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小型ヨットで大西洋を横断し、約7,500kmを単独で航行する外洋ヨットレース「Mini Transat(ミニトランザット)」に、日本人女性として初めて挑戦する高原奈穂選手。会社員とヨットレース選手という2つの顔を両立してきたその活動は、日本の就業文化に大きな刺激を与える可能性があります。そんな高原選手と、そのスポンサーでもあるPwC コンサルティングで「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」をリードする宮城隆之チーフ・インパクト・オフィサーが、スポーツを通じた企業の社会貢献の在り方について語りました。
出演者
高原 奈穂氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 上席執行役員 チーフ・インパクト・オフィサー
宮城 隆之
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
左から、高原 奈穂氏、宮城 隆之
宮城:
レースに参加するに当たって「Sail for Well-being!」というコンセプトを掲げていますね。ウェルビーイングに、高原さんはどんな思いを込めたのでしょうか。私たちコンサルタントの世界でもウェルビーイングは重要なテーマなので、セーリングを通して高原さんが何を表現しようとしているか、強く関心を引かれます。
高原:
実は、セーリングと人生は非常に似ているな、と感じています。風や波など外部の状況を変えることはできませんが、目的地に向かって最適な航路を選び、時には向かい風を受けてジグザグと方向転換しながら、それでもヨットは前進するのです。
「Sail for Well-being!」には「私のウェルビーイングに向かってセーリングをする」という意味と「社会のウェルビーイングのために(私が)生きていく」という2つの意味があります。自分の可能性を見つけ、幸せになるための挑戦であると同時に、ただ「楽しい」だけではなく、時に悩み、落ち込むことがあっても、それでも自分の幸せな在り方に向かって進みたい、そして、このプロジェクトが社会のウェルビーイングを促進するものになればいいな、という思いでこのコンセプトを掲げました。
宮城:
いわば、人生を映し出す「鏡」としてのヨットレースということですね。Mini Transatのレースに向けて、今は具体的にどのような準備をしていますか。船の整備などもすでに始めたと伺いました。
高原:
前回の大会で優勝した艇を2024年1月に購入し、フランスのロリアンで整備しました。3週間ものあいだ大西洋を横断することになるので、バックアップシステムを整えることが非常に重要です。
宮城:
1つの手段で安心せず、あらかじめオプションを用意しておくことの大切さ——ビジネスを前進させる方法論と同じですね。
高原:
はい、そう言えるかもしれません。例えばオートパイロットという自動操船のシステムは、1人乗り船艇のレースでは命綱のような存在です。このシステムのための計器、ウインドセンサーやラダーアングルセンサーなどが1つでも壊れると、船は航行不能になります。
そこで、2系統のバックアップシステムを構築しました。メインの新しいラインに問題が生じた場合は、旧バージョンに切り替えて対応できる構えです。
また、船の快適性を高める工夫もしています。例えば、欧米人の身体サイズを想定して造られたヨットでは、私の体格だと足が届かないなどの問題が生じます。そこで細長い棒状のヨガポールを加工して取り付けるなど、快適に操船できるような工夫を凝らしました。そうした細かい調整で快適性が高まり、船に力を伝えやすくなるなど操作性が向上するのです。
宮城:
子ども向けのヨット教室を香川県三豊市で主催されたそうですね。「次世代の育成」は企業にとっても重要な社会的責任です。PwCコンサルティングもさまざまな教育支援活動に取り組んでいます。三豊市のヨット教室ではどのような学習機会を提供したのですか。また育成活動に関する今後の展望もお聞かせください。
高原:
海での経験は、子どもたちのみならず多くの人の視野を広げるきっかけになると私は実感しています。水平線を見て、地球を包む海は1つなんだな、と感じる経験は強烈です。人間が設けた境界線などは人為的なものだということに、嫌でも気づかされるからです。
