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劇的な変化と不確実性に満ちた現代社会において、未来を切り拓いてきたトップランナーは何を見据えているのか。本連載では、PwCコンサルティングのプロフェッショナルとさまざまな領域の第一人者との対話を通じて、私たちの進むべき道を探っていきます。
第13回は、公教育のシステム変革の実践事業やSTEAM教育の推進等に取り組む東京学芸大学の金子嘉宏教授と、教育現場でAI等を駆使した教育データの利活用に取り組む東京学芸大学附属竹早中学校の上園悦史主幹教諭を迎え、PwCコンサルティング合同会社でこれからの学び創りを支援するエデュケーションイニシアチブをリードするパートナーの宮城隆之とシニアマネージャーの林真依が、学校教育の在り方について議論しました。
※対談者の肩書、所属法人などは掲載当時のものです。本文中敬称略。
(左から)林 真依、上園 悦史氏、金子 嘉宏氏、宮城 隆之
参加者
東京学芸大学教育インキュベーションセンター長 教授
金子 嘉宏氏
東京学芸大学附属竹早中学校 主幹教諭
上園 悦史氏
PwCコンサルティング合同会社 常務執行役プラクティス本部 兼 クライアント&インダストリー
チーフ・インパクト・オフィサー
宮城 隆之
PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー
林 真依
林:
社会の変化が加速している中、学びの在り方はこれまでとこれからで大きくシフトチェンジしていく必要があります。これまでは、一斉授業・形式的平等主義の下、皆で一緒に同じことを同じペースで行うチョーク&トーク型の学びが主流でした。現在は、個別最適で協働的な学びを目指し、子どもたちそれぞれのペースで対話を通じた納得解の形成を図りながら進める学習者中心の学びへと変化してきています(図表1)。学校で学ばない選択をする子どもたちも増えてきています。また、学校の状況としても、教員採用試験の倍率は地域によっては1倍近くまで低下し、ほぼ全員採用しないと教育現場は回らない状況です。これらの背景を踏まえ、公教育システム自体の見直しを図るために、まずは学校の役割や機能に立ち返り考えていく必要があると考えています。
図表1:これまでとこれからの学びの在り方
出所:総合科学技術・イノベーション会議 教育・人材育成ワーキンググループSociety 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージから引用
金子:
学校には「教育・学び」と「コミュニティ」の機能があります(図表2)。「教育・学び」は、全国の学校において全員に対して公平に行われなければならないという原則があります。しかしながら、現在の学校は、国の決めた基準によりがんじがらめであり、子どもたちに対して真に公平な教育が行われているか疑問があります。また、「コミュニティ」の機能としては、学校は子どもたちの大事な居場所であり、教員にとっては働く場所となっています。特にコロナ禍において、子どもたちの精神的不安定さが増したことから、学校の「コミュニティ」としての機能の重要性が明らかになりました。今後、学校の役割を考える中で、コミュニティとしての学校、という位置づけについても考えていく必要があります。
図表2:学校の機能
出所:金子教授作成資料より抜粋
金子:
現在学校では「教育・学び」の在り方として、「個別最適な学び」が求められています。「個別最適な学び」は、「指導の個別化」と「学習の個性化」に分けられます。「指導の個別化」とは、子どもたち一人ひとりの理解に合わせて柔軟に指導を行うことを指し、これにより先ほど述べた「公平」な学びが担保されます。「学習の個性化」は、各々の興味関心に合わせた学習を行うことを指します。現在この「学習の個性化」を進めるにあたり、子どもたちの興味関心に基づいた主体的な学びを支援する場が不足しています。学校という学習内容や学習時間が決められている環境で、そのような学びを十分に実現することは困難です。そこで、年間70時間の総合的な学習の時間で探究的な活動やSTEAM活動を通じた「学習の個性化」に取り組んでいますが、現状十分とは言えません。そのため、放課後に地域の人々と一緒に主体的に学ぶ「開かれた学校」の役割が重要であると考えます。
宮城:
コロナ禍を経ても世界的に高い学力水準を保った日本の教育を誇りに思うと同時に、私自身の子育て経験からも、子どもたちの主体性や個性に合わせた教育には難しさを感じています。
上園:
コロナ禍は、学習に対して教師自身がものすごくひたむきに考えた時期でもありました。限られた資源の中でできる教育で最大の効果をもたらすためには何が必要なのかを考えていたと同時に、子どもたちが登校できない中、学校の存在意義についても考えさせられた時期でした。それを経て、現在でも教育現場にとって必要なものを精選していく動きが続いていると感じます。
金子:
「個別最適な学び」と関連して、各地域に合った「個別最適な学校」も必要となると考えています。そのためには、学校運営協議会を通じて各学校で個別最適な学校とは何かを検討できるよう、文部科学省や大学、企業が各学校をコーディネートしていく仕組みづくりを進める必要があると思います。
林:
ここまで未来の学校づくりについて話してきましたが、教育現場の現実との歪みを感じる点もあるのではないかと思います。現場の視点から、どのようにお考えでしょうか。
上園:
これからの学校には新たな評価軸が必要だと考えています。教育現場にいると、従前の学校の評価基準に照らし合わせると評価が高くなくても、感性や思いやり等の社会的能力が高く、協働的な学びにおいて必要不可欠な活躍を見せる子どもがいます。そのような子どもを評価するためには、彼らの良い点や可能性、学習の進捗状況をもとに評価する個人内評価が重要になります(図表3)。ただ、個人内評価を行うにあたり必要な子どもたち一人ひとりの学びのデータや履歴は、一人の教員だけで把握するには限界があり、圧倒的に不足している状況です。
