税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第16回:グローバル本社による海外税務調査へのアプローチ

  • 2026-03-09

昨今、グローバル・ミニマム課税(Pillar2)をはじめとした国際課税制度の複雑化が進む中で、コロナ禍後の景気対策や累積赤字により、多くの国で債務残高が過去最大水準となっています。これを受けて、新興国を中心に海外税務調査における積極的な課税執行が増加しています。

こうした海外税務調査に共通する課題としては、言語面などから現地スタッフに頼らざるを得ない中で、本社とのコミュニケーションは日本人駐在員が主体となって進める必要があることが挙げられています。また非常に限られた時間で多額の追徴課税に対する判断が求められるなど、海外子会社・グローバル本社の双方において高い税務対応力が求められます。

本稿では海外税務調査を含む税務リスク管理について、グローバル本社で実施すべき取り組み例を紹介します。

海外税務調査における課題

多くの日系企業では、グローバル本社の税務人材が限られる中で、現地の税務実務は海外子会社に任せていることが一般的です。海外子会社との連携は、外国子会社合算税制やグローバル・ミニマム課税に関連した現地決算・申告情報の収集など、日本の税制対応に関連した項目に限られていることが多いものと思われます。

また海外子会社の日本人駐在員は税務経験者でないことも多く、また現地スタッフも税務に詳しいわけではないことから、日々の法人税や間接税(VAT・GST)の税務申告などの現地コンプライアンス業務については、大部分を外部税務アドバイザーに任せている状況が大半です。こうした中で海外子会社では、海外税制の改正や影響などについての把握が十分できていないことから、不適切な税務処理を見逃しているケースも少なくありません。

また、現地税務当局による税務調査の際には、日本人駐在員の交代時における不十分な引き継ぎや、過去に担当していた現地スタッフの退職によって税務調査などへの知見が継承されておらず、手探りで調査対応を進めざるを得ない状況も見受けられます。さらには、調査対応における業務負荷が本社への報告遅れの原因となるなど、非常に限られた時間で判断が求められる中で、海外子会社の日本人マネジメントとして税務当局からの指摘を受け入れざるを得ない状況に追い込まれていきます。結果として、多額の追徴課税が発生するおそれも生じます。

グローバル本社による海外税務調査へのアプローチ例

このように、海外税務調査は税務リスクの高い事象と捉えることができます。海外子会社と普段から適切な連携がなされていないと、調査が入ったことが本社に知らされず、事後的に結果報告を受けるケースも散見されます。これを防ぐためには、グローバル本社において税務リスクの見える化を行い感度を高めていくとともに、海外税務調査が始まった際のコミュニケーション方法を定めるなどのルール化を通じて、円滑に海外子会社を支援できる体制を整備することが効果的です。

ポイント1:税務リスクの見える化

「税務リスクの見える化」と言うと、現地税制に対する深い知見が求められる上に、個別案件や取引に依存することから、定量化が難しいものと捉えられがちです。しかし、グローバル全体を俯瞰するというマクロの観点の下、カントリーリスクや会社規模・複雑性などのいくつかの要素を掛け合わせることで、進出先の各国における税務リスクについて、共通のパラメータに基づき定量化することが可能です。

定量化にあたっては、各国における固有の税務リスクを反映させることも有用です。一般的に税務リスクは、現地税務当局における税務執行の姿勢や、その背景となる国家予算における税収割合や予算達成度に対する厳格さなどの影響を受けます。特にアジアの一部の国においては、現地税務当局による積極的な課税執行が行われるなど、現地ビジネス遂行の観点からも税務リスクは重要な要素として認識されています。グローバル本社がこういった国に対して重点的にフォローできるよう、見える化における仕組みに落とし込むことがポイントとなるでしょう。

以下の図表(図表1)は、日系グローバル本社が実際に取り入れている見える化の事例です。

図表1:グローバル本社による見える化例

見える化のポイントは、グローバル本社として各国固有のリスクや、各社の税務体制や特徴などを含めた税務関連情報を集約化し、税務リスクを管理していく際の感度を高めることです。同時に、こうした情報を会計上の税務引当や不確実な税務ポジション(Uncertain tax positions、UTP)に関する経理部門との議論にも役立て、さらにはグローバルCFOを含む経営層に対して税務リスクに関する早期の注意喚起を促すなど、マネジメント目線での活用を念頭に置いた設計が肝要となります。

ポイント2:海外子会社とのコミュニケーション方法のルール化

見える化を進めるにあたっては、海外子会社とのコミュニケーションによる連携を通して情報共有を深めていくことで、より精度を高めることができます。一方で海外子会社の観点からは、本社への報告義務が増加した場合、実務を優先せざるを得ずルールが形骸化する可能性があるため、海外子会社にとっても有益なコミュニケーション方法になるよう留意が必要です。

以下の図表2はグローバル本社と海外子会社(地域統括会社:RHQや現地子会社)間における定期的なコミュニケーションと、税務調査が入った際のコミュニケーションのそれぞれのパターンを取り上げ、どういった内容を情報交換していくかを事例としてまとめています。

図表2:海外子会社とのパターン別コミュニケーション例

こうしたルール化を実施していく際、海外税務調査時における税務部門をはじめ、関係者の役割やレポーティング事項などを明確にすることで、円滑なコミュニケーションが可能となります。特に海外税務調査では、初動対応の巧拙が最終的な結果にも大きく影響を及ぼし得ることを踏まえ、過去の税務調査対応における知見を社内規程などで平時から体系化・文書化しておくことが推奨されます。

一例として、以下の図表3は社内規程における税務ガバナンスに係る税務方針、およびグループ税務管理規程に含まれるコンテンツ例をまとめたものです。

図表3:税務調査対応の体系化・文書化例

今後の展望

以上のとおり、新興国をはじめとした海外税務調査における積極的な課税執行に対応していく上では、海外子会社とグローバル本社との密な連携が鍵となります。また、昨今では税務調査のデジタル化に伴い、先進国・新興国を問わず税務当局でのAIやデータを活用したリスク・ベース・アプローチの導入などが進んでいます。

日系企業におけるグローバル本社の限られた税務人材では、これらに対応していくことは非常に困難です。テクノロジーの活用や外部税務アドバイザーの起用も視野に入れつつ、上記の税務リスクの見える化や海外子会社とのコミュニケーション方法のルール化によって、税務リスク管理の高度化および効率化を図っていくことが望まれます。

執筆者

秋山 賢介

シニアマネージャー, PwC税理士法人

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