三豊市でのセーリング体験イベントでは、そうした感覚を子どもたちに伝えたいと考えました。しかし実際にやってみて、「海について考えること」と「セーリング体験」とは必ずしも直結しないことが分かりました。今後はセーリングにこだわりすぎず、子どもたちの「視野を広げる」機会づくりに重点的に取り組んでいくつもりです。
このイベントは小中高生を中心に幅広い層を対象に開催しましたが、それぞれの年齢層で反応が異なり、非常に興味深い経験でした。イベントではどうしても、ヨットという乗り物の物珍しさに参加者の目が向いてしまう傾向があるので、今後はイベント内容をブラッシュアップしていく必要があると感じています。
宮城:
教育活動を通じて、子どもたちにどのようなメッセージを伝えたいですか。
高原:
今の日本の教育環境を見ていると、「自分は幸せ」と素直に言える人が少ないのではないかと感じます。それは、常に謙虚であるべし、「持っていすぎる」と人から疎まれる、他人と異なっているのはよくないこと、といった価値観が刷り込まれているからかもしれません。
子どもたち、特に中学生や高校生には、自分のためのキャリアをきちんと選択できるようになってほしいと思います。「大好きなコレを自分はやるんだ」という気持ちを大切にしてほしい。私自身を1つの事例として提示し、「こんなことをやっています。自分にとって大切なことを手放さずに、自分らしく生きてみよう」というメッセージを伝えられれば、と考えています。
セーリング体験というのは、その1つのきっかけにすぎません。地球がつながっていることを体感できる海での経験を通して、世界に広がる無数のフィールドと、自分自身の無限の可能性に気づいてもらい、これからの人生にワクワクしてくれることを願っています。
宮城:
次世代育成の活動は、まさに私たちPwCコンサルティングが考える「ソーシャルインパクト」につながるものです。企業として、単に経済的な価値を追求するだけでなく、社会に対してどのような価値を生み出していくかが重要だと考えているからです。その意味でも、高原さんの活動は大きなインスピレーションになるはずです。
高原:
ありがとうございます。私自身、この挑戦が単なる個人的な成果で終わらないよう、その経験を社会に、とりわけ若い世代の挑戦につながるような形で還元していきたいと考えています。
一方、「自分は何が好きなのか分からない」という声が多いと感じます。ただ、必ずしも全員が自分の「好きなこと」を明確に持つ必要はないとも思います。世の中にあるさまざまなストーリーやプロジェクトに触れて、「この人が言っている(やっている)ことには共感できる」と感じた経験は多くの人にあるはずですよね。そういう共感という形で関わることも大切ではないでしょうか。
実際、共感者・協力者が社会にとって一番重要な存在とも言えると思います。一人で夢を叶えられる人間はいませんが、協力者のおかげで一人の夢がかなったとき、社会が大きく変わる場面もあります。なので、強く共感しコミットできることがある人は、社会にとってかけがえのない存在です。
高原 奈穂氏
宮城:
2026年以降、つまりMini Transatを終えた後ですが、レースの経験と社会貢献をどのように発展させていきたいとお考えですか。長期的に見たときに、このプロジェクトが社会にどのようなインパクトを生み出し得るか、ビジョンをお聞かせください。
高原:
レース後は、このプロジェクトを通して出会った方々とのご縁を大切にしながら、活動内容の発信に加え、プロジェクトを発展させていきたいです。
現在のセーリングプロジェクトは、どちらかというと知ってくれた人にすべてのアクションを委ねる性格ですが、今後は、より直接的に社会に貢献できる形を模索します。セーリングプロジェクトの社会実装というイメージです。例えば、挑戦を応援するためのファンドを立ち上げたり、コミュニティを形成したりすることを考えています。
他にも、スポーツアスリートのセカンドキャリアや長い選手生命をサポートするためのカリキュラム開発、女性アスリートのコミュニティ活動など、今回の挑戦の経験を多方面に生かせるようなさまざまな取り組みがあり得ます。
現時点でプロジェクトの価値に共感していただいているスポンサー企業の方々と一緒に、挑戦者のロールモデルとしての活動を通じて、目に見える形で成果を示していきたいです。
宮城:
