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2026年5月19日、金融庁により「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公布およびこれに関するパブリックコメントの結果が公表されました1。
今般の改正点は主に①電子決済手段となる外国発行の信託受益権(以下、「外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)」)の範囲の拡大および②有価証券と見なさない外国発行の信託受益権の範囲の拡大の2点と説明されているものの、これらの制度改正に伴い必要となる対応が金融庁の公表内容から直ちに明らかになるわけではありません。そこで、これらの変更が事業者にどのような影響を及ぼすのかを確認した上で、今後の対応の方向性を整理しておくことが有益と思われます。
今般の制度改正の背景事情として、外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)が資金決済法上の「電子決済手段」2ではなく金融商品取引法上の「有価証券」(信託受益権)3と評価される可能性があり、事業者による決済手段としての国内での取り扱いが認められるかどうか不明確であったということが挙げられています4。
上記の事情を踏まえて、外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)のうち、その前提となる法制度に日本の電子決済手段関連の法制度との同等性が確保されたものを資金決済法上の「電子決済手段」として規定し、金融商品取引法上の「有価証券」から除外すること5により、事業者による国内での決済手段としての取り扱いが可能であることを明確にするための制度改正を行った旨が述べられています6。
具体的には、外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)が4号電子決済手段として適格となるための要件(適格要件)として、①発行者のライセンス・監督要件、②準備資産の管理・監査要件、③犯罪対応に関する態勢整備要件、④信託財産およびステーブルコインの通貨建ての同一性要件の4点が定められています。このうち、①~③については電子決済手段等取引業者が信託受益権に該当しない外国発行ステーブルコインを取り扱う場合にも既に適用されてきた要件であり7、④のみが信託受益権型に固有の要件となっています。
外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)が4号電子決済手段としての適格要件のいずれかを充足しない場合、日本においては金融商品の一類型である信託受益権として位置づけられ、これを取り扱う事業者には金融商品に係る規制が適用されることになるものと考えられます。
本稿で取り扱う規制要件はいずれも流通規制の一環として導入されているものであり、直接的には外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)を取り扱う電子決済手段等取引業者に向けられた要件と言えます。したがって、これら要件の充足状況を示す責任は、電子決済手段等取引業者が負うことになります。もっとも、当該要件は外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)の発行者に関する事情に及ぶものであることから、発行者が情報提供に協力することを求められる場面も当然あるものと想定されます。
適格要件の1点目は、発行者のライセンス・監督要件です8。
まず、国内関連法令(資金決済法や銀行法)と同等と認められる外国の法令に基づき、資金決済法上の登録9や銀行法上の免許10と同等の登録・免許を受けているかについて、資金決済法上の届出11を行うことにより、ステーブルコイン(信託受益権型)を発行することを業として行う者が発行した信託受益権であることが求められています。したがって、まずは登録・免許・届出に関する法令が国内関連法令と同等であることを示すための情報整理が必要となると考えられます。そして、これに該当する対応の例として、外国法令の日本語訳の作成や内容分析、国内規制との対応関係の整理を挙げることができます。
また、外国の法令に基づき、当該国の行政機関等(監督当局)による監督がなされていることや、当該監督当局が監督に関する報告または資料を金融庁長官に提供可能であることが求められており、これらの点を明らかにする資料の作成も必要となると考えられます。
適格要件の2点目は、準備資産の管理・監査要件です12。
まず、国内関連法令(資金決済法、銀行法、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律、信託業法)と同等と認められる外国の法令の規定に基づいて、ステーブルコインを償還するために必要な資産(準備資産)を管理することが求められています。したがって、準備資産の管理に関する法令が国内関連法令と同等であることを示すための情報整理が必要となると考えられます。その上で、当該外国法令に基づく準備資産の管理要件に従った管理態勢を十分に取っていることを示す必要もあります。
また、準備資産の管理の状況については、ステーブルコイン(信託受益権型)の発行が行われた国において公認会計士または監査法人に相当する者により監査がなされることが求められており、準備資産の管理状況に関する監査の履行状況を整理しておくことも必要となります。
適格要件の3点目は、犯罪対応に関する態勢整備要件です13。
これは、捜査機関等から当該受益権に係る取引が詐欺等の犯罪行為に利用された旨の情報の提供がなされた等の事情を勘案して犯罪行為が行われた疑いがあると認める場合に、発行者が当該ステーブルコイン(信託受益権型)に係る取引の停止等を行う措置を講ずる態勢をとっていることを要求するものです。したがって、この点を充足することに関する情報整理が必要となると考えられます。そして、これに該当する対応の例として、関連する規程類の内容整理や日本語訳の作成、オペレーションの整理を挙げることができます。
適格要件の4点目は、信託財産およびステーブルコインの通貨建ての同一性要件です14。
これは、信託財産とステーブルコインの通貨建てが同一であること(例えばステーブルコインの基礎となる信託財産を米ドル建てで構成した上で、当該ステーブルコインを米ドル建てで発行すること)を要求するものです。したがって要件確認の際には、この点を充足することを示す資料の日本語訳の作成等が必要となります。
これまでも金融庁は金融規制領域の外国法令と国内法令との同等性について個別に評価を行ってきており、外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)に関する規制についても同様と言えます。もっとも、同等性評価を取り巻く主体はこれに限られるものではなく、その他の主体により同等性評価が進められる場合があります。
