{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
医療法人社団鴻愛会は埼玉県鴻巣市を拠点に「共に生きる」という理念のもと、こうのす共生病院や介護施設を運営し、地域包括ケアの実現を目指しています。グループの理念を体現するために積極的にDX(Digital Transformation)の推進に取り組んでおり、業務そのものや組織文化を変革し、職場環境の改善にもつなげています。
一般に、医療機関においては投資余力の観点からもICT機器等の導入は簡単ではありません。本稿では、そのような状況の中、積極的に院内のDX推進を主導している理事長の神成文裕氏に加え、現場でのDX推進をリードしている看護部長の黒澤晃氏、事務担当として多方面からサポートしている新純一氏に、その根底にある考え方や院内の巻き込み方について伺いました。(本文敬称略)
左から、小田原、黒澤氏、神成氏、新氏、榎本
登壇者
医療法人社団鴻愛会
理事長
神成 文裕氏(医師)
医療法人社団鴻愛会 こうのす共生病院
看護部長
黒澤 晃氏
医療法人社団鴻愛会 こうのす共生病院
システム情報管理課
新 純一氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
小田原 正和
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
榎本 有祐
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
医療法人社団鴻愛会 理事長 神成 文裕氏(医師)
小田原:
こうのす共生病院では、AI問診やバイタル自動測定、スマートフォンの活用など積極的にICT機器を導入しており、業務そのものと組織風土の変革にチャレンジし、医療の質向上を含めた課題解決に取り組んでいます。お会いする職員の方々の熱量も非常に高く、病院全体から明るい雰囲気を感じます。理事長自身が強いリーダーシップを発揮して、院内の組織風土改革を進めているように見えますが、DX推進に至った背景について教えてください。
神成氏:
私が理事長に就任してから強く感じたのは、病院を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、職員や地域の患者さんのためにも変化に強い組織に生まれ変わらないと生き残れないということでした。そこで、3カ月に1回程度のペースで組織に風を吹かせることを自らに課し、何か新しいことに取り組もうと決めました。その中で、まだ30歳代半ばでマネジメント経験がない私が強みにできるものは何かと考えた時、それがDXでした。
小田原:
ご自身の強みを生かせる取り組みとしてDXを検討されたのですね。DXを推進することで実現したい姿についても教えてください。
神成氏:
大学病院や介護施設に勤務していた頃から感じていた課題が2つあります。1つ目が、医療と介護の双方の連携に関する悩みを解決する「医療と介護の連携モデル」を作りたいということ。2つ目が、共に働く医療従事者に「働きやすい環境」を提供することです。自身の経験では、患者さんに対する介護側の職員の思いが医療側の職員には届いておらず、また、医療従事者は必ずしも楽しそうに働いているように見えない。自分自身がこれらの課題に真剣に対峙することで解決したいというのが、私の中でのモチベーションになっています。そのようなことを考えていた頃、施設が老朽化しており、経営が赤字の中でも移転しなければならないという状況にあったこうのす共生病院に、理事長として参画することになりました。チャンスでもあり、ピンチでもありましたね。
榎本:
相当な苦労があったのではないでしょうか。
神成氏:
知り合いもいない、管理職経験もない。管理職としての初めての経験が理事長。本当にゼロからのスタートでした。就任後3~4カ月のタイミングで法人の理念をつくり直し、行動指針に落とし込んで、間を置かずに全職員にプレゼンをしました。その後、4カ月程度かけて200人程の職員と個別面談を実施しましたね。労力はかかりましたが、相手の希望を直接理解したうえで自分の思いを伝えていくという重要なプロセスと位置付けていました。
榎本:
やるべきことを実現するためにはデジタル化以前に、組織としての土壌を整えることが大切ですね。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 小田原 正和
小田原:
