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2021-03-15
グローバルで事業を展開する企業が、ヒューマンセントリックなサービスを開発したり、データを一元管理したりする際に求められるのが、データ保護/プライバシー保護への対応です。近年はグローバル規模でデータ保護/プライバシー保護に関する規制が強化されています。企業は自社で保管する顧客情報や従業員データを、規制や法律に則って適切に管理しなければなりません。世界約60カ国で事業を展開する参天製薬では、どのようにグローバルなコンプライアンス体制を構築し、データ利活用と保護を推進しているのか。法務・コンプライアンス本部長の増成美佳氏にお話を伺いました。(本文敬称略)
*本対談はPwC’s Digital Trust Forum 2021におけるセッションの内容を再編集したものです。
対談者
増成 美佳氏
参天製薬株式会社
執行役員 ジェネラル・カウンセル(GC)兼 チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)兼 法務・コンプライアンス本部長
篠宮 輝
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
(左から)篠宮 輝、増成 美佳氏
篠宮:
最初に増成さんのご経歴を教えてください。
増成:
28年間、一貫してインハウスの法務を担当しています。参天製薬に入社したのは4年前で、最初の1年間はライセンスやM&Aなど、戦略案件に特化した法務業務を担当していました。
その後、北米への本格市場参入に先立ち、法務業務全般を統括するため、2年間北米に赴任しました。その後、日本に帰国し、現在は法務・コンプライアンス業務をグローバルで統括する法務本部長兼最高コンプライアンス責任者(General Counsel 兼 Chief Compliance Officer)として働いています。
篠宮:
参天製薬の法務・コンプライアンス本部は、どのようなミッションを担っているのでしょうか。
増成:
ミッションは「会社の持続的かつ健全な成長に貢献する」ことです。法務・コンプライアンスと聞くと、リスク管理や契約審査を行い、「Liability Exposure(責任負担)」を最小化する部門だと思われがちです。私たちはそれに加え、「Business Capability(事業能力)」を最大化するため、法務の観点から専門的なアドバイスをタイムリーに提供し、価値創造と競争力強化を生む経営施策の策定に貢献することを目指しています。つまり、「ビジネスに与えるマイナスを最小化し、ビジネス価値の最大化に貢献する」という役割を担っているのです。
篠宮:
法務・コンプライアンス本部は、グローバルに人材を配置していると伺いました。どのような組織体制なのでしょうか。
増成:
日本、中国、それ以外のアジア地域、北米、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)の5地域体制で、各地域に法務とコンプライアンスの機能を設けています。人員は計33名で、全員が私に報告する体制を構築しています。
篠宮:
プライバシー関連の法規制への対応も、法務・コンプライアンス本部が担っていますよね。
増成:
はい。個人情報を主管する部門が法務・コンプライアンス本部であり、技術セキュリティを担当するIT部門と連携しながら対応しています。法務・コンプライアンス本部の中にはグローバル行政を担当するグループがあります。同グループは、グローバルで個人情報保護を推進する旗振り役として位置付けられています。各地域での施策の実施は、それぞれの法務部門が責任を負っています。
とはいえ、各地域の法務担当者が個人情報保護に関する施策のみに特化できるわけではありません。それ以外の法務にも対応するため、個人情報保護に関する適切なガバナンス体制を構築するのは簡単ではないのです。そこでこのたび、個人情報保護施策の浸透のため、各現地法人で「Privacy Data Manager」を任命しました。彼らは個人情報業務専任ではなく、営業、経理といった本来の業務を持っています。法務部門が提供するトレーニングの受講を他のメンバーに促したり、通知書や同意書のフォーマットの使用を徹底したりして、現場における個人情報保護意識の向上、施策の徹底に寄与してくれています。
