Social Impact Initiative 社会を変える旅に出るー「民間公益」の新潮流 公益法人制度改革が促す、ソーシャルインパクトの最前線

PwC Japanグループの共創が生む「未来地図」

  • 2025-09-02

(左から)下條 美智子、塩谷 洋子、田中 宏樹

2025年4月、新公益法人認定法が施行されました。今回の改正を受け、「民間公益」活動のさらなる活性化に期待が高まっています。各企業が推進するサステナビリティの取り組みや、ファミリー企業オーナーなど富裕層の意識変化は、社会課題解決を目指す「ソーシャルセクター」の動きとしても注目すべき要素です。今回の制度改革がどんな「社会的インパクト」につながり得るか——PwCコンサルティングでクライアントの公益施策を支援するソーシャル・インパクト・イニシアチブ(SII)のリーダーと、PwC税理士法人で税務支援を通しファミリー企業の公益活動をサポートするプライベートビジネスサービス(PBS)のリーダーが、「民間公益」の新たな可能性について話し合いました。

登場者

PwC税理士法人 税理士 パートナー
塩谷 洋子

PwC税理士法人 税理士 ディレクター
田中 宏樹

PwCコンサルティング合同会社ディレクター
下條 美智子

民間公益の活性化を—高まる期待と広がる潮流

下條:
2024年5月に公益法人認定法が改正され、今年4月に施行されました。民間公益活動の一層の活性化が期待される中、PwC Japanグループ内で異なる領域で活動する2つの部門の視点から、「ソーシャルインパクトに対する共創」をテーマに議論したいと思います。

昨今、中央省庁や自治体のみならず、企業などの民間部門を含む「ソーシャルセクター」が、公益性の高い活動や資金拠出を通し、社会課題の解決に幅広く取り組んでいます。「民間公益」とも呼ばれるこうした活動は、より良い社会の実現を担う一翼として注目されています。塩谷さんと田中さんが従事するPwC税理士法人のPBSでも、業務を通して民間公益に寄せられる熱の高まりを感じていることはありますか。

塩谷:
PBSは、オーナー企業や富裕層の方々などを主な顧客層として、税務を含む広汎な課題に対する各種ソリューションを提供しています。最近顕著に実感しているのが、企業オーナーの「意識の変化」です。以前から資産承継の一環などとして財団法人の設立を支援するケースは多かったのですが、このところ国内および国際情勢を顧みて、より積極的に「社会に貢献したい」「社会を変えたい」という強い思いを持つ方が増えています。

田中:
企業オーナーのそうしたご意志を、私も税理士として頻繁に聞いています。「私たちの事業の成功は、自分や自社だけの力ではなく、周りの人たちや地域、社会の協力があったからこそ。だから何かしらの形で恩返しができないか」という思いを口々におっしゃるのです。近年はその傾向が特に著しいと実感しています。

その中で私たちPBSは、財団法人や社団法人を設立し、社会貢献活動の器を作り、オーナーの社会貢献への思いを具現化すること、そして「公益認定」を取得することで社会的にも認知され得る活動まで広げることを支援しています。

下條:
まさにそこが、PBSとSIIとの接点ですね。SIIは、「より良い社会の実現」を志す有志が部門や役職を超えて集結し、2019年に立ち上げたチームです。以来、さまざまな取り組みを通じて、企業や団体が社会課題を解決しながら自社のインパクトを世に打ち出すアプローチについて探ってきました。ここ数年は脱炭素やサステナビリティを目指す社会の潮流を背景に、多くの企業から「本業での取り組みを社会貢献やサステナビリティの一環として社会に発信したい」という相談を受けるようになりました。従来のCSRの枠組みを超え、事業と社会課題解決をしっかりとリンクさせて社会に貢献したいとのニーズが高まっているのです。

塩谷:
PBSは企業オーナーと直接対話し、SIIは企業組織内のサステナビリティ部門などと連携する。アプローチは違えども、同じ方向を目指す機運が両チームで高まっている点が興味深いですね。大きな可能性を感じます。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 下條 美智子

民間公益の担い手の意識変化。制度改正に伴うポジティブな変革

田中:
では、今回の公益法人制度改正を整理しておきましょう。公益財団法人、公益社団法人とは、公益法人認定法に基づいて内閣府や都道府県から公益認定を受けた「財団法人」や「社団法人」を指します。税制上の優遇措置を受けられる一方、運営には厳正な規律が求められます。現在、全国に約1万近い数の公益法人があります。「一般財団法人」や「一般社団法人」が「公益法人」として認定されるには、法律で定められた認定基準を満たす必要があるのですが、この基準が昨年改正され、今春から施行されました。

