コンテンツの信頼性を高める「C2PA」の可能性と、ビジネスプロセスへの適用

  • 2025-10-21

コンテンツ消費環境の変化

編集ツールのコモディティ化や生成AI技術の発達により、従来、コンテンツビジネス関係者が独占してきたコンテンツ制作の「民主化」が急速に進んでいます。実際に地域や年齢、経験に関係なく市販のデバイス・ツールで個人が思い思いに創作できるようになり、多様なコンテンツが数多く誕生しています。

一方で個人向けの配信・共有プラットフォームの充実に伴い、こうしたコンテンツの浸透スピードが爆発的に増大する中、フェイクコンテンツが急速に流通するという事態を招いており、社会問題となっています。このことから、コンテンツの信頼性、つまり来歴*1や真正性*2を確かめる方法に対するニーズはコンテンツ消費者、IPホルダーの双方から求められていると言えるでしょう。

C2PAの最新トレンド

C2PA規格に関しては、コンテンツの生成に用いる機材への実装が始まっています。

例えば、撮影機器の画像・映像にC2PA規格の来歴情報を付与し、独自の電子署名を付与する仕組みを導入したり、スマートフォンに対してAIによる生成や加工がなされているかどうかをCP2A規格に基づいてユーザーに示す仕組みが搭載されるなどの取り組みが進んでいます。また編集用ソフトウェアでも、自動的にC2PA規格の来歴情報を付与・作成・編集する機能を実装する製品が出てきています。

コンテンツの放送・配信の領域では、欧州の公共放送を中心にC2PA規格の組み込みが進んでいます。オランダ・アムステルダムで行われる放送関連ソリューションの年次展示会「IBC 2025」では、複数の放送局がC2PAを活用したコンテンツ制作フローが発表されていました。

C2PA規格を検討すべき3つの理由

C2PA規格の導入に際して、コンテンツバリューチェーンの各アクターによって検討する論点は大きく異なっていますが、本稿では、コンテンツを自社IPとして制作し、消費者やビジネスパートナーに提供する企業に焦点を当てます。

コンテンツ制作・提供企業がC2PA規格への適合を検討すべき理由は大きく3つあります。

  1. 技術に裏付けられた「守り」
    C2PA規格では、画像・映像について、その撮影された時点も含め、全ての来歴情報をメタデータとして記録することだけでなく、編集を繰り返した場合でもその来歴情報を引き継ぐことができます。この来歴情報をたどれば、自社のコンテンツIPがどこでどのように使われているかを追跡することができる他、自社のコンテンツを構成する映像要素の検証を行うことで、自社IPを守ることも可能です。例えば、報道機関から提供された映像について、来歴情報がない、もしくはあるとしても規格上必要な構成要素が不足している場合は、映像の出所や来歴に疑義が残ります。このように、リスク管理上の重要な要素として、自社コンテンツとしての公開可否の判断に反映させることができるようになります。
  2. 「攻め」のIP戦略への活用
    C2PA規格に基づいた運用を行うことで、自社IPの真正性を証明し、提供先を問わず自社コンテンツのブランド価値を向上させることが可能です。また、誤情報や偽情報が氾濫する中で、信頼性・透明性のある情報を求める消費者に対して、そのニーズに応える視聴体験を顧客に提供することにより、顧客ロイヤリティの向上も期待できます。
  3. 世界標準への適応
    前述のとおり、テクノロジー企業やメディア企業がC2PA規格の導入を始めています。今後この規格が広く普及し、コンテンツ流通バリューチェーンの世界標準規格となることも予想されます。こうしたことから、コンテンツビジネスに携わる企業においては、少なくともC2PAの基礎的な情報収集と、自社の業務への適用可能性を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。

コンテンツ企業は何を検討すべきか

自社コンテンツをC2PA規格に適応させる場合、自社のビジネスプロセスを正確に分解することが第一歩です。自社のIP戦略などに基づき、どのような来歴情報を顧客やビジネスパートナーに提供していくのかといった提供方針や、C2PA規格に対応するためのポリシーを検討する必要があります。その上で、自社のコンテンツ制作プロセスの中で、C2PA規格で定められている要件をどのように付与するか、また、付与した来歴情報をデジタル署名などによってどのように証明するかを検討することになります(図表2)。

図表2:C2PA規格を適応した場合のコンテンツ制作プロセス

一方、C2PAコミュニティでは、技術仕様が細部まで完全には固まっておらず、検討はいまだ進行中です。コミュニティでのディスカッションの動向を見極めることも必要となりますが、コンテンツ企業側のニーズなどを提言できる状態でもあり、コンテンツの真正性をめぐる国際規格の検討に企業の目線で一石を投じることも可能です。

PwCコンサルティングでは、世界標準となりつつある本規格の導入支援を通じて、クライアントのコンテンツIPの信頼性を高める活動を行っています。こうした支援を通して、信頼性の高いコンテンツ流通を加速させ、コンテンツ業界が持つ潜在性が成長へとつながるような未来を、クライアントとともに築いていきたいと考えています。

*1 来歴(Provenance)=コンテンツの出どころ(いつ、誰が、どのような映像素材を元に作ったコンテンツか)

*2 真正性(Authenticity)=コンテンツの信頼性(海賊版コンテンツ、フェイクコンテンツではないか)

執筆者

松岡 英自

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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栗原 岳史

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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村井 優来

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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堀口 陽平

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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