福島県大熊町を拠点に、地域の復興と持続的な成長を支えるビジネスゲートウェイ株式会社は、官民連携によるまちづくりや起業支援、施設運営、新規事業の立ち上げなど、多岐にわたるプロジェクトを展開しています。起業支援拠点「大熊インキュベーションセンター」など、地域の未来を創る取り組みを進める企業として注目を集めているビジネスゲートウェイ株式会社取締役の黒田敦史氏を迎え、エコシステムの展望についてお話を伺いました。
平野:ビジネスゲートウェイ株式会社は、企業誘致、事業企画コンサルティング、人材育成支援などを手掛け、地域エコシステム形成に大きな影響を与える存在です。特に運営する大熊インキュベーションセンター(以降、OIC)は、150を超える入居者が集い、日々イノベーションが生まれる場として注目されています。現在のエコシステムにつながる活動の起源は何だったのでしょうか。
黒田:2013年の独立以降、大企業とスタートアップの事業開発を中心に、オープンイノベーションに取り組んできました。エンジェル投資家のプラットフォームやイベント企画など、「つなぐ立場」として場づくりに関わる中で、個社支援の延長線上に自然とエコシステムが形成されていきました。企業や人材を育てることが重要であり、足りないものを補う形で模索した結果、エコシステムが生まれたという感覚です。
2025年3月撮影
平野:OICでもエコシステムの形成が進んでいますが、黒田さんが描く理想のエコシステムとはどのようなものでしょうか。
黒田:現状はまだ「前半戦の初期段階」であり、エコシステムは「1.集める」「2.始める」「3.育てる」「4.根付く」というステップで進化するものだと考えています。OICはまだ「2.始める」段階。最終形態は、地域や領域で持続的・自発的に産業が生み出される「産業創造」であると捉えています。
田中:OICには多くの入居者が集まっていることから、エコシステムの形成が進んでいる印象でした。「4.根付く」までにはまだまだ多くのアクションが必要ということですね。今後、エコシステムが次のステップに進むために必要なステークホルダーについてはどのように考えているのでしょうか。
黒田:支援機関、スタートアップ、金融機関、自治体の参画が不可欠です。以前に比べると前向きな機運にはなりましたが、地域に根差した産業を本気で育成しようという意識は不十分であると肌で感じています。補助金制度はあるものの、リスクマネーとしてのエクイティや融資には課題が残ります。地元企業やスタートアップだけでなく、さらなるエコシステムの拡大に向け、影響力のある大企業の力も必要です。
平野:ステークホルダーが求められる一方、彼らがエコシステムの輪に入っていくにはインセンティブの設計や、ハードルをクリアするための地道な活動が必要な印象を受けました。エコシステムの輪を広げるにはOICのような「まとめ役」の存在が必要不可欠だと認識しています。
黒田:輪を広げるための一番のポイントは、エコシステムに参加するすべての人にメリットがある仕組みをつくることです。スタートアップ企業にとっては、事業機会・資金・人材といった成長に直結するリソースが安定的に得られることが最大のメリットです。これにより、単なる事業支援を超えて、企業の成長を加速させる環境が整います。
一方で支援者側、特に金融機関にとっては、従来の補助金や助成金制度だけではリターンが見えにくく、参入のハードルが高いのが現状です。彼らにとっても明確な収益モデルや社会的意義が必要です。
平野:支援側の参入ハードルが高いことは想像に難くないものの、そうした事例などはありますか。
黒田:実際にエコシステムを持続可能なものにするためには、支援する側にもメリットが必要です。最近では、地方銀行を中心にスタートアップ支援に特化した専門部隊が立ち上がり、融資や投資事例も徐々に増えてきました。特に福島浜通り地域では、地域密着型の支援により、スタートアップの成長を地域活性化の一環として捉え、積極的に関与する動きが見られます。こうした動きは、支援機関にとっても新たなビジネス機会となり、エコシステム全体の活性化につながっています。
2025年3月撮影
平野:最後に、これからエコシステム構築を目指す方々に向けたメッセージをお願いします。
黒田:まず大事なのは、「何を軸にするか」を明確にすることです。どの領域やテーマで勝負するのかをはっきりさせることが、エコシステムづくりの第一歩になります。地域の特性や資源をしっかりと見つめ直し、地元に根ざしたシナリオを描くことが、成功への鍵となります。
また、地域を動かしていくためには、インキュベーション施設だけでは不十分です。地域全体を一つの機能として捉え、自治体、企業、金融機関、支援機関など、さまざまなプレーヤーが関われる仕組みを構築することが不可欠です。連携の幅が広がれば、それだけ事業の可能性も広がっていきます。
福島浜通りは、震災を経て「ゼロからの再出発」ができる場所です。多くの仲間とともに挑戦できる浜通りだからこそ、未来を変える事業が生まれると信じています。この地域だからこそできる文化的で健康的な暮らしと、都市に負けない利便性が共存するようなエコシステムを築けると確信しています。
挑戦と創造の火を絶やすことなく、仲間とともに未来を切り拓いていく――日本の地方創生の新しい形を、全国に向けて発信していきたい。その想いを、次に動き出す皆さまにも、ぜひ受け継いでいただければと思います。
田中:地域の強みを生かした戦略や、多様なステークホルダーが連携できる仕組みづくりからは、地域の可能性を引き出す大きなチャンスが生まれます。PwCが大切にしている「信頼」と「変革」の考え方とも重なるものです。これからも私たちは地域の皆さんとともに、新しい価値を創出できるよう、挑戦を支えながら未来をともに描いていきたいです。
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