
女子プロゴルフ界のトップランナーとして、世界を舞台に活躍を続ける上田桃子選手を招き、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のコンサルタント6人とともに座談会を実施しました。PwCコンサルティング 執行役員 パートナー 藤井大地のファシリテーションのもと、プロフェッショルに求められるメンタリティや、挑戦することの意義、成長に向けた心構えなど、さまざまなテーマについて意見交換を行いました。
登壇者
PwCコンサルティング 座談会登壇者
藤井大地(ふじい・だいち)パートナー
田中裕子(たなか・ゆうこ)シニアマネージャー
石橋和英(いしばし・かずひで)マネージャー
髙橋覚弥(たかはし・かくや)マネージャー
新倉美菜(にいくら・みな)シニアアソシエイト
程明(てい・めい)シニアアソシエイト
倉田圭樹(くらた・よしき)アソシエイト
(左から)倉田、田中、程、上田氏、藤井、石橋、新倉、髙橋
藤井 本日はプロゴルファーとしてご活躍の上田桃子選手をお招きして、コンサルタントの皆さんと座談会を開催します。上田選手との対話を通して、プロフェッショナルとして仕事をするとはどういうことなのかを探っていければと思います。上田選手、よろしくお願いします。
上田 違う分野でプロフェッショナルとして活躍されている皆さんと意見交換できるのを私も楽しみにしていました。よろしくお願いします。
プロゴルファー 上田 桃子 選手
PwCコンサルティング パートナー 藤井 大地
藤井 では、最初にメンタリティの話題から始めましょう。倉田さんからお願いします。
倉田 私は新卒入社してもうすぐ丸3年になります。徐々に任される場面が増え、クライアントとお会いする際に、これまでよりも上位の役職の方と話す機会もあるのですが、どうしても緊張してしまいます。上田選手は勝敗を分ける一打のようなしびれる場面を何度も経験されていると思いますが、どのように自分の気持ちをコントロールされていますか。
上田 私が気を付けているのは、最低限クリアしたいと思うことに集中することです。全てを完璧にこなそうとするとハードルが上がり、緊張も大きくなってしまいます。そこで、成功か失敗かの二項対立ではなく、まずは優先順位の高いことを達成し、成功体験を重ねることで徐々に緊張を取り除くことを意識しています。これに加えて、緊張せずに済むような事前の準備をすることも大事ですね。
PwCコンサルティング アソシエイト 倉田 圭樹
石橋 私もメンタリティについてはうかがいたいと思っていました。今、事前の準備という話が出ましたが、試合のここ一番という場面で良いパフォーマンスを出すために、どのような準備をされていますか。
上田 練習でできないことは本番でもできないので、練習の際、目標を高めに設定して、自分の限界値を伸ばすように意識しています。試合と練習では緊張の度合いが違いますが、ハードルを上げていくことで練習でも緊張感のある状態をつくれます。それに、身体が勝手に動いてくれるくらいまで技術を自分のものにしておけば、大事な場面での良いパフォーマンスにもつながるのかなと思います。
藤井 限界値を理解しておくことは、自分の強みや弱みを知ることにもなりますね。私たちコンサルタントも自分の強みを伸ばすのは大事なので、共通している部分だと感じます。
PwCコンサルティング マネージャー 石橋 和英
藤井 プロ中のプロとして活躍されている上田選手に、ぜひ“プロフェッショナル”についてのお考えをうかがいたいですね。新倉さん、いかがですか。
新倉 「プロの条件は何なのか」という点についてお聞きしたいと思っていました。私は過去にクラシックバレエのプロダンサーを目指していたことがあります。その夢は断念することになり、その後は国連職員なども視野に入れつつ、システムエンジニアを経てコンサルタントという職を選びました。いろんな経験をしたことは、今の仕事に生かされているとは思うものの、一方でプロフェッショナルとしての軸がまだ備わっていないのが自分の課題だとも感じています。プロテストがあるゴルフと違って、コンサルティングにはライセンスがありません。「自分がコンサルティングのプロを名乗って良いのだろうか」という葛藤があります。上田選手が考えるプロフェッショナルの条件を教えてください。
上田 プロフェッショナルの条件を聞かれた際、私はいつも“責任”と“自覚”だとお答えしています。テストや資格はプロであることを認識しやすいだけで、必ずしも本質ではないと私は思っています。
実はゴルフ界でもプロテストを経由せず、スポンサードを受けて活動する選手もいます。要は需要があるかどうかなんですね。需要に対して、求められているものを供給できる人はプロフェッショナルだと思いますし、「周囲からプロと認められれば、そこには自然と責任や自覚も生まれるはずだ」というのが私の考えです。コンサルタントの皆さんも責任と自覚を持ってクライアントさんの困りごとを解決しているわけですから、私から見れば立派なプロフェッショナルです。
新倉 そう言っていただけると勇気付けられます。
上田 新倉さんは、プロダンサーの道はあきらめることにはなりましたが、コンサルタントとしてプロフェッショナルになられています。アスリートは現役でいられる期間が短く、私もこれからの人生について考えることはあるので、違う職業を選んでも活躍されている話をうかがい、私のほうこそ勇気付けられました。
PwCコンサルティング シニアアソシエイト 新倉 美菜
藤井 続いて“チームワーク”についてもお聞きしましょう。程さん、お願いします。
