エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム第5回会議を開催

サーキュラーエコノミーの推進に向けたグローバルトレンドと企業の関与のあり方

  • 2025-07-15

「エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム(以下、当フォーラム)」(発起人・事務局:PwC Japanグループ)は、サステナビリティ経営に積極的に取り組む日本企業13社が参画するフォーラムです。当フォーラムの第5回会議が2025年4月22日に東京都内で開催されました。サーキュラーエコノミー(循環型経済)に関するグローバルトレンドを踏まえ、同領域で進行中のルールメイキングをテーマに、ASEAN・日本企業の現状と課題、今後の方向性について議論しました。

左上:国際協力銀行 林 信光総裁、右上:JERA可児 行夫会長、左下:第一生命保険 隅野 俊亮社長、右下:本田技研工業 三部 敏宏社長

左上:国際協力銀行 林 信光総裁、右上:JERA 可児 行夫会長
左下:第一生命保険 隅野 俊亮社長、右下:本田技研工業 三部 敏宏社長

グローバルのルールメイキングにおける最新動向と関与への課題

2022年11月に第1回会議を開催して以降、当フォーラムはサーキュラーエコノミーの概念やASEAN(東南アジア諸国連合)における課題の整理といった机上調査を中心に活動し、同時にASEANでサーキュラーエコノミーの活動に携わる企業や団体と交流して現地の声を聞いてきました。2024年の後半からは、当フォーラムでは「議論」に加え「実行」も視野に入れ、地域のニーズに沿ったソリューションの検討・分析のあり方も取り上げています。第5回となる今回は、昨今動きが加速するサーキュラーエコノミーのルールメイキングをテーマに、ASEAN・日本企業による積極的な関与の重要性や課題、今後必要となる取り組みの方向性などについて意見を交わしました。

会議ではまず、PwC Japanグループがサーキュラーエコノミーのグローバル最新動向を紹介し、足元で起こっている国際的なルールメイキングへの、日本企業としての関与の重要性を提起しました。現在、サーキュラーエコノミーの国際的な定義や評価基準の整備が一部機関によって進められています。例えば気候変動・脱炭素の文脈では、温室効果ガス(GHG)プロトコルが、GHGの算定・報告基準として重要な役割を果たしたように、サーキュラー文脈においては、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が開発中の「グローバル・サーキュラー・プロトコル(GCP)」が、今後サーキュラーエコノミーの国際基準になる可能性が極めて高いとして各有識者の間でも注目されています。一方で、サーキュラーエコノミーにはさまざまな施策が含まれ、「どういった活動を進めるか」や「どのようなKPIを設定するか」は各国の技術力や地域特性に応じて異なります。例えば、日本は製造業において高度な技術力を有しているため、製品の長寿命化といった施策に強みを発揮しやすいです。一方で、現在の輸出中心のものづくり構造では、国内で必要とする資源量に対し、国内で発生する二次資源(廃棄物などのリサイクル原材料)の量は限られています。そのため、国際標準がリユースやリサイクルのみを重視するものになると、二次資源が比較的豊富な欧米に対して日本は後れを取ってしまう可能性があります。したがって、日本企業はGCPなどの国際的なルールメイキングの場に積極的に参加し、自社の競争優位性を踏まえた外部環境の整備を企図する必要があります。

会議の前半では、こうした背景を踏まえて参加企業による闊達な意見交換が行われました。「日本は欧州によるルール強化への対応に焦点を当ててきた結果、日本発の取り組みを十分に実施できてこなかったのではないか」という課題提起がなされるとともに、「技術や経験を有する日本企業が今後貢献できるところも大きい」という意見がありました。そのために重要な点として、「産官学の連携強化」に加え、「国際ルール決定の場では最終的には多数決の原理となることも多いため、共通の利益を持つ国・地域とのチームアップが必要」「消費量や輸入量の多いテーマ・領域では、その市場支配力をレバレッジとして生かすことでルールメイキングを先行できる」といった意見が参加企業からあがりました。

また、「第二次トランプ政権の樹立やグローバルサウス・湾岸諸国の台頭などによって社会が大きく変化しているが、現在の国際情勢は日本がリーダーシップを発揮し、存在感を高めるチャンスでもある」といったポジティブな声も上がりました。さらに、ルールメイキングへの関与をより適切な方向から実施するために、適正な消費総量の水準に関するグローバルでのコンセンサスや、日本社会として目指すべき循環型経済・循環型社会の理想像といった本質的な合意形成の必要性についても語られました。

左上:三井住友トラストグループ 高倉 透社長、右上:三菱重工業 泉澤 清次会長、左下:三菱UFJフィナンシャル・グループ 三毛 兼承会長、右下:PwC Japanグループ 代表 久保田 正崇

左上:三井住友トラストグループ 高倉 透社長、右上:三菱重工業 泉澤 清次会長
左下:三菱UFJフィナンシャル・グループ 三毛 兼承会長、右下:PwC Japanグループ  久保田 正崇代表

