誰一人取り残さないスマートシティを実現する「ミニマルな都市OS」

2022-09-22

国による「スーパーシティ型国家戦略特区」「デジタル田園都市国家構想」が後押しとなり、自治体におけるスマートシティの取り組みはここ数年で大きく加速しており、既に全1,788自治体の約23%という、アーリーマジョリティのゾーンにまでその活動は拡がっています。

一方、ここからさらに岸田首相の言う「誰一人取り残さない」レベルにまでこの活動と効果を拡げていくためには、自治体ごとにオーダーメイドで構築される都市OSだけではなく、最小限の共通的なサービスが組み込まれ、早く安く使い始められる「ミニマルな都市OS」も必要になってくるのではないでしょうか。

多くの自治体が都市OSという道具を手にし、使える環境を早期に整えることで、その道具で何ができるか、できないかの理解を深め、地域にとって真に便利な使い方を見出し、その道具をさらに活用・進化させていくことも可能ではないでしょうか。

自治体におけるスマートシティの取り組みの加速

2020年12月に内閣府からスーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募が発表され、これに対してさまざまな自治体がそれぞれの地域課題を克服するべく工夫を凝らした検討を行い、2021年春までに31の自治体が応募しました。専門調査会において規制改革やデジタル活用の視点等で議論がなされ、2022年春にはつくば市と大阪市がスーパーシティ型国家戦略特区に、そして吉備中央町、茅野市及び加賀市がデジタル田園健康特区に指定されました。

この一連の流れをきっかけに、自治体のスマートシティに関する取り組みは大きく加速することとなりましたが、これはメディアでのスマートシティに関わる記事の数からも見て取ることができます(図1参照)。

図1:自治体に関するスマートシティキーワード の記事数推移

これらの動きに加えて、2021年秋には岸田首相がデジタル田園都市国家構想の推進を宣言し、2022年1月からデジタル田園都市国家構想推進交付金の募集が開始されました。

まずTYPE1と呼ばれる、他地域で既に確立された優良なモデル・サービスを活用した実装の取組に対する支援募集が先行しましたが、これには40都道府県363市町村(特別区含む)が採択されています。その後2022年6月に採択結果が発表されたTYPE2・3(データ連携基盤を活用した複数サービスの実装を伴う取組)も含めると、少なくとも全国で415自治体が何かしらの形で、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上に取り組もうとしていることが分かります。

この415自治体が既に“スマートシティ”であることを意味するわけではありませんが、全国に1,788ある都道府県・特別区・市町村のうち少なくとも約23%の自治体がスマートシティに向けた取り組みを進めていることになります。商品やサービスの普及に関するイノベーター理論でいうところの、イノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)を超えて、アーリーマジョリティのゾーンにまで、スマートシティの取り組みが拡がってきているのです。

誰一人取り残さないために

岸田首相による2021年秋の所信表明演説では、デジタル田園都市国家構想の推進について、「誰一人取り残さず、全ての方がデジタル化のメリットを享受できるように取り組みます」と述べています。今後広く日本全国にこの流れを浸透させていくためには、何が必要になってくるのでしょうか。

これまでイノベーターゾーンの先駆的な自治体は、独自にスマートシティの土台となる都市OSを構築し、スマートな街づくりを進めてきました。しかし、首長をはじめとした強力なリーダーシップのもとに進められたこれらの取り組みを他の自治体が同様に行うことは、決して容易ではありません。

まず独自に都市OSを構築するにあたってシステム構築予算が必要となりますが、毎年の限られた予算の中で、新たな取り組みに対して多額の予算を付けること自体が自治体では容易なことではありません。また調達となれば、都市OSについて技術レベルで理解して適切にシステム開発調達を行い、その後も開発管理することができる人材が必要になりますが、残念ながら多くの自治体では、そこまで豊富なDX人材を有している状況ではないと思われます。

ミニマルな都市OS

こういった状況の中でスマートシティや都市OSを自治体に拡げていくためには、最小限の共通的なサービスが組み込まれ、早く安く使い始められる「ミニマルな都市OS」が必要だと考えます。

ユーザー管理・認証管理・サービス管理・API管理・セキュリティ管理等、ベースとなる各種管理機能に加えて、住民向けポータルや施設予約等、比較的広く使われる最小限のアプリケーションサービスを備えた都市OSパッケージが用意されていれば、自治体にとって初期的な利用開始へのハードルは大きく下がります。

さらにSaaS利用することができればコスト負担も平準化され、予算へのインパクトを緩和することもできます。

そうして都市OSという道具をまず手に取り使ってみることで、何ができるのか、どのくらい効果があるのか、何が難しいのか、どのくらい難しいのかを知ることができ、地域でどう役立てられる道具なのかをより具体的に考えることができるようになります。

アプリケーションサービスによってはデータ連携に関するシステムやデータの整備も必要になりますし、地域特有の課題に対しては追加的なサービスの機能拡張開発が必要になることもあります。そういった挑戦的な取り組みも、都市OSという道具を実際に使って理解を深めておくことで、より精度や品質の高いものにしていくことができます。

スマートフォンのような都市OS

はじめてスマートフォンを使う人でも、電源を入れるだけですぐに電話やメールなどの標準的な機能は使うことができます。はじめはスマートフォンで何ができるのかも分からない中、徐々に周りの人が使っているアプリを自分も使ってみるようになり、最後にはたくさんのアプリの中から自分が必要としているアプリを集めてきて、便利な“自分のスマホ”を作り上げます。

地域にとって真に価値ある便利な都市OSも、こうしたアプローチで形作られ、日本中に浸透しそれぞれの地域に合った活用が実現していくのではないでしょうか(図2参照)。

図2:ミニマルな都市OS普及の イメージ

執筆者

金行 良一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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