改正のポイントは、①財務規律の柔軟化・明確化、②行政手続きの簡素化・合理化、③自律的ガバナンスの充実と透明性の向上の3点。これにより、公益法人経営の自由度が高まり、新たな事業展開にチャレンジするチャンスが広がると考えられます。

下條:
今回の改正は、私たちが日頃からご支援している企業の社会貢献活動にも大いに影響しそうです。これまでも企業は、サステナビリティと本業をつなげることに挑戦してきました。そしてさらに今後は、それらと社会貢献活動・CSRを近づけるチャレンジへと移行していきます。こうした活動のパートナーには公益法人が多いので、SIIでは企業側と公益法人側の考えがベストマッチするよう工夫・調整して、民間公益の動きをさらに活性化しようと図っています。

塩谷:
確実に言えるのは、「資金を拠出している」「人手を割いている」ということだけで評価される時代はすでに終わりつつあり、今後は実践した内容が「社会にどんなインパクトを与えるか」が問われるようになる、ということでしょう。PwC Japanグループはまさにその支援・伴走に注力しているところです。

「奨学金」は分かりやすい例の1つです。企業オーナーの中には、経済的な理由からチャレンジすることすらできない優秀な学生を経済面で支援したいという方々が少なくありません。そこで財団法人を設立し、一連の手続きを私たちもお手伝いして、奨学金事業に取り組むことになります。その中でも、本当に優秀な学生を「世界に送り出す」ための支援を積極的に行って、将来的に日本経済・世界経済に役立つ人材へと育ってもらい、社会にインパクトを与えたいと望む方もいます。ソーシャルインパクトを意識したそんな切り口が昨今は増えています。

下條:
すばらしいですね。PwCコンサルティングでは、企業を含めたソーシャルセクターの力の下、そうした課題を解決するスキームをどう構築するかに取り組んでいます。税理士法人のPBSのお仕事はさらに源流域での「課題解決に必要なお金をどこに注ぎ込むか」の見定めですね。スキームとうまくつながれば、課題を解決に導く流れを加速できそうです。

田中:
PBSのアプローチは、企業オーナーとじかに対話する点でSIIとは異なりますが、SIIは官公庁とも協働するし、NPOとも積極的に連携しますよね。

下條:
SIIでは、地域課題解決に挑むインパクトスタートアップやNPO団体への支援、これらの団体と企業間の連携などを支援しています。社会課題解決のノウハウやケイパビリティを保有するステークホルダーを集めて、同じ方向を向いて取り組み、コレクティブインパクトを創出する世界を実現したいと考えています。

塩谷:
PwCのPurpose(存在意義)は「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」です。まさにこのPurposeをそのまま体現する取り組みが、SIIの業務だと考えています。そしてPBSも企業オーナーの思いに日々寄り添う中で、このPwCのPurposeを実践している実感があります。今後、SIIの活動をさらに深く理解した上で、両チームが協力して企業オーナーのニーズや悩みに向き合ってともに解決していければ、より力強いインパクトを打ち出せるはずです。

PwC税理士法人 税理士 パートナー 塩谷 洋子

インパクトが可視化される仕組みをどう組み込むか

下條:
企業にとって「お金を稼ぐこと」は重要な使命です。ただ、営利事業としてカバーできる範囲からはこぼれ落ちる課題がどうしてもあります。それを解決するためのお金も当然必要です。カバーできてこなかった課題を見極め、そこにどうやってお金を回していくのか——このことを社会が真剣に考え始めたのが、ここ数年の変化なのではないでしょうか。

塩谷:
民間企業で利潤を追求する仕事に携わっていると、なかなか気が付きにくい発想というのは確かにあります。ですがPBSに籍を置く私は、お金の振り向け方次第で強力なインパクトのある課題解決策を創出できる可能性がありそうだ、との考えに至りました。

企業オーナーの方々は、自ら事業を興し会社を成長させた自負があるだけに、民間公益に関しても成果を見て確かめたいと考える傾向があります。「社会貢献活動をしている」という事実だけではなく、実際にそれが「社会にどんなインパクトを与えているか」を目に見えるかたちで把握したいとの思いが強いのです。アクション志向から、インパクト志向への転換とも言えるそうしたニーズへの対応が、私たちのチームにこれまで足りていないところでした。SIIとの協働を通してソーシャルインパクトの明示を可能にし、「志」を持つ方々にとって納得感のあるかたちで示すことができたら、訴求力はより高まるはずです。

田中:
ここに来て、企業オーナー、富裕層、ビジネスリーダーの方々の意識の変化を感じますが、彼ら・彼女らの「自分たちがお金や人材を出し、社会を変えていきたい」という思いの受け皿や、「誰に相談し、どこにお金を託せばよいのか」というルートが、まだ明確に用意されていない状況なのだと思います。社会貢献への「思い」と「資金」をつなぎ、解決が求められる「課題」に振り向けることができれば、社会は大きく変わると思います。

