IFRSを開示で読み解く(第2回)短信公表日の比較(IFRS移行に際しての決算公表のタイミング)

2014-12-02

あらた監査法人
IFRSプロジェクト室
吉岡 小巻

IFRS(国際財務報告基準)を適用した場合、開示量の増加などを理由として、決算公表(短信公表)のタイミングが遅くなるのではないかと懸念の声が聞かれます。
そこで、IFRS適用企業について、日本基準または米国基準(IFRS移行前の決算期)での短信公表日とIFRS(IFRSへ移行した決算期)での短信公表日の比較を行いました。

2014年11月20日現在、第1四半期決算短信をIFRSで開示している企業は35社、第2四半期決算短信をIFRSで開示している企業は35社、第3四半期決算短信をIFRSで開示している企業は17社、期末の決算短信をIFRSで開示している企業は19社です(期末に移行前の基準で一度短信を公表し、その後参考情報としてIFRSで短信を公表している企業を除く。後述参照)。
以下のとおり、第1四半期(差異平均3.5日)から期末(差異平均1.2日)にかけて、IFRS適用前とIFRS適用後の短信公表日までの日数が短縮される傾向であることが分かります。

 

<四半期または期末後短信公表日までの日数>

 

第1四半期

第2四半期

第3四半期

期末

IFRS適用企業数

35社

35社

17社

19社

IFRS適用後(平均)(1)

34.6日

33.7日

34.5日

38.8日

IFRS適用前(平均)(2)

31.1日

31.8日

33.1日

37.6日

日数差異(1)-(2)

+3.5日

+1.9日

+1.4日

+1.2日

次に、(1)IFRS移行前の会計基準差による傾向(日本基準/米国基準)、(2)IFRS適用開始時期という切り口でそれぞれ短信公表日を比較しました。

(1)IFRS移行前の会計基準差による傾向(日本基準/米国基準)

日本基準適用(IFRS適用前)企業と比較して、米国基準適用(IFRS適用前)企業の方が、IFRS移行後の短信公表までの日数が長いことが分かります。これは、IFRS移行前に適用していた会計基準による影響というよりも、米国基準適用企業は相対的に規模が大きいことが影響していると推察されます。米国基準を適用していた企業6社の時価総額平均は2.1兆円(2014年11月20日現在)で、日本基準を適用していた企業30社の時価総額平均は1.6兆円(2014年11月20日現在)よりも多額となっています。

 

日本基準:<四半期または期末後短信公表日までの日数>

 

第1四半期

第2四半期

第3四半期

期末

IFRS適用企業数

29社

29社

15社

19社

IFRS適用後(平均)(1)

34.3日

33.1日

34.4日

38.8日

IFRS適用前(平均)(2)

31.2日

31.6日

33.2日

37.6日

日数差異(1)-(2)

+3.1日

+1.5日

+1.2日

+1.2日

米国基準:<四半期または期末後短信公表日までの日数>

 

第1四半期

第2四半期

第3四半期

期末

IFRS適用企業数

6社

6社

2社

0社

IFRS適用後(平均)(1)

35.7日

36.7日

35.5日

IFRS適用前(平均)(2)

30.7日

32.7日

32.5日

日数差異(1)-(2)

+5.0日

+4.0日

+3.0日

(2)IFRS適用開始時期による傾向

第1四半期からIFRSを適用した企業の場合、IFRSで開示する最初の決算となる第1四半期において、IFRS適用前と比較して短信公表日までの日数が平均4.1日延びています(30.7日から34.8日)。一方、期末からIFRSを適用した企業の場合、IFRSで開示する最初の決算となる期末において、短信公表日までの日数は平均0.2日の延び(39.1日から39.3日)となっており、ほぼ変化はありません。
これは、日本たばこ産業(株)(期末からIFRS適用)が、IFRS適用期の短信公表を2012年4月16日に行っている(その前年度の日本基準での短信公表日は2011年5月12日であり、16日短縮している)ことが影響していると考えられます。この点に関して、日本たばこ産業(株)は、2012年6月14日に開催された金融庁の企業会計審議会の「任意適用の検証」の説明の中で次のように解説しています。「昨年11年の6月、12年度3月期の第1四半期から日本基準とIFRSの同時並行決算プロセスを開始いたしまして、実務プロセスの習熟と検証を経た上で、12年3月期の数値を4月に発表させていただきました。」(企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議議事録より抜粋)

 

第1四半期からIFRSを適用:<四半期または期末後短信公表日までの日数>

 

第1四半期

第2四半期

第3四半期

期末

IFRS適用企業数

18社
(日本基準17社、
米国基準1社)

18社
(日本基準17社、
米国基準1社)

10社
(日本基準9社、
米国基準1社)

9社
(日本基準9社、
米国基準0社)

IFRS適用後(平均)(1)

34.8日

34.1日

35.7日

38.2日

IFRS適用前(平均)(2)

30.7日

30.8日

32.9日

35.9日

日数差異(1)-(2)

+4.1日

+3.3日

+2.8日

+2.3日

(注:日本基準は移行前に日本基準で短信を公表している企業を示し、米国基準は移行前に米国基準で短信を公表している企業を示している)

 

期末からIFRSを適用:<四半期または期末後短信公表日までの日数>

 

第1四半期

第2四半期

第3四半期

期末

IFRS適用企業数

17社
(日本基準12社、
米国基準5社)

17社
(日本基準12社、
米国基準5社)

7社
(日本基準6社、
米国基準1社)

10社
(日本基準10社、
米国基準0社)

IFRS適用後(平均)(1)

34.4日

33.4日

32.9日

39.3日

IFRS適用前(平均)(2)

31.5日

32.8日

33.4日

39.1日

日数差異(1)-(2)

+2.9日

+0.6日

▲0.6日

+0.2日

最後に、期末に移行前の基準で一度短信を公表し、その後参考情報としてIFRSで短信を公表している企業を見ていきます。
このような企業は2014年11月20日現在、9社(IFRS適用前に日本基準を適用していた企業が3社、IFRS適用前に米国基準を適用していた企業が6社)あります。
東証の短信作成要領より、原則として期末後45日以内に短信を公表することが求められます。そのため、一度日本基準または米国基準で短信を公表し、その後任意でIFRSによる短信を開示していると考えられます。任意でIFRSで短信を開示する趣旨は、短信と有価証券報告書で異なる会計基準を用いることにならないように、投資家の誤解を避けることであると考えられます。
なお、9社全ての企業で、一度目の日本基準または米国基準による短信の業績予想で、「当社は平成26年3月期の有価証券報告書から、国際会計基準(IFRS)を適用致します。」(三井物産(株)の短信より抜粋)のように、一度目の短信と有価証券報告書では、異なる会計基準が用いられていることが注記されています。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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