日本の未来とグローバルヘルス:今こそグローバルヘルスを問う

第4回 気候変動が及ぼす健康被害と「One Health」に挑む意義

  • 2025-07-28

2025年にドナルド・トランプ氏の米国大統領就任以降、トランプ氏の選挙公約集
「アジェンダ47」や米国証券取引委員会(SEC)における指導体制変更などを背景に、気候変動およびそれに伴う環境被害への懸念が高まっているように見受けられます。一見、気候変動はグローバルヘルスに関連性がないように思えますが、気候変動で発生する災害によって健康被害のリスクが高まるなど、間接的影響は明らかです。また、これらのリスクは、国の医療基盤が未成熟な場合に影響が大きくなることが想定され、実際にグローバルサウス諸国では、伝染病のリスク増加に伴い医療基盤が圧迫されるなど、グローバルヘルスを実現する上で大きな脅威となっています。本稿では、気候変動が脅かす健康被害について、グローバルノースとグローバルサウスにおける具体的な事例を挙げて探る他、各国が気候災害に対してできることについて、近年注目されている「One Health」を通じて解説します。

1. 気候変動はどのような健康被害をもたらすのか

はじめに、気候変動が健康にどのような影響を及ぼすのか、その関連性について解説します。気候変動として昨今見られる主な現象には「CO2濃度の上昇」「異常気象」「海面上昇」「気温上昇」の4つがありますが、これにより発生する気候災害が健康被害につながります(図表1)。

図表1:気候変動、気候災害、健康被害の関連図

University of Pittsburgh (2021).「Climate Change and Global Health Research at the University of Pittsburgh」※1を元にPwC作成

気候災害が多発することで、特にグローバルサウスに集中する低中所得国において大きな影響が発生します。前回のコラムでも示した通り、グローバルサウスの医療アクセス(医療インフラ、UHC制度自体)が元々不十分な中、ここに気候災害が上乗せされることでさらに医療アクセスの脆弱性が増し、国民格差が拡大します。医療アクセス自体の強化が引き続き求められる一方で、気候災害が及ぼす健康被害への対策も不可欠です。

2. ケーススタディ:グローバルノース 対 グローバルサウス

ここからは、気候変動による健康被害を具体的に理解するために、以下3つの気候災害テーマに着目します。その上で、グローバルノースとグローバルサウスそれぞれの事例を通じて、気候災害が及ぼす影響にどのような「差」があるかを見ていきます。

1) 水と食料供給への影響
2) 水質への影響
3) 大気汚染への影響

2-1. 水と食料供給への影響

まずは、水と食料供給への影響に着目します。近年、気温上昇によって季節や天候のリズムが乱れ、異常気象が頻発しています。その結果、降水量が不規則になり、グローバルノースとサウスの双方で長期的な干ばつが発生しました。干ばつは生活用水や農業用水の不足を引き起こし、食料供給さらには人々の健康に影響を及ぼします。グローバルノースとサウスではそれぞれ異なる干ばつによる課題が発生している中で、米国とエチオピアを例に、両国が直面している現状とその解決策について紹介します。

<グローバルサウス:エチオピア>

アフリカでは気候変動が食料安全保障に深刻な影響を及ぼしており、特にエチオピアではその影響が顕著です。長期的な干ばつにより水資源や食料供給が不安定化し、国民の多くは安全な飲料水や十分な栄養を得ることが困難になっています。これにより、栄養不良などのリスクが高まり、人々の健康と生活に負の影響を与えています※2

エチオピアでは3〜5年ごとに周期的に干ばつが発生し、その頻度と深刻さは過去数十年で増加しています※3。例えば2022年には、3年連続で雨季に十分な降雨がなかったことから深刻な干ばつをもたらしました。この干ばつで川や池、貯水池などの地表水が枯渇し、生活用水や農業用水の確保は極めて困難になりました。その結果、農作物の生産量が大幅に減少し、十分な栄養を得られない人々が増加したのです※4。特に妊産婦や子どもたちの間で急性栄養失調が深刻化し、妊産婦の約73%、5歳未満の子どもの約22%が急性栄養失調と診断されました※5

