矢野 貴之弁護士 2017年登録(70期)

PwC弁護士法人では、所属する弁護士に対し、グローバルに事業を展開するクライアントの幅広いニーズに対応するための素養を身につける機会を提供するとともに、グローバルなファームの一員として多様性を理解し視野を広げることを目的とした留学制度を提供しています。その利用条件を満たして2025年7月より米国に留学中の矢野弁護士が、留学までの経緯や現在の生活などについて語りました。

矢野弁護士は2017年12月に国内の法律事務所にて弁護士としてのキャリアをスタートし、2022年からPwC弁護士法人にて執務しています。M&Aやテクノロジー関連法務を中心として約3年間従事した後、2025年7月より、PwC弁護士法人の制度を利用し、カリフォルニアの大学のロースクールに留学し、LL.M.(法学修士)プログラムを履修しています。

Q1.留学を考えるようになったきっかけを教えてください

PwC弁護士法人での業務を通じて、海外の弁護士との協働案件に関与する機会が増え、クロスボーダーのコミュニケーションや比較法的な検討の重要性を実感したことがきっかけです。

特に、留学出発前にテクノロジー関連分野の業務が増えていた中で、海外法制の理解が実務上不可欠であると感じる場面が多く、体系的に学び直したいという思いが強くなりました。例えば、データプロテクション案件では、EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)や米国・カリフォルニア州のCCPA/CPRA(プライバシー権法)を含む海外法制による規制内容やその対応方針を、現地法に詳しい弁護士と協働して検討する機会がありました。また、AIの導入支援に関する案件に携わる中で、米国内での議論、特にカリフォルニア州で提起されていた著作権侵害訴訟の帰結が、今後の実務の方向性に影響を与えるのではないかと考えていました。

このような経験を踏まえて、「専門性の軸」を作るため、自身の実務経験を改めて体系的に整理する機会を持ちたいと考え、留学することを決意しました。

Q2.なぜ現在の場所を選んだのでしょうか?

カリフォルニア州はテクノロジー関連法務の分野において、米国のみならず世界的にも最先端の議論が行われている地域であり、私の学問的・実務的関心と方向性が強く一致していました。また、ロースクールの説明会に参加した際、セミナーや講演が非常に活発に開催されていると聞き、第一線で活躍する実務家の話を直接聞く機会が豊富にある点も魅力に感じました。最先端の議論が生まれる環境で学ぶことで、単なる知識の習得にとどまらず、現在進行形の法的課題に触れることができると考えました。実際に留学してみたところ、データプロテクションの