
自動・自律化したドローンによる業務効率化事例の分析
ドローンの自動・自律化に伴い、農業、点検、土木・建築などのサービス分野でのドローン活用が広がる見込みです。自動・自律化したドローンが取得したデータを業務で活用し効果を発揮した先進的な事例を紹介し、取り組みにおける課題や今後の展望を考察します。
ビットコインが世に出て10年以上が経ち、その技術基盤であるブロックチェーンはビジネスにおいてさまざまなユースケースで実証実験が繰り返されてきました。しかしながら、商用化まで成功しているケースはいまだ多くありません。なぜ多くのユースケースが実証実験止まりとなったのか、これまでの課題を考察し、次に飛躍するための準備段階に入っていると考えられます。今後、ブロックチェーンがビジネスプラットフォームとして普及するためには、どのような課題を克服する必要があるのでしょうか。2015年創業で、サプライチェーン向けのブロックチェーンソリューションを提供しているVeChain(ヴィチェーン)の共同創設者であるSunny Lu (サニー・ルー)氏に、PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャーの丸山 智浩がお話を伺いました。
(以下、本文敬称略)
対談者
VeChain(ヴィチェーン)ファウンダー Sunny Lu(サニー ルー)氏
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 丸山 智浩(まるやま ともひろ)
(左から)Sunny Lu氏、丸山智浩
丸山:
最初に、VeChainの業務内容について教えてください。
Lu:
VeChainはエンタープライズに特化した、サプライチェーン向けのパブリックブロックチェーンソリューションを手掛けるベンチャー企業です。創業は2015年で、私は共同創設者兼CEO(最高経営責任者)として携わっています。現在は中国やフランス、米国、シンガポール、日本など、世界7拠点にオフィスを構えています。
日本では、大手通信事業者の第5世代移動通信システム(5G)のパートナーシッププログラムに参加しています。また、静岡の製茶会社と提携し、ブロックチェーンとICチップで日本茶の生産地を証明する取り組みも実施しています。
丸山:
御社は、中国市場でPwCグローバルネットワークのメンバーファームと複数のプロジェクトを共同で実施しているのですよね。
Lu:
はい。PwCとVeChainの関係は、2017年にJBR(Joint Business Relationship)という形でスタートしました。
協業の例として、中国の大手企業に対し、PwC中国がアドバイザリーサービスを提供し、そのサービスの一環として、VeChainのブロックチェーンソリューションを活用しました。今後もこうした複合的なサービス展開をさらに行っていけることを願っています。
丸山:
Luさんは前職で、大手ファッションブランドの中国法人のCEOを務められていましたよね。一見畑違いに思える分野に移られた理由は何だったのですか?
Lu:
実は前職の2013年から、ブロックチェーンに関わっていました。私は元々は技術畑の人間で、当時から「技術とビジネスをつなぐこと」を役割として求められていました。そこで新興著しいブロックチェーンに着目したのですが、当時はそれ自体が社会に浸透しておらず、ブロックチェーンを活用して自社のビジネスを支援するというアイデアは時期尚早でした。ただ、こうした可能性のある技術をビジネスで活用しきれていない企業は少なくありませんし、われわれが技術とビジネスの分断という課題を解決する一助になれるのではと考え、2015年に創業しました。
VeChain(ヴィチェーン)ファウンダー Sunny Lu氏
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 丸山 智浩
丸山:
ガートナーが2020年7月、テクノロジとアプリケーションの成熟度と採用状況、およびテクノロジとアプリケーションが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したハイプ・サイクルの「ブロックチェーン・テクノロジのハイプ・サイクル」を発表しました。ハイプ・サイクルは「黎明期」「「過度な期待」のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」の5つのフェーズからなりますが、ここではブロックチェーンは「幻滅期」にあるとのことでした。*1,*2 Luさんは、この状況をどのように捉えられていますか。
Lu:
ビジネスプロセスを変革する技術として注目されてから数年が経ち、今は、実際にビジネスで活用する上での課題が浮き彫りになってきたころだと思います。現在のブロックチェーンが抱える課題は3つに大別できます。1つ目は「技術をビジネス価値に変換できていない」、2つ目は「プロフェッショナルなサービスやツールが不足している」、3つ目が「ブロックチェーン活用のビジネスモデルが確立されていない」です。
丸山:
1つ目から見ていきますが、ブロックチェーンをビジネス価値に変換できていないというのは、企業がこの技術をビジネスで活用しきれていないということでしょうか。
Lu:
はい。背景には、「技術」と「ビジネス」の両者を橋渡しする人材が少ないという問題があります。
ブロックチェーン業界の技術者は、最新技術の探求には熱心ですが、その技術をビジネス価値に変換しようというマインドは高くありません。一方、ビジネス側の人間が技術に求めるのは「ソリューション」であり、「自社の課題をどのように解決するか」「実装することで生産性向上とコスト削減を実現できるか」という視点から技術を評価します。現状では、両者の視点を持った、技術をビジネス価値に変換する役割を担うビジネスのプロフェッショナルの存在が、圧倒的に不足しているのです。
丸山:
確かに、技術の観点だけでプロジェクトを進めても、PoC(実証実験)やテスト検証に終始し、先に進めない事例は少なくありません。特に最新技術の場合は、実装することが目的になってしまいがちですが、最終的な目標はビジネス価値を出すことのはずです。そのためには、クライアントにブロックチェーンを利用する意味を理解してもらい、「なぜ使うのか」「その利点は何か」というビジネスにおける価値を明確にできなければなりません。
Lu:
おっしゃる通りです。VeChainがPwCと積極的に協業した理由は、「ビジネスに精通するプロフェッショナルの視点が必要だ」と考えたからです。それを具現化した協業プロジェクトをPwC中国と共に行っていました。
現在、大手小売企業の中国法人と、中国で販売する食品の追跡システムを構築しています。このプロジェクトで特筆すべきは、追跡システムを開発期間3カ月で実稼働にこぎ着けたことでしょう。グローバル本社からもこの実績を評価され、他国でも水平展開したいと考えられているようです。PwCがブロックチェーンが持つ可能性を理解し、ビジネスのどの分野で活用できるかを考え、価値を見出したからこそ、新技術を盛り込んだシステムを短期で開発することができたのです。
丸山:
PwCのメンバーファームがお役に立てたようで何よりです。2つ目の課題である「プロフェッショナルなサービスやツールが市場で不足している」というのは、新技術の宿命でもありますね。この課題に対し、御社ではどのような取り組みをされていますか。
Lu:
現在のブロックチェーンは、25年前のeコマースと同じ状況だと思います。
当時eコマースを実施するには、プラットフォームはもとより、他サイトとの連携システムやマーケティングツールなど、eコマースに必要なツールを全てスクラッチ開発しなければなりませんでした。翻って現在は、多くのプラットフォームベンダーが複数のサービスを提供しています。企業側はそれらを比較・検討しながら、自社のビジネスに最適なeコマース(構築)サービスを選択すればよいのです。
それではブロックチェーンはどうでしょうか。現時点では、一般企業がブロックチェーン上で利用するアプリケーションを簡単に構築できる手段がありません。それがブロックチェーンの普及を阻害する1つの要因です。
この課題を解決すべく、われわれは「VeChain Tool Chain」というツールをリリースしました。これは商用のBaaS(Blockchain-as-a-Service)プラットフォームで、ユーザー企業自身がパブリックブロックチェーン上に必要なアプリケーションを簡単に構築できるものです。すでにグローバルで約80社の導入実績があります。
