
第12回◆グローバル展開を加速させるためのフロントオフィスの現状と改革
テクノロジー業界では、企業の枠組みを超えた価値提供が求められる中、海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えており、最適な仕組み構築が求められています。PwCコンサルティング合同会社のメンバーに改革を推進していくためのポイントを聞きました。
2022-01-27
今、多くの企業がデータ利活用による収益化を目指し、データ分析から得た知見を基に新しいイノベーションに取り組む「データドリブン経営」への脱皮を図っています。しかし、その実現には克服すべきハードルがいくつもあります。「取りあえずデータをためたものの、どのように利活用すればよいかわからない」と頭を抱える企業も少なくありません。データを適切に利活用し、データドリブン経営を実現するには、「データトランスフォーメーション(以下、DTX)」が不可欠です。では、DTXとはどのような取り組みなのでしょうか。本稿では、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)でクライアントのDTXを支援するサービスを提供する大竹秀明に、入社1年目の田村祐輔が、「企業がDTXに取り組むべき理由」を中心に、DTXの本質について話を聞きました。
登場者
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーコンサルティング パートナー
大竹 秀明
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーコンサルティング アソシエイト
田村 祐輔
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)大竹 秀明、田村 祐輔
田村:データトランスフォーメーション(DTX)と似た言葉に、デジタルトランスフォーメーション(DX)がありますよね。最初に基本的な質問なのですが、DTXとDXは何が違うのでしょうか。
大竹:DTXはDXの中核を担うデータ利活用にフォーカスした概念で、PwCが作り出した言葉です。DTXはDXを構成する「パーツ」の1つだと考えてください。
企業が新しいイノベーションを起こし、収益性や生産性を改善し、市場において自社の競争優位性を確立・向上させていくためには、データ利活用が不可欠です。そのためにはデータやシステムのあり方、組織と人材、業務プロセスとガバナンス、社内カルチャーなどを企業全体で変革していくことが求められます。
田村:そのために必要なのがDTXなのですね。
大竹:はい。デジタル技術の進化や市場ニーズの多様化など、ビジネスを取り巻く環境は急速に変化しています。そのような状況下において、企業は収集・保有するデータを分析し、科学的、定量的に現状を把握しなければなりません。そして、データ分析で得た新たな知見を基に今後の市場動向を予測したり、顧客ニーズを把握したりして競争力を強化する「データドリブン経営」を実現するのです。そのためにはDTXが不可欠です。
データドリブン型ではない経営は、属人的な勘や経験に頼る経営であることを意味します。もちろん、経営者の感覚やセンスが重要であることは変わりありませんが、データドリブン経営とは、勘や経験に技術やサイエンスを取り入れる経営手法です。つまり、DTXを実現することで、経営者が持つ従来の感覚やセンスに加えて、的確な経営判断に役立つ「道具」や「手段」が増えるのです。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 大竹 秀明
田村:DTXを実現するうえで、企業が直面している課題は何でしょうか。
大竹:現在、コンピュータの処理性能は飛躍的に向上しています。企業は1960年代以降ホストコンピューターを使い、また2000年代以降はインターネットを活用してさまざまなシステムを構築し、データを蓄積してきました。また、ネットワークの拡大とコンピューティングパワーの増大により、大量のデータを蓄積して、分析できるようになりました。
しかし、多くの企業は「蓄積したデータをどのように活用するか」に着手できていないのが現状です。データレイクやBI(Business Intelligence)などのデータ分析基盤を導入したものの、データ利活用が進展しないケースは少なくありません。その背景には、「データとシステムのサイロ化」「粗悪なデータ品質」「人材のスキル不足」「データガバナンスの未整備」などの要因があります。
データとシステムのサイロ化とは、事業部門単位でシステムを開発・運用しているため、保有するデータが分断化してしまう状態を指します。データ利活用にあたっては、部門横断的にデータを組み合わせることが不可欠ですが、サイロ化された状態だと「隣の事業部門とデータ構造が違うのでブレンドができない」ということが起きるのです。