健康被害に加えて、干ばつはエチオピアの経済にも大きな打撃を与えています。農業は同国のGDPの約30%を占め、国民の約80%が農業に従事しているため、農業生産の低下は経済基盤を直撃します。収穫量の減少は農村経済の不安定化を招き、食料価格の高騰にもつながっています※6。こうしたことから、エチオピアでは持続的かつ包括的な国際支援が不可欠な状況です。

気候変動による干ばつの影響はグローバルサウスとノースで異なりますが、グローバルノースの状況や施策について見ていきましょう。

<グローバルノース:米国>

グローバルノースに位置する米国でも気候変動の進行により干ばつの頻度と深刻さが増しており、水不足や農業被害、それによる健康被害が課題となっています。2024年には「フラッシュ干ばつ(急速に進行する干ばつ)」が拡大し、米国本土の45%以上の地域が干ばつの影響を受けていると報告されています※7

米国本土のワシントン州では、2024年に干ばつ緊急事態宣言が発令されました。これは、NOAA(米国海洋大気庁)とUSDA(米国農務省)が共同で運営する「U.S. Drought Monitor(米国干ばつモニター)」によるモニタリング結果を受けたもので、積雪量の不足と貯水池の水位低下により、今後数カ月にわたって水利用者に深刻な影響が出る可能性があると報告されました※8。干ばつによる水不足は、農業用水や生活用水の確保を困難にし、農作物の不作による食料不足や、衛生環境の悪化による感染症リスクの上昇など、さまざまな形で人々の生活と健康に影響を及ぼします。特に農村部や低所得層では、こうした影響が深刻化しやすく、健康被害が懸念されました。

干ばつの深刻化への対策として、米国では「U.S. Drought Monitor」が重要な役割を果たしています。このシステムは、米国全土の干ばつ発生状況をリアルタイムで監視・評価するもので、干ばつの早期発見、迅速な対応、政策決定に活用されています※9。例えば、干ばつの兆候をいち早く把握することで、農家や自治体が水の使用計画を見直すなどの事前準備を行うことが可能になります。実際に、ワシントン州ではこのモニタリング情報を基に、最大450万米ドルの干ばつ対応助成金の配布や、緊急の水利権移転の手続きが進められました※8。米国でも干ばつの深刻化が進んでいますが、リアルタイムのモニタリングと早期対応の仕組みによって、農業や地域社会への被害、さらには人々の健康への影響を一定程度抑制できています。

このように、グローバルノースとサウスともに、気候変動による干ばつという共通の課題に直面していますが、その対応力や制度の整備状況には大きな差があります。特にグローバルノースでは、モニタリングシステムを活用した先進的な取り組みが進められており、これらはグローバルサウスにとっても有益な示唆を与えるものです。グローバルノースの知見や技術を柔軟に取り入れ、地域の実情に即して応用することで、グローバルサウスにおける気候変動への対応力を高める手がかりとなると考えられます。

2-2. 水質への影響

近年の気候変動に伴い、水災害の増加や海水温の上昇といった現象が世界全体で頻発しています。さらには、それらに起因する水質汚染が、人々の健康に影響をもたらしています。水質汚染による健康被害は1国にとどまらない、世界全体での共通課題です。ここでは、グローバルサウスであるマレーシアとグローバルノースであるドイツにおける事例を基に、両国での健康被害の状況と解決策について解説します。

