Healthcare Hub 医彩

第24回 健康のファーストチョイスを薬局に――調剤専業チェーンが挑む業界の構造変革

  • 2026-02-05

医師や看護師などの医療従事者、研究者、医療政策に携わるプロフェッショナルを招き、その方のPassionに迫るとともに、目指すべき将来像を探る「医彩」。第24回は、株式会社メディカルユアーズで代表取締役を務める吉田 圭吾氏をお迎えします。代々薬剤師の多かった家に生まれ、「健康のファーストチョイスは薬局だった」という原体験を持つ吉田氏。調剤報酬の改定や業界構造の変化が進む中で、調剤薬局はどのような役割を果たすべきなのか。その問いに向き合い、薬局の変革に取り組んでいらっしゃいます。本稿では吉田氏の原点にある想いから、調剤薬局の課題と可能性、そして目指すべき薬局の未来像について伺いました。(本文敬称略)

(左から)大林 雅樹、吉田 圭吾氏、小原 功嗣

登場者

株式会社メディカルユアーズ
代表取締役/薬剤師
吉田 圭吾氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
大林 雅樹

PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
小原 功嗣

※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。

Passion~ヘルスケアの道を切り拓く情熱~

原点は「町のくすり屋さん」。
処方箋がなくても人が集まる「相談される存在」に

小原:
吉田さんは現在、メディカルユアーズの代表取締役という立場ですが、ご実家も薬局を営まれていると伺っています。薬局業界を目指された理由は、そうしたバックグラウンドが根底にあったのでしょうか。

吉田:
そうですね。私の祖母は薬剤師で、両親も薬剤師、叔母も従兄弟も姉も薬剤師の薬剤師一家で育ちました。ちなみに妻も薬剤師です。

私の幼い頃は、薬局に今のような「調剤専業*1」という業態はほとんど存在していませんでした。ですから、町の人たちは体調が悪くなると、気軽に薬局に相談していました。当時の市中の病院や診療所は今ほど気軽にアクセスできる存在ではありませんでしたから、皆さんは薬局を頼りにしてくださっていたのだと思います。私の原体験では「健康になるためのファーストチョイス」は薬局でした。

株式会社メディカルユアーズ 代表取締役/薬剤師 吉田 圭吾氏

小原:
そうした薬局の原体験をお持ちの吉田さんから見ると、現在の調剤薬局業界はどのように映っていますか。

吉田:
正直に申し上げると、今の調剤薬局業界の形は「いびつ」だと感じています。本来、薬局が担ってきた役割と、現在の制度の中で求められている役割との間に、大きなズレが生じているからです。

「医薬分業」が本格的に始まったのは、1974年頃からです。それ以前は、クリニックが院内で薬を出してその差益を得る構造があったため、「過剰投薬につながっている」という批判がありました。そこで国は、処方箋を病院外に出す仕組みを政策的に誘導し、医薬分業を推進してきたのです。

その結果、クリニックの隣に店舗を構えるいわゆる「門前薬局」が急増し、分業率は8割から9割にまで上昇しました。これにより、薬局側から見れば、特段の経営努力をしなくても成り立つ時代が長く続き、「対物中心のビジネスモデル」が定着していきました。

ただ、その一方で、薬局の役割は次第に限定され、「処方薬を受け取る場所」という位置付けが固定化しました。私はこの点に、構造的な歪みを感じています。

本来、薬局は「かかりつけ」として患者さんの健康情報を一元的に把握し、医療費抑制にも貢献する存在であるべきでした。しかし現実には、かかりつけ薬剤師制度は十分に機能せず、薬価差に依存した経営が続いてきました。国から見れば、在るべき姿から遠く離れてしまっています。これが、「いびつ」だと感じる理由です。

大林:
そうした構造的な課題がある中で、吉田さんは調剤薬局業務をより良くしようと取り組まれています。その中で「これは大きなハードルだ」と感じていることは何ですか。