参天製薬株式会社 執行役員 ジェネラル・カウンセル(GC)兼 チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)兼 法務・コンプライアンス本部長 増成 美佳氏
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 篠宮 輝
篠宮:
参天製薬は現在、どのような個人情報を扱っていますか。
増成:
多くの方にとって、参天製薬のイメージは「目薬を市販する会社」ではないでしょうか。実は、私たちの主力事業は、市販薬ではなく処方箋を必要とする医療用医薬品としての目薬です。緑内障や白内障などの眼疾患に加え、より深刻な網膜疾患の薬やメディカルデバイスも手掛けており、世界60カ国で販売しています。そのような事業の中で、私たちは「患者様」「お医者様などの取引先」「従業員」という、大別して3種類の個人情報を扱っています。
特に患者様の情報は、健康状態やバイタル(生体)データ、遺伝データといった非常にセンシティブな内容です。例えば、治験時のデータは基本的に、氏名がマスキングされた状態で受領します。しかし、治験を実施した病院の対照表と突合すれば、個人が特定できてしまいます。EU一般データ保護規則(GDPR)では仮名化情報も規制対象とされていますから、厳格な管理が必要です。
篠宮:
バイタルデータをはじめとするさまざまなデータから知見を得て新サービスを開発する機運は、製薬業界全体で高まっていますね。こうしたサービス開発が進めば進むほど個人情報の利活用の機会は増えるでしょうから、法務・コンプライアンス部門の重要性も増すのではないでしょうか。
増成:
おっしゃるとおりです。製薬業界では、人工知能(AI)を活用した新薬の研究や、IoT(Internet of Things)を用いたサービスの開発などが進んでいます。参天製薬も米国企業と合弁会社を設立し、データを活用したメディカルデバイスの開発に着手するなど、次世代の眼科医療にチャレンジしています。サービスの内容によっては、患者様との直接的な関わりや個人データの取り扱いの機会が増えることが想定されるため、取り扱いにはさらなる注意を払う必要があります。
個人情報保護法制は世界各国で厳格化しています。個人情報保護ほど、ここ5~10年で意識と内容が変わった法律はないのではないでしょうか。ビジネスの面からデータ利活用の加速は避けられません。これを適切に行うために、私たちは規制の厳格化という世界的な流れにしっかりと対応しなければなりません。このタイミングを逃したら付いていけなくなる。そんな危機感すら抱いています。
篠宮:
個人情報保護規則への対応をグローバルで円滑に進めるために、どのような取り組みをしていますか。
増成:
最初に実施したのは、グローバル全体で法律の遵守や個人情報保護に対する認識を合わせることでした。各国や各地域、さらには役職や部門によって、個人情報保護の優先順位や、その時点でできていることとできていないことへの認識に差があったからです。ですから第三者に入ってもらい、客観的な視点でアセスメントを実施しました。そして「法律遵守や個人情報保護のあるべき対応」と「参天製薬が実施している対応」を比較し、その結果を経営陣に示すことから始めました。アセスメントの内容は非常に厳しいものだったのですが、結果的に取り組みの必要性を社内で共有でき、理解が進んだことは大きな収穫でした。
篠宮:
その上で各国・各地域の統括部門と連携し、協働体制を構築していったのですね。
増成:
はい。そこで必要だと感じたのは「グローバルなリーダーシップ」でした。法律や個人情報に対する考え方が各国で異なる中、参天製薬全体のポリシーとして、法律の有無に関わらず最低限守るレベルはあるべきです。ですから現在は、グローバルで守るべき個人情報保護のベースラインの策定に取り組んでいます。
策定にあたっては、各国・各地域の法律や実態に照らし、それが本当に機能するのかどうかを、地域法務担当者を交えて議論しています。それを実装する際には、地域の特殊事情を考慮しながら、各地域の担当者が責任をもって行うという協働・役割分担の考え方で進めています。
篠宮:
各国・各地域によって事情が異なりますから、グローバルなベースライン策定にあたっては議論が紛糾したのではないでしょうか。
増成:
そうですね。先ほど、個人情報保護の取り組みの必要性について経営陣の認識合わせを行ったとお話ししましたが、そこでも地域間での温度差がありました。例えば、欧州ではグローバルな取り組みを始める以前から、GDPRに必要な対応を独自で進めていました。それに対し、アジア地域の一部から「自分たちもGDPRと同等の対応をする必要があるのか」というとまどいの声が上がりました。
