~徹底した伴走でテレコム産業の未来を切り拓く~

第5回 「囲い込み」から「共創」へ――通信キャリアが描くエンタメ新戦略

  • 2025-11-11

通信業界が挑む変革の最前線を紹介する「Telecom transformation」の第5回は、「エンタテイメント業界×通信業界」に焦点を当てます。

アニメやオリジナルキャラクターなど、日本発のエンタメコンテンツは世界から注目されています。通信業界にとってもそのブランド力や発信力など顧客へ提供価値の大きさは魅力的であり、エンタメ業界との協業は、通信業界のビジネスを成長させるチャンスでもあります。

その協業を持続可能なものへ育てるには、エンタメ業界とWin-Winの関係を構築し、双方の強みを融合する仕組み作りが不可欠です。では、どのようなアプローチを取るべきでしょうか。

今回は、PwCコンサルティング合同会社のテクノロジー・メディア・情報通信(TMT)セクターの中でも、エンタメ業界での約20年の経験を生かしてエンタテイメント&メディア(E&M)チームのディレクターを務める岩崎 明彦と、同セクターで通信業界の変革を支援してきたディレクターの岡田 太郎が語り合います。「エンタテイメント業界×通信業界」で創出する新たな収益モデルやコンテンツエコシステムの構築、さらに海外展開の可能性まで話を聞きました。

(左から)岡田 太郎、大平 亮、岩崎 明彦

▼プロフィール

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
岩崎 明彦

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
岡田 太郎

(司会)
PwCコンサルティング合同会社
シニアアソシエイト
大平 亮

岐路に立つ通信事業者がエンタメ参入を急ぐ理由

大平:
最初に、岩崎さんが担当している領域と、その業務内容を教えてください。

岩崎:
私はTMTのE&Mチームで、エンタメ事業者の戦略策定やグローバル展開、データ利活用、M&Aなどを支援しています。

大平:
岩崎さんは前職でグローバルなOTT(Over The Top:インターネットを介したコンテンツ配信サービスの総称)事業の立ち上げを担当したそうですが、どのような経歴なのですか。

岩崎:
私は米国系投資銀行からキャリアをスタートし、企業のM&Aアドバイザリー業務を担当しました。その後は映画やアニメへの投資ファンドを経て、ハリウッド系の事業会社に転職しました。この時にOTT事業立ち上げを経験しています。かれこれ20年近くエンタメ業界を経験していますので、エンタメ業界の構造やその課題について深く理解しているという自負はあります。PwCコンサルティングには3年前に入社しましたが、よく周囲から「変わった経歴だね」と言われますね。

大平:
近年、通信事業者によるエンタメ事業への参入が活発化していますが、背景には何があるのでしょうか。

岡田:
これまでの連載で、通信事業者が非通信分野で新たな市場を創出する取り組みを紹介してきました。業界が変革期にある中で、通信事業者がエンタメ業界に注目している背景には、大きく3つの要因があります。

1つ目は「回線ビジネスの限界」です。通信事業者の主要な収益源は、長らく音声やデータ通信の利用料でした。その収益性を測る代表的な指標が「ARPU(Average Revenue Per User:1契約あたりの平均収入)」です。しかし近年は料金競争の激化や新規事業者の参入、さらには政府の値下げ政策も重なり、契約者数を維持していてもARPUは下落傾向です。その結果収益性は頭打ちになり、従来の回線収入だけでは十分な成長を見込めなくなっているのです。

2つ目は「巨大な顧客基盤の活用」です。たとえば日本最大手の通信事業者は9,000万から1億規模の契約者を擁しており、これだけの顧客基盤を持つ企業は世界的にも限られます。その顧客基盤を活用して動画・音楽・ゲームなどのエンタメサービスを展開すれば、既存顧客を対象にした「コンテンツ課金」で大きな収益機会を生み出していけます。

