読み解く(第15回)繰延税金資産に関する分析

2016-01-08

PwCあらた監査法人
成長戦略支援 製造・流通・サービス(MDS)本部
シニアマネージャー 島袋 信一

今回は繰延税金資産に関して、日本基準からIFRS(国際財務報告基準)への移行時の影響を分析します。

今回の分析の対象とした業種と企業数は以下のとおりです(2015年11月時点におけるIFRS適用企業、以降の分析は各企業の期末財務諸表に基づいている)。なお、日本基準からIFRSへの移行時の影響を分析するため、米国会計基準からIFRSへ移行した企業については分析対象から除いています。

業種

企業数

業種

企業数

ガラス・土石製品

2

小売業

2

ゴム製品

1

証券、商品先物取引業

2

サービス業

6

情報・通信業

5

その他金融業

2

食料品

1

医薬品

6

精密機器

2

卸売業

3

鉄鋼

1

化学

2

電気機器

7

機械

3

輸送用機器

7

銀行業

1

陸運業

1

合計

54

全体的な繰延税金資産の増減に関する分析

今回分析対象とした54社のうち、日本基準からIFRS移行時に繰延税金資産が増加した企業は30社、減少した企業数は24社となり、増加した企業が若干多いという分析結果になりました(【表1】)。また、金額ベースで比較した場合、日本基準からIFRSへの移行によって54社の繰延税金資産の合計金額は増加しているという分析結果になりました(【表2】)。

 

【表1】繰延税金資産が増加した企業数と減少した企業数

業種

企業数

繰延税金資産が
増加した企業数

繰延税金資産が
減少した企業数

ガラス・土石製品

2

2

0

ゴム製品

1

0

1

サービス業

6

4

2

その他金融業

2

2

0

医薬品

6

1

5

卸売業

3

2

1

化学

2

2

0

機械

3

1

2

銀行業

1

1

0

小売業

2

1

1

証券、商品先物取引業

2

0

2

情報・通信業

5

3

2

食料品

1

1

0

精密機器

2

2

0

鉄鋼

1

0

1

電気機器

7

5

2

輸送用機器

7

3

4

陸運業

1

0

1

合計

54

30

24

【表2】日本基準とIFRSの繰延税金資産の計上金額の比較

(単位:百万円)

業種

企業数

日本基準上の
繰延税金資産

IFRS上の
繰延税金資産

増減金額

ガラス・土石製品

2

104,447

134,218

29,010

ゴム製品

1

6,089

3,335

(2,754)

サービス業

6

82,398

103,576

21,178

その他金融業

2

23,015

32,131

9,116

医薬品

6

597,381

466,842

(130,539)

卸売業

3

87,825

93,174

5,349

化学

2

44,919

47,646

2,727

機械

3

25,511

26,315

804

銀行業

1

1,274,720

1,509,907

235,187

小売業

2

22,401

22,787

386

証券、商品先物取引業

2

29,401

24,145

(5,256)

情報・通信業

5

311,169

310,261

1,322

食料品

1

111,991

122,107

10,116

精密機器

2

53,767

59,635

5,868

鉄鋼

1

17,508

16,882

(626)

電気機器

7

236,129

345,823

109,694

輸送用機器

7

94,074

43,754

(50,320)

陸運業

1

9,283

8,857

(426)

合計

54

3,132,028

3,371,395

240,836

業種別の繰延税金資産の増減に関する分析

比較的、IFRS適用企業が多い業種である医薬品、サービス業および輸送用機器について分析します。

まず、医薬品業界では分析した6社のうち、増加が1社のみで、減少が5社と多いことが特徴的です。財務諸表注記(以下、「調整表」)によれば、棚卸資産の未実現利益の消去に係る税効果について、使用する税率が異なることにより影響が出ているとしている企業が2社あり、この影響により繰延税金資産が減少しているようです。

サービス業では分析した6社のうち、増加が4社、減少が2社となっています。調整表では、日本基準で監査委員会報告第66号に従って認識していた繰延税金資産をIFRSに従って再検討した結果、繰延税金資産が変動した(4社)、未消化の有給休暇に関する負債の認識(2社)、連結範囲の見直しにより全ての子会社、関連会社が連結対象となった(1社)、といった点が増減の説明として挙げられていました。