<グローバルサウス:マレーシア>

気温の上昇に伴い海や地表から大気中に蒸発する水分量が増加することが、洪水などの水災害の発生可能性を高める一つの要因だと考えられています。2024年には世界全体で142件の大規模な洪水が報告されましたが、これは同年に起きた全ての自然災害のうち、約35%を占めます※10。東南アジアに位置するマレーシアでは、2014年に約3週間に及ぶ長期的な洪水被害が発生しました。この洪水により、水系感染症の一つであるレプトスピラ症の患者数が洪水発生前後の3カ月間を比較して、2倍に増加したことが報告されています※11。レプトスピラ症は、牛や豚、特にネズミなどの保菌動物の尿に含まれる病原菌によって水が汚染され、それらの水への接触が一般的な感染経路とされています。レプトスピラ症の症状は、無症状から、多臓器不全や死亡を含む重篤なものまでさまざまです※12

マレーシアや近隣の東南アジア諸国では、レプトスピラ症に加え、デング熱やチフスなどの水系感染症の感染被害が多く報告されています※13,14。これらの地域においては、洪水時の衛生・排水システムが十分ではないことから、汚染された水が広がり、水系感染症のリスクをより高めると考えられます。

グローバルサウスに比べ、衛生環境が整っているグローバルノースでは、水系感染症の被害が少ない一方、近年の気候変動に伴ういくつかの事例が報告されています。グローバルノースにおける現状を見ていきましょう。

〈グローバルノース:ドイツ〉

ドイツが面するバルト海では、2018年に過去30年で最も暑い夏となり、その表層水温は1990年以降の長期平均値より4~5℃高い観測がされました※15。このような水温の上昇は、非コレラビブリオ菌(Non-cholera Vibrio:NCV)やレジオネラ菌、シアノバクテリアなどの病原体を増殖させます※16。例えば、NCVは20℃以上の温かい水の中で特に増殖します。感染経路はさまざまで、加熱不十分な海産物を摂取することで胃腸炎を引き起こしたり、皮膚表面上の傷がNCVに汚染された水と接触することで創傷感染を引き起こしたりします。胃腸炎と創傷感染いずれも、重大な致死率を伴う敗血症につながる可能性があることから、迅速な医療措置が必要です。

こうした迅速な医療措置に加え、NCVに汚染された水との接触を防ぐことが、感染対策として最も有益だとされています。そこで、EU諸国ではNCVの増殖予測のため、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が提供するモニタリングツール「ビブリオマップビューアー」を活用しています。本ツールでは、水温と海面塩分濃度のリアルタイムデータから、ビブリオの増殖に適した環境条件を予測し、増殖リスクが高いと判断された場合、公衆衛生当局にアラートが送られます※17,18。このアラートを基に、医療従事者や一般市民への警告、ビーチの閉鎖などNCV感染を予防するための対応を行うことが可能です。

水質汚染による健康被害への対策としては、水道設備および衛生設備の整備が最も重要ですが、安全な水・衛生環境にアクセスできる人の割合がいまだ50%にも満たない国が、グローバルサウスには多く存在します※19,20。そのため、グローバルノースとサウス間での格差が拡大しないよう、水道・衛生設備といった社会基盤の構築に世界規模で取り組む必要があります。それらの基盤が整った環境に加え、ECDCのモニタリングツールのような関連諸国が連携した取り組みを推進することで、水系感染症の予防対策がより強化されると考えます。

2-3. 大気汚染への影響

最後に、気候変動が大気汚染に与える影響について考察します。気候変動は「2-1. 水と食料供給への影響」や「2-2. 水質への影響」のように直接的な影響を及ぼすだけではありません。人為的要因によって生じた大気汚染が、気候変動でさらに悪化するといった間接的な影響ももたらします。本節では、グローバルサウスであるインドと、グローバルノースであるポーランドを取り上げ、それぞれの国における大気汚染の現状、これによる健康被害の実態と解決策について解説します。

〈グローバルサウス:インド〉

インドは大気汚染が深刻な国の1つとして世界的に知られています。その背景には急激な都市化などがあり、1998年から2021年にかけて汚染物質の1つであるPM2.5の指標において、年間平均濃度が67.7%増加しています※21。2024年時点では、WHOが推奨する年間平均PM2.5濃度5µg/m3の約20倍にあたる年間平均104.7µg/m3が観測されています※22。PM2.5は、粒子の大きさが非常に小さいことから肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系の疾患への影響の他、肺がんや循環器への影響が懸念されています。実際にインドでは、2019年にPM2.5の影響で約167万人が亡くなったとされており、その原因の32.5%が慢性閉塞性肺疾患(COPD)、29.2%が虚血性心疾患、16.2%が脳卒中、そして11.2%が下気道感染症となっています※23,24

