政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)は2020年6月に運用が開始されました。今般、ISMAPに基づきクラウドサービス事業者に求められる「ISMAP管理基準」について、ISO/IEC 27002等の国際規格の改訂に伴う情報セキュリティ管理基準(令和7年改正版)の改正や政府統一基準(令和7年版)の改訂等を踏まえ、2025年12月25日に全般的な改定案が示されました*1。本稿では、ISMAP管理基準改定案(令和7年12月25日時点)のポイントや背景、今後のISMAP取得や対応への影響等について解説します。
今般のISMAP管理基準の全般的な改定は、制度開始当初から存在していた構造的課題への対応が背景にあります。ISMAPは、政府調達におけるセキュリティ基準を担保するために極めて堅牢に設計されていますが、その堅牢性から取得・維持のハードルが高いとの指摘もありました。そのため、ISMAPを取得するクラウドサービス事業者は増加傾向にあるものの、現時点では十分な普及に至っているとは言えません。本来、ISMAPが求める管理策は入札参加の前提条件として位置づけられていたにもかかわらず、必ずしもその要件が徹底されていない状況にあります。また、政府機関等におけるクラウドサービスの利用状況の観点からは、第38回ISMAP運営委員会の議事要旨によれば、当該機関等が利用しているクラウドサービスのうち、ISMAP登録済みの「IssS+PaaS」の利用率は95%(対前年度比+1%)に達している一方、「SaaS」は58%(対前年度比±0%)にとどまり、ISMAP登録済みのSaaSの利用率が伸び悩んでいる現状があります*2。
今回の全般的な改定の背景には、以下に示す課題を解消するとともに、より多くのクラウドサービス事業者に対してISMAP取得を促す意図があるものと考えられます。今後、クラウドサービス事業者においては、自社が提供するクラウドサービスのセキュリティ水準が政府の要求水準を満たしていることを説明する上で、ISMAPの取得が事実上の前提条件となると思われます。
ISMAP管理基準は、制度発足当初より国際規格であるISO/IEC 27001(JIS Q27001)、ISO/IEC 27002(JIS Q 27002)をベースとしつつ、クラウドセキュリティ規格のISO/IEC27017(JIS Q 27017)、政府機関に求められるセキュリティ水準である政府統一基準、さらに米国連邦政府のセキュリティ基準であるNIST SP 800-53の要素を統合して構成されています。2022年にISO/IEC27001、27002が改訂され、対応するJIS規格もその後改正されました。
今回のISMAP管理基準改定案(令和7年12月25日時点改定)では、改正されたJIS規格の内容を取り込む形で見直しがされています。具体的には、従来5章~18章に分かれていた管理策基準(ISMAP管理基準のうち詳細なセキュリティ対策を定めるパート)について、ISO/IEC27002の4つの分類(「組織的管理策」「人的管理策」「物理的管理策」「技術的管理策」)に「クラウドサービス固有の管理策」を加えた5つに整理されました。併せて、従来1081項目あった詳細管理策は、統制目標を実現するために満たすべき必要最小限の内容の記述に絞り253項目に削減されています。
図表1:ISMAP管理基準の構成比較(改定前、改定後)
「ISMAP管理基準の改定について(案)」(国家サイバー統括室、デジタル庁、総務省、経済産業省)を基にPwC作成
なお、組織的な対策を規定するパートである「3章ガバナンス基準」「4章マネジメント基準」については、改定前後で内容・構成に大きな変更はありません。
詳細管理策はこれまで、必須のもの、クラウドサービス事業者が採用・非採用を選択できるもの(ただし非採用には相応の理由が必要)の区分がありました。今回の改定によりこの区分は廃止され、原則として全て必須となっています。一方で、クラウドサービス事業者は自身の提供するサービスと照らし、合理的な適用が不可能、もしくはリスク分析の結果、実施不要と適切に判断した場合は、理由を示すことで対象外とすることが可能とされています。これらの判断を行う際の考え方や理由記載例は、今後策定されるガイドラインにて解説される予定となっています。