輸送用機器7社においても、未実現利益の消去に係る税効果の税率差を挙げている企業が2社、IFRS導入による新たな一時差異の発生を挙げている企業が3社ありました。

調整表における繰延税金資産の増減理由に関する分析

次に調整表における調整内容に焦点を絞って分析を行います。調整表において繰延税金資産の増減について説明している企業のうち、一番多かった理由は、IFRSの導入に伴う調整により、「新たな一時差異が生じたことで繰延税金資産の金額が増減した」、と説明している企業が19社ありました(【表3】)。次いで、日本基準では「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査基準委員会報告66号)(以下、「監査委員会報告第66号」)に従って認識していた繰延税金資産をIFRSに従って再検討した結果、繰延税金資産の金額が増減したとする企業が14社、未実現利益の消去に係る税効果の計算に使用する税率が異なることによって増減したとする企業が13社ありました。なお、繰延税金資産の合計金額には影響はありませんが、表示に関して、日本基準上は流動項目に計上していた繰延税金資産をIFRSでは非流動項目に振り替えているという説明を行っている企業が35社ありました。

 

【表3】調整表での主な説明内容

調整表での主な説明内容

企業数

日本基準上で流動項目に計上していた繰延税金資産・負債を非流動項目に振り替えている

35

IFRSの導入に伴う調整により、新たな一時差異が発生した

19

日本基準で監査委員会報告第66号に従って認識していた繰延税金資産をIFRSに従って再検討した

14

未実現利益消去に伴う税効果の計算に使用する税率が異なる

13

1. 新たな一時差異の計上による変動 19社

日本基準からIFRSへの移行のための調整により、IFRS固有の新たな一時差異が生じることがあります。主な調整項目として、未消化の有給休暇に関する負債の計上、非上場の資本性金融商品の公正価値評価、開発費の資産計上、収益認識、新たな未払債務の計上、等が挙げられていました。

2. 繰延税金資産の回収可能性の検討方法の違いによる変動 14社

日本基準では監査委員会報告第66号により、企業は5つに分類され、その分類ごとに詳細な繰延税金資産の回収可能性に関する判断指針が示されています。IAS第12号「法人所得税」にはこうした詳細なガイダンスはなく、繰延税金資産は、将来減算一時差異等について、それらを利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で認識するものとされています。またタックスプランニングの実現可能性についても、日本基準では5つの分類ごとに詳細な判断指針が示されていますが、IAS第12号「法人所得税」にはそうした詳細な指針はなく、繰延税金資産を回収するための課税所得を創出・増加させるようなタックスプランニングの機会が利用可能であれば、その範囲内で繰延税金資産が計上されることになります。このような繰延税金資産の回収可能性の判断指針の違いから、計上される繰延税金資産の金額に差が生じたと考えられます。

3. 未実現利益の消去に係る税効果の計算に用いる税率の違いによる変動 13社

日本基準では、売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上するため、売却元の税率を用いて税効果を計算します。一方、IAS第12号「法人所得税」では、売却先が棚卸資産を保有しており当該棚卸資産に一時差異が発生しているため、売却先の税率を用いて税効果を計算します。この結果、計上される繰延税金資産の金額に差異が生じることになります。

まとめ

業種別の繰延税金資産の増減に関する分析では、業種ごとに多少のばらつきは見られたものの、今回の分析結果からは、業種ごとの特徴は認められませんでした。言い換えれば、企業の置かれている状況によっては、同じ業種に属する企業であっても、繰延税金資産の計上金額に差異が出てくると考えられます。調整表における繰延税金資産の増減理由に関する分析では、日本基準からIFRSへの移行時に繰延税金資産の金額が増減する理由について、主に上記の3つのパターンに分類されることがわかりました。
上述のとおり企業が置かれている状況によっては繰延税金資産に多額の影響を与える可能性もあるため、IFRSの導入に当たっては慎重に対応することが必要と考えられます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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