吉田:
一番大きなハードルは、薬局が「相談される存在」になれていないことだと思っています。

私が育った頃の薬局は、処方箋がなくても自然に人が集まる場所でした。前述したように、体調に不安を感じたらまず薬局に行って話をする。そうした関係性が地域の中にありました。しかし今は、処方箋がなければ薬局には行きませんよね。ここに現場として強いもどかしさを感じています。

もう一つのハードルは、時間の問題です。本来、薬剤師は患者さん一人ひとりと向き合い、生活背景まで含めて支援できる存在だと思っています。ただ現実には、調剤や監査、在庫管理といった薬というモノを中心とした対物業務に多くの時間を取られ、対人業務に十分な時間を割けないケースが少なくありません。

さらに、薬局が実際に担っている役割が、社会に正しく伝わっていないことも大きなハードルです。在宅医療への対応や24時間対応など従来と比べてできることが増えていても、「薬局は薬をもらう場所」というイメージが強く、それ以上の役割がなかなか認識されていない。そうしたギャップも、改善を進める上での難しさだと感じています。

今はOTC*2で、かつて画期的と言われた胃薬なども手に入る時代です。だからこそ体調に不安を感じたとき、いきなりクリニックに行くのではなく、まず薬局に相談する。その流れを取り戻したいと考えています。処方箋を「通行手形」にするのではなく、日常的に健康相談のできる場所として薬局を位置付けたい。それが、私の原点にある薬局の姿であり、今の私を突き動かしている思いです。

Transformation~変革へのあくなき挑戦~

ドラッグストアは敵ではない。
「対人」に立ち返る薬局改革

小原:
薬局が「相談される存在」になれていない一方で、食品や日常雑貨も取り扱う、いわゆるドラッグストアが調剤を併設し、その店舗数を拡大しています。こうした動きを吉田さんはどのようにご覧になっていますか。

吉田:
少し意外に思われるかもしれませんが、実はドラッグストアこそが本来の薬局の姿に近いのではないかと感じています。物販があり、調剤があり、気軽に健康相談ができる。私が育った町の薬局もまさにそういう場所でした。もっとも、調剤専業を経営している立場で言うと、矛盾して聞こえるかもしれませんね。

小原:
そこはとても気になるところです。

吉田:
私は「ドラッグストア対調剤専業」という対立の構図で考えるべきではないと思っています。大切なのはどちらが勝つかではなく、両者の強みをどう融合できるかを考えることです。

とはいえ、現実の競争環境は決して甘くありません。調剤専業薬局がクリニックの隣に「点」として店を構えているのに対し、ドラッグストアは駅前やロードサイドに戦略的に出店して、人々の生活動線の中で「面」として商圏を押さえています。物販では仕入れにかかる消費税を還付できるため、収益面でも有利です。さらに、資本力やM&Aの面でも優位性を持っています。調剤専業が同じ土俵で競争するのは、現実的ではありません。

しかし、そうした状況の中で一つ明確に言えることがあります。それは「医療依存度の高い在宅療養の領域では、調剤専業の方が圧倒的に強い」ということです。抗がん剤の処方や、寝たきりの患者さんへの対応など、高度な専門性と継続的な関与の求められる在宅医療は、ドラッグストアではその経験値が足りず、簡単には担えません。

他方で、現在のサービス付き高齢者向け住宅などの施設在宅では、本来は在宅医療を必要としない軽症の方がサービスを受けているケースもみられます。このような場合、今後の報酬改定次第では報酬の算定が厳しくなる可能性があります。だからこそ、その中で医療依存度の高い方をいかに継続的に支えるか。ここが、調剤専業が本来の価値を発揮できる勝負どころだと考えています。

小原:
吉田さんは、「医薬連携」「地域密着」「在宅医療」「医療費抑制」「調剤業務自動化」という5つのテーマをご自身の達成したいビジョンとして掲げていますよね。お話を伺っていると、地域密着で患者さんに寄り添う調剤薬局を追究されていることを感じます。