インド政府は、大気汚染の緩和措置として、2019年に「Natural Air Clean Programme (NCAP)」を導入し、都市ごとに大気汚染改善目標を設定しましたが、法的強制力の欠如、資金の未活用、対象都市の限定、モニタリングするためのインフラ不足などの課題を抱えており、改善が求められています※25。また、大気汚染による健康被害を防ぐには、医療基盤の整備も必要です。近年、インドの医療進展は大きな進展を遂げているものの、公的医療資金の欠如、医療従事者の不足、公的医療保険制度の対象範囲が狭いなどの課題が存在します※26

大気汚染の悪化は、国や地域を問わず共通する課題です。こうした中、政策・技術の両面で多様な緩和措置が導入されているグローバルノースの現状を見ていきましょう。

〈グローバルノース:ポーランド〉

ポーランドを含む一部の東ヨーロッパ諸国では、依然として高水準の大気汚染が観測されています※27。主な要因は、石炭への依存や家庭での燃焼行為ですが、それに加えて冬季の寒波などの気候災害に伴う石炭使用量の増加が、大気汚染をさらに悪化させています。その結果、ポーランドでは特有のスモッグ現象が発生しており、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)やST上昇型心筋梗塞(STEMI)などの心血管疾患リスクの増加が報告されています。実際、2019年には大気汚染が原因とされる死亡者数が31,100人に達しており、健康被害の深刻さが浮き彫りとなりました※28,29,30

このような状況に対して、ポーランドでは複数の施策が導入されています。その代表例が「Clean Air Programme」であり、石炭使用量の多い暖房設備の更新や住宅の断熱性能向上を支援する制度です。本プログラムの導入により、温室効果ガス排出量の削減に加え、年間約21,000人の命を救う効果が期待される他、家庭の暖房費削減にも寄与します。こうした成果を背景に、同プログラムは国民から高い支持を得ています※31。二つ目の施策として、ポーランドではスモッグ防止規則の遵守状況を監視するため、ドローンを活用した空中モニタリングを導入しました。これにより、違反行為の早期発見が可能となり、違反者に対しては罰金などの法的措置が適用されます※32。このように、スモッグの発生源を技術的かつ制度的に厳格に取り締まることで、大気汚染の抑制とそれに伴う健康被害の軽減が期待されています。

このように、深刻化している大気汚染対策として、グローバルノース・サウスとも施策が検討されていることが分かります。そうした中、グローバルノースでより効果的に実行されている背景には、国民の強い支持の下、健康被害の抑制に一定の成果をもたらしていることが見て取れます。グローバルサウスにおいても、国民に寄り添う施策を実行することが、大気汚染問題の改善の鍵となるのではないでしょうか。

3. 昨今注目される「One Health」とは

前述のとおり、気候変動による健康リスクはグローバルノース・サウス共通であるものの、リスクからの影響をより抑えられているかどうかに差があることが分かりました。具体的には、健康被害を抑えるための対策(モニタリングなど)、医療アクセスの成熟度や国民の健康意識の向上などが考えられます。よって、前回のコラムでも述べたように、各国がユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や医療インフラを通じて堅固な医療システムを構築するためには、国同士での継続的な支援が不可欠です。加えて、気候災害が発生した際にすぐに健康課題に関しても対応できるよう、気候災害による健康被害を想定した医療政策を、継続的に関係省庁および関係者を巻き込みながら検討することが奨励されます。

世界的な健康へのアクセス向上だけでなく、個人の健康基準自体を改善することにも注力しなければなりません。そのためには、「人」の健康を超えて、「人」と密接に関連する「動物」や「環境」の健康、保護を行う必要があります。ここで重要となる概念が「One Health」です。この概念は、個人の健康を向上させるだけでなく、気候変動による災害の影響を軽減し得ると考えられています。

