ゲームが変えるビジネス

大阪・関西万博 英国パビリオンで考える、日本発IPの未来

  • 2026-01-09

2025年10月、大阪・関西万博 英国パビリオンでは、ゲームを切り口に人や企業がつながる新たな試みとして、ロバート・ウォルターズ・ジャパン主催の「Business Meets Gaming at Osaka Expo 2025」が開催されました。昼の時間帯には、来場者がチームを組んで多彩なゲームを楽しむイベントが行われ、世代や国籍を超えて活気ある交流が生まれました。

夕方には、ビジネスパーソン同士のネットワーキングを目的としたコミュニティ企画がスタートし、その一環として本パネルディスカッション「ゲームが変えるビジネス」が実施されました。

企業のデジタル活用を支援する立場や、ゲーム・eスポーツに関わるプレイヤーなど、多様な知見を持つ有識者が英国パビリオンに集まり、ゲームが生む新しい価値について意見を交わしました。

登壇者は、株式会社セガ エックスディーの谷 英高氏、TOPPAN株式会社の原田 香織氏、LUDiMUS株式会社の佐藤 翔氏と、PwCコンサルティング合同会社の藤島 太郎。モデレーターはLunaTone Inc.のヒョン・バロ氏が務めました。

本稿では、ゲームを活用した企業との接点創出やゲームが社会にもたらす新しいつながりの形を探っていきます。

※法人名、役職などは対談当時のものです。本文中敬称略。

(左から)ヒョン・バロ氏、谷 英高氏、原田 香織氏、藤島 太郎、佐藤 翔氏

(左から)ヒョン・バロ氏、谷 英高氏、原田 香織氏、藤島 太郎、佐藤 翔氏

1.ゲームの「人を動かす力」──世代変化がつくる新しいビジネス

ヒョン:
まず、ゲームがビジネスや社会領域で昨今活用されていますが、その背景についてお聞きしたいと思います。谷さん、いかがでしょうか。

谷(セガ エックスディー):
私はゲームを活用した課題解決を行っているのですが、DXの進展によって、サービスの機能的価値だけでは差別化が難しくなってきていると感じます。そこで重要なのは、「ゲームには人をワクワクさせたり、衝動をかき立てたりする力がある」ということです。
こうした感情を動かす力が、体験づくりや新しい取り組みにつながり、いわば「感情的価値」として再評価されていると感じます。
今後、課題解決を進めていく上では、機能的価値に加えて、この感情的な価値をどう組み合わせていくかが重要になってくるのではないかと思っています。

ヒョン:
ありがとうございます。ゲームを取り巻く世代の変化という観点ではいかがでしょうか。

原田(TOPPAN):
私は企業活動にeスポーツを取り入れるお手伝いをしています。その中で日々感じているのは、今の40〜50代、つまり会社でマネジメント層や経営層になっている世代は、家庭用ゲームと一緒に育ってきた世代なのだなということです。
この世代はゲームに対して抵抗感がなく、むしろゲームを通じてコミュニケーションをつくってきた実体験があります。そのため、企業としても彼/彼女らを通じてゲームやeスポーツを取り入れやすい、推進しやすい土壌が整ってきていると感じています。

藤島(PwC):
そうですね。私は主にエンタメやコンテンツを主業とするクライアントに対して戦略コンサルティングを提供しておりますが、お二方がおっしゃったように、ゲームの性質は確実に変化していると感じます。
かつては「自分がクリアして終わり」といった個人達成の遊び方が中心でしたが、今のゲームは、「仮想空間の中で自己実現する場」へと広がっています。
実際、多くの方が遊んでいるゲームは、単にクリアを目指すものではなく、その中に一種の「社会」が存在しています。つまり、コミュニケーションが生まれ、役割が形成され、そこにユーザー同士の活動がある。
こうした変化によって、企業や地方自治体がゲーム空間の中に新しい可能性や機会を見いだすようになってきました。