丸山:
ブロックチェーンがぐっと身近になる取り組みですね。3つ目の課題である「ブロックチェーン活用のビジネスモデルが確立されていない」ですが、これはブロックチェーンの「信頼」に関係するのではないでしょうか。
この「信頼」には2つの側面があると私たちは考えています。一つはデータの信頼性、もう一つはプラットフォーム維持の信頼性です。パブリックブロックチェーンがエンタープライズ市場で「使えるプラットフォーム」として信頼を得るためには、どのような取り組みが必要だとお考えですか。
Lu:
私は、ブロックチェーンの仕組みこそが、信頼を担保するものだと考えています。
ブロックチェーンは中央集権的な管理機関を設置せず、参加者が対等に総合監視/協力をすることで、信頼性を維持します。ブロックチェーンのメリットは、そこに参加する全企業が対等な立場でデータを共有でき、万が一改ざんがあっても検知できるため、情報の信ぴょう性が担保されていることです。そこから得られるデータを活用することこそビジネスにとっての価値であると言えます。この点を訴求する戦略が必要だと思います。
例えば、スウェーデンのあるアパレル企業は、傘下の自社ブランドでVeChainを活用した製品管理システムのPoCを進めています。製品のライフサイクルを通したトレーサビリティデータを収集しているのですが、このシステムが、国際的認定機関からサステナビリティ認証を受けることができました。これは、サプライチェーンの全ての企業が認証を受けたことを意味します。つまり、アパレル企業のサプライチェーンの全メンバーが、「よりよい商品・サービスを提供し、社会に貢献している企業」というビジネス価値を得られたのです。この認証は、データとプラットフォームが信頼に足るものであるからこそ得られたと私は考えています。ブロックチェーンがエンタープライズ市場に普及するためには、こうした事例を増やしていくことが大切です。
丸山:
ブロックチェーンを活用することで、「サプライチェーンの参加者全員がメリットを享受できる」エコシステムの構築につながるということですね。では、企業がこうしたエコシステムを構築するために、具体的にどのようなアプローチを採る必要があるでしょうか。
Lu:
2つの方法があると考えています。
1つ目は、インダストリーリーダーと組むなど、既存の枠組みを利用することです。先述した大手小売企業のような、業界のリーダーと言える企業が導入しているブロックチェーンのプラットフォームであれば、サプライヤーである企業も利用します。その際に重要なのは、こうした企業に「プラットフォームに参加したい」というモチベーションを持たせるような仕組みを作ることです。食品の追跡システムを構築した際、同時に店舗内で消費者が商品のトレーサビリティを確認できるようにしました。これにより消費者は、「この商品は安心な食材だ」と確認して購入できる。こうした仕組みは、サプライチェーンを構成する各企業にとっても「安全な食品を卸している」とアピールできる機会になりますし、利益向上が見込めることから、プラットフォームに参加するモチベーションにつながります。
2つ目は、ブロックチェーンの有用性を理解するビジネスプレイヤーと協業し、さまざまな企業とネットワークを築きながら、プラットフォームに参画する企業の数を増やしていく方法です。例えばコンサルティングサービスを提供するビジネスプレイヤーは、複数の業界に対する知見があり、それぞれの業界が直面している課題を熟知しています。そこで、課題解決を図るコンサルティングサービスの1つとして、業界のニーズに応じたブロックチェーンソリューションを、提案の選択肢に加えてもらうのです。
丸山:
VeChainは「参加者は限定するが、トランザクションは公開する」というアーキテクチャを採用していますね。今後、エンタープライズ向けブロックチェーンは、御社のような、コンソーシアム(プライベート)ブロックチェーンとパブリックブロックチェーンの「良いとこ取り」が主流になっていくのでしょうか。また、全ての企業にメリットをもたらすエコシステムを構築する上では、パブリックとコンソーシアムのどちらを選んだほうがよいのでしょう?