<注目を集める「One Health」>

過去30年間に世界全体で発生した感染症のうち、約70%が動物に由来しています。これらの動物由来の感染症は、汚染や公害などの環境悪化によって発生・拡大する懸念があります※33。このように、人の健康は動物・環境に密接に関連し、相互に依存しています。

こうした背景から、人・動物の健康と環境の健全性を包括的に捉える「One Health」の概念が世界的に注目されています(図表2)。2004年からこの概念についての検討が始まり、2021年には国連食糧農業機関 (FAO)、国連環境計画(UNEP)、国際獣疫事務局(WOAH)、世界保健機関(WHO)の4機関からなる会合において、「One Health」の世界共通の定義として以下が公表されました※34,35

「One Healthとは、人、動物、そして生態系の健康を持続可能な形でバランスよく維持し、最適化することを目指す、統合的かつ統一的なアプローチである。人、家畜、野生動物、植物、そしてより広範な環境(生態系を含む)の健康は密接に関連し、相互依存していることを認識している」

「One Health」の実現には領域横断の連携が必要となることから、上記の定義はさまざまな領域におけるステークホルダー間の共通理解を促進することを目的としています。さらに、「One Health」のアプローチを用いて健康を推進するため、FAO・UNEP・WOAH・WHOの4機関は共同アクションプランである「One health joint plan of action (‎2022‒2026)」を策定し、各国における「One Health」の実現に向けた取り組みを支援しています※36

図表2:One Healthの概念

動物の健康のための進化(N/A)。「One Health Global Approach」 ※37 を元にPwC作成

<日本における「One Health」の取り組み>

日本でも実際に、政府機関をはじめとした「One Health」に関する取り組みが始まっています(図表3)。

図表3:日本の政府機関などにおける取り組み事例

実施者 カテゴリー 内容
省庁(厚生労働省、農林水産省、環境省)※38 施策検討
  • 2015年から人獣共通感染症に対する予防、探知、治療の対策を強化するため、医師会や獣医師会と連携してシンポジウムを実施(その後毎年開催)
  • 薬剤耐性菌対策として、毎年「ワンヘルス動向調査報告書」を公表し、人間と動物、そして環境の健康を守るための多角的なアプローチを検討
自治体(福岡県)※39 政策実践
  • 「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を整備し、さまざまな取り組みを実施
  • 基本条例として6つの基本方針を提示:「①人獣共通感染症対策」「②薬剤耐性菌対策」「③環境保護」「④人と動物の共生社会づくり」「⑤健康づくり」「⑥環境と人と動物のより良い関係づくり」
アカデミア(北海道大学)※40 教育の提供
  • 北海道大学大学院獣医学院・国際感染症学院が中心となり「One Health」に関するプログラムを提供
  • プログラムでは、疾病制御・予防の理念の下、One Health に係る問題解決策における専門家育成を図る

図表3に示した取り組み以外にも、国際協力機構(JICA)では、日本での知見を活用しグローバルサウスでの「One Health」促進の取り組みを実施しています。具体的には、フィリピンで公衆衛生上重大な問題とされている狂犬病において、「日本の知見を活用、検証し、新規診断法の開発と、動物とヒトの診断情報を共有し効率的な予防対策活動につなげるワンヘルス・ネットワークモデルの構築」※41を支援しています。

一方で、「One Health」を全面的に体現できている事例は、日本においてまだ少ないのが現状です。その背景として、以下のようなことが考えられます。

  • 分野横断的な知識を持つ人材、ガバナンス不足:「One Health」を実現するには、医療、公衆衛生、獣医学、農業、環境科学をはじめとする多様な分野の連携が必要だが、日本では現状これらの分野が縦割りで運営されており、連携体制が整っていない
  • 「One Health」に対する認知度・関心の低さ:「One Health」の重要性は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を契機に一部で認識されてきたものの、一般市民レベルでの理解・関心は限定的である

