
自動・自律化したドローンによる業務効率化事例の分析
ドローンの自動・自律化に伴い、農業、点検、土木・建築などのサービス分野でのドローン活用が広がる見込みです。自動・自律化したドローンが取得したデータを業務で活用し効果を発揮した先進的な事例を紹介し、取り組みにおける課題や今後の展望を考察します。
劇的な変化と不確実性に満ちた現代社会において、未来を切り拓いてきたトップランナーは何を見据えているのか。本連載では、PwCコンサルティングのプロフェッショナルとさまざまな領域の第一人者との対話を通じて、私たちの進むべき道を探っていきます。
第1回は、コンピュータービジョンを中心としたロボット工学における第一人者である米国カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授・京都大学高等研究院招聘特別教授の金出武雄氏を迎え、PwCコンサルティング合同会社パートナーでTechnology Laboratory所長を務める三治信一朗と、社会にインパクトを与えるイノベーションの起こし方について語ります。
三治:金出先生はコンピュータービジョンやマニピュレーター、自律移動ロボットなどさまざまな領域で卓越した研究成果を残され、仮想現実や自動運転など現在の先端技術につながる基礎を築かれてきました。
こうした研究やイノベーションに対し、どのようなアプローチで取り組んでこられたのでしょうか。
金出氏:研究者は誰しも「良い研究をしたい」と思うものですが、「良い研究」とは何かというのは難しい問題です。人工知能黎明期の研究者アレン・ニューウェルは「良い科学は現実の事象や問題に応答しなければならない」「良い科学は詳細にあり」「良い科学は差を生む」という言葉を遺しています。私は「差を生む」、すなわちインパクトがある、役に立つ、ということが非常に重要だと考えています。
三治:なるほど、インパクトをもたらすということが根底にあるのですね。
金出氏:まずはどうしたら差を生むかというシナリオがなければ良い研究はできないのではないでしょうか。自分が研究していることがどのように使われるか、成功すれば何が起こるかを考える。そのストーリーはなるべく大きく楽しくしたほうがおもしろいですし、それによってどんどんアイデアが広がり、それを周りに伝えることができます。どんなに優れた研究者でも1人でできることは限られていますから、周りに伝えて、共感してくれる仲間を増やすというのはとても大切です。
論文を書くというのも結局はそういうことですね。読んだ人が「これはおもしろい、私もやってみよう」「こうすればこんなことができるんだな」と感じてくれることで、分野として広がっていくんです。
三治:金出先生がそのように取り組まれてきた「移動」「視覚」「判断」を可能にする技術は、いまや基盤技術と言えるものになっていますね。
金出氏:コンピュータービジョンを持ったロボットや人工知能というのは、現在ほとんどのシステムにおいて中核を担っています。こうしてどこにでも使われる技術となって、人々の生活を良くすることへとつながっていく。それがまさに「差を生む」ということではないかと思います。
米国カーネギーメロン大学コンピューターサイエンス学部
ロボティクス研究所 ワイタカー記念全学教授
京都大学高等研究院特別招聘教授
金出 武雄氏
三治:金出先生の代表的な成果の1つに、多数カメラシステムがあります。多数のカメラを使ってリアルタイムで3次元映像を作り出すという手法は、今でこそスポーツ中継などでおなじみとなりましたが、先生が30年ほど前に開発したステレオカメラがベースとなった革新的な技術ですね。
金出氏:最初は5台のカメラからスタートしたのですが、実はその成果を記して投稿した論文は「カメラは2台あれば十分」という理由でリジェクトされました。専門家の考えというのは驚くほど保守的なんですよね。
私はそれならむしろ増やしてやろうと、大きなドームに51台のカメラを設置して3次元映像を撮像するシステムを作りました。「考えたことはすぐやってみる」というのがカーネギーメロン大学の気質ですから、すぐに実践したのです。
三治:「すぐやってみる」というのは、プロジェクトを成功させるにあたって重要なことだったのでしょうか。