下條:
そうですね。「インパクト評価」や「インパクトマネジメント」という考え方が日本でも浸透してきていますし、実際に私たちもそういったサービスを展開しています。「インパクトの可視化」は可能でしょう。

ただし、可視化してもその先で「結局、金額に換算するとどうなるの」という問いは付きまといます。それほどまで、私たちの社会は貨幣換算化することに慣れていて、かつ貨幣換算化できない価値の判断に戸惑う状態を招いています。

一方で「社会課題の解決」という観点では、貨幣換算化にも限界があり、そのまま推し進めるべきではない側面もあります。だからこそ、税務や会計といった「お金の専門家」との協議を通じて課題の影響度を理解し、地に足のついた貢献のあり方を探る必要があると思います。

塩谷:
例えば、家庭の経済事情で苦境にあった優秀な高校生に奨学金を出し、大学進学を後押ししたことで「社会にどれほどの経済的インパクトを与えたか」を、その人の生涯賃金や携わったビジネスの規模で測ることは、可能かもしれません。支援する側も、奨学生たちが挙げた成果を知りたいし、その手応えがあれば「支援してよかった」という喜びがさらに湧き上がることでしょう。

PwC税理士法人 税理士 ディレクター 田中 宏樹

組織の枠を越えて—「SII×PBS」が秘める持続可能な社会貢献の可能性

田中:
PBSは、企業オーナーが事業で築いた富や人脈、その強い思いを社会課題とつなぐ橋渡しをしています。そうして社会課題が解決されていくことで、例えば地域社会やステークホルダーとの関係が強化されたり、マーケットが拡大したり――と何らかの形で、企業オーナーの事業にも巡り巡って返ってくるはずです。私達は、これを「価値の循環サイクル」と呼んでいます。

そしてこの「価値の循環サイクル」を加速、増大させることが、社会課題の解決とオーナービジネスの成長を両輪で実現することにつながります。

その際に、企業オーナーに還流するお金や社会の評価の変化を可視化できると、循環サイクルがより加速・増大するはずです。そうしたインパクトの種類や大きさを企業オーナーにうまく伝えることは簡単ではありません。その点はPBSにとっての課題でもあります。

図表:価値の循環サイクル

事業の成長を社会に還元し、さらなる事業の拡大を目指す「価値の循環サイクル」。このサイクルにPBSの財団サポートサービスを付加し、還元する価値を加速・増大させていく

下條:
SIIは、インパクト測定や事業モデル構築、中期経営計画の策定支援などを提供しています。その一方で、企業オーナーとの接点や、課題解決のための資金の窓口になる部署が社内にあるという認識は薄かったのが実情です。PBSとSIIのコミュニケーション密度が最近高まってきたことは運命的と言えるのかもしれません。

今回の制度改正は、そうした面でも活用できるのではないでしょうか。NPOやNGOは、政府や官の支援からこぼれ落ちる課題、光が当たりにくい問題を解決しようと活動します。しかしながら、課題解決のためにはやはり何らかのかたちで企業からの支援を受けたり、マネタイズの仕組みをモデル化したりして、ファイナンス的にサステナブルな状況を作らないと持続しません。

「民間公益」の透明性をもっと高め、制度をより使いやすいものに変えることを狙った今回の公益法人制度の改正は、制度をきちんと理解してうまく活用すれば、活動原資の出どころを広げられる可能性がかなり高いと考えています。

田中:
今後、2026年4月には「公益信託法の改正」が施行予定です。こちらの制度改正もうまく活用すれば、より多くの富裕層の方々が公益事業に資金を振り向けやすくなり、大きなインパクトが生まれるのではないかと思います。

下條:
今の日本は、公的財源だけではカバーできない課題がどんどん積み増され、そこに新しい課題がさらに積まれていくような流れの中にあります。新しい財源を獲得できる可能性がある制度改正は、しっかり活用しなければなりません。

塩谷:
今回の制度改革を1つの潮目として捉え、PBSは「民間公益」の議論をより広汎に活発化したいと考えています。従来の税務サービスの枠を越えて、社会的インパクトを創出する新しいプロフェッショナルサービスを、SII×PBSの連携を通して実現できると信じます。

下條:
企業も個人も、社会課題解決に向けた意識が高まっている今だからこそ、両チームの専門性を組み合わせれば、持続可能な社会貢献のエコシステムを創出できると思います。

主要メンバー

塩谷 洋子

パートナー, PwC税理士法人

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田中 宏樹

ディレクター, PwC税理士法人

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下條 美智子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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