粗悪なデータ品質とは、「データが使える状態になっていない」ことです。データレイクに“ためて”みたものの、どのようなデータが含まれているのか誰も把握できおらず、把握できたとしてもデータに欠損などがあり活用ができない状態を指します。そのため、データの欠損や重複、粒度の違いを整備するなどの必要があり、データを統合して分析する前段階の作業に時間と手間をとられてしまうのです。こうした作業には一定のスキルを持った人材が必要ですが、その人数は圧倒的に不足しています。
データガバナンスの未整備とは、データを適切に管理・運用するルールやプロセスの策定ができていない状態を指します。例えば、サービス向上のために顧客データを分析したいと考えても、そのデータに個人情報が含まれていれば、個人情報保護法を遵守うえで、自社の利活用ルールにのっとらなければなりません。しかし、その社内ルールが明確でないため、現場では混乱が生じているのです。
残念ながら多くの企業では、データ利活用の目標が「データレイクの構築」になってしまっています。DTXはデータレイクを構築して分析ツールを導入すれば終わり、というわけではないのです。
田村:そうした課題を克服し、DTXを実現するには何が必要でしょうか。
大竹:まずは、ビジネス戦略に基づき、データ分析の目的を明らかにすることです。そして分析に必要なデータを特定し、品質が担保されたデータを適切に使うこと。さらに、データ利活用のアーキテクチャを定義し、データ収集や加工を効率的に行えるようにすることです。
データ利活用にあたっては、会社全体としてのデータガバナンスを策定しなければなりません。必要なデータを収集する業務プロセスやシステムの整備はもちろん、データのセキュリティやプライバシーの徹底も不可欠です。
こうした取り組みを推進するには、デジタル人材の確保が必須です。特に社内の人材をデジタル人材として育成するには、これまでのIT人材育成とは異なる視点で知識を身につけてもらう必要があります。DTXを担う人材は、データ管理の知識だけではなく、ビジネスを理解し、「イノベーションのためにはどのデータを利活用して何をすべきか」までを俯瞰できなければなりません。
田村:データの重要性は誰もが認識しているにもかかわらず、データを十分に利活用できていると言い切れる人や組織は少数派だと感じます。お話を伺っていると、DTXの実現には組織体制やIT戦略から見直す必要がありますね。
大竹:そうですね。データ利活用にはデータの形式や構造を統一し、データガバナンスにのっとって集約するといった作業が不可欠です。そのためには、組織やプロセス、システムのあり方を全社横断的に検討しなければなりません。
この作業には、自社のシステムやビジネスに対する理解、データ分析ニーズに対する理解、セキュリティやプライバシーといったデータガバナンスに対する理解、DTX関連のテクノロジーソリューションに対する理解などが必要です。とはいえ、これら全てを網羅するにはさまざまなハードルがあり、一筋縄ではいかないのが現実です。
課題は山積みであり、内容も多岐にわたりますが、着実に解決していかなければなりません。従って、優先順位を付けて段階的にクリアしていくためのロードマップを作成することが重要になります。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング アソシエイト 田村 祐輔
田村:こうした課題の解決に向け、PwCが実施している支援内容を教えてください。具体的にはどのような相談が持ち込まれるのでしょうか。
大竹:DTXに関する相談は「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2つに大別されます。
トップダウン型で多いのは、経営者が「デジタル企業へ変ぼうする」という目標を掲げたものの、何からどうやって着手すべきかわからないという相談です。また、企業がシステムの統合や刷新をするにあたり、新たなデータ利活用を推進するにはどのようなシステムの装備が必要なのかという相談もいただきます。一方、ボトムアップ型では、事業部門からの「具体的なデータ分析を通じて人材を育成したい」という相談が多いです。
トップダウン型の相談に対しては、ビジネスとITの両方の視点から支援しています。ビジネス視点ではビジネス戦略に基づくユースケースの識別から始まり、長期・中期のデータ利活用推進全体計画の立案、データ利活用のサポート体制の構築などを支援します。IT視点では企業のシステム全体、もしくはデータ分析システムのアーキテクチャ構想立案などを検討します。そのうえで、最適なITソリューションの組み合わせを考え、会社全体として目指すシステムの構築を支援していきます。
一方、ボトムアップ型の相談に対しては、現場の課題認識を明確にし、データ利活用を阻害している原因は何かを紐解いていきます。そうすると、大抵は組織横断的な全社レベルの問題に起因していることが多いです。また、そもそもビジネスとしてデータをどのように活用していくべきか、という問題にも行きつくことも多いです。トップダウン型の相談とボトムアップ型の相談では、最初のアプローチこそ違いますが、作業を進める過程で行きつく問題は同じです。どちらも会社全体として「データ利活用で実現したいビジネスは何か」が曖昧であることが多いです。
