
財経部門の業務プロセスを変える生成AI活用実証実験の裏側――チャットボットの枠を超えて、真の生成AI変革を実現
業務プロセスの改革を目指す大手商社の三菱商事株式会社とPwC Japanグループは、共同で生成AIを用いた財務経理領域の業務自動化の実証実験を行いました。専門的な知見とテクノロジーを掛け合わせ、実験を成功に導いたプロジェクトメンバーの声を聞きました。
2021-12-24
徹底したデータ分析は、企業にとって重大な意思決定の一つであるM&Aにおいても、自社や買収先の価値を最大化するために欠かせない。M&A戦略におけるデータ利活用のあり方について、2021年1月に株式会社東京ドーム(以下、東京ドーム社)をTOB(株式公開買い付け)で買収した三井不動産株式会社 ソリューションパートナー本部 東京ドーム事業部長の松野健太郎氏と、M&Aを通じた企業価値創出支援を数多く手がけてきたPwCアドバイザリー合同会社 加藤靖之に聞いた。
―経営の意思決定において、データの利活用はもはや不可欠となっています。M&A戦略においても、その重要性は高まっているようですね。
加藤:一般的にM&A案件では、1~2カ月という非常に短い期間で、戦略、ファイナンス、税務、人事、IT、ESGなど、あらゆる側面から周到なデューデリジェンス(投資先の成長ポテンシャルやリスクの調査)を行わなければなりません。
そうした条件の下で、統合的かつ精度の高い意思決定を行うには、データによる徹底した分析が求められます。
近年は、データ量の激増およびアナリティクス技術の向上によって、デューデリジェンスにおけるビッグデータアナリシスが必要不可欠となってきました。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー Deals Digital リーダー 加藤靖之
―コロナ禍においても、M&Aは活発に行われていますが、具体的にどのようにデータの利活用が進んできているのでしょうか。
加藤:この1年半は、事業環境が著しく変化した小売りやエンターテインメント、ホスピタリティー業界など、実店舗や施設を複数保有する事業のM&Aが活発に行われています。
このような事業を買収する場合、マーケットや顧客行動などの事業環境の変化を精緻に読み取り、コロナ禍による短期的な影響や回復の見立て、不可逆的な変化を見極める必要があります。
そのために、企業の財務実績データや市場統計データだけでなく、顧客単位の購買データや人の行動データ(人流)、地理情報といった広範囲なデータをリアルタイムで活用する動きが進んでいます。テキスト情報や画像データを分析に組み込むことも増えてきました。
例えば、小売店舗とECプラットフォームの両方を保有する事業では、コロナ前後で店舗商圏に滞在する顧客属性がどう変化したか、顧客動線がどう変わったのかを定量的に比較したり、ECの顧客の購買パターンが小売りの実店舗にどうつながっているかを多様なビッグデータを用いて分析したりしています。以前では見えなかった投資先の成長ポテンシャルや課題を高い精度で評価できるようになりました。
―三井不動産が東京ドーム社の買収を決定した際にも、やはり精緻なデータ分析を行われたと伺っています。後ほど詳しく伺いますが、まずは今回の買収の経緯についてお聞かせいただけますか。
松野氏:2020年11月からTOBを実施し、東京ドーム社の全株式を約1200億円で取得しました。買収後、株式の20%を株式会社読売新聞グループ本社(以下、読売新聞社)に譲渡しています。
ご存じのように、東京ドームは、後楽園・水道橋という東京の一等地に位置するスポーツスタジアム・エンターテインメント施設として、価値の高い事業を行っています。一方で、東京ドームを含む約4万坪の「東京ドームシティ」は、本来持つポテンシャルをさらに引き出せる可能性を秘めていると考え、ぜひ価値を共創させていただきたいという思いを以前より持っていました。
事業価値を最大化するため、「球団と球場の一体化」を目指している読売新聞社にも株主になっていただき、当社と読売新聞社、東京ドーム社の三社一体で価値創造に取り組むことになりました。
三井不動産株式会社 ソリューションパートナー本部 東京ドーム事業部長 松野健太郎氏
―三井不動産としては、どのような価値を東京ドームに提供できると考えていますか。
松野氏:東京ドームシティには、東京ドームに加え、ホテルや商業施設、遊園地、スパなど、様々な施設があります。そこに当社がこれまで培ってきた施設や街づくりの豊富な経験とノウハウを加えることによって、事業価値をさらに高められると考えています。当社と読売新聞社の持つ独自の顧客データを東京ドームシティのマーケティングに生かし、新しいお客様にリーチできるのではないかと期待しています。
当社はこれまでにも、甲子園、広島、横浜、神宮外苑でスタジアムと連携した再開発に携わった経験がありますが、自らが資本を入れてスポーツエンターテインメント施設を核とした街づくりに参画するのは初めてです。今回の踏み込んだ取り組みによって、より多くのノウハウが得られるのではないかと期待しています。
