税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第10回:国税庁における税務CGの充実に向けた取り組み

  • 2025-01-28

国税庁では、企業の税務コーポレートガバナンス(税務CG)の維持・向上には、自ら税務CGを充実させていくことが重要かつ効果的であるという趣旨に基づき、その充実を促進する取り組みを2011年7月より実施しています。この取り組みは時流の中で2回見直されており、最近では2021年6月にも見直しが行われています。この最近の見直し内容を踏まえ、この取り組みから垣間見える税務CGの課題などについて説明します。

国税庁によるこの税務CGの充実に向けた取り組みは、協力的手法と位置付けられています。具体的には、下図のとおり、税務調査時における税務当局による①税務CGの確認、②税務CGの判定、③その判定結果に基づく経営責任者等との面談による企業への要改善事項等の伝達、④企業による要改善事項への対応というサイクルを繰り返し行うことで、大企業の適正申告に向けた自発的な取り組みを後押しするというものです。企業が、この税務CGの取り組みを通じて税務CGの向上を図るということは、企業にとって将来の税務調査による追徴課税を受けるリスクの軽減、それに伴う経営の確実性・安定性の向上、税務調査時期の延長による事務負担の軽減などのメリットがあると考えられます。

図表:国税庁による税務CGの充実に向けた取り組みの概要

上述②の税務当局による税務CGの判定は、次の7つの評価項目を総合的に判断して行われます。国税庁より各項目別の評価結果が「良好」、「おおむね良好」、「改善が必要」の3区分により公表されていますが、「改善が必要」とされる企業の割合が高い、すなわち課題と考えられる項目は3、4となっており、税務CGの充実をより一層促進するために、これらの項目の改善の重要性が高まってきています。

  1. 経営責任者等の関与・指導
  2. 税務(経理)担当部署等の体制・機能
  3. 税務に関する内部牽制の体制
  4. 税務調査での指摘事項等に係る再発防止策
  5. 税務に関する情報の周知
  6. 税務調査への適格な対応
  7. 帳簿書類等の保存状況

このような税務CGにおいて、再発防止の徹底が図られ、企業の内部体制が強化されることが期待される中、2021年6月の見直し時に、調査で把握された誤りについて、当局が紹介する再発防止に関する効果的な事例等を参考に、企業に再発防止策の策定および運用を要請し、当局がその内容を聴取するという新たな取り組みが実施されています。

そして、国税庁よりこの効果的な改善事例として公表された事例を見ると、最近、新たなシステムの導入や既存のシステムの改修によるデータ管理・分析の推進事例が必ず紹介される傾向にあります。これは、国税庁の「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」における税務行政の目指すべき将来像の1つの柱として、税務調査におけるデータ分析の活用等の取り組みをさらに進めていく方針が打ち出されている中で、企業における再発防止の徹底、企業の内部体制強化においてもシステムの活用による有効性を示唆しているものと考えられます。日本における税務CGのこのような潮流を踏まえると、効果的な再発防止策を導入して税務CGを向上する観点における対応策の一つとして、税務リスクデータ分析ツールのようなシステムの導入が考えられるのではないかと思われます。

執筆者

浅川 和仁

パートナー, PwC税理士法人

Email

経営課題に影響を及ぼす「税」の最新動向 コラム・対談

20 results
Loading...

税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第12回:選ばれる税務部門への変革に必要なこととは

昨今の人材不足の中で、徐々に管理部門への人材配置が厳しくなっているなか、税務部門の業務運営に対する危機感が増しています。「社内外の優秀な人材を税務部門に確保するために、何をどうすればよいか」を解説します。

移転価格の実務対応解説シリーズ【テーマ別】第4号:移転価格上の無形資産評価業務におけるDCF法適用上の留意点

本シリーズでは、グローバルに展開する日本企業に向けて、移転価格の実務対応についてテーマ別に取り上げ、わかりやすく解説します。第4号となる今回は、無形資産の一般的な評価手法について概観した後で、DCF法の適用に係る各種ガイドラインと、付随する留意点について解説します。

税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント 第11回:税務部門の役割と他部門との連携―期待される責任範囲の明確化―

昨今の国際情勢において、関税への備えを企業側も強化することが求められています。主に上場企業や多国籍企業の関税管理における業務上のポイントや税務部門の職掌範囲、調査への対応などについて解説します。

Loading...

インサイト/ニュース

20 results
Loading...

米国の差別的または域外適用的な税制への対応 ― 内国歳入法(IRC)Section 891、およびSection 899(案):BEPSニュース

米国では、米国市民や米国企業に対して差別的または域外適用的な税を課すと見なされる外国に対応するために、特定の外国企業・個人の所得に対して追加の税を課す規定に基づいた大統領令が発令されています。これらの規定が適用される可能性について解説します。

米国トランプ政権による「OECD Global Tax Deal」に関する大統領令の発出―デジタル課税第1の柱/利益Aへの影響、および第1の柱/ 利益Bに関する最新動向について―:BEPSニュース

2025年1月20日に発足した米国トランプ政権は、世界の租税・貿易政策についてバイデン政権からの明確な方向転換を示唆しました。このうち、「OECD Global Tax Deal」に関する大統領令の概要、第1の柱/利益Aおよびデジタルサービス税(DST)への影響などについて解説します。

Loading...

本ページに関するお問い合わせ

We unite expertise and tech so you can outthink, outpace and outperform
See how