各国でこうした懸念があるのは当然だと言えます。全てを共通化すると、最も厳しい基準に合わせないといけなくなります。個人情報保護法が厳格でない地域にGDPRと同等の対応を求めることは、現場の負荷を不必要に上げてしまいます。ですから、法律に関係なく守るべき部分と、カスタマイズしてよい部分を明確にしながら、過度にビジネスに負担をかけたり、多くの制約を課したりしないやり方を目指しています。
篠宮:
グローバルなコンプライアンス体制構築に実際に取り組んで得られた気付きを教えてください。
増成:
2つあります。1つは「ビジネスの実態」と「法律のハイレベルな規定」との間には大きなギャップがあるということです。法の規定を読んだだけでは「実際のビジネスで何をどうすればよいのか」が分からない部分が多くありました。その点、GDPRは規制当局が開示している情報量が多く、規則の解釈についてもさまざまなリソースがありました。EMEAの法務・コンプライアンス部門は、そうした情報を実務に落とし込んでいます。ですから、グローバルなベースラインの策定や汎用的なひな形を作る際に非常に参考になりました。本社が地域の取り組みを学べるよい機会になったとも思います。
もう1つはアジア地域での対応の難しさです。国ごとに異なる個人情報保護規定に対して、実務負荷と管理の難しさという観点から、各国仕様のルール設定や書式の用意はできません。また、ベースラインを策定したとしても国によって意識にばらつきがあるので、本社からの支援が必要だと感じています。
篠宮:
法務・コンプライアンス部門の今後の展望や注力領域を教えてください。
増成:
参天製薬は2020年7月、「Santen 2030」を発表しました。これは2021年から2030年に向けた新長期ビジョンで、その中ではデジタル技術やデータを活用した新たな価値提案への挑戦も掲げています。そうした挑戦をするためには、個人情報管理の在り方も、今のビジネスモデルを前提としたものから一段レベルアップしたものにしていく必要があります。
少し社内の話をしますと、「データの一元管理」という部分では改善が必要だと考えています。現在はそれぞれのITシステム内で個人情報を管理しているのですが、中には表計算ソフトで管理しているデータもあります。そして、それらの個人情報の棚卸はほぼ手動で行っている状態です。今後、大量の個人データを取得・分析して新規ビジネスを創造するビジネスモデルが複数立ち上がれば、このやり方では限界があります。共通の個人情報管理プラットフォームの構築も視野に入れなくてはなりません。
篠宮:
プライバシー管理やデータ保護、データセキュリティの領域では今後、専門人材が圧倒的に不足することが予想されます。そんな中、グローバルでは個人情報の取り扱いに関する法律が今後、ますます強化されるでしょう。法務部門でも業務のデジタル化を推進し、効率化を図る必要がありますね。
増成:
そうですね。同時に法務部門内の組織力アップも図る必要があると考えています。例えば、個人情報を取得・分析するプロセスが必要な新ビジネスを開始するには、個人情報管理にまつわるリスクのアセスメントを行い、オペレーションの中にリスク対策を組み込む必要があります。そのためには「どのような手法で個人情報を入手すべきか」「どのような同意取得を事前にすべきか」「データ主体から請求権行使があることを想定した管理体制をどのように構築するか」「リスクレベルに応じたセキュリティ対策をどのように講じるべきか」を事前に考えなければなりません。効率的な施策を実施するには、サービスを開始する前にこれらを検討する必要があります。
新規事業を開始するにあたり、きちんとリスクを把握・評価し、リスクをグローバル規模でコントロールしながら、効果的なビジネスモデル構築のための施策を提案する。そんな法務・コンプライアンス部門を目指しています。
篠宮:
法務・コンプライアンス部門がプライバシーを尊重しながらビジネス部門にアドバイスを行う組織体制は理想的ですね。本日はありがとうございました。
篠宮 輝
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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