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2025年7月18日に米国でGuiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act(以下、GENIUS法)が成立したことを受けて、ステーブルコインを始めとしたデジタル通貨の普及に向けた企業の取り組みが世界的に活性化しています。日本国内では、2025年8月に金融庁が日本初の日本円建てのステーブルコインの発行を承認したこと、また大手金融機関によるステーブルコインの流通などに関する共同研究やトークン化預金の取り扱い検討についての公表が相次いでおり、デジタル通貨の流通に向けた動きが加速しています。
本稿では前編・後編の2回に分けて、デジタル通貨、特にステーブルコインとトークン化預金の普及が銀行、決済事業者のビジネスに与える影響、およびデジタル通貨が流通する世界に向けて銀行、決済事業者が検討すべき論点と事業機会の可能性について解説します。
2025年7月にGENIUS法が成立し、米国におけるステーブルコインの定義や発行に関わる規制の枠組みが明確になりました。同法は2027年1月までに施行されます。GENIUS法は、ステーブルコインの信頼性を高めその普及を促進し、米国金融市場におけるステーブルコインの地位確立に寄与すると考えられています。2025年9月に発行されたCiti Instituteのレポート「Stablecoins 2030」によると2025年時点のステーブルコインの市場規模2,820億ドルですが、2030年には最大で4.0兆ドルに達するという試算がされています。
デジタル通貨の定義は現時点では広義・狭義でさまざまありますが、ブロックチェーン技術を活用していることかつ価格が安定するデジタル通貨に限ると、その主要な類型としてステーブルコインの他にトークン化預金(deposit tokens/tokenized deposits)も挙げられます。「ステーブルコイン」はGENIUS法においては決済手段(原文では”used as a means of payment”)と定義されており、銀行口座に依存しないで取引・決済ができる一方、保有しているコインに利息は付きません。一方、「トークン化預金」は銀行預金をトークン化したものであることから、現時点では銀行口座間での流通が前提となる一方、伝統的な預金と同じく利息を付すことが可能という特徴があります。
ステーブルコインやトークン化預金はブロックチェーン技術の特性により、24時間365日可能な即時送金やプログラムの組み込みによるスマートコントラクトの実装、取引当事者間の台帳共有によるリコンサイル作業の減少などの実現と、それに伴う決済コストの低減が期待されます。
日本では、ステーブルコインは資金決済法で電子決済手段として定義されています。一方、トークン化預金については、現在のところは直接的に位置付けや枠組みを定義する単一の準拠法は存在せず、銀行法や資金決済法などの既存の金融規制の枠組み内で、銀行が発行する既存の預金債権をブロックチェーン技術によりデジタルトークン化したものを意味します(図表1)。
ステーブルコインの発行体は銀行・資金移動業者・信託会社等に限定され、流通の仲介は電子決済手段等交換業者が行います。ただし、2025年9月時点では、信託銀行以外の銀行によるステーブルコインの発行について金融当局は「利用者保護、銀行の健全性や金融システムの安定等の観点から慎重な検討が必要」との姿勢を示しており、当面は内外の情勢を見極めつつ、中長期的観点から検討をする方針を示しています。
トークン化預金については、その名のとおり銀行預金をトークン化したものであるため、発行体は銀行のみに限定されますが、一般的な預金と同様に利息を付すことが可能であり、また預金保険の対象になります。一方、その流通範囲は各行が利用する決済インフラの設計に依拠します。
図表1:ステーブルコインとトークン化預金の外観
国内でも2025年8月以降に、デジタル通貨に関する各企業の取り組みが相次いで発表され、デジタル通貨の流通に向けた機運が高まっています。例えば、ステーブルコインについては2023年6月に改正資金決済法が成立しステーブルコインが法的に電子決済手段として位置づけられて以降、2年間超にわたって発行体となる企業は存在しませんでしたが、2025年8月18日付でJPYC社が資金移動業者の登録を完了し、今後、日本初の日本円建てステーブルコインを発行する予定です。また複数の大手金融機関がステーブルコインやトークン化預金の導入検討の取り組みについて公表しています(図表2)。
図表2:日本におけるステーブルコインとトークン化預金関連サービスの動向例(2025年9月末時点)