企業によるルールメイキングへの具体的な関わり方について議論

会議の後半冒頭では、オランダに拠点を置くCircle Economy FoundationのCEOであるイボンヌ・ボジョー氏が「サーキュラーの取り組み推進における、国家間の違いを踏まえた今後の方向性」と題した講演を行いました。はじめに、ボジョー氏は同財団が毎年発行する『Circularity Gap Report(GCR)』を紹介し、「サーキュラーエコノミーの推進にはデータドリブンな評価や分析が欠かせない。データによって経営幹部にもその必要性を納得してもらうことが大切」と科学的な議論の重要性を主張しました。また、「サーキュラーエコノミーを取り巻くルールメイキングにおいて、多くの人が最も進んでいるのは欧州であると考えているかもしれないが、実際にはどの国もリーダーとしての役割を果たしていない」と指摘。「日本にとって、地域内のみならず地域を超えて、サーキュラーエコノミーへの移行でリードできる良い機会だ。(当フォーラムに)政策立案者も交え、ビジネス側の意見や要望を伝えていくべきではないか」と提起しました。さらに、当フォーラムでも議論し、サステナビリティ経営の文脈における具体的な方法論の中でPwCも重視するシステミックアプローチについても言及し、「業界のリーダーや金融機関、学界、スタートアップコミュニティ、政策立案者といったステークホルダーを集め、実際に行動へと移行する」ことの重要性についても指摘しました。

ボジョー氏の講演を基に、参加企業間で、企業におけるサーキュラーエコノミー領域でのルールメイキングへの関わり方についても意見が交わされました。今後のルールメイキングで必要なこととして、「業界の取り組みが先か、政策による環境の整備が先か」というジレンマを乗り越えるために、ボジョー氏による根拠あるデータ活用や政策立案者との意見交換の重要性が再認識されました。また、「先進的な技術・テーマには誰かが最初に飛び込む必要がある。企業・業界が先陣を切ってトリガーを作り、政府とも協力してルールメイキングへの働きかけを実施している」こと、「イニシアチブ等に積極的に参加し、産業横断で活用可能な指標算定式を業界団体と協力して提案している」といった具体的な取り組みも紹介されました。

金融機関に関する議論では、「米国の経済学者やアセットマネジメント会社を中心に、βアクティビズムに関する議論が本格化している。今後、ユニバーサルなアセットオーナーを中心に大手の金融機関は、個別の企業が市場ベンチマーク対比で創出するリターンの差分(α値)だけでなく、ポートフォリオ全体に影響を及ぼす要素(β値)を追求することがリターン向上の観点からも肝要」という昨今の問題意識の共有に加え、「耐久性や製品寿命の向上を実現するためには、金融機関による長期的視点の理解と投資体制の構築が必要」という意見もあがりました。

一方で、経済合理性が成立しなければ、企業としては取り組みが困難であることも事実です。ある参加企業は同社で推進しているリサイクル事業を紹介。「地域・対象製品次第で一部の取り組みでは既に経済合理性が成立しているが、難しい領域もある。イノベーションや新しいビジネスモデルをベースに、経済合理性の成り立つ領域で、世界標準を取っていくことが必要」と説明し、経済合理性の難しさと可能性について強調しました。

Circle Economy Foundation イボンヌ・ボジョーCEO

Circle Economy Foundation イボンヌ・ボジョーCEO

グローバルでの中期的な成果の創出に向けて

会議の最後には、当フォーラムの今後の活動について意見を交換しました。これまでを振り返ると、「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)2024」や「Ecosperity week 2024」、日経フォーラム第29回「アジアの未来」といった国際イベントで、当フォーラムでまとめた共同声明(リンク)の紹介を行ってきました。本日の議論を踏まえて、今後ルールメイキングの文脈において、国際イニシアチブや公的機関に対して影響力を与えていくといったアドボカシー活動の必要性に対しても声が上がりました。

今後、サーキュラーエコノミーを実行と成果の創出に移していくために、日本とASEANの連帯によるインパクト創出の可能性についても議論が行われました。参加企業からは「ビジネスモデルとルールメイキングを第一段階から結び付けていくのはハードルが高い取り組みである」という現状認識が示されるとともに、「手触り感のある範囲・スコープの設定や、スモールスタートを心掛けることが重要」「サーキュラーエコノミーには多くのコストが発生し、最終販売価格が高くなる。そのため、消費者が割高でもサーキュラー製品を選択してくれるように、マインドセットやカルチャー、行動をどのように変えていくかという観点もある」といった段階的な検討への意見が提起されました。

サーキュラーエコノミーの推進といったサステナビリティ関連のビジネスは、常に経済合理性の課題や「業界が先か、政策が先か」というジレンマを抱えてきました。これらを乗り越えるために、今後も企業によるルールメイキングへの働きかけの重要性と、民間企業の立場から継続的な議論を行うことで、日本企業、そしてASEAN企業が連帯して、経済・社会・経済インパクトの創出を目指していくことについて意見が交わされました。

当フォーラムは、サステナビリティ経営の実現という目標を国際社会で共有しつつ、「地域の実情に根差した対策を講じることが日本を含むアジアの持続可能な成長に不可欠である」という認識の下、2022年に発足しました。欧米とは異なるアジア特有の事情を考慮しながら、さまざまな事業を展開する企業の経営者による意見交換や各社との交流を通じて、世界のサステナビリティの実現に向けた現実解を検討しています。

※会社名、役職などは開催当時のものです

主要メンバー

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

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中島 崇文

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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安間 匡明

スペシャルアドバイザー, PwC Japan合同会社

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