Lu:
パブリックブロックチェーンかコンソーシアムブロックチェーンかの議論は、クラウドサービスが誕生した時の議論と似ています。クラウドの初期段階では、セキュリティや安定性の観点からプライベートクラウドを採用する企業が大半でした。しかし、現在は自社で管理しなければならないプライベートクラウドよりも、専業ベンダーが運用するパブリッククラウドのほうが拡張性や安全性の面で優れているという認識が広がっています。
コンソーシアムブロックチェーンがエンタープライズ市場に受け入れられるためには、複数の課題を克服する必要があります。例えば、コンソーシアム型は専門のプレイヤーで構成されますが、コンソーシアム自体が成長し、新規プレイヤーが参入してくると、利益相反が発生する可能性があります。つまり、競合企業が参入してきた場合に、コラボレーションに支障を来たす恐れがあるわけです。また、プレイヤーによってブロックチェーンへの協調姿勢が異なるようなことがあれば、「参加者全員がメリットを享受できる」という原則が崩れてしまいます。
あくまで個人的な見解ですが、将来はパブリックブロックチェーンのほうが主流になると考えています。その理由は、透明性や企業間コラボレーションの容易さを考えた時、誰でも参加できて誰でもデータを共有できるパブリックブロックチェーンに軍配が上がるからです。企業が求めているのは透明性です。データを変更できない仕組みさえ確立されていれば、データを共有するプラットフォームとしての透明性が担保されているパブリックブロックチェーンは高く評価されるでしょう。
丸山:
そう考えると、ブロックチェーンは企業間のみならず、国家や政治の枠組みを超えて、デジタルデータによって信頼し合える関係を構築する機会をもたらす可能性を秘めていると言えますね。それを実現する上では、やはり透明性と信用の担保が重要だと思います。
Lu:
そのためには、ブロックチェーン技術にも、プロフェッショナルなサービスプロバイダーによる監査が必要です。パブリックブロックチェーンはオープンソースの技術で構築されていますが、市場で信頼を得るには客観的な証明が不可欠です。同時にコードのアップデートについても、ロードマップが公開されるべきだと考えます。
VeChainもオープンソースのコードを使用しており、2018年にはプロフェッショナルサービスによる監査を受けました。「VeChainが提供するブロックチェーンは、エンタープライズ向けとして堅牢なセキュリティと安全性が担保され、利用に値する」ということを証明できて初めて、ブロックチェーンを活用したビジネス価値をますます創出できると考えているからです。
丸山:
最後に、今後のビジネス戦略を教えてください。
Lu:
日本市場に対して、さらにアプローチしたいと考えています。VeChainはスタートアップですから、ブロックチェーン市場の動向と顧客ニーズに合わせて、素早く柔軟に対応ができることが強みです。今後もPwCグローバルネットワークをはじめとするビジネスプレイヤーと強固なパートナーシップを構築し、数多くの成功事例を作り上げていきたいと考えています。
丸山:
パブリックブロックチェーンによるエコシステムを構築、運営しながら、それを生かしたエンタープライズビジネスも手掛けていることにたいへん注目しています。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。引き続き、ブロックチェーンテクノロジーによる価値創造に共に取り組んでいきたいと思います。
*1 : Gartner, Hype Cycle for Blockchain Technologies, 2020, Avivah Litan, Adrian Leow, 13 July 2020
ガートナーは、ガートナー・リサーチの発行物に掲載された特定のベンダー、製品またはサービスを推奨するものではありません。また、最高のレーティング又はその他の評価を得たベンダーのみを選択するようにテクノロジーユーザーに助言するものではありません。ガートナー・リサーチの発行物は、ガートナー・リサーチの見解を表したものであり、事実を表現したものではありません。ガートナーは、明示または黙示を問わず、本リサーチの商品性や特定目的への適合性を含め、一切の責任を負うものではありません。
*2 : Gartner, リサーチ・メソドロジ ハイプ・サイクル https://www.gartner.com/jp/research/methodologies/gartner-hype-cycle
※本対談は2020年8月17日に実施されたものです。PwCグローバルネットワークとVeChainとの協業事例は当時のものです。
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