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2023-04-12
PwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」)では、「2030年に統合思考・報告のリーディングプロバイダー」「統合監査のリーディングプロバイダー」になることを目指しており、2022年7月にはPwCあらた内全体の能力増強およびサービス拡大を目的として、サステナビリティ・アドバイザリー部を50名体制に強化しました。また、急速に整備が進む非財務情報開示基準については、基準開発機関に委員や事務局の人員を出向させるなどの協力を行っています。加えて、PwCのグローバルネットワークを活用し、各国の開示の状況について情報収集にも努めています。
本連載では数回にわたり、PwCあらたのプロフェッショナルと基準開発機関との議論の模様をお届けします。第2回はGRI(Global Reporting Initiative:グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のChief of StandardsであるBastian Buck氏に、PwCあらたのサステナビリティ・アドバイザリー部長 パートナーの田原 英俊がGRIの考え方や、GRIスタンダードの活用方法について詳しく伺った内容をお届けします。
(左から)Buck氏、田原
田原:ここ数年で、サステナビリティ情報開示の基準開発が急速に進展しましたが、日本企業がその動きにキャッチアップすることは大変なことです。そこで私たちはこの対談を通じて、サステナビリティ情報開示をより良いものにするために、次に何をすべきかについての洞察を提供したいと考えています。
WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)の最新のレポート*1によると、メンバー企業の76%が、自社の報告がGRIスタンダードに準拠していると宣言しています。また、PwCあらたの2021年の調査*2によると、日本では日経225企業の75%がGRIスタンダードを使用しています。このように、世界中の多くの企業がGRIスタンダードを使用していますが、その理由をどのようにお考えでしょうか。
Buck:まず、GRIには20年以上の歴史があり、GRIがGRIスタンダードとともに提供する報告フレームワークは非常に包括的であるという理由が挙げられます。開示の原則を提供するだけではなく、どのように原則と重要性(マテリアリティ)を適用させるかのガイダンスも提供していますし、企業がサステナビリティやリスクをどのように整理していくかを概念化することにも役立つものです。
そのため、専門家がサステナビリティへのアプローチを整理する際に、GRIスタンダードを頻繁に参照しています。
GRIスタンダードは多くのセクターにおける、平均的な企業に関連するほとんど全てのサステナビリティの問題をカバーしていると思います。そのため、GRIスタンダードは企業がサステナビリティのジャーニーを始める際に専門家が参照すべきものの1つであると言えると思います。
もう1つの理由は、GRIスタンダードはグローバルなアプローチを採っているため、グローバルに事業を展開する企業と投資家にとって使いやすいものとなっています。現在、最大規模の上場企業の60〜70%がGRIを使用しており、ある種の同調圧力も発生しているのでしょう。同業他社がGRIスタンダードを使用している場合、比較可能性の観点から使用することになるのだと思います。GRIスタンダードの使用率は年々増加しています。
田原:過去数年間を振り返ると、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)やESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の公開草案など、サステナビリティレポーティング基準について大きな進展が見られました。また、GRIも既存の基準の更新とセクター別基準を含む新しい基準の開発を加速させたように思われます。GRIが現在、新しい基準の開発に力を入れているのはなぜでしょうか。
Buck:GRIスタンダードは包括的なフレームワークであるだけでなく、企業活動が他者に与えるインパクト、経済、環境、社会へのインパクトに主に焦点を当てた唯一のフレームワークでもあります。そのため、そのフレームワークを維持し、最新の状態に保つことが私たちの義務であると考えています。過去10年間に非常に重要な進展が見られた、気候変動リスクに関する情報開示が分かりやすい例で、生物多様性、労働安全衛生、税務など、他のサステナビリティの課題でも同じパターンが発生しています。全ての議論が加速しており、トピックレベルでの基準の開示をより頻繁に更新する必要があります。
GRIはグローバルなリーダーシップ・プラクティスを選択するうえで参照される基準になりたいと考えています。例えばEUで導入されつつある規制は、日本の企業を含む、国際的に事業を展開する企業に関わってきます。GRIスタンダードは、特定の問題領域における情報開示のベストプラクティスに対する真のリファレンスポイントを提供する、世界的な規制の青写真であるべきだと考えています。また、私たちは問題の先回りをして、世界中のさまざまな権限を持つ、多様な規制当局の役に立ちたいと考えています。そうすることで、彼らはGRIスタンダードを見て、情報開示のリーダーシップ・プラクティスを規制にどの程度取り入れるかを考えることができます。例えば欧州で言えば、GRIはESRSに参照されています。もしあなたがGRIスタンダードに基づいた開示を予定していれば、現在EUの規制に存在する開示要件のほとんどを満たすことができるでしょう。
私たちは従来、全ての企業を対象とした一般的な開示や、マテリアリティ(重要課題)に基づいて選択するトピック固有の開示を提供してきました。そして今、私たちはさらに、セクター別基準を提供しています。セクター別基準は、企業がそのセクターで重要と思われるトピックを特定することを可能にし、企業のマテリアリティ評価を支援するものですが、実はこれはステークホルダーからのフィードバックに対応したものです。多くの企業が、重要なトピックを定義して、報告に焦点を当てるべき影響を特定するのに苦労しています。そこでGRIは、企業がマテリアリティ評価に関する情報を得るために利用できる、信頼できるリファレンスを提供するためにセクター別基準を開発しています。
*1:WBCSD Reporting Matters 2022(https://www.wbcsd.org/Programs/Redefining-Value/Reporting-matters/Resources/RM2022)