素晴らしいビジョンですね。PwCコンサルティングとしても、そんな社会的インパクトを生み出す活動をぜひ続けていきたい。特に、今回の三豊市でのヨット教室のような地域と連携した取り組みは、ビジネスの枠を超えた価値創出につながります。高原さんご自身は、長期的なビジョンとして、セーリング以外にも視野を広げていく可能性があるのでしょうか。
高原:
はい。セーリングは今では私の心身を構成する要素ですが、社会貢献としては1つの手段であって、目的ではないと思っています。将来的には「Sail for Well-being!」の精神をさらに展開して、より広い分野で活動していく予定です。
例えば、Under 30(30歳以下)の若手社会人向けのメンターシップ制度なども面白いかもしれません。目指す未来を見据えてはいるけれど、何から手を付ければよいのか分からない、あるいはまだ目標が見つかっていない若者のために、各業界で面白いことをしている人をメンターとして集める。単発の表面的なものではなく、長期的なサポート体制を構築する……などですね。そんなプロジェクトを、現在のスポンサー企業の方々と一緒につくり上げていくことも可能ではないかと考えています。
宮城 隆之
宮城:
そういった長期的なビジョンがあれば、一過性のチャレンジではなく、持続可能な社会的インパクトにつながりそうですね。最後に、高原さんに続く次の世代や、自分の可能性に挑戦したいと考えている若者たちへのメッセージをお願いします。
高原:
まず大切なのは、自分自身の内なる「声」に耳を傾けることです。日本社会には、謙虚さや、控えめであること、集団のなかで目立たない同質性などを美徳と考える傾向が今も根強くあると私は捉えています。でもそうした価値観にとらわれず、自分の好きなこと、心から大切に思えることを見つけてそれを追求することは、より充実した人生を送ることにつながるはずです。
もちろん、すべての人が「私は大西洋を横断する」と宣言する必要はありません。世の中にすでにあるもののなかから自分が共感できるものを見つけ、そこに関わることにも大きな価値があります。そんな「挑戦者」として生きることの意味を、私自身が体現していきたいと思っています。
私は今、Mini Transatという明確な目標に向かって全力で準備していますが、結果だけにこだわるのではなく、その過程で得られる経験や出会いを大切にしています。そして、その経験を社会に還元していくことで、新たな価値が生まれると信じています。
未来の自分のためにも、今できることに全力で取り組む。そこから広がる新たな可能性を周りの人々と共有して共創することで、より大きな社会的インパクトにしていきたいですね。
宮城:
高原さんが体現されている「挑戦者」としての生き方は、多くの人にとってのロールモデルとなることでしょう。
日本企業も今、大きな変革の時期を迎えており、従来の働き方や価値観を見直す必要に迫られています。PwCコンサルティングも多様な人材が個々の強みを発揮できる環境づくりに取り組んでいます。高原さんの視点から見て、企業文化の変革にはどのような取り組みが有効だと思われますか。
高原:
企業文化の変革には、トップのメッセージと具体的な制度設計の両方が重要なのではないでしょうか。以前の勤務先では「このような働き方が今の時代には必要」というメッセージが発信されていたからこそ、私は週休4日制を活用できました。
変革は、一朝一夕には進まないものです。「トンネルを掘る」ように、差し込む光を信じて進めていくことが大切です。そのためには、先進的な取り組みを実践する「先駆者」を応援し、「協力者」を高く評価し、その事例を社内外に発信していくことが有効だと私は考えます。
加えて、失敗を許容する文化も重要です。新しいことに挑戦すれば、失敗や困難は必ずあります。挫折や困難を嘆くのではなく、「確かに今は難局だけどね……」としなやかに受け止め、「でもきっと突破できるはず!」と前に進む強靱な姿勢を組織全体で育んでいくことが、真の変革につながるのではないでしょうか。
宮城:
貴重なお話をありがとうございました。高原さんの挑戦が、Mini Transatの成功だけでなく、より大きな社会的インパクトにつながることを心から願っています。PwCコンサルティングとしても、このような意義ある活動を今後も応援していきたいと思います。
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