金出氏:そうですね。やってみると、まあほとんどのことはうまくいかないのです。そこでなぜうまくいかないのかを考えて、やり方を次々と変えていくことができます。その目標自体ももっとよく考えるべきだということに気が付く場合もある。しかもその過程を自分たちだけでなく他の分野の人たちにも見てもらい、「私たちの分野ならこういう時はこうする」といった違う見方を出してもらう。それが新たな発見につながるんですね。失敗してみて、そして一部が成功して、分かることはたくさんあります。
三治:同じく金出先生が早くから取り組まれている自動運転も非常に大きいイノベーションですが、こうしたイノベーションの社会実装を進める上では、技術への信頼性に加え、社会の受容も必要になると思います。イノベーションを起こし、それを社会実装するためのエコシステムについては、どのようにお考えでしょうか。
金出氏:イノベーションとその社会実装を実現する方法は1つではないと思います。私の研究室出身の学生が大手自動車メーカーからの出資を受けて自動運転のベンチャー企業を立ち上げたという事例などもあるのですが、学生時代に考えたことを実現させている人の多くは、必ずしも開発した技術をベンチャーで事業化することに成功したというケースばかりではなく、大学でものの見方やアプローチの仕方を身に着け、それを社会で生かしている場合も多いように見受けられます。
三治:そうしたイノベーションの社会実装に対する姿勢において、日本と米国の文化的・社会的背景の違いを感じられることはありますか。
金出氏:米国の人たちは失敗をおそれないとよく言いますが、実際には「失敗しても大丈夫」というより、心の中では「失敗しない」と思っているという印象はありますね。また、ベンチャーキャピタルの人たちなどからは、技術的な要素よりも、それが社会にどう受け入れられるか、どう周りを納得させられるかのほうが重要だとも聞きます。
そういう意味では私も失敗があるんです。1990年ごろに今で言うLiDARのような3次元スキャナーを作りました。当時としてはかなり高速で、屋外で大型物体の3次元モデルが作れるだけの視野と精度もあり、これは絶対にうまくいくと会社を立ち上げたのですが、さっぱり売れない。性能の高さには感心してもらえるのですが、価格に見合った需要がないんですね。建物や構造物のの3次元モデルを作るという事業も手がけましたが、それもうまくいきませんでした。今では一大ビジネスになっている分野ですが、まだニーズがなかったのです。
三治:早すぎたのですね。シーズとニーズが合致していなかった。
金出氏:社会の要求がないことをやっても仕方ないのですね。加えて、新しい技術を生み出したら、それが役に立つというシナリオを作って、そのシナリオを人々に納得させることができなければならない。そこも実力のうちなんだと思います。
三治:やはり、まずその技術で何ができるのかを示したうえで、社会に実際に受け入れられる受容性を喚起することが、イノベーションエコシステムの構築には重要なのでしょうね。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー Technology Laboratory所長
三治 信一朗
三治:先生はアカデミアの枠を超えて産官との連携にも積極的に取り組んでこられましたが、そうしたコラボレーションにはどのようなことを期待されているのでしょうか。
金出氏:米国のDARPA(国防高等研究計画局)とのプロジェクトでは、軍の出身者や起業家がコンサルタントとして参画していたのですが、彼らには技術的なことから歴史的経緯、議論の仕方などまで含めて多くを教わりました。それぞれが確固とした意見や視点を持っているので、そうした人たちとやりとりすることで、研究者としての自分の立場が明確になるのです。
三治:どのような研究成果が求められているのかを意識できるといったことでしょうか。
金出氏:そうです。われわれ研究者というのは、自身の研究が社会にとってどういう意味を持つのかを考えるべきだと分かってはいても、大学や研究機関の中にいるとなかなかできない。アカデミアの外の人たちから「こういう考えもあるのでは」と新たな視点を提示してもらえることで、研究の方向性も変わっていきます。今回のPwCとの対話もそうした機会になりますね。
三治:そういった形で「良い研究」に少しでも貢献できるようであれば光栄です。本日はありがとうございました。
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