図表3:学校教育における評価の基本構造
出所:平成31年1月21日文部科学省「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)から引用」
林:
そのような中、一人の子どもを多くの大人の眼で見ることができるよう、教科担任制やチーム担任制の導入が進められるなど、学校組織における人の配置の在り方についても創意工夫が進んできていますよね。
宮城:
社会的能力は、教育現場だけでなく企業の中でも重要視されるようになっていると感じます。コンサルティング業界では従前より問題解決能力や論理的思考力の高い人材が選ばれてきていますが、今後より必要とされているのは、共感力やコミュニティ形成能力のあるアントレプレナーシップに長けた人材です。そのような人材の育成の必要性を感じる一方で、どう評価していくのかは大きな課題だと感じています。
金子:
社会的能力や非認知能力は教師だけで教えられるものではないと感じます。それらの能力は、多様な大人たちと接する中で学ばれるものであるため、社会人や地域の人々の教育参画がキーポイントになると考えます。
宮城:
私自身も教育に携わりたい気持ちはあるものの、実際に社会人として教育に携わる機会は非常に限定的だと感じています。私たち社会人が教育参画する方法として、どのようなものが考えられるのでしょうか。
金子:
まずは、総合的な学習や放課後の時間から参画していただくのが良いと考えます。今最も注目されているのは、部活動の地域移行です。部活動は人間性の形成を主な目的としており、教師だけではなく社会人や地域の人々と共に運営することが可能です。
林:
金子先生の使われる言葉に、子どもたちに「世界の目次(世の中のさまざまな動向)を見せる」というものがありますが、企業はその点に関与することもできると思います。PwC Japanグループもソーシャルインパクト活動の一部として、10年後の未来に必要とされる仕事やスキルについて考えるデザイン思考をベースとした「未来のしごとワークショップ」というプログラムを全国の主に中学校に無償提供しています。ワークショップでは子どもたちはもちろんのこと、先生たちが「世界の目次」を見るきっかけにもなっていると感じています。
上園:
学校教育におけるテクノロジーの活用は、いわゆるGIGA端末の導入をきっかけに、その方法を模索している段階です。GIGA端末の提供と合わせて、年間あるいは学期ごとの授業予定を予め子どもたちに提示することで、彼らの探究型学習や予習を促進することができるのは、端末導入の良い点です。また、学びのデータ化や蓄積、分析が可能となり、粘り強く学びに取り組むグリット(grit)の力も身につくと思います。これらにより、挑戦して継続する力と自己調整する力を見出していくことが可能だと考えています。
さらに、生成AIを用いた教育についても研究の余地があると考えています。私たち教師がすべての子どもたちに生成AIほどの情報量で彼らの学びを引き出すアドバイスや個別最適な課題を与えることはできません。生成AIのアドバイスが子どもたちの学びのモチベーションを活性化させ、個性を引き出し、気づきを与えることができるのであれば活用の余地があると考えています。
金子:
教育にテクノロジーを用いる際には気を付けるべき点もあります。それは、テクノロジーによる効率化を学びにも適用してしまうことです。学びにおいては試行錯誤や紆余曲折が重要です。子どもたちへ次々とテクノロジーを与えることで、自身のできないことができるようになるという学びのプロセスが省かれ、実際はテクノロジーの力であるにもかかわらず自身ができるようになったという感覚を持たせてしまう可能性があることには留意が必要だと考えます。
林:
これまでに挙がった望ましい公教育の形を実現していくために、今後それぞれの立場からできることとしてはどのようなことが考えられるでしょうか。
上園:
教育現場に立つ教師の立場としては、基本に立ち返り、子どもに真摯に向き合うことが大事だと考えています。私たちの向き合い方次第で子どもたちは変わるため、昔ながらの人を育てる、子どもと向き合うということは絶対に忘れてはいけません。また、テクノロジーの導入により、子どもたちの学校に対するイメージが変化する中で、彼らの意見を反映した学びやすい空間づくりを行っていくことが重要だと感じています。
金子:
学校は何をしなければならない場所なのかを考え直す必要があると感じています。かつては学校・家庭・地域で成り立っていた教育が、昨今はほとんど学校だけでまわしていかなくてはならない状況が起きており、カリキュラムのオーバーロードにつながっています。学校での教育をどこまで行うのか考える必要があります。また、学校をもう一度面白い場所とするためにも、「学び」が本来持っている「遊び」とも通ずる面白さを見つめ直し、テクノロジーの導入や社会人の教育参画を進めるとともに、教師の自由度を高めることが必要だと考えています。
宮城:
教育は、企業や私たちコンサルタントにとってゴールの設定や投資対効果の測定・評価が難しいため、取り掛かりにくいテーマだと思います。その中でも、私たちコンサルタントの役割は、教育に対して企業が投資しやすくなるような仕組みづくりを行うことです。地域共創や人的資本投資等、企業が関心のある課題と輻輳させながら、教育現場における課題解決へ取り組めるように橋渡しをしていく必要があります。PwCコンサルティングがバックボーンとして教育と企業の橋渡しを行うことで、ソーシャルインパクトの創出に繋がる非常に面白い取り組みになるのではないかと感じています。
※本記事は2025年3月3日に行われた対談を記事化したものです。
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