―今回の買収に当たり、三井不動産はどのようなデューデリジェンスを行ったのでしょうか。
松野氏:デューデリジェンスの時間は限られていましたが、ありとあらゆる入手可能なデータを集め、詳細な分析を行いました。例えば、携帯電話の位置情報に基づく人流データの分析もその一つです。
東京ドームシティは立地には恵まれているのですが、野球の試合やコンサートが終わった後、他の施設に立ち寄らず、そのまま帰ってしまう人が多いことがデータで明らかになりました。しかし、今後の施策によって、こうした人たちの回遊性、さらにはリピート率を上げることが可能だと考え、成長ポテンシャルが十分にあると判断しました。コロナ禍による事業環境の変化が大きい中での意思決定でしたが、データアナリティクスの活用がデューデリジェンスに大きく貢献したのは間違いないですね。
―現在、PMI(買収後の統合プロセス)の段階に入っているそうですが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
松野氏:デューデリジェンスで洗い出したポテンシャルを具現化させることに加え、東京ドーム社が目指すビジョンに向かって、当社、読売新聞社のそれぞれの強みを生かした価値創造の戦略策定やアクションプランの実行を行っています。
球場に関しては、22年シーズン開幕に向け大改修に着手しました。球場以外については、単に施設をリニューアルするだけでなく、読売新聞社の協力を仰ぎながらブランド性を高めていくための施策を講じています。当社と読売新聞社、東京ドーム社が持つデータを組み合わせて、顧客・ブランド資産を最大化することで、野球やコンサートの観客だけでなく、より多くのお客様を呼び込める場所にし、より良い顧客体験を提供していきます。
また、データアナリティクスの活用を実施するためには、デジタルに関する知見が広く、深く必要です。変化がとても速く、最新の技術や制約をしっかり押さえていないと、大きな判断ミスもあり得ます。そのため、的確な構想と意思決定を行える人材が求められますが、そうした人材はすぐに見つかるものではありません。
そこで、デジタルマーケティングについては、社外の専門家を入れたアドバイザリーボードを組成してプロジェクトを推進しつつ、自社の人材育成も進めています。こうして得たノウハウ・人材は当社の大きな資産になるでしょう。今回の経験を自社に還元し、三井不動産グループ全体のDX推進もさらに加速させていきます。
―今後、M&A戦略の策定や意思決定、投資後の価値創造でのAIやデータの利活用が増えてくると思います。そうした場面において、重要なポイントを教えてください。
加藤:まずデューデリジェンスの目的とそれを達成するために利活用するデータの発想を変えるべきです。
真にM&Aを成功させるためには、リスクの発見にとどまらず、投資後の価値創造ポテンシャルを探索することを目的としたデューデリジェンスが不可欠です。ビッグデータを用いた分析を行い、投資後の価値創造の道筋を考え抜かなければなりません。
冒頭でも述べましたが、ここ数年で、分析手法が大きく進化しています。5年前からデューデリジェンスの進め方が変わっていないのであれば、目的と手段を見直すタイミングに来ていると思います。
次に、デューデリジェンスで行ったビッグデータアナリシスを買収後の経営管理のフレームワークとして基盤化し、恒久的なデジタル経営に進化させていくことです。
M&A戦略やデューデリジェンスから投資後の価値創造までの一連のプロセスにおいて、データを「点」として利活用するのではなく、「線」としてつなげることで構造的に蓄積し、学習サイクルを備えた経営エンジンに育てていくことが重要だと思います。
M&Aの一連のプロセスをデータによってつなぐことができれば、それが自社のM&Aの形式知となり、成功確率を上げることにも寄与します。
―企業の成長にM&Aが不可欠な時代、AIやデータアナリティクスはますます求められてくると言えそうですね。
加藤:買収した事業の価値を向上させるのは、結局のところ、買収者がもたらす「経営シナジー」です。そして、経営シナジーの創出には、AIやデータアナリティクスによる「デジタル経営力」が欠かせません。
おっしゃる通り、スピードの速いグローバル競争下においてM&Aは事業成長に不可欠な戦略ツールですから、「デジタル経営力」=「M&A力」=「成長力」と言えるのではないでしょうか。この方程式を成立させるために、M&Aをきっかけにデジタル経営に取り組み、そこで獲得したノウハウを自社グループの経営力に還元する仕組みが必要だと思います。M&Aはデジタル経営に取り組む絶好のチャンスです。
※本稿は日経ビジネス電子版に2021年に掲載された記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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