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令和3年版「犯罪収益移転危険度調査書」(以下、調査書)が2021年12月16日に発表されました。本調査書は、犯罪収益移転防止法に基づき、警察庁が犯罪の動向やリスクの高い取引などを規定し、毎年公表している資料です。今回の調査書はFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)による日本に対する第4次相互審査の結果公表後、その結果を受けて初めて公表されたものとして注目されます。今回は、FATFの指摘を受けて調査書にどのような改正がなされたか、変更ポイントについて解説します。
犯罪収益移転危険度調査書とは、事業者が行う取引などの種別ごとに、マネー・ローンダリングなどに悪用されるリスクを、日本の視点から警察庁/国家公安委員会が中心となって評価した結果をまとめた資料です。
日本では、FATFの新「40の勧告」およびG8行動計画原則において、「自国における資金洗浄及びテロ資金供与のリスクを特定、評価する」ことや「各国がリスク評価を実施し、自国の資金洗浄・テロ資金供与対策を取り巻くリスクに見合った措置を講じる」こと(リスクベース・アプローチ)が要請されたことを踏まえ、2014年12月、「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」が公表されました。その後、2014年の犯罪収益移転防止法の改正により新設された犯罪収益移転防止法の規定に基づき(※1)、2015年以降は調査書が毎年作成、公表されています(※2)。
※1.リスクベース・アプローチの適用はFATF勧告全体を貫く基本方針であり、その出発点として、国がリスクを特定・評価および把握することが求められています。日本においては、2014年の犯罪収益移転防止法によってリスクベース・アプローチの考え方が取り入れられました。同法の第3条第3では、「国家公安委員会は、毎年、犯罪による収益の移転に係る手口その他の犯罪による収益の移転の状況に関する調査及び分析を行った上で、特定事業者その他の事業者が行う取引の種別ごとに、当該取引による犯罪による収益の移転の危険性の程度その他の当該調査及び分析の結果を記載した犯罪収益移転危険度調査書を作成し、これを公表するものとする」と規定されています。
※2.日本の調査書と同様の資料は、各国で「国のリスク評価書」(NRA)として策定されており、その一部がFATFのホームページで公開されています。
令和3年版の調査書の構成は令和2年版と大きく変わっておらず、強いて言うならば「今後の取組」が新たに章立てされた点が修正点です。内容については図表1に示した目次の太字部分が改正されています。取引形態、国・地域、顧客属性、商品・サービスでリスクが高いとして新たに追加されたものはありません。
出典:「犯罪収益移転危険度調査書(令和3年)概要版」(警察庁) (https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk_gaiyou2021.pdf)をもとにPwC作成
日本に対するFATF第4次相互審査結果公表後に、政府から行動計画が発表され、その中には「国のリスク評価書の刷新」※が盛り込まれていました。こうしたことから、構成も含めた大幅な変更がなされると想定されている方も多かったのではないかと思います。たしかに、今回は抜本的変更とは言えませんが、FATFの要請に対する更新が随所になされていることが確認できます。
※行動計画では「マネロン、テロ資金供与及び拡散金融に対する理解を向上させるため、リスク評価手法の改善等によって、国のリスク評価書である犯罪収益移転危険度調査書を刷新する。(期限令和3年末)」とされています。
2021年8月30日に公表されたFATFの対日相互審査報告書では、エグゼクティブサマリーの発見事項や有効性審査の項目IO.1「リスクの認識・評価」などにおいて、日本のリスクやリスク評価書(NRA)に関してさまざまな指摘・見解がみられます。主なものを以下にまとめ、特に注目される点を太字にしました。
I.AML/CFTの国内方針および活動の設定に責任を有する合同機関を指定する。
II.2020年以降の国のAML/CFT政策、目的、活動を明確に示す。
III.調整機関に指導的役割、業務を推進する権限資源を与え、目的および活動を明確に定義する。
IV.NRAで特定されたリスクに従って、AML/CFTシステム全体に資金が配分されることを確保する。
FATF指摘への対応状況は以下のとおりです(太字は特に重要な改正への対応)。今回の調査書への変更点とFATF指摘は概ね符合しており、全般的に指摘への対応がなされていることが見受けられます。特に、FATF指摘でも言及されていた事例・図表の充実などが調査書全般に反映されており、国全体のリスクの特定・理解を進めるために判りやすさの追求がされているように見られます。
今回の調査書改正はFATF相互審査結果対応という側面が強いと言えるでしょう。大幅な改正はされておらず、過去からの評価の連続性が意識されていたほか、関連するFATFの審査項目IO.1「リスクの認識・評価」が「Substantial Effectiveness(十分な有効性)」、40の勧告の項目1「リスクベース・アプローチ」が「Largely Compliant(概ね準拠)」と合格水準であったことなどがその背景にあると考えられます。
FATFがリスク評価書に求めるものは、事実に即したリスクの適切な分析とそれに応じたリスク評価であり、日本は概ね対応できていたと考えられます。ただし、より説得力のある形での提示や詳述な解説を提供するだけでは、当局や民間の理解を深める点では十分とは言えず、今回の調査書ではそうした課題に対処したと言えます。民間事業者の予防措置の実施状況を評価するIO.4では「リスクの理解が十分ではない」旨の指摘が多々見られ、こうした課題に対応したとも言えるでしょう。
このような中で、民間事業者には、どのような対応が求められるでしょうか。この点を考察する際の資料として、示唆に富んでいるのが、金融庁制定の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の「Ⅱ-2 リスクの特定・評価・低減(1)リスクの特定」の部分です。
※「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(金融庁) (https://www.fsa.go.jp/common/law/amlcft/2021_amlcft_guidelines.pdf)より抜粋
概して言えば、民間事業者がリスク評価書を作成する際には、自らの固有リスクを念頭にリスク分析することや、定量的に分析することが求められています。こうした民間への要請事項と同様の対応がFATFから国に求められ、これに対応したのが今回の調査書と考えられます。調査書の項目自体は大きく変わらなかったとはいえ、内容のブラッシュアップの手法は、民間事業者がリスク評価書を作成、見直しをする際に大いに参考になるものと考えられます。
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