そして3つ目が「グローバル展開との技術的な親和性」です。6Gなどの次世代通信技術は、高精細動画など大容量コンテンツのリアルタイム配信を可能にします。通信事業者は「配信インフラ」という強みに、日本が得意とするアニメやゲームなどのコンテンツを掛け合わせ、グローバル市場で新たなポジションを確立しようとしているのです。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 岩崎 明彦

「囲い込み」と「認知拡大」のビジネスギャップ――解決の糸口はどこにあるか

大平:
こうした通信業界の動向は、エンタメ業界の立場からはどのように映っているのでしょうか。

岩崎:
エンタメ業界、特にIPホルダー(※)の立場で通信業界を見たときに感じるのは、「ビジネスモデルにギャップがある」ことです。

具体的に説明しましょう。通信事業者のビジネスモデルは、自社の経済圏に顧客を囲い込み、ARPUを高めることです。彼らにとってコンテンツは、「顧客囲い込みの有力な手段」という位置付けなのですね。

一方、映画会社やアニメ制作会社といったIPホルダーのビジネスモデルは、まったく異なります。彼らが望むのは「できるだけ幅広い人に作品を見てもらい、ファンを増やすこと」です。これによって作品の認知度が高まり、グッズ販売やイベント動員といった関連ビジネスが成立するからです。

もし通信事業者が特定の経済圏で囲い込みを優先すれば、視聴者は限定されて、ファン層も広がりません。その結果、関連グッズが売れない、イベントに人が集まらないといった問題が生じます。

通信事業者の「囲い込みたい意向」と、IPホルダーの「広く育ててから収益化したい意向」――。このギャップをどう調整するかが、今後の大きな課題だと考えています。

岡田:
非常に興味深い指摘です。通信事業者は従来の電話番号や回線契約と同じ感覚で「囲い込み」しがちです。しかし、コンテンツは通信サービスとは性質が異なり、単純には囲い込めません。

実際、注目度の高いコンテンツを独占配信することで新規契約の増加を見込んだものの、結局は無料プラットフォームで公開されたダイジェスト版が視聴されただけで、有料契約の大幅な増加にはつながらない、といったことも起きています。

岩崎さんが指摘されたとおり、コンテンツは本来、広く拡散されることで価値が高まる性質を持っています。特定の通信事業者だけでコンテンツを囲い込む戦略には構造的な難しさがあるのです。

大平:
通信事業者が囲い込みの発想から脱却するには、どのようなアプローチを取るべきでしょうか。

岡田:
通信事業者がコンテンツビジネスを成長させるには、「1社独占」から「複数社による共創」に発想を転換する必要があると考えます。複数の通信事業者がそれぞれの強みを持ち寄り、同じコンテンツを異なる角度から盛り上げていくアプローチです。

例えば、地域発のアーティストやスポーツチームを育てるケースで説明しましょう。

ある事業者はライブイベントを運営し、別の事業者は配信サービスを担当するといった具合です。複数社が役割を分担しながらかつ相乗効果が生まれるビジネスモデルをつくれば、ファンがコンテンツとより多様な接点を持てるようになり、結果的にコンテンツ全体の価値は高まります。このアプローチなら、通信事業者の「自社顧客との関係強化」とIPホルダーの「幅広い層への認知拡大」を両立でき、双方にメリットを創出できるのです。

岩崎:
岡田さんが述べた通り、通信事業者には発想の転換が必要です。私が注目しているのは、通信事業者の優位性を生かした「ファンと直接つながる統合的な仕組み(プラットフォーム)づくり」です。

ライブ配信、メッセージ交換、グッズ購入、イベント参加などが一つのアプリで完結できる仕組みを構築し、アーティストとファンが交流できるプラットフォームとして世界規模で成長している事例も出てきています。こうした取り組みにおいて成功の鍵となるのが、「中立性」です。

