PwCとの連携で日本の創薬を支援

NTTグループが治験・DCTビジネスに挑む真意とは ―分散型臨床試験を確立する社会的意義―

  • 2025-09-09

※本稿は、『週刊東洋経済』2025年6月9日発売号に掲載された記事広告を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。

NTTグループは、2025年5月に治験・DCT事業を開始すると発表した。治験とは、新たな医薬品の有効性や安全性を確認する臨床試験のことで、DCT(Decentralized Clinical Trial)は患者の頻繁な通院を必要としない分散型臨床試験のことだ。なぜNTTグループが、こうしたヘルスケア・メディカル領域へ本格参入するのか。事業立ち上げに携わったコアメンバーと、その取り組みに伴走支援したPwCコンサルティングのコンサルタントに話を聞いた。

(左から) 髙岡淳氏、辻愛美、曽根貢、松﨑憲氏

(左から)髙岡淳氏、辻愛美、曽根貢、松﨑憲氏

登場者

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部
アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 統括部長
松﨑 憲氏

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部
アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 担当部長
髙岡 淳氏

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
辻 愛美

PwCコンサルティング合同会社 パートナー
曽根 貢

NTTグループの治験プラットフォームそのインパクトとは

通信関連を主事業とするNTTグループが、なぜヘルスケア・メディカル領域に参入するのか。治験・DCT事業の立ち上げに携わったNTT 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 統括部長の松﨑憲氏は、次のように説明する。

「『人々の豊かな暮らしと地球の未来に貢献するため、お客さまを発想の原点とし、常に自己革新を続け、世の中にダイナミックな変革をもたらす企業グループをめざす。』、これがNTTグループの使命です。健康や生命をしっかりとDXで支えていくことも、その1つだと考えています。NTTグループの中期経営戦略の柱の1つに『データドリブンによる新たな価値創造』を掲げていますが、ヘルスケア・メディカルはその注力領域の1つです」

このような発言から、NTTグループは、通信網と同様に、ヘルスケア・メディカルのデータ基盤を社会インフラと位置づけているとも受け取れる。そのような中、NTTグループがとくに着目しているのが、「ドラッグラグおよびドラッグロスと呼ばれる社会課題」(松﨑氏)だ。ドラッグラグとは、海外で承認・使用されている医薬品が日本で承認・使用できるまでの時間差のこと。ドラッグロスとは、海外で承認・使用されている医薬品が国内では未承認のために、日本の患者が利用できない状況を指す。

「過去5年間に欧米で承認された新薬のうち、約7割が日本で未承認だったというデータもあります。必要な薬が患者の方に届かず、治療を諦めてしまう人を減らしていきたい、という思いが、ヘルスケア・メディカル領域の中でも治験・DCTに着目した最大の理由です」とNTT 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 担当部長の髙岡淳氏は話す。

そもそも、日本でドラッグラグおよびドラッグロスが起こっている要因の1つとして、日本の治験体制の整備・効率化の遅れが指摘されている。

「例えば製薬会社が新薬の治験を日本で実施しようとしても、その対象となる治験対象者の方を探し出すことが、日本で通常治験が行われている医療機関だけでは難しいケースがあります。

仮に、治験対象者の方を見つけられた場合でも、長い治験期間を完遂していただくのは簡単ではありません。治験参加者のご自宅から治験を実施している医療機関までの距離について『2キロメートルの壁』という言葉もあるくらい難しいのです」と髙岡氏は続ける。

そこで注目されてきたのが、治験の効率性・柔軟性・治験参加者の負担軽減が可能なDCTである。ウェアラブルデバイスやオンライン診療、電子同意、治験薬の配送を活用することで、効率的かつ低コストで治験ができる仕組みとなっており、政府も推進している。

このDCTの肝となるのがデータだ。高い信頼性を確保したうえで適切なデータ運用をすることにより、迅速に治験対象患者を集められるだけでなく、従来治験を受けたくても受けられなかったアンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)にも対応できるようになる。

「それを実現するには、データの改ざんを防ぐ治験プラットフォームが必要です。NTTグループが持つデータ基盤も活用し、治験DXを推進することで、この重要な社会課題の解決に貢献できるのではないかと考えています」(松﨑氏)

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 統括部長 松﨑 憲氏

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 統括部長 松﨑 憲氏

PwCコンサルティングのゴールに導く「行導力」

NTTグループの治験・DCT事業立ち上げに当たっては、PwCコンサルティングが伴走支援を行った。

松﨑氏は、コンサルティングファームに支援を求めた理由について、「ヘルスケア・メディカル領域に対する多彩な視点、高い知見が欲しかったから」と話す。

「データドリブンでヘルスケア・メディカル領域の課題を解決したいという大きなコンセプトはありましたが、具体的に何をすべきか、Howの部分の具体化が必要でした。NTTグループの強みを踏まえたうえで的確なディスカッションができるパートナーが欲しいと思っていました」

PwCコンサルティングを選んだきっかけの1つは、NTTグループの技術を社会に実装するプロジェクトでの経験にあった。「2024年3月に締結された『岡山県玉野市における健康増進の実現に向けた連携協定』の取り組みを進める中で、PwCコンサルティングが果たした役割が強く印象に残っていました」と髙岡氏は説明する。

「まず、PwCコンサルティングのフォアサイト(未来への配慮)の深さです。ヘルスケア・メディカル領域は、行政や医療機関、製薬会社、患者およびその家族とステークホルダーが多様です。それぞれの将来をしっかりと考え、あるべき姿を描いている姿勢がとても印象的でした。