また新管理基準では、詳細管理策を具体的に実施するための例示・参考情報として「手引き」が付記されました。手引きの内容は基本的に改定前の詳細管理策をグルーピングして記載したものであり、仮に手引きの内容を全て必須とするような運用となった場合には、制度課題の根本的な変更にならないおそれがあります。手引きを参考にクラウドサービス事業者がどのように個別管理策を選択するのかについての考え方や例示も、ガイドラインに盛り込まれる予定です。今回の改定目的の一つにクラウドサービス事業者の負担削減も目的としてあるため、今後発表されるガイドラインの内容やその動向が重要になってきます。
また、ISMAP登録審査時点での手戻りを防ぐ観点から、クラウドサービス事業者が、ガイドラインに基づき対象外とした管理策や、手引きから選択等した管理策の妥当性等について制度(審査)の確認を受けることができる「事前確認」の仕組みも今後導入される予定です。
今回の改定に合わせて、脅威インテリジェンスの活用や事業継続のための備えなど、従来のISMAP管理基準に記載のなかった内容も盛り込まれました。ISMAP管理基準の基礎としているJIS Q 27001:2023の構成に準じた体系となっています。
図表2:新たに追加された管理策
「ISMAP管理基準_別表 新旧対照表」(国家サイバー統括室、デジタル庁、総務省、経済産業省)を基にPwC作成
改定前のISMAP管理基準は、(X.X.X)という3桁で表現される統制目標(クラウドサービス事業者が、リスクに対応するために達成すべき統制の目標とする項目)と、(X.X.X.X)という4桁で表現される詳細管理策(クラウドサービス事業者が統制目標を実現するために実施して満たすべき事項)で構成されていました。今般の改正で、5章以降の管理策基準については、統制目標は(X.X)という2桁に、詳細管理策は(X.X.X)の3桁に変更になっています。ただし3章ガバナンス基準、4章マネジメント基準については従来通り3桁の統制目標、4桁の詳細管理策という附番がなされており、注意が必要です。
図表3:番号体系の見直し(改定前、改定後)
「ISMAP管理基準の改定について(案)」(国家サイバー統括室、デジタル庁、総務省、経済産業省)を基にPwC作成
2025年12月25日に公表された「ISMAP管理基準改定案公表後のスケジュール(案)」によると、今後の主なスケジュールは以下のとおりです。
上記を踏まえ、2026年9月~12月頃にガイドラインや関係規程類のパブリックコメントが実施されると想定されます。
いつまでに新たな管理基準への対応を求められるかについては、2024年7月1日改定時のスケジュールが参考になります(図表4参照)。この際は、少なくとも6か月の準備期間が確保されていました。今般のISMAP管理基準においては、管理基準の構成が大きく変わり、またガイドラインを踏まえた統制整備や事前審査の枠組みへの対応が必要となることを踏まえると、1年以上の準備期間または並行運用期間が設けられると見込まれます。
図表4:(参考)ISMAP管理基準の2024年7月1日改定時における監査対応準備イメージ
「ISMAP管理基準改定案」(ISMAP運営委員会)を基にPwC作成
今回の改定によってISMAP管理基準が整理されたことで、ISMAP登録を目指しているクラウドサービス事業者にとって従来よりも合理的な負荷でのISMAP取得の可能性が出てきました。また、経済産業省が進めている「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS制度)」においても、委託先のうちクラウドサービス事業者についてはISMAP登録有無等によりセキュリティ対策状況を確認する方針が示されており、クラウドサービス事業者はこれまで以上にISMAP等によるセキュリティ対策状況の透明性向上および説明責任が求められることとなります。
また、SaaS事業者を対象とする負担を軽減した新たな枠組みは、スタートアップや中小規模のクラウドサービス事業者をターゲットとしていることが推察されているため、ガイドラインやISMAP管理基準を含む関係規程の動向に注視いただければと思います。
ISMAPの評価取得は、サプライチェーン全体のセキュリティ強化だけでなく、企業のビジネス競争力向上にも直結します。当社は、ISMAPの指定監査機関として制度開始当初から対応しており、新基準についても円滑な対応が可能です。個別のご相談については、担当までお気軽にお問い合わせください。