特定の通信キャリアに縛られない設計にすれば、多くのアーティストやIPホルダーが参加しやすくなり、ファンも集まります。

一方、日本にはこうした統合的なファンプラットフォームがほとんど存在しません。ですから、ここに通信事業者のビジネスチャンスがあると考えています。

通信事業者はプラットフォームの運営者として、巨大な顧客基盤を活用して新しいアーティストやコンテンツを効果的に拡散し、初期段階で集中的に注目度を高めることができます。また、既存の決済システムや実店舗網を利用して、グッズ販売やイベント運営を支援することもできます。さらに通信インフラとして築いた信頼性も、プラットフォーム運営には大きなアドバンテージでしょう。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 岡田 太郎

エンタメ事業は通信業界の「新たな柱」になるか

大平:
今後の展望を聞かせてください。エンタメ事業は通信事業者のビジネスにおいて、どのような位置付けになると考えますか。

岡田:
通信事業者の収益源が、これまでの回線中心の通信事業から非通信事業へシフトする流れは止まりません。その中でエンタメ事業は、回線ビジネスを基盤にして事業領域として成長していくと考えています。今後、各事業者がこの領域で存在感を発揮できるのか、あるいは合従連衡を繰り返すのか――。業界は大きな競争と変革の時代に突入すると思います。

1つ私から岩崎さんに聞きたいのですが、メディアやIPホルダーの立場から見た通信事業者の強みとは何でしょう。そしてその強みを活用すれば、エンタメ業界が抱える「ミッシングピース」を補えますか。

岩崎:
そうですね。メディアとIPホルダーでは置かれている状況が異なりますが、通信事業者には2つの大きな可能性があります。

1つは「海外展開における配信チャネルの確保」です。日本のアニメやゲーム、音楽は世界的に人気がありますが、IPホルダーが単独でグローバル配信網を構築するのは容易ではありません。資金面でもノウハウ面でも大きな負担がかかります。しかし、通信事業者が持つ、あるいは提携する配信プラットフォームを活用すれば、動画や音楽、漫画といった多様なコンテンツを効率的に世界市場へ届けられます。

2つ目は「ファンとのエコシステム構築」です。先述した統合的なファンプラットフォームを通じて事業者が持つ顧客基盤やマーケティング力を活用すれば、IPホルダーがファンと直接つながってコミュニティ(ファンダム)を形成できるのです。

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 大平 亮

業界横断の専門性が生む伴走支援の価値――PwCの支援体制

大平:
最後にPwCコンサルティングの役割について聞きます。通信事業者のエンタメ事業拡大を支援するうえで、PwCコンサルティングならではの強みは何でしょうか。

岩崎:
PwCコンサルティングのE&Mチームの強みは、エンタメ業界出身のメンバーと他領域を専門とするコンサルタントが協働している点です。私自身を含め、コンテンツ制作や配信事業、版権管理など、業界の最前線で実務を経験してきたメンバーが複数在籍しています。

コンサルティングスキルだけでは業界特有の商習慣や収益構造の機微を捉えきれませんし、業界知識だけでは戦略立案や組織変革の支援は難しい。両方を併せ持つことで、初めて現場感覚に即した実践的な提案と、ズレのない伴走支援が可能になります。通信事業者のエンタメ参入を支援するうえで、これは大きな強みになっていると感じています。

岡田:
通信業界を担当する私たちのチームは、通信事業者が抱える規制対応、レガシーシステムの管理、縦割り組織によるサイロ化といった構造的な課題を理解しています。一方で、非通信領域に挑むクライアントを支援するには、その領域固有の専門性が不可欠です。だからこそ、岩崎さんのE&Mチームと一体となることで、通信の知見×エンタメの知見を融合し、双方の事情に通じた伴走支援ができるのです。

大平:
ありがとうございました。

IP(Intellectual Property:知的財産)の保有者。映画会社やアニメ制作会社、出版社など、キャラクターや作品の権利を持つ企業や個人を指す。

主要メンバー

岩崎 明彦

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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岡田 太郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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大平 亮

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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