ヒョン:
なるほど。では、こうした国内での変化を踏まえつつ、産業としてゲームがどう広がっているのかについて、国際的な動向はいかがでしょうか。

佐藤(LUDiMUS):
私は、日本のゲーム企業と世界各国の市場や産業をつなぐ仕事をしてきました。現在は、世界61カ国・120団体が加盟するゲーム関連インキュベーター・アクセラレーター連合の議長として、国際的なゲーム産業の動向に向き合っています。
そうした立場から見ると、現在のゲーム産業には大きく三つの特徴があると感じています。第一に「“デジタル産業」であること。ゲームは高度なプログラミングやAI技術が不可欠で、新しいテクノロジーへの入り口としても非常に優れています。
第二に「クリエイティブ産業」であること。カルチャー的な要素が強く、世代や地域、人種を問わず、多様な人が参加できる間口の広い領域です。
そして第三に、「グローバル産業」であること。アフリカでもラテンアメリカでも、世界のどこに行ってもゲームは遊ばれており、市場の広がり方が他の産業とは桁違いです。
そのため、ゲーム産業を育てることは、デジタル人材・クリエイティブ人材・グローバル人材を同時に育成することにつながります。こうした包括的な価値が評価され、まさに今、世界的にもゲーム産業に注目が集まっているのだと感じています。

2.eスポーツとゲーム活用の広がり──企業・教育・次世代の新しい接点

ヒョン:
ここからは、企業や教育現場におけるゲームの活用について触れたいと思います。まず、企業はどのようにeスポーツを取り入れているのでしょうか。

原田:
はい。企業がeスポーツを取り入れる目的は、大きく「PR」「採用」「従業員エンゲージメントの向上」の三つに分けられます。
まずPRの観点では、企業同士が参加する社会人向けeスポーツリーグで、「視聴者が企業を応援する」という新しい関係性が生まれています。
採用面では、まさにそのリーグを見た求職者が、ゲーム好きの社員がいる会社に魅力を感じ、応募のきっかけになるケースも出てきました。
また、社内では、若手と役員が一緒にゲームをするなど、拠点や部署、立場を越えた交流が生まれることで、コミュニケーションが活性化しています。

谷:
教育分野でも、ゲームを通じたコミュニケーションは広がっています。
たとえば、英語学習とゲームの仕組みを掛け合わせ、勉強すればゲーム内で有利になるように設計された教材では、多くの子どもたちが主体的に学習に向かうようになりました。
その他、医療・ヘルスケア領域でも、専門的な診断技術や行動変容を「そのまま」一般の人に受け入れてもらうのは難しい場合があります。そこで、ゲームのメカニクスを活用して、楽しみながら行動してもらえるように設計し直す取り組みが進んでいます。
このように、「ゲームがきっかけで行動が変わる」という現象は、教育でも医療でも企業研修でも共通して現れており、ゲーム活用の領域は確実に広がっていると感じます。

ヒョン:
佐藤さんは海外のゲーム関連団体にも関わられていますが、海外では企業がどのようにゲームと関わっているのでしょうか。

佐藤:
欧州の大型ゲームイベントでは、ゲーム企業以外の、例えば航空機メーカーや製造業、公共機関などが、人材獲得のためにブースを出しています。
「ゲームイベントに来る若者はデジタルに強い」「新しいものが好き」という理由から、企業が採用の入口として活用しているのです。
また、アフリカでは銀行が若年層との接点づくりのためにゲーム会社と組んでいる例もあります。
ゲームは今、「次の世代と接点をつくるためのメディア」として広がっていると感じます。

3.世界で評価される理由─日本発ゲームIPの「強さ」を解剖する

ヒョン:
では、ここからは少し視点を変えて、日本のコンテンツについてお伺いしたいと思います。
日本は「ゲーム大国」として、国内外で多くの作品が受け入れられてきましたが、なぜこれほどまでに広がったのでしょうか。その背景にある強みやビジネスチャンスについて、PwCの藤島さんにお聞きしたいと思います。

藤島:
そうですね。最近、「日本コンテンツを海外へ展開したい」という相談を非常に多くいただきます。その理由は、日本発のゲームIPが世界中で評価されているからです。
日本のゲームIPが強い理由は、三つの要素が非常に高いレベルで統合されている点にあります。