*2:PwCあらた「サステナビリティ情報開示の動向」(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202205/38-01.html)
田原:GRIは、規制当局に青写真を提供するという非常に重要な役割を担っているとおっしゃいました。この点で、私は現在GRIとEFRAG(欧州財務報告諮問グループ)のコラボレーションに非常に興味を持っています。GRIはEFRAGによるESRSの開発に多大な貢献をしてきたと思います。EFRAGへの支援を通じて、具体的に何を達成することを期待していますか。
Buck:GRIとEFRAGの意図するところは、開示に対して可能な限り同じアプローチを使用するということだと思います。現在提案されているESRSには多くのコンテンツが含まれていると思いますが、GRIスタンダードから1対1で持ってきた規制になる可能性が高くなっています。そのため、この青写真というアイデアに戻るわけです。
ただし、EU規制に固有の内容もあります。例えば、欧州の規制当局が過去に策定された特定の法的な期待に重点を置いている場合や、欧州の文脈で出現した特定のツールや参考文献に重点を置いている場合などです。それはGRIがグローバルスタンダードとして持っているコンテンツへの追加部分と考えることができます。
EFRAGでグローバルスタンダードと大きな経済地域をカバーするローカル規制の内容が、同じようになっていくことを願っています。GRIが提供するものに加えて、満たさなければならない現地の規制当局のニーズがあることは認識しています。しかし、GRIが基準を変更して多くの欧州の法的参照を含めるようになれば、グローバルな枠組みとしての使命を全うできなくなります。私たちは、リファレンスが国際的に合意された規範になるよう努力しています。例えば、パリ協定や、人権・労働権に対する国連施策のようなものです。私たちは、経済地域や国家のレベルまで立ち入るリファレンスは意図していません。
田原:少なくとも数年前までは、EFRAGには組織内にサステナビリティの専門性がなかったように思います。GRIからEFRAGに対し、サステナビリティの専門知識、特に生物多様性や人権に関する専門知識を提供しているのでしょうか。
Buck:はい、EFRAGとの連携においては、私たちが取り組んできたコンテンツに関する経験と知識を提供してきました。そしてEUの規制当局がGRIの内容を利用できるようにしました。これには、紙またはPDF形式の基準が含まれているだけでなく、基準部門の私のチームの同僚や、GSSB(グローバル・サステナビリティ基準審議会)によるEFRAGの業務遂行への支援も含まれています。
私たちは生物多様性などの特定の分野に関するアドバイスだけでなく、基準設定とアプローチに関するアドバイスも提供しています。欧州の基準がどのようにまとめられたかを見ると、GRIが設定したアプローチと大部分が似ています。つまり、横断的な基準があり、トピック別の基準があります。そして、セクター別の基準があります。相互関係もGRIスタンダードと非常によく似ています。これは、私たちのフィードバックが取り入れられている証拠だと考えています。
GRI(Global Reporting Initiative:グローバル・レポーティング・イニシアティブ)のChief of StandardsであるBastian Buck氏
田原:GRIがこれらの分野の開発に役立つ理由がよく分かりました。2021年に公表された共通スタンダードの改訂版の適用が2023年より開始されましたが、これには以前のものから多くの変更が含まれています。日本企業や世界中の企業にとって重要な課題が何かを知りたいです。
Buck:サステナビリティに関する報告は、長年かけて発展してきた財務報告と比べれば、非常に急速に進化しています。私たちは、共通スタンダードは財務報告とサステナビリティ報告の間の土俵を平等にするための最後のステップであると考えています。基本原則には同じ厳格さがあって然るべきという意味です。これは、基本的な原則、報告の基本的な手順、組織について尋ねる際に、同等の厳格さが必要であるという意味です。
課題としてはGRIによる開示などを通して企業の透明性を高める取り組みができるか、ということだと思います。サステナビリティ情報開示はジャーニーのようであり、企業はいつでもこれに入ることができます。最初は未経験のことになりますが、それを開示することは、GRIの文脈において、企業がその活動を通じて一定の影響を与えていることを認めるということです。共通スタンダードは、基本的に企業が時間をかけてより成熟し、あらゆる種類のサステナビリティの空間について報告することのアプローチを提供します。
また、私たちは責任ある企業行動の概念の構築に取り組んできました。そして人権は共通スタンダードを改訂する際の優先事項でした。これらの内容をGRI2(一般開示事項)およびGRI3(マテリアルな項目)の核心に持ち込むことは、企業がどれだけ人権に配慮する準備ができているかを説明し、発生する可能性のある、またはすでに発生している影響を理解することを意味します。
多くの企業にとって、これは新しいフロンティアのようなものです。概して、企業はこの問題についてあまり開示していません。そのため、企業が人権への影響をどのように理解しているか、またどのようなシステムやアプローチで対処する準備ができているかについて、透明性を確保するための一歩を踏み出すこととなります。それは今や、サステナビリティ情報開示アプローチの最前線にあり、またその中心にあるため、企業にとっての課題であると言えるでしょう。人権に関する基本的な質問に対応することは、もはや重要性の問題ではなく、企業にとって大きな一歩となります。
最後のポイントは、財務報告とサステナビリティ報告の同等性に戻ります。私たちは何年もの間、GRIスタンダードのフルセットの適用に向けて一歩一歩進んでいくアプローチをとってきました。私たちには核となる包括的な特質があり、基準の参照オプションがありました。企業がジャーニーの概念に立ち返ることが重要です。ここで大事なのは、GRIのスタンダードに完全に準拠しなくても、合理的な期間枠の中で、どのように完全な開示に至るかを企業が説明することです。
ー次回は、サステナビリティ情報開示における信頼性について、Buck氏と田原にPwCあらた執行役副代表パートナーの久保田 正崇が加わり、議論した内容をお届けします。
田原 英俊(PwCあらた有限責任監査法人 パートナー)
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