コーポレートガバナンス・コードおよび投資家と企業の対話ガイドラインの改訂案(2021年)の公表

2021-04-09

金融庁および東京証券取引所を事務局とする「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、「フォローアップ会議」という)において、「コーポレートガバナンス・コード」および「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂が議論されていましたが、この度、両者の改訂案が公表され、2021年4月7日から5月7日まで意見募集(パブリック・コメント)が行われています。また、「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて (市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」1が2021年4月7日に東京証券取引所から公表されています。

コーポレートガバナンス・コード改訂(2021年)に向けたこれまでの動き

コロナ禍を契機とした企業を取り巻く環境の変化の下で、持続的成長と中長期的な企業価値の向上の実現に向け、取締役会の機能の発揮、企業の中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取り組みといったガバナンスの諸課題に企業がスピード感をもって対応することが重要になっています。

また、2022年4月より東京証券取引所において新市場区分の適用開始が予定されています。新市場区分におけるプライム市場は、日本を代表する、投資対象として優良な企業が集まる、国内のみならず国際的に見ても魅力あふれる市場となることが期待されています。プライム市場の上場会社は、一段高いガバナンスを目指して取り組みを進めていくことが求められます。新市場区分でのスタンダード市場やグロース市場においても、その上場会社はそれぞれの市場の特性に応じつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指してガバナンスの向上に取り組むことが重要になります。

コーポレートガバナンス・コード改訂についてフォローアップ会議での議論が進む中、2020年12月には、企業がより高度なガバナンスを発揮することを後押しするために「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5))(以下、「意見書(5)」という)が公表されました。その後も、フォローアップ会議において、サステナビリティやグループガバナンス、監査に対する信頼性の確保などの項目についても議論・検討を重ね、意見書(5)の内容に加えて、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下での「コーポレートガバナンス・コード」の改訂が提言されました。また、企業と機関投資家の建設的な対話を一層実効的なものとするため、「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂もあわせて提言されました。

これらのフォローアップ会議で議論された全ての論点は「コーポレートガバナンス・コード」の改訂には直接的に反映されていませんが、「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂に織り込まれたものもあります。そのため、企業は「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂についての対応もあわせて検討することが求められるといえます。

投資家と企業の対話ガイドライン改訂案(2021年)の概要

投資家と企業の対話ガイドラインの改訂案では、8項目が新設されました。その結果、項目数は21から29に増えました。改訂箇所は図表3の通りです。

図表3 投資家と企業の対話ガイドライン改訂案(2021年)の改訂箇所

1.経営環境の変化に対応した経営判断

新設

1-3

・ESG、SDGs、デジタルトランスフォーメーション(DX)等の環境変化の経営戦略への適切な反映

・サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みの整備

加筆

1-4

・新規事業→「より成長性の高い」新規事業

2.投資戦略・財務管理の方針

加筆

2-1

・人材投資等の内訳に「人件費」を追記

加筆

2-2

・営業キャッシュフローの十分な確保、持続的な経営戦略・投資戦略の実現が図られているか

3.CEOの選解任・取締役会の機能発揮等

加筆

3-2

・指名委員会が「必要な権限を備え」ることを追記

加筆

3-5

・報酬委員会が「必要な権限を備え」ることを追記

加筆

3-6

・取締役会の多様性に「職歴」と「年齢」を追記

加筆

3-7

・取締役会の実効性評価に際し、各取締役や委員会についての評価が適切に行われているか

加筆修正

3-8

・必要な資質を有する独立社外取締役が、十分な人数選任されているか

・必要に応じて独立社外取締役を取締役会議長に選任することを含め、監督の実効性を確保しているか

加筆

3-10

・監査役の選任について監査役会の同意を追記

加筆

3-11

・監査上の主要な検討事項(KAM)の検討プロセスにおける監査役と外部会計監査人との協議

新設

3-12

・内部通報制度に係る体制・運用実績の開示・説明

4.ガバナンス上の個別課題

新設

4-1-1

・株主総会での反対理由や反対票が多くなった原因の分析・説明

新設

4-1-2

・招集通知・議案についてのウェブサイト等での情報開示

新設

4-1-3

・有価証券報告書の株主総会前開示の検討

・総会日程を含めた株主総会の在り方の検討

新設

4-1-4

・バーチャル株主総会を開催する場合の透明性・公正性の確保

加筆

4-2-1

・政策保有株式の検証に際して独立社外取締役が実効的に関与しているか

・検証の方法を含めた開示

新設

4-3-2

・企業年金の運用委託先の選定

新設

4-4-1

・株主との面談の対応者としての「筆頭独立社外取締役」の設置

今後企業が求められる対応

上場会社は、遅くとも2021年12月末日までに今回の改訂コーポレートガバナンス・コードに対応した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を開示することが求められる予定です。ただし、コードの各原則に規定された内容のうち、プライム市場の上場会社を対象とするもの(図表2)については、2022年4月4日の新市場区分移行後に開催される株主総会後、速やかにこれらの原則等について記載した同報告書の提出を求められることが想定されています。

企業がどの市場区分を選択するにせよ、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂箇所を中心に自社の対応状況を見直すことが必要と考えます。また、その際には、「投資家と企業との対話ガイドライン」の改訂についてもあわせて検討することになると思われます。

「コーポレートガバナンス・コード」の改訂点に関連して、追加的な対応が必要な項目がある場合には速やかに対応を検討すること、また、その際に対応に時間を要するものがあれば、いつ対応を行う予定であるかを含め、説得力のある説明(エクスプレイン)が求められます。

執筆者

PwCあらた有限責任監査法人 コーポレートガバナンス強化支援チーム
シニアマネージャー 足立 順子

※法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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