強調したいのは、「DTXはITシステムを刷新(モダナイズ)するだけでは不十分である」ということです。ビジネス戦略に基づくユースケースの定義やビジネス部門も含めた役割分担とオペレーションの構築、アジャイルプロセスの構築、人材のスキルモデルの明確化、カルチャー変革をサポートする仕組みの設計・構築など、包括的な取り組みが必要なのです。
田村:DTXの具体的な取り組みプロセスと、それにかかる時間を教えてください。
大竹:「組織、システム、ガバナンスを含めてどのようなオペレーティングモデルを構築すべきか」という理想像を描き、それに向けたトランスフォーメーションのためのロードマップを策定します。そして、長期的な取り組みと、短期間で迅速に効果を上げるべき取り組みを識別し、具体的なスケジュールを策定します。ここまでの作業に要する時間は、3カ月程度を要することが多いです。
田村:なるほど。ではそのような取り組みを進める中で発揮されるPwCならではの強みとは何でしょうか。
大竹:PwC Japanグループは公認会計士や税理士、弁護士といった専門家を擁するメンバーファームの集合体です。ですから、ガバナンスやプライバシーといった専門知識が必要な分野はもちろん、システムやソリューションなどのIT領域や、業務・組織・人材に関するビジネス領域の課題に対し、クライアントのニーズに応じてカスタマイズされた支援を提供することが可能です。これまで培ってきたコンサルティング能力を生かし、多くのステークホルダーとの合意形成を図りながら課題解決を支援できることが最大の強みです。
また、PwCが中立的な立場であることも、DTX支援では大きなアドバンテージです。つまり、特定のソリューションに特化した支援ではなく、クライアントのニーズに合った最適解をディスカッションしながら探索できるからです。
例えば、現在担当しているクライアントに対しては、前述のような支援内容に加え、継続的に自社でデータ利活用のサイクルを回せるようなデータ利活用のセルフサービス化の支援や、データ品質を担保するデータクオリティ管理、マスターデータ管理の仕組み作り、データガバナンス策定などの支援も提供しています。
(左から)大竹 秀明、田村 祐輔
田村:最後に今後の展望を聞かせてください。将来的に需要が高まるDTXソリューションには、どのようなものが考えられますか。
大竹:そうですね。1つはセキュリティやガバナンス強化のソリューションでしょう。例えば、プライバシー情報の匿名化・仮名化や法規制へ対応するソリューションは必須です。これらを実現するガバナンスの導入、システムおよびツールの導入、業務設計への支援は、PwCとしても注力している領域です。
また、基幹システムや情報システム基盤の再構築も引き続き活発ですので、それを機に、全体アーキテクチャを考慮しながら新たなデータ分析基盤を導入したいというニーズも継続的に発生すると考えています。
田村:今後、特にDTXがビジネスの鍵を握る業種や業界はありますか。
大竹:全ての業種・業界でDTXが重要になることは間違いありません。新規ビジネスの創造や競合他社との差別化といった観点からも必須です。例えば、金融業界では顧客向けインターネットシステムから得た大量のデータを個人情報保護法に抵触せず、プライバシーに配慮した形で活用し、新たな顧客サービスの提供や金融商品の開発につなげていく取り組みが強化されていくでしょう。
一方、製造業ではファクトリーIoTとして、工場の生産設備や製品にセンサー機器を取り付けてデータを収集し、生産性向上や品質管理、製造ラインの故障予知に役立てる動きが広がっています。
金融業と製造業では直面している課題も扱うデータも異なりますが、「データをビジネスの現場に役立てる」という方向性は同じです。さらに言えば、「データを使ってどのように自社の競争優位性を獲得するか」といった課題も共通しています。グローバルでの競争優位を確立するためにも、DTXの推進は喫緊の課題だと感じています。
田村:日本の企業では古いレガシーシステムがまだまだ多いと聞きますが、裏を返せば“伸びしろ”があり、DTXを通じて競争力が強化できるポテンシャルがあるということですね。本日はありがとうございました。
(左から)大竹 秀明、田村 祐輔
テクノロジー業界では、企業の枠組みを超えた価値提供が求められる中、海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えており、最適な仕組み構築が求められています。PwCコンサルティング合同会社のメンバーに改革を推進していくためのポイントを聞きました。
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