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令和4年版「犯罪収益移転危険度調査書」(以下、調査書)が2022年12月1日に発表されました。この調査書は、警察庁が犯罪収益移転防止法に基づき、犯罪の動向やリスクの高い取引などを規定して毎年公表しているものです。また、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)が2021年8月に日本に対する第4次相互審査の結果を公表したことを受け、その指摘に対応すべく改訂が進められました。本稿では、どのような改正がなされたか、変更ポイントについて解説します。
【犯罪収益移転危険度調査書とは】 犯罪収益移転危険度調査書とは、事業者が行う取引の種別ごとに、マネー・ローンダリングなどに悪用されるリスクを、日本の視点から、警察庁/国家公安委員会が中心となって評価した結果をまとめた資料です。 |
令和4年版の調査書の構成は令和3年版から大きく変わっておらず、骨子は同様です。マネー・ローンダリング/テロ資金供与防止(AML/CFT)に関する前提犯罪は令和3年版と同様に8種類が規定されており、高リスク類型として取り上げられている取引形態、国・地域、顧客属性、商品・サービスについても新たに追加されたものはありません。ただし、FATF第4次相互審査にて指摘された事項や相互審査結果公表後に日本政府から発表された「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」(以下、行動計画)に沿った改訂が随所に見られます。
【図表1:調査書の目次と主な記載事項および変更点】
| 項目 | 主な記載事項 | 変更点 | ||
| はじめに | 経緯・目的 | 経緯・目的、調査・分析結果の概要 | ||
| 1 | 危険度調査の方法 | ガイダンス、本危険度調査 | リスク要素、評価プロセス、調査に用いた情報 | |
| 2 | 我が国の環境 | 地理的環境 | 北東アジア地域にある島国 | |
| 社会的環境 | 人口減少、高齢化 | |||
| 経済的環境 | 世界3位の経済規模、国際金融センター | |||
| 犯罪情勢等 | サイバー犯罪の増加、テロの脅威の継続 | 記載内容を一部修正 | ||
| 3 | マネー・ローンダリング事犯等の分析 | 主体 | 暴力団・特殊詐欺の犯行グループ・来日外国人犯罪グループ | |
| 手口 | 前提犯罪(窃盗・詐欺・薬物犯罪等8種類を列挙) | 前回に入管法違反を追加して計8種類、今回は追加なし。コラム追加 | ||
| 疑わしい取引の届出 | 業態別の届出受理件数、捜査等に活用された情報数 | コラム追加 | ||
| 4 | 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度 |
取引形態 | 非対面取引・現金取引・外国との取引 | 高リスク類型変化なし、犯罪手口刷新 |
| 国・地域 | イラン・北朝鮮 | 高リスク類型に変化なし | ||
| 顧客属性 | 反社会的勢力・国際テロリスト・非居住者・PEPs・実質的支配者が不透明な法人 | 高リスク類型に変化なし、コラム追加等あり | ||
| 5 | 商品・サービスの危険度 | 危険性の認められる主な商品・サービス | 1預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス、2保険会社等が取り扱う保険、3金融商品取引業者等及び商品先物取引業者が取り扱う投資、4信託会社等が取り扱う信託など、特定事業者が取り扱う商品・サービス16類型 | 高リスク類型16類型に変化なし コラムの追加あり |
| 6 | 危険度の低い取引 | 危険度を低下させる要因取引 | 資金の原資が明らかな取引・国又は地方公共団体を顧客等とする取引等 | |
| 今後の取組 | - | 所管行政庁・特定事業者の今後の取組 | 2022年6月に策定した基本方針に言及 | |
※網掛けは留意すべき変更があった項目。
(出典)警察庁「犯罪収益移転危険度調査書(令和4年)概要版」(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk_gaiyou2022.pdf)をもとにPwC作成
今回の変更のポイントとFATF指摘や行動計画との関係は図表2のとおりです。「法人の制度上の脆弱性等のリスク」「NPOを所管する行政庁によるリスク評価結果等」などの記載は「行動計画」に掲げた課題への対応であり、その他の改訂もFATFの指摘、行動計画を意識しているとみられます。
【図表2:主な改訂箇所・内容と根拠となったFATF指摘・行動計画など】
| 改訂箇所 | 改訂内容 | 根拠となるFATF指摘・行動計画など |
| 第2 我が国の環境 | ||
| 4 犯罪情勢等 | サイバー犯罪の脅威に関する記載充実 | FATF指摘/リスク評価、連携、政策策定(IO.3;R.14, 26-28,34,35)
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| 第3 マネー・ローンダリング事犯等の分析 | ||
| 2 手口 | [コラム]環境犯罪に関連するマネー・ローンダリング/FATFレポートや国内事例等を記載 | FATF指摘/リスク評価、連携、政策策定(IO.1:R.1, 2,33,34)
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| 3 疑わしい取引の届出 | [コラム]疑わしい取引の届出を端緒として検挙した事件例/警察以外の捜査機関等からの情報を記載 | FATF指摘/リスク評価、連携、政策策定(IO.3;R.14, 26-28,34,35)