まず、日本において流通実績のない外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)を新たに取り扱おうとする事業者(電子決済手段等取引業者)が独自に情報の調査や分析を行った上で、当局に対して同等性を認定するよう働きかけるということが想定されます。
また、国際組織が各法域における規制要件の導入状況や監督の実施状況についてのレビューを行う場合があります。ステーブルコイン規制についても、金融安定理事会(Financial Stability Board、以下、「FSB」)15や証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions、以下、「IOSCO」)16が報告書を公表しています。これらの報告書における対象法域や論点は必ずしも網羅的ではないことが通例であり、常に最新の状況が反映されているとも限りませんが、国際組織によるレビュー結果も法域間の同等性を判断する際に一定程度参考になるものと考えられます。
さらに、証拠金規制のように、業界団体により複数法域の規制に関する同等性評価を支援する取り組みが行われる場合があります。例えば、国際スワップ・デリバティブ協会(International Swaps and Derivatives Association、以下、「ISDA」)が複数法域におけるデリバティブ規制の同等性をリスクベースで評価・認定するための枠組みを提案し、G20諸国の代表的なデリバティブ規制の枠組みを分析する文書を公表しているのがこれに該当します17。現時点においてステーブルコインの領域で同様の取り組みが本格化する動きは見られませんが、仮に今後このような取り組みがなされた場合、法域間の同等性の判断を促進する可能性があります。
同等性評価に際しては、問題となる国内規制と対応する外国規制を特定した上で、それぞれの規制上の要件を比較することが出発点となります。
その際、厳密には同一の規制要件が導入されているとは言い難い場合であっても、外国規制の実施水準(監督の実効性を含む)が国内規制のそれと「同等」と認められるべきということについては、実質的なリスク評価の観点から十分な根拠をもって示すことが重要と考えられます。
そもそも、日本語を法制執務上の作業言語として採用している法域が他に存在していないため、評価の際には翻訳が原則として必要です。その場合には翻訳対象となる文言(例えば”as a business”や”by way of business”)と、翻訳を経た文言(例えば「業として」)の指示範囲にわずかな差異が生じることは避けられないと考えられます。
また、文言の翻訳を必ずしも要しないと考えられる場合(例えば、金額や割合に関する閾値など)でさえ、国内規制上の要件との比較に際しては状況を踏まえた意味の捉え直しが不可避である(例えば、金額に関する閾値が固定額で定められており、為替相場の変動を踏まえて日本円に換算される結果、国内規制上の閾値と常に一致する水準とはなり得ない)という事情もあります。
さらに、単に規制上の文言を比較するのみでは、同等性評価を得る上で十分でない場合があり得ることにも注意を要します。それは、多くの法域において規制上の文言は可能な限り一義的に用いられるよう留意されており、そこから比較的明確な意味を読み取ることができる場合が多いと思われるものの、最終的には規制の目的や他の規制要件との関係を踏まえた上でその意味を明らかにすることが求められる場合も少なくないからです。これを充足するためには、例えば監督当局が発出する文書や裁判所による判例において示された解釈を確認することの他、問題となり得る文言について法律意見書を取得することが考えられます。
以上のように、外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)を国内で流通させるためには、一定の要件を充足する必要があります。取り扱いを目指す電子決済手段等取引業者は、今後の当局における監督実務の動向を注視することが重要と考えられます。
1 金融庁「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果等について」(令和8年5月19日)
https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260519/20260519.html
なお、本件に係る内閣府令は同日公布されており、本件に係る事務ガイドラインと併せて、令和8年(2026年)6月1日から既に施行・適用されています。
2 資金決済法2条5項
3 金融商品取引法2条2項2号
4 金融庁「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果等について(令和8年5月19日)I 本改正全体 #1金融庁の考え方
5 有価証券とみなさなくても公益等のため支障を生ずることがないと認められるもの(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令4条の2)の範囲に外国発行ステーブルコイン(信託受益権型)が含められることになりました。
6 注4参照
7 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令30条1項5号
8 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令2条3項1号イ
9 資金決済法37条
10 銀行法4条1項
11 資金決済法37条の2第3項
12 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令2条3項1号ロ
13 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令2条3項1号ハ
14 電子決済手段等取引業者に関する内閣府令2条3項1号ニ
15 FSB, Thematic Review on FSB Global Regulatory Framework for Crypto-asset Activities, 2025.
https://www.fsb.org/uploads/P161025-1.pdf
16 IOSCO, Thematic Review Assessing the Implementation of IOSCO Recommendations for Crypto and Digital Asset Markets, 2025.
https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD801.pdf
17 ISDA, Cross-Border Harmonization of Derivatives Regulatory Regimes: Risk-based Framework for Substituted Compliance via Cross-border Principles, 2017.
https://www.isda.org/a/DGiDE/isda-cross-border-harmonization-final2.pdf
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