もう1つは、そうした多くのステークホルダーをゴールに導く『行導力』です。医療機関とアカデミア、製薬会社では、重視する方向が少しずつ異なることもあるのですが、それぞれの思いをまとめ上げ、健康増進の産官学連携という成果につなげたことも大きかった。そのうえ、PwCコンサルティングでは、多様な領域の専門家をそろえているなど高いケイパビリティーがあることも魅力的でした」

松﨑氏は、それに加えて「リスクを取る姿勢」にも共鳴したという。

「我々の事業の進捗に応じて報酬を変える、といったご提案もいただきました。結果的に報酬を増減させる仕組みは導入しませんでしたが、単に依頼内容に対応するのではなく、PwCコンサルティングの強いコミットメントに、日本のヘルスケア・メディカル領域の現実(リアル)を変えたいという思いの強さを感じました。それがあるからこそ、産官学の5者を取りまとめるという玉野市の取り組みも推進できたのだと思っています。

治験・DCTにおいても、いかに持っている技術を実装し、社会に貢献するかが弊社グループにとっては重要ですので、ご相談相手にはぴったりだと判断しています」

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 担当部長 髙岡 淳氏

NTT株式会社 研究開発マーケティング本部 アライアンス部門 ヘルスケア・メディカル担当 担当部長 髙岡 淳氏

課題解決にコミットするワンチームでの推進力

フォアサイトの深さと「行導力」、リスクを取る姿勢。これらの源泉はどこにあるのか。

PwCコンサルティングの曽根貢パートナーは「日本の医療に対する強い危機感」と答える。

「大前提として、PwCは治験DXを非常に重要な取り組みだと位置づけています。とりわけ、DCTプラットフォームの整備は欠かせません。

その点、NTTグループは国から次世代医療基盤法の認定を取得するなど、ヘルスケアデータの取り扱いにも長けていますので、ご支援をするというよりも、日本の医療の発展のため、使命感を持って一緒にワンチームで取り組んでいるという意識が強くあります」。

その一方で、医療・ヘルスケア領域で新しい事業を成功させるポイントにも触れた。

「長年にわたって築き上げた成熟した産業に変革を起こす際、幅広い関係者の方々に変化の意義と変化による便益を理解していただくことが重要です。そして、ステークホルダー間の調整や、時にはルールメイクなどが必要なケースもあるでしょう。そうした複雑なプロセスへの向き合い方も成功につながる要素だと思います」

曽根氏と共にチームメンバーとなっているPwCコンサルティングの辻愛美シニアマネージャーは、「あるべき姿を描き、実現したいという思いが原動力」と話す。

「現状を分析し、プランを出すのがコンサルタントの仕事と思われがちですが、もうそうしたレベルは生成AIでも代替可能ではないでしょうか。私たちはクライアントと共に描いたことをいかに実行するかに集中しているのです」

曽根が後を受ける。「ですから、ケースによっては、いわゆる従来のコンサルティング領域を超えた価値を提供するために、PwCコンサルティング自らが事業のリスクテイクをしていくという姿も選択肢に入ってくるでしょう」。

実は、辻の担当領域はテレコムインダストリーだ。

「辻に限らず、さまざまなインダストリー領域からヘルスケア・メディカルの課題解決に貢献したいというメンバーが集まっています。クライアントからの相談に解決策を提示するといったアプローチではなく、日ごろから日本の医療のあるべき姿であるとか、そのために必要な改革や政策などについて議論を重ねており、どのような取り組みが有効なのかという知見や思いを前提に私たちならではの提案もさせていただいています」(曽根)

こうしたPwCコンサルティングのアプローチも、強力な推進力の源泉となっているようだ。

実際、NTTグループとの取り組みでは、それが治験・DCT事業のビジョン策定も後押しした。

「ビジョンでは『つなぐ、寄り添う、選べる、支える、安心・安全を届ける』の5つを策定しました。その過程では、弊社グループのみが提供できる価値とは何か、曽根さんや辻さんたちPwCコンサルティングのチームとかなりハードにディスカッションを積み重ねました。900社以上のNTTグループ全体で取り組む際の道しるべとなるものですので、事業を展開していくうえで欠かせないプロセスだったと思っています」(髙岡氏)

辻もこう振り返る。「NTTグループが大事にされていること、強み、そして、社会、医療機関、製薬会社、アカデミアからの期待、こうした円が重なり合うのはどこか、と繰り返し議論し、結晶化させていきました」。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 曽根 貢

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 曽根 貢

NTTグループは社会課題を解決していくイネーブラーに

治験・DCTの活性化は、ドラッグロス・ドラッグラグの緩和・解消だけでなく、これまで通院に大きな負担がかかっていた患者の負担軽減、すなわち患者中心の治験にもつながる。また、NTTグループは治験DXの先に、新たな医療においてプラットフォームの役割を果たすという可能性も視野に入れている。

「例えば、LLM(大規模言語モデル)の進化によって、AI診断の可能性も広がっていくでしょう。ゲノム情報やライフログ等に基づくプレシジョンメディシンも発達していくと想像しています。そうした際、AIが日本のルールやガイドラインを踏まえているか、個々人のデータ保管に瑕疵はないか、しっかりカバーしていくことが、ナショナルフラッグカンパニーとして取り組むべきことだと思っています。個人的にはPwCコンサルティングには、共にチャレンジするパートナーとして、今後も引き続き相談に乗っていただきたいと考えています」(松﨑氏)

「ヘルスケア・メディカル領域の課題を解決するDXイネーブラーとして確かなポジションを確保し、日本の健康と生命を支えていきたい」と口をそろえる松﨑氏と髙岡氏。NTTグループの医療DXは、治験・DCTだけにとどまらない新たな未来が開けていきそうだ。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 辻 愛美

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 辻 愛美

執筆者

曽根 貢

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

辻 愛美

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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