ここでは、日本国内においてもステーブルコインとトークン化預金の流通が始まる見通しであることを受け、今後、ステーブルコインとトークン化預金がそれぞれ法人、個人でどのように活用されていくか考察します。
ステーブルコイン、トークン化預金のいずれも、決済における即時性やプログラマブル(決済の実行などに関して条件を組み込めること)であることを生かした決済が中心になると考えられます。そのような中で、ステーブルコインは銀行口座に縛られず、またコインが実装されているブロックチェーン上でグローバルな取引をしやすいことが特徴です。一方、トークン化預金についてはAML(マネーローンダリング対策)などの金融規制対応や既存の内部統制との親和性、銀行KYC(本人確認)済の範囲内で流通するメリットがある一方、現在のところは銀行内部のブロックチェーンネットワークや、預金トークンを主眼としたブロックチェーンネット枠で実装されるケースが多く、他行のネットワークや各種暗号資産が運用されている他のブロックチェーンネットワークとの接続の実装に要するコストが相対的に大きい可能性があります。
当面はステーブルコインとトークン化預金のいずれにも共通、または類似のユースケースがリリースされることが想定されますが、中期的にはステーブルコインとトークン化預金それぞれの特徴を生かしたユースケースに集約していくと考えられます(図表3)。
例えば法人向けのユースケースとして、クロスボーダーの送金については、相手先の銀行口座有無に依存しないことから送金先の柔軟性の観点でステーブルコインの方が親和性が高いと考えられます。一方、多くの国内企業が主要行を含む複数の銀行口座を有している環境下では国内企業間の決済や企業グループ内でのキャッシュマネジメントについては、トークン化預金の方がより親和性が高いと思われます。なお、個人の少額店頭決済についてもステーブルコインは有効と考えられますが、市民権を得るためにはデビット・クレジットカードやQRコード決済などの既存キャッシュレス決済とどのように差別化を行えるかが鍵になると言えるでしょう。
また、個人向けのユースケースについては、海外送金の他、ブロックチェーン上で運用されるWeb3サービス(NFT、ゲーム、オンチェーンSaaSなど)への支払いは相手先の銀行口座に縛られないステーブルコインの方がより適していますが、口座振替型の定期支払や国内P2P送金はトークン化預金の方が適していると考えられます。
図表3:ステーブルコイン・トークン化預金の活用例
ここまで述べたとおり、ステーブルコインとトークン化預金は法人、個人それぞれの決済に大きな変革をもたらす可能性を秘めており、ステーブルコインやトークン化預金の流通量が増加した場合には、銀行や決済事業者のビジネスにも影響を及ぼすことは自明です。本稿の最後に、決済機能において大きな役割を果たしている銀行業と決済事業者にどのような影響をもたらし得るかをまとめます(図表4)。
まずステーブルコインやトークン化預金の特性からどのような事象が発生するか考えてみます。1点目として、決済手数料が低コストであることを踏まえると、既存の決済手段においても手数料低下の圧力がかかると思われます。2点目に、「決済のリアルタイム性」に着目すると、銀行においては日中のグロス決済が増加し流動性管理の高度化が求められるようになることが想定されます。また、決済事業者においては加盟店に対する入金サイクルの優位性が低減するでしょう。
次にステーブルコインやトークン化預金が普及し、広く流通した場合に何が起こるかを考えてみます。まずは、当然に銀行や決済事業者のサービスを介して行われていた決済の一部がステーブルコインやトークン化預金に代替されることで、決済手数料や為替手数料の収受および顧客の決済データの収集機会が減少することが考えられます。また、特にステーブルコインについては、ユーザーの現預金とステーブルコインが交換される仕組みであるため、ステーブルコインの流通に応じて預金流出が発生する可能性があります。さらに、ステーブルコインの発行に着目すると、その裏付け資産として現預金に加えて、総量の50%を上限に短期の日本国債や米国債を充当することが認められているため、発行体の裏付け資産の構成によっては、ユーザーが保有している現預金をステーブルコインに交換をすることで間接的に現預金が日本国債や米国債に振り向けられることになり、銀行システム全体での預金量の減少を引き起こすかもしれません。
図表4:銀行と決済事業者への影響
ステーブルコインやトークン化預金の登場は金融機関のビジネスにも大きな影響をもたらす可能性があります。次回後編では、このような環境変化に対して、金融機関はどのような対応を取ることが求められ、どのような事業機会の可能性があるかについて考察します。
後編はこちら
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