① 魅力的なキャラクター
② 心を動かす物語
③ 緻密に構築された世界観

この三つがそろうことで、ゲームIPは単なる商品ではなく、長期的に愛される「資産」になります。
特に、物語性や世界観づくりは日本が強い分野だと言えます。キャラクターを中心に据えて、多様なメディアで世界観を拡張することに長けています。
さらに、ゲームは発売して終わりではありません。
継続的に内容や仕様などをアップデートし、イベントやグッズ、コミュニティ施策、アニメ化など、多様な展開を行うことによって「体験」を増やし、IPを育てていく。
そのプロセスには、金融、商社、物流、ITなど、コンテンツ外の多様なプレイヤーも関わることができます。
そして、海外展開、資金調達、現地での流通、マーケティング等あらゆる場面で、非ゲーム企業の力が必要になってきています。
つまり、日本発ゲームIPを長期資産に育てることは、多くの業種に「新しい参入余地」をつくる取り組みでもあるのです。

ヒョン:
ありがとうございます。日本発IPについて言うと、インディーゲーム(個人や小規模のチームによって制作されたゲーム)も重要な流れですね。佐藤さん、現場の変化についてはいかがですか。

佐藤(LUDiMUS):
はい。私はインディーゲームインキュベーターの運営に関わっていますが、開発者のバックグラウンドが非常に多様であることが特徴です。
広告、金融、製造業、デザインなど、本業がゲーム関連業界ではない方が「個人制作」としてゲームをつくり、そこから世界的ヒットが生まれることもあります。
実際に、日本発のウォーキングシミュレーターゲームが個人制作から大きな話題になり、書籍化や映像化にまで広がった例もあります。小さなチーム、少人数からでも世界に届く時代です。そこに、インディーゲームのポテンシャルを感じています。

4.クロージング:ゲームがつなぐ、文化とビジネスと社会

ヒョン:
では最後に、お一人ずつメッセージをお願いいたします。

谷:
ここにいらっしゃる皆さんも、日本発・海外発を問わず、世界的に知られたゲームタイトルやキャラクターの名前を一度は耳にしたことがあると思います。
ゲームは、日本が世界に誇れる文化の一つです。その文化を、社会の役に立つ形にしていけたらと考えています。
また、本日英国パビリオンを拝見して、英国からも偉大なアイデアがたくさん生まれていることを改めて感じました。
欧州にも優れたゲームスタジオが数多くあり、海外から日本に届くゲームもこれからもっと増えていくと良いなと思っています。

原田:
現在日本では、ゲームやeスポーツが、「エンターテインメント」「カルチャー」「スポーツ」といった「目的」としての側面と、企業の活性化や採用、人材育成、さらには高齢者の健康増進など、「手段」としての側面の両方で広がっています。
今後も、目的としても手段としても、ゲーム・eスポーツが社会のさまざまな場面で活用されていくことを期待しています。

佐藤:
ゲーム産業は、ゲーミフィケーション、eスポーツ、インディーゲーム、新しいテクノロジーとのコラボレーションなど、さまざまな形で存在感を高めています。
これから重要になるのは、ゲーム産業と、民間企業、そして国や自治体などの公的セクターの三者が、どのような関係を築くかです。
私は日本の公的プログラムのアドバイザーも務めていますが、その中で海外、特に英国の事例をよく参考にしています。業界団体と政府が連携し、教育や支援策の仕組みをつくっているからです。
日本でも、国とゲーム産業、ゲーム産業以外の民間企業という三つのステークホルダーが、より良い関係を築いていくことが、今後ますます大事になってくると感じています。

藤島:
コンテンツビジネスにおいて私が特に重要だと考えているのが、「キャラクター」「ストーリー(物語)」「世界観」の三つです。
ゲームは、この三つを必ず内包しているコンテンツです。
さらにゲームは、仮想空間での体験を可能にするメディアでもあります。
例えば今日のような万博も、バーチャルな形であれば、体調や距離の問題で現地に来られない方でも、自分なりの万博体験をつくることができます。
ぜひ皆さまにも、ゲームやコンテンツの持つ力に目を向けていただき、ビジネスの他さまざまな活動の中で、前向きに活用していただければと思います。

今回のディスカッションから、ゲームはそれ自体の関連ビジネスだけでなく、企業・教育・医療など幅広い分野で行動変容や顧客接点づくりに活用され、ブランド価値向上にも寄与していることが見えてきました。
また、日本発のゲームIPは、「キャラクター・物語・世界観」の強さから海外でも高く評価され、長期的な資産として育てる重要性が増しています。
ゲームを介したつながりは、世代や立場を超えてコミュニティを生み出し、社会のさまざまな場面で新しい価値をつくり始めています。

主要メンバー

藤島 太郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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