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| 第4 取引形態、国・地域及び顧客属性の危険度 | ||
| 1 取引形態と危険度 | 外国との取引が悪用された手口等を整理・更新 (地下銀行事犯の詳述、送金先(元)の国別の疑わしい取引届出件数追加) |
FATF指摘/リスク評価、連携、政策策定(IO.3;R.14, 26-28,34,35)
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| 3 顧客の属性と危険度 | 法人の制度上の脆弱性等のリスクを記載 (低コストで法人を設立できる点、実質的支配者リスト制度等の制度面の手当て等を追記) |
FATF指摘/透明性と実質的支配者(IO.5;R.24,25)
FATF指摘/優先して取り組むべき行動
行動計画/4.法人、信託の悪用防止(1)法人・信託の悪用防止(リスク評価) |
[コラム]非営利団体 のテロ資金供与への悪用リスク NPOを所管する行政庁によるリスク評価結果等を記載 |
FATF指摘/テロ資金供与と拡散金融(第4章;IO.9,10,11;R.1,4,5-8,30,31,39)
行動計画/6.資産凍結およびNPO (5)NPOのリスク評価とモニタリング、(6)NPOへの周知 |
|
| 第5 商品・サービスの危険度 | ||
| 1 危険性の認められる主な商品・サービス | 所管行政庁の新たなリスク認識を記載 | FATF指摘/リスク評価、連携、政策策定(IO.3;R.14, 26-28,34,35)
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| [コラム]銀行等による取引モニタリング等の共同化 | 行動計画 2.金融機関及び暗号資産交換業者によるAML/CFT対策及び監督 (4)取引モニタリングの共同システムの実用化 資金決済法改正(2022年6月)/為替取引分析業創設 |
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[コラム]暗号資産をめぐる国際的動向等について FATFレポート等から国際情勢を記載 |
FATF指摘・リスク評価、連携、政策策定(IO.1:R.1, 2,33,34)
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| [コラム]電子決済手段等(ステーブルコイン等)及び高額電子移転可能型前払式支払手段への対応 | 資金決済法改正(2022年6月)
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(出典)警察庁「犯罪収益移転危険度調査書(令和4年)」、FATF「Mutual Evaluation Report/Japan」、財務省「対日相互審査報告書の概要」、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」をもとにPwC作成
金融機関等に関して言えば、今回は抜本的な改訂はなされていません。各社が策定している特定事業者作成書面(リスク評価書)に令和3年版までの調査書の内容がすでに反映されているのであれば、大きな変更は必要ないとみられます。ただし、国・地域の危険度の評価に関しては留意すべき点があります。
FATFは、マネー・ローンダリング等への対策に欠陥があり、当該欠陥への対応に顕著な進展がみられない、または欠陥に対処するために策定したアクションプランに沿った取り組みがみられない国・地域を特定しています。その上で、FATF声明により、当該欠陥に関連する危険に留意してマネー・ローンダリング等への対策を講ずるよう、加盟国に要請しています。令和4年版の調査書が基準とする2022年6月末時点のFATF声明は、そうした行動要請対象の高リスク国・地域として北朝鮮とイランを指定しており、調査書においてもこの2カ国は危険度が高いと評されています。これに加えて、調査書の基準日以降となる2022年10月には、「行動要請対象の高リスク国・地域」にミャンマーが加えられました。北朝鮮・イランのように「対応措置が要請される国・地域」ではありませんが、FATFから「リスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が要請される国・地域」と評されており、ミャンマーの危険度は相当に高いと見なして対処する必要があるでしょう。
ここまで見てきたように、調査書は、令和3年版と同様、FATF第4次相互審査にて指摘された事項や行動計画に沿って改訂が随所に実施されています。このほか、2022年の臨時国会では刑事司法分野を中心としたFATF勧告対応法案(国際テロリスト財産凍結法等6法令の改正案)が臨時国会に提出され、12月に可決、公布されています。FATFから評価されるかは判然としませんが、政府としての残課題への対策は着々と進められていると言えます。こうしたなかでは、行動計画において2024年3月に期限が設けられている金融機関等のAML/CFT態勢の整備がより注目されており、態勢整備に向けた指導も一段と強まるとみられます。
調査書の継続的な見直しは重要ですが、さらに、調査書を反映・活用したリスク評価や対策の実践が強く求められると考えられます。金融機関等には、態勢整備の期限を意識して、従来よりも一歩踏み込んで対応することが求められそうです。
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