ICT機器の導入にあたっては、一貫して「共に生きる」というビジョンに合致しているかという点を軸にされていた印象があります。
神成氏:
人を支えたり、助けたりするのが私たちの仕事です。でも、そのために誰かが犠牲になるような環境は作りたくない。主体的に取り組んでいる場合と異なり、人は「やらされている」と思った瞬間にモチベーションが湧かなくなる。誰もが犠牲にならずに社会を支えられるような仕組みを作りたい。その実現の本質は、まず自分たちが幸せにならないと誰かのために優しくなれないということだと思っています。それが「共に生きる」という私たちの理念の根っこになっています。
小田原:
特に、ICT機器の導入により、職員の自己実現を支援することを大切にされていると感じます。
神成氏:
理念を体現するにあたっては、まずは、一番身近な存在である職員の働きやすさ、働きがい、高い給与水準などを実現することが重要だと考えています。振り切った言い方をしますと、当院で働くことで新たな働きがいが見つかり、結果的に当院を卒業することになっても良いわけです。それが職員と「共に生きる」ということではないでしょうか。
次の段階は、患者さんや介護の利用者さんと「共に生きる」ために、医療と介護の連携を向上させてシームレスな関係性をつくり、私たちの医療の質を上げること。そして、地域の方々と「共に生きる」ために、当院の職員が町の中へ出ていき未病の段階から地域と関わることで、治療やケアにとどまらず、人と人をつなぎ、地域と「共に生きる」存在となることに挑戦しています。ICT機器の導入はそのための1つのツールなのです。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 榎本 有祐
小田原:
医療機関のICT化においては、まず導入コストの壁に直面することが多いと感じます。その点は、どのように乗り越えたのでしょうか。
神成氏:
病院経営の観点から投資と利益のバランスは大切です。投資コストの回収期間が短いものを優先的に導入し、次の投資を回していくという進め方を意識していました。例えば、AI問診は導入までのコストや時間はそれほど掛かりません。当時、AI問診の活用が地域で注目され、外来患者数がAI問診導入前よりも週に3人程度多ければ採算が取れる計算でした。逆に、投資コストを要し、かつ、運用変更に伴い結果的に業務負担が増すことで職員が疲弊してしまい、次の投資に進めないと思われるようなものは導入しないようにしています。
必ずしもAI問診の導入効果だけとは言えませんが、現在の外来患者数は導入前の3.5倍程度に増加しています。
榎本:
病院経営の観点から費用対効果が高く、かつ、職員満足度が高いものから順次導入していったということですね。
医療法人社団鴻愛会 理事長 神成 文裕氏(医師)
小田原:
高齢者のデジタル対応の実際の様子についてお伺いします。医療機関は高齢者の受診率が高いこともあり、「高齢者にはICT機器の操作が難しい」という意見によって導入の機運がしぼんでしまうという声をよく耳にします。
神成氏:
実際に高齢の患者さんの「手書きでの問診は可能だけれども、AI問診は無理だ」という声もありました。ところがよくよく話を聞いてみると、ご本人はそもそも手書きであっても問診票に自分で記入はしておらず、付き添いの方や職員が代わりに対応している。今では高齢者の多くがスマートフォンを使用していますし、ご自身で対応ができない人に対してはこれまでと変わらず職員が寄り添えば大丈夫だと思いました。
新氏:
いまやスーパーなどでもセルフレジが浸透してきており、高齢者も当たり前のようにそうしたデジタルツールを使っています。それがなぜ病院ではできないと思ってしまうのか。「高齢者だからデジタルツールを使えない」というのは医療従事者による認知バイアスのようにも思います。
榎本:
私自身も、看護師としての勤務経験があるので、そのような思い込みを抱くことがあると思っています。医療従事者は患者さんに対する優しさがベースにあるため、心配し過ぎて保守的になってしまうことで、高齢者には難しいのではないかと考えてしまうのかもしれません。
黒澤氏:
私たち自身が高齢者はICT機器が苦手であるという先入観を外していくことが必要なことかもしれませんね。
医療法人社団鴻愛会 こうのす共生病院 看護部長 黒澤 晃氏
榎本:
黒澤さんにお伺いします。ICT機器の導入前後において、現場目線で気を付けていたことがあれば教えてください。
黒澤氏:
看護部には20代~60代まで幅広い年齢層の人がいます。そのような環境の中で、導入したいくつかのICT機器を使う人と使わない人がいることが徐々に明白になってきていました。その原因を探るために話を聞いてみたところ、導入目的や意義を理解しているスタッフが少ないことに気付きました。そもそも現場の管理者自身がそれを理解、認識していないと、組織全体には浸透していきません。
榎本:
具体的にはどのような対策を取られたのでしょうか。
黒澤氏:
当院は中途採用が多いのですが、中途入職者向けのオリエンテーションで必ずICT機器の導入目的や使い方を具体的にインプットしてから現場に送り出すようにしました。実際に見せて、使ってもらって、「ICTの活用で効率的に活動したことで捻出できる時間は患者さんへの直接ケアの時間に充てて下さい」と説明する。「体験」してもらい、効果と本来の目的を伝えることを続けていると、中途入職者は確実に使ってくれるようになりましたね。
小田原:
これまでICT機器を敬遠していた年配の看護師も毎日使うようになったと伺いました。何かきっかけがあったのでしょうか。
黒澤氏:
直接指導しながら実際に手に取ってICT機器を使ってもらうようにしたので、おそらく本人の中でも便利だなという気付きがあったのだと思います。「本人が使ってみて」というのが大事です。現場のマネジメントとしては、使い方をきちんと教えて、本人が手ごたえを得た上で現場に出すということが重要なのではないでしょうか。
小田原:
ICT機器の導入意義を伝えることに加え、導入後にも現場任せにしないで、使えるようになるまでフォローすることも大切ですね。
医療法人社団鴻愛会 こうのす共生病院 システム情報管理課 新 純一氏
小田原:
DXの推進は職員一人ひとりにも新しいチャレンジを必要とします。理事長としてどのようなマインドで臨んでいるのでしょうか。
神成氏:
人は変化を好まない生き物で、変化をしないことが安心・安全であるという前提で進めないと難しいかもしれませんね。私自身の経験になりますが、現場の職員に3回以上説明したものの、導入したシステムを使ってもらえなかった時は辛いものがありました。ただ、それくらい相手に変わってもらうことは難しいのです。
小田原:
何かを変えようとしても、往々にして人は元に戻ろうとします。
神成氏:
マネジメントとしては、そういうものだと、覚悟しておくことが大事かもしれません。熱意が強すぎるとその分現場とのギャップが大きくなることが多く「なぜ現場は動いてくれないのか」という思いによって自分がまいってしまうこともある。デジタル技術を活用して、業務そのものや組織、プロセス、文化を変えようとする際には、「人は変わらない生き物である」というマインドで進めることが上手くいくポイントでもあるように思います。DXの推進を通じて、私たちマネジメント側も苦しい経験をしながら成長したと言えますね。
榎本:
期待値を高く置きすぎないことも重要になりますね。新さんに伺います。システム情報管理課の立場で、DXを推進する際に留意していた点があれば教えてください。
新氏:
仕組みそのものを変えること、すなわち「必然をつくる」ということを心がけていました。AI問診と紙の問診の両方の業務プロセスが存在する状態であれば、どうしても従来の紙ベースの業務プロセスに流れてしまい、行動変容が起きにくい。ゆえに、最初から紙の問診業務を全廃し、AI問診の業務プロセスに一本化したのです。
黒澤氏:
仕組みそのものを変えることはとても大事です。新さんは、そこからさらにもう一歩進めようとしてくれていますよね。
新氏:
看護現場における「DXアンバサダー」を育てたいなと思っています。私たちシステム情報管理課は看護業務を行っているわけではないので、完全に相手のことを理解できているわけではない。そのギャップを埋めるために、現場から「システムを使って変えていきたいこと」を提案し発信してもらいたい。それができると、これまで以上のペースで病院の発展が可能になると考えています。
神成氏:
病院DXがさらに進むことで職員にメリットが生まれ、本質的には患者さんや地域のためにもなる。より地域に貢献できるこうのす共生病院にしていきたいですね。私たちも試行錯誤を繰り返してきたので、病院DXに取り組もうとしている医療機関の皆さんのご相談に乗れるかもしれません。ぜひ気軽に声をかけてほしいと思います。
小田原:
本日は示唆に富むお話を聞かせて下さりありがとうございました。
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}