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 小原 功嗣

吉田:
ありがとうございます。目指していることの1つが「外来から入院、在宅までを一貫して支える薬局」です。

現実には、外来で長く関わってきた患者さんが入院し、退院後に在宅へ移行すると、そこからはまた別の薬局が担当するケースが少なくありません。病院の地域連携室を通じて、そこにひも付いた薬局が在宅を担うからです。これは地域包括ケアシステムの中で、薬局が十分な存在感を示せてこなかったということであり、忸怩(じくじ)たる思いがあり、反省もあります。

現在、在宅医療は訪問看護師やケアマネジャーが中心です。しかし、薬の管理を起点に、医療と生活の両方に継続して関わることのできる立場にあるのは薬剤師です。だからこそ、今後は薬剤師も、医療と生活をつなぐ中心的なプレイヤーになっていく必要があると考えています。

小原:
そうした目指す姿を実現するため、具体的にどのような取り組みをされていますか。

吉田:
大きく2つあります。1つには、私たちグループの調剤専業薬局チェーンである薬樹をはじめとして、外来処方箋、在宅、栄養という「複合モデル」を構築すること、もう1つは「医療DXの推進」です。

まず複合モデルですが、薬樹では「まちの皆さまと共に健康な毎日をつくり笑顔とありがとうの輪を広げる」というコンセプトを掲げ、「薬×栄養×運動」をキーワードに取り組んでいます。薬剤師による調剤・服薬指導に加え、管理栄養士による栄養相談や生活改善のサポートを組み合わせることで、患者さんを多面的・包括的に支える体制を作っています。単に薬を渡すのではなく、「どうすればこの人がよりよく生活できるか」を一緒に考えるのです。

薬樹では15年以上前から管理栄養士の新卒採用を続けてきました。在宅医療に注力している薬局であれば、その対応を通じて、管理栄養士も自然に患者さんにリーチできます。こうした複合的なアプローチによって、地域包括ケアシステムの中心的存在としての価値を確立する。そこに調剤専業チェーンが生き残るための核心があると考えています。

大林:
医療DXの観点では、「ロボット調剤」を推進していると伺いました。

吉田:
はい。前述のとおり、現場では薬剤師が対物業務に追われ、患者さんと向き合う時間である対人業務が十分に取れないという課題があります。そこで、こうした課題を解決するために、メディカルユアーズではAI搭載型調剤ロボットを導入しています。

具体的には全自動調剤システムを導入し、処方箋受領後のピッキング、監査、払い出しまでの一連のプロセスを自動化しています。在庫管理や納品作業もロボットが担うため、薬剤師は調剤室に縛られることなく、対人業務に集中できるようになります。

すでに導入効果も出ています。AI搭載型調剤ロボットを導入した店舗では、薬剤師1人当たり1時間に6枚超の処方箋を処理でき、患者さんの待ち時間はほとんどが5分、長くても10分程度です。一般的な薬局では10分から15分、病院前薬局では30分待つことも珍しくありませんから、患者さんの体験としても大きな改善だと感じています。

対物業務を徹底的に効率化し、そこで生まれた時間を在宅や服薬フォローアップといった対人業務に振り向ける。これが、私たちの考える「医療DX」です。

Future~共創の先に広がる未来~

薬局の価値を社会に届けるために。
「真面目にやる」薬局が価値を発揮できる制度整備や意識変革を

小原:
最後に今後の展望と目指す未来像について伺います。お話を伺って、吉田さんが目指す薬局を実現するには、行政や業界を巻き込んだ取り組みが必要になると感じました。吉田さんからご覧になって、行政や業界に求められることは何だとお考えですか。

