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前編では、基幹システム刷新の「上流工程」――構想策定、業務要件定義、ベンダー選定のポイントを議論しました。後編では、実装フェーズの「難所」と、導入後の定着に焦点を当てます。テストや周辺システムとの連携をどう進めるか。建設業特有の不確実性に対し、どのようなKPIを見える化すべきか。そして、システムを現場に定着させる「チェンジマネジメント」をどう設計するか、実践的なアプローチを語ります。
(左から)尾崎 駿介、豊島 久美子、藤野 真治
参加者
豊島 久美子
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
藤野 真治
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
尾崎 駿介
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
※法人名・役職などは対談当時のものです。
藤野:
前編では、ベンダー選定までの「上流工程」で押さえるべきポイントを整理しました。では、実装が始まる「下流工程」で何が問われるのか。テスト、社員教育、データ移行など、このフェーズにはつまずきやすい論点が集中します。だからこそ、早い段階から計画を具体化し、実行し切れる体制を整えられるかが成否を分けます。私たちのPMO(Project Management Office:プロジェクトマネジメントオフィス)支援では、実装まで伴走することで、こうした失敗リスクを抑える対応を行っています。
豊島:
下流工程では、クライアントがベンダーと直接向き合う場面が増えます。私たちはその間に入り、クライアント側の立場で意思決定と調整を支援します。また、プロジェクトの難所として「テスト」があります。テストが不十分なまま進めると、稼働時にシステムが想定どおりに動かない、あるいは稼働後に不具合が顕在化するといった事態につながります。
十分なテストには、人手も時間も必要です。だからこそ、「どこまで検証すれば十分か」「どの体制で進めるか」「社員教育とどう一体で進めるか」を設計することが問われます。
尾崎:
「基幹システムと周辺システムをどうつなぐか」も大きな難所となります。各ベンダーはどうしても自社の担当範囲を優先して見ます。その結果、システム間やベンダー間の境界で起きる課題は、誰も十分に拾えないまま残りがちです。こうした「境界」の論点を整理し、全体として成立する形にまとめることこそ、私たちのような第三者支援の大きな役割です。
基幹システムに合わせて周辺システムも見直す企業では、5年後、10年後を見据えた全体構想が描かれていることが少なくありません。その構想があると、基幹システム刷新の中で周辺システム連携を検討する際にも、「3年後の変更を見据え、今はこの形で連携する」といった判断がしやすくなります。目先の要件だけでなく、将来像を踏まえて今の設計を決める。そこまで見通せるかどうかで、刷新の質が変わります。
一方で、将来構想が曖昧なままだと、「このデータは連携したいが、2年後には対象システム自体がなくなるかもしれない」といった不確実さが設計判断を難しくします。会計、原価管理、積算、営業、リソース管理など、基幹システムは多くの業務と周辺システムに関わります。だからこそ、個別最適ではなく、システム全体を見渡して最適な形を導く視点が求められるのです。
豊島:
「全体を見渡す視点」に関連しますが、そもそも「基幹システム」が指す範囲自体、企業によって大きく異なります。一般的には原価管理や会計が中心ですが、営業やリソース管理まで含めて「基幹」と捉える企業もあります。そのため個別業務ごとの最適化だけでは不十分で、「全体構想の中で基幹システムをどう位置づけるか」という視点が必要になってきます。その方向性を定める上では、経営層の意思が刷新計画にしっかり反映されていること。ここが起点になります。
尾崎:
全体最適に向けた課題整理で私が意識しているのは、「外部の視点」が持つ価値です。社内では当たり前になっていて課題として認識されていないことでも、外から見ると改善の余地が見える場合があります。そうした「見過ごされている論点」を率直に言語化できることも、外部支援の大きな役割だと考えています。
また、社内ルールや従来の慣習が強い組織では、本音の課題が表に出にくいこともあります。私は打ち合わせの中で出る「でも、ここは変わらないから……」といった何気ない一言を、重要なサインとして捉えるようにしています。そうした声の中に、刷新の本質的な論点が隠れていることが多いからです。
その意味では、刷新プロジェクトに参加する層を若手まで広げることも効果的です。実際に、若手の一言がきっかけで、それまで見直せなかった業務課題が解消されたケースもありました。現場に近い視点を取り込むことが、全体最適への近道になることがあります。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 豊島 久美子
豊島:
これからの基幹システムには、単にデータを蓄積するだけでなく、「何を見れば経営判断や業務改善につながるのか」を明確にしたKPIが組み込まれていなければなりません。経営者と現場、それぞれが必要とする指標を定義し、それを日常的に見える状態にしておく。そこが、基幹システム刷新で最も問われるポイントの1つです。
例えば、ある案件を受注したときに、売上はどの程度伸びるのか、人員はどれくらい必要になるのか。あるいは、利益や原価は最終的にどこへ着地しそうか。さらに、人員生産性をどう捉えるかも重要な論点です。こうした指標が見えるようになって初めて、データは経営と現場の判断材料になります。
尾崎:
ただ、その「着地」を見通すこと自体が、建設業では簡単ではありません。工場内で比較的条件を管理しやすい製造業と異なり、建設業は天候や現場条件など外部要因の影響を大きく受けます。だからこそ、工期やコストの予見可能性が低くなりやすいのです。
工事が遅れれば、その分だけ人員を長く配置し続ける必要があり、人の管理も難しくなります。こうした背景があるからこそ、工事の着地見込みや人員状況に関するKPIを、より正確に把握したいというニーズが高まっています。