程 上田選手はゴルフという個人競技で、プロフェッショナルとして結果を残されているのがすごいと思います。一方コンサルティングの仕事は、比較的短期間でプロジェクトごとにチームを編成して業務に当たります。上田選手は“チームワーク”についてはどのようにお考えですか。
上田 ゴルフは個人競技ではありますが、実は1人だけの力では成り立ちません。コーチをはじめとするチームのサポートも受けていますし、試合中はキャディさんとの意思疎通も必要なので、チームワークが大切だという点では同じです。そうした中で大切にしているのは、やはり丁寧な“コミュニケーション”です。人によって認識のズレや温度差は必ずありますし、見えているものも違うので、相互理解のためには言語化は欠かせないと思います。
程 上田選手はご自身のチームでも引っ張る立場だと思いますが、良いチーム作りのためにどのようなことを意識されていますか。
上田 私の場合は、まず自分が先頭に立つという意識で取り組んでいます。先ほどはプロフェッショナルの条件として“責任”と“自覚”を挙げましたが、リーダーシップもその延長ですよね。コミュニケーションを通して信頼を得ながらリーダーとして責任を果たしていくのは、自分にとっても成長のチャンスなので、挑戦しがいがあると考えています。
藤井 上田選手がおっしゃる責任や自覚の話は、コンサルタント論だけでなくリーダー論としても説得力があります。
PwCコンサルティング シニアアソシエイト 程 明
藤井 上田選手は長年トップランナーとして実績を積まれていますが、年齢とともに“変化”を重ねられているのではないでしょうか。この辺りも興味があります。
髙橋 良いパフォーマンスを発揮できているときに、成績をいかに継続するかについてお聞きします。ビジネスの世界でよくあるのが、ある分野でナンバーワンだった企業が、トップランナーであるがゆえに変化を躊躇して、新しいトレンドに乗り遅れてしまうことです。「好調だからこそ変わっていく必要がある」と思うのですが、上田選手はどのように変化に向き合われていますか。
上田 今おっしゃったビジネスの例は、アスリートにも全く同じことが当てはまります。プレーのトレンドも変わっていきますし、新たなライバルも次々と現れるので、変化しないことは現状維持ですらなく、退化になってしまうと思います。
私の場合、自分の強みや価値観として変えない部分を残しつつ、アップデートすべき部分は積極的に変えるようにしています。具体的に言うと、まずは自分にとっての基準を明確化して、それを起点に新しいことに取り組みます。うまくいかなければ基準点に戻れば良いと考えることで、思い切ったチャレンジができます。また、仮に失敗してリセットしたとしても、チャレンジした分、基準点自体が一段上のステージに上がります。基準点を明確にしておくと、スランプに陥ったときも何が原因かを特定しやすいのでリカバリーがうまくいきます。
PwCコンサルティング マネージャー 髙橋 覚弥
田中 上田選手ご自身は、20代の当時と現在を比べたときにどのような変化がありましたか。また、将来はどのように変化していくと思いますか。
上田 デビュー当時は結果を出すことにがむしゃらで、あまり周りが見えていなかったのですが、21歳で拠点を米国に移してから帰国するまでの6年間で価値観が大きく変わりました。海外の選手はゴルフが強くなることだけが目的なのではなく、自分の人生を中心に考え、人生を豊かにするためにゴルフがあるととらえています。私はもともと好奇心が強いのですが、デビュー当時はゴルフ以外のことに目を向ける余裕がありませんでした。米国での生活を経て、現在はいろんなことに興味を持てるようになったのが大きな変化です。
将来については、2021年に結婚したことが重要な要素になっていると感じています。今後、子どもが生まれたら現役生活をどうするのか。もっと将来の話として、現役を引退したらどのような人生を送るのか。今は現役なのではっきり見通せているわけではありませんが、年齢を重ねて後輩がたくさんでき、彼女たちから見られているという自覚もあります。私のこれからの言動は後進のロールモデルにもなると思うので、いろんな可能性を模索していきたいと思います。
田中 コンサルタントはどうしても目の前の課題だけにとらわれてしまいがちですが、上田選手は好奇心の強さや後輩への配慮があるから、全方位でいろんなことにチャレンジできるのですね。今、強さだけが目的ではないというお話が出ましたが、PwCコンサルティングが打ち出している「やさしさが生む、強さがある。」にも通ずると感じました。
上田 順調ではない時期にはネガティブなオーラも出てしまいますが、私にとって恵まれていたと思うのは、周囲の人に助けていただいたことです。もちろん結果を出すための厳しさは必要ですが、やさしさのある環境では良い空気感が生まれ、ポジティブな気持ちで挑戦できます。例えば、今日もそうです。私は人前でしゃべるのがあまり得意ではありませんが、皆さんが興味を持って聞こうというやさしい雰囲気をつくってくださっているので、安心して話をすることができます。「やさしさが生む、強さがある。」というメッセージを発信されていると聞いて、納得しました。
PwC コンサルティング シニアマネージャー 田中 裕子
藤井 プロアスリートとして上田選手が考えていることと、私たちコンサルタントとの間で共通点も多く、座談会を通してさまざまな示唆をいただいたと思います。コンサルタントとして成長するために、もっと全方位で好奇心を持ち、いろんなことに挑戦することの重要性を感じました。本日はありがとうございました。
上田 こちらこそありがとうございました。