吉田:
行政に対してお願いしたいのは、「真面目にやっている薬局がきちんと報われる制度にしてほしい」という点です。

例えば2024年度の診療報酬改定では、賃上げを目的に調剤基本料が引き上げられました。一方で、国が薬局に求める高度な機能を体現する地域支援体制加算は大きく引き下げられています。その結果、要件を満たすために努力してきた薬局ほど、かえって減収になってしまいました。これでは、どこを目指して頑張ればよいのか分からなくなってしまいます。

また、管理栄養士の活用についても課題があります。薬局に所属する管理栄養士は、在宅で医療を受けている患者さんへの栄養指導に最もリーチしやすい立場にありますが、現行制度では十分に評価されていません。ここはぜひ、制度として後押しをお願いしたいところです。

さらに大きな視点で言えば、医療費をどう抑制していくのかという議論の中で、薬局の役割を正当に評価する仕組みができてほしいです。部分的に点数を削るのではなく、抜本的な視点で制度設計を考えていただきたいと思っています。

大林:
民間企業に対してはいかがでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 大林 雅樹

吉田:
ドラッグストアを経営されている大手企業には、薬局は「医療提供施設」であるという点を意識していただきたいです。

利益や数字が重要なのは当然です。ただ、薬剤師は医療人であり、薬局は法律上も医療提供施設と位置付けられています。薬局を名乗る以上、その責任を踏まえた経営が求められるはずです。ドラッグストアに併設されている調剤は、夕方6時になると薬局部門が閉じられる店舗がありますよね。しかし薬局とうたっているのであれば、薬剤師が必ずいて、第一類医薬品が買える状態でないとおかしいと思っています。

大林:
薬局を利用する薬局の利用者に望むこと、またPwCコンサルティングのようなコンサルティング会社に期待することはありますかはありますか。

吉田:
利用者に望むというよりも、薬局業界の反省ですが、薬局の役割がきちんと伝わっていないことを痛感しています。先述のとおり、施設基準を取得している薬局では24時間対応が求められます。薬樹の場合、夜中に「処方箋の期限が切れそうだが、どうしても薬が必要」という連絡があれば、出動体制を整えタクシーなどを利用して駆け付けて対応しています。ただし、こうした取り組みはほとんど知られていません。そうなると、かかりつけ薬局を選ぶ基準は「待ち時間の短さ」だけになってしまうわけです。

これは薬局側の発信不足でもあります。地味な取り組みかもしれませんが、「実はこういう役割を担っている」ということを、もっと丁寧に伝えていく必要があると感じています。

そのような課題に加えて、調剤専業チェーンは薬局の現場には詳しくても、医療や薬局業界を取り巻く税制やM&A、経営戦略といった分野では十分な知見を有していないケースが少なくありません。そうした部分に対し、PwCのようなコンサルティング会社には、「業界外からの視点」でアドバイスをしていただけると非常に心強いと考えます。

また、現在の薬局業界は、経営の舵取りが非常に難しい局面にあります。対人業務をどこまで伸ばすのか、効率化をどこまで進めるのか、そして政策動向をどう読み解くのか……。そうした点について、一緒に知恵を出し合いながら考えていけたらと思います。

大林:
薬局の原点から変革の方向性、そしてPwCへの期待まで、幅広くお話を伺うことができました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

*1 医師の処方箋に基づく医療用医薬品の調剤・販売を専門に行う薬局を指す。これらの薬局は、単なる調剤機能にとどまらず、服薬指導や健康相談を通じて患者の生活習慣や治療継続を支援する地域包括ケアの要として位置付けられており、厚生労働省の推進する「かかりつけ薬局」や「健康サポート薬局」制度においても、国民の健康維持・医療費適正化に貢献する重要な役割を担う(参考:厚生労働省、有識者検討会報告書、日本薬剤師会ガイドライン)

*2 Over The Counter:医師の処方箋がなくても薬局やドラッグストアで薬剤師・登録販売者から購入できる一般用医薬品

執筆者

小原 功嗣

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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