今後は、他分野連携体制の構築や人材育成に注力し、日本国内での取り組みや経験を増やしていくことで、日本も「One Health」におけるリーダーになることが求められます。

過去4回のグローバルヘルスシリーズを通じて医療の重要性を述べてきましたが、近年の気候災害の頻発を受けて、動物や環境の「健康」を守ることの大切さが改めて意識されています。また「One Health」のような新しい概念に基づき、グローバルノースからグローバルサウスへの支援を呼びかけることだけでなく、地域の垣根を越えてともに取り組むことが重要です。このように全世界で協力し合うことで、地球そのものの保護につながるのではないでしょうか。

参考資料

※1 University of Pittsburgh (2021).「Climate Change and Global Health Research at the University of Pittsburgh」
https://www.climatecenter.pitt.edu/news/climate-change-and-global-health-research-pitt

※2 Springer Nature (2025).「Impacts of climate change on crop production and food security in Ethiopia」
https://link.springer.com/article/10.1007/s43621-025-00830-9

※3 Science Publishing Group (2024).「Drought Risk Management in Ethiopia: A Systematic Review」
https://sciencepublishinggroup.com/article/10.11648/j.jeece.20251001.11

※4 Unicef (2022).「エチオピア 深刻な干ばつにより壊滅的影響3月には推定680万人に緊急人道支援が必要に」
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0027.html

※5 MEDECINS SANS FRONTIERS (2023).「エチオピア:栄養失調率の増加に、食料配給の再開が急務」
https://www.msf.or.jp/news/press/detail/eth20230710my.html

※6 独立行政法人 国際協力機構 (2025).「エチオピア連邦民主共和国 JICA 国別分析ペーパー」
https://www.jica.go.jp/overseas/ethiopia/__icsFiles/afieldfile/2025/04/04/jcap_et_202503.pdf

※7 Bloomberg (2024).「米国で「フラッシュ干ばつ」被害拡大、牛肉値上がりも-小麦にも影響」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-22/SNBMQYT0G1KW00

※8 Department of Ecology (2024).「Statewide drought declared due to low snowpack and dry forecast」
https://ecology.wa.gov/about-us/who-we-are/news/2024/april-16-drought-declaration

※9 U.S. Drought Monitor (2025).「This Week's Drought Summary」
https://droughtmonitor.unl.edu/

※10 Creducl (2024).「2024 Disasters in Numbers」
https://files.emdat.be/reports/2024_EMDAT_report.pdf

※11 PubMed Central (2018).「Leptospirosis Outbreak After the 2014 Major Flooding Event in Kelantan, Malaysia: A Spatial-Temporal Analysis」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5953347/#b2

※12 WHO (2003).「Human Leptospirosis Guidance for Diagnosis, Surveillance and Control」
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/42667/WHO_CDS_CSR_EPH_2002.23.pdf?sequence=1

※13 MDPI (2023).「Impact of Climate Change on Waterborne Diseases: Directions towards Sustainability」
https://www.mdpi.com/2073-4441/15/7/1298

※14 Frontiers (2022).「Towards an Integrated Approach to Improve the Understanding of the Relationships Between Water-Borne Infections and Health Outcomes: Using Malaysia as a Detailed Case Study」
https://www.frontiersin.org/journals/water/articles/10.3389/frwa.2022.779860/full

※15 Baltic Earth (2021).「Climate Change in the Baltic Sea 2021 Fact Sheet」
https://helcom.fi/wp-content/uploads/2021/09/Baltic-Sea-Climate-Change-Fact-Sheet-2021.pdf

※16 PubMed Central (2023).「Impact of climate change on waterborne infections and intoxications」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10278370/

※17 European Centre for Disease Prevention and Control (N/A).「ECDC Geoportal」
https://geoportal.ecdc.europa.eu/vibriomapviewer/