藤野:
経営者が知りたいのは、来期や再来期の業績がどうなりそうかという見通しです。そのためには、進行中の工事が今後どう進み、進捗に応じてどれくらい売上計上できそうかを把握する必要があります。さらに、受注見込みの案件についても、その後の売上推移を予測できなければ、精度の高い経営判断はできません。
一方で営業は、必ずしも業績予測と同じ視点で案件を見ているとは限りません。例えば、「今期中に受注できる」と見込んでいた案件が実際には来期へずれ込めば、経営側の予測にも影響が出ます。こうしたずれを抑えるには、業務の実態を継続的に確認し、データの背景まで見える化する必要があります。尾崎さんが指摘した「着地の見通しにくさ」に対する、システム側からの答えがここにあると思います。進捗に懸念はないか、実際の着地はどうなりそうかを関係者が共通認識として持てるようにすることが、予測精度の向上につながります。
尾崎:
現場の数字と経営側の認識にずれが生じやすいため、多くの企業では今も支店が現場を直接見に行く体制を取っています。例えば、担当者が月に1回現場を訪れ、管理責任者と会話しながら「実際のところどうなのか」を確認し、その結果を上振れ・下振れの見込みとして報告に反映する。つまり、依然として「人に頼る管理」が大きな比重を占めているのが実態です。
ただ、このやり方は効率的とは言えません。実態に近い着地見込みを把握したいという経営の要請に対し、人手だけで支えるには限界があります。だからこそ、こうした情報をシステムに取り込み、継続的に見える化しようという動きが生まれます。具体的な方法は各社で異なっても、多くの企業が同じ課題意識を持っているのです。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 尾崎 駿介
豊島:
建設業におけるデータ活用の理想は、BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)を起点に、営業、実行予算、購買、原価管理までを業務横断でつなぐことです。点ではなく流れでデータを管理できて初めて、業務全体の精度とスピードが高まります。
営業段階で得た情報が後工程にそのまま引き継がれ、それを基に実行予算が組まれ、さらに購買や原価管理へと連携される。こうした流れが実現すれば、各工程で同じ情報を何度も入力する手間を減らせます。現在は情報が分散しているため、進捗段階ごとに別々に入力せざるを得ないケースが多く、それが現場負荷の一因になっています。
藤野:
豊島さんが描いた「流れでデータを管理する」という理想像を、原価管理の領域で考えてみます。業務横断でつなぐことのメリットは、ここでも非常に大きいです。例えば受注前の積算では、理想的にはAIが設計情報を読み取り、数量と単価を組み合わせて工事費を自動算出することで、担当者はその結果を確認し、「判断する」ことに集中できるようになります。さらに受注後は、その積算情報を基に実行予算の自動作成が実現できれば、「確認」中心の運用へ移行できます。そうした流れをシステムに組み込めれば、業務の質もスピードも変わります。
その先では、実行予算を基に、今後の原価推移や最終着地を見込めるかが鍵になります。進行割合や出来高を踏まえて着地見込みを自動算出し、担当者が確認する──そうした運用が実現すれば、意思決定のスピードと精度は大きく向上します。
ただし、こうした仕組みを実際に構築するには、まだ多くのハードルがあります。案件管理や工事管理の観点では、営業の引き合い段階から工事番号とひも付けて、受注後まで一元管理することは可能だと考えます。一方で、原価管理まで高度につなぎ込もうとすると、より詳細なデータ整備が必要になり、現時点では難しさが残ります。
豊島:
不動産事業を手掛ける企業では、もう少し先まで見据えた管理が進んでいる場合もあります。「工事番号」だけでなく「建物番号」でも管理することで、建物のライフサイクル全体を捉え、修繕やリノベーションにつなげようとする考え方です。
尾崎:
将来的には、営業番号、工事番号、建物番号といった複数の管理番号を、マスターデータ管理の仕組みでつなぐ形になっていくはずです。そうした「データの土台」を整えることが、今後ますます重要になります。
さらに、今後AI活用が広がることを考えると、そもそもAIが使える形でデータが蓄積されていることが前提になります。システム全体の最適化は、単なる効率化ではなく、将来の活用可能性まで見据えて考えるべきでしょう。
図表1:営業から原価管理までのデータ活用
豊島:
建設業界では、システム構築そのものには投資が行われても、導入後に現場へ定着させるための投資は十分でないケースが少なくありません。例えば、更新時にメールで「今後はこう変わります」と知らせるだけでは、利用者はなかなか追いつけません。研修を複数回行う、対面で説明する、すぐ質問できる窓口を設ける――そうした取り組みまで含めて設計するのがチェンジマネジメントです。システムを「入れる」こと以上に、「使われる状態をつくる」ことへ目を向けるべきだと考えています。
尾崎:
豊島さんのお話のとおりで、原価管理システムを導入しても期待したほど活用されていない、という声は実際に少なくありません。背景には、十分な研修がなく、「分からなければこの人に聞いてください」で終わってしまう体制があります。それでは現場には浸透しません。導入後の教育と定着にきちんと投資することが、成果を引き出す前提になります。
藤野:
加えて、意識改革も大切なテーマです。セミナーなどを通じて、システム刷新で起こりやすい課題や、外部支援を活用するメリットを事前に知っておくことは、変革を前向きに受け止めるきっかけになります。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 藤野 真治
豊島:
システム刷新は、「導入して終わり」ではありません。現場に定着し、業務の中で使いこなされて初めて、その価値が生まれます。構想策定から実装、そして定着まで。基幹システム刷新は、建設業の未来を支える業務改革そのものです。その変革に、私たちPwCも伴走してまいります。
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