税務ガバナンス対応支援コラム―企業の税務オペレーションを円滑に進めるためのヒント

第6回:無形資産の所在地と税務ガバナンス

  • 2024-05-30

国内外の法制度改正などにより、税務申告対応の複雑化・高度化が見込まれています。企業においては、従前からの法令遵守としての納税申告対応に加え、さまざまなステークホルダーへの税務情報開示など、新たな社会的責務に対応することが求められています。こうした対応を行うにあたり、企業の税務部門には税務テクノロジーの活用を含めた体制整備や税務人材のリソース確保などの早期の検討が求められています。

シリーズ第6回は事業会社の税務部門での経験を有するPwC税理士法人の松尾 陽一が、無形資産の価値が重要なビジネスにおける税務ガバナンスの特徴を、医薬品事業を例に挙げて解説します。

研究開発型産業としての医薬品事業はクスリの有効成分の基本特許、すなわち無形資産が価値の根幹を決定するビジネスです。本稿では医薬品業界を例にとり、無形資産の所在・形成と税務ガバナンスの特徴を解説します。

図は医薬品の投資期間と回収を簡略化したものですが、長期かつ多額の研究開発投資が先行します。研究開始時から承認・販売にまで至る割合は約30,000分の1と低く、上市にまで至った製品の特許有効期間の販売収益で過去の投資を一気に回収します*1。このような事業の特性により、無形資産価値の保有と育成の場所についての日本本社と外国子会社の関係にはいくつかのケースが見受けられます。

1. 日本で研究開発を実施し、日本国内に無形資産がある場合

日本本社は米国子会社に開発業務を委託し、開発費用を負担のうえ、成果としての無形資産の価値を日本に集約することがよく見られます。開発の継続・中止の判断も日本本社が実施し、費用負担の妥当性と研究開発利益の集中・極大化を図ります。

図表 2

2. 開発の権利を外国子会社(または第三者)にライセンスアウト(導出)する場合

グローバル市場へ展開するためには、米国で自社品の販売承認を得ることが重要であり、医薬品の開発においては米国での開発治験がメインとなります。

この場合、開発責任者を外国子会社に置いて日本から開発権を導出し、開発作業を進めるという選択肢があります。開発の主導権と費用負担を外国子会社に担わせることで、製品が完成した場合の無形資産の主要部分は外国子会社が所有することとなります。

なお、開発権を渡す以前の有効成分の創製と研究成果は本社側にあるため、製品の販売利益は日本本社と外国子会社の貢献に応じて配賦する必要があります。

また、ときにはM&Aの実施により獲得した新規領域の開発機能が日本側になく、国内で開発を進められないこともあります。その場合、買収により獲得した無形資産の保有とその後の開発を子会社側で引き続き進め、製品完成後の利益は子会社側で実現し、日本の親会社は配当による利益還元を図るという方策も視野に入ってきます。

外国子会社に開発リソースがない場合、第三者との共同開発またはライセンスアウトも選択肢となります。

3. グローバル販売の形態

医薬品各社は海外売上高の拡大による収益最大化を目指しており、日系上位11社平均の海外売上高比率は53.1%に達しています。(2019年3月期)*2

海外販売子会社等の自社販路を持つ企業は主要エリアをカバーする販売統括会社を設置し、傘下に置く各国販売子会社との商流・物流を一括管理することにより、統括会社・販社の責任・機能に応じた利益配分を行うケースが見られます。

一方、充分な海外販売拠点を持たない企業は、開発した新薬を欧米のメガファーマとライセンス販売契約を締結し、販売ロイヤルティを獲得するという方法をとることもあります。

冒頭に述べた特性が影響するため、医薬品事業の無形資産の保有・コントロールの方法は他産業よりも複雑であり、利益配分の手法もバラエティに富んでいます。近年のビジネスの進展により日本だけで無形資産を育成し続けるのが難しい状況になっていると感じられる方も多いかと思いますが、1つのヒントとなれば幸いです。

図表 3

*1 日本の医薬品産業の特性・最近の動向と税務面の特徴 ― 第1号:グローバル医薬品市場における日本の位置づけ
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/digital-tax/assets/pdf/pharmaceutical-industry-tax01.pdf

*2 薬価制度抜本改革に係る医薬品開発環境および流通環境の実態調査研究 別添5
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202022025A-buntan1e.pdf

執筆者

松尾 陽一

ディレクター, PwC税理士法人

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