※18 Environmental Health Perspectives (2017).「Environmental Suitability of Vibrio Infections in a Warming Climate: An Early Warning System」
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/full/10.1289/EHP2198#f2

※19 WHO (N/A).「WASH safely managed drinking-water services, population using (%)」
https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/population-using-safely-managed-drinking-water-services-(-)

※20 WHO (N/A).「WASH safely managed sanitation services, population using (%)」
https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/population-using-safely-managed-sanitation-services-(-)

※21 Air Quality Life Index (2023).「Country Spotlight」
https://aqli.epic.uchicago.edu/country-spotlight/india/

※22 Royal Society of Chemistry (2025).「Air pollution may contribute to almost a quarter of deaths in India」
https://www.chemistryworld.com/news/air-pollution-may-contribute-to-almost-a-quarter-of-deaths-in-india/4020786.article

※23 PubMed Central (2020).「Health and economic impact of air pollution in the states of India: the Global Burden of Disease Study 2019」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7805008/#:~:text=The%20crude%20death%20rate%20per,2%3B%20appendix%20p%2019).

※24 The Times of India (2021).「Air pollution much bigger killer than Covid in India, finds study」
https://timesofindia.indiatimes.com/city/kolkata/air-pollution-much-bigger-killer-than-covid-in-india-finds-study/articleshow/80105815.cms

※25 Centre for Research on Energy and Clean Air (2025).「Data discrepancies in India’s NCAP cities’ air quality assessments」
https://energyandcleanair.org/publication/data-discrepancies-in-indias-ncap-cities-air-quality-assessments/

※26 PubMed Central (2023).「The Transformation of The Indian Healthcare System」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10292032/

※27 PubMed Central (2022).「Air Pollution in Poland: A 2022 Narrative Review with Focus on Respiratory Diseases」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8775633/

※28 Research Gate (2023).「The impact of Polish smog on public regional health – baseline results of the EP-PARTICLES study」
https://www.researchgate.net/publication/372024791_The_impact_of_Polish_smog_on_public_regional_health_-_baseline_results_of_the_EP-PARTICLES_study

※29 The Lancet Regional Health (2024).「Air pollution and myocardial infarction in Poland」
https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(24)00100-5/fulltext

※30 Science Direct (2023).「Premature deaths related to urban air pollution in Poland」
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1352231023001498

※31 Health and Environmental Alliance (2025).「Health groups call for the reinstatement of Poland’s Clean Air Programme」
https://www.env-health.org/health-groups-call-for-the-reinstatement-of-polands-clean-air-programme/

※32 DRONE (2018).「ポーランドの都市で大気汚染スモッグの監視にドローン採用」
https://www.drone.jp/news/2018022112112618857.html

※33 One Health Commission (N/A).「Why One Health?」
https://www.onehealthcommission.org/en/why_one_health/

※34 One Health Commission (N/A).「What is One Health?」
https://www.onehealthcommission.org/en/why_one_health/what_is_one_health/

※35 PLOS (2022).「One Health: A new definition for a sustainable and healthy future」
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1010537

※36 FAO, UNEP WHO, and WOAH. 2022 (2022).「One Health Joint Plan of Action(2022-2026)」
https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/40843/one_health.pdf?sequence=1&isAllowed=y

※37 Evolution for Animal Health (N/A). 「One Health Global Approach」
https://www.evahcorp.ca/en/sustainability/one-health-approach/

※38 厚生労働省 (N/A).「ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172990.html

※39 福岡県 (N/A).「What you can do」
https://onehealth.pref.fukuoka.lg.jp/

※40 北海道大学 (N/A).「One Health 卓越大学院プログラムとは」
https://onehealth.vetmed.hokudai.ac.jp/about/

※41 独立行政法人 国際協力機構 (2024).「ワンヘルス」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/health/__icsFiles/afieldfile/2024/08/23/one_health.pdf

執筆者

中谷 彩乃

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

鈴木 弘奈

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

前田 里菜

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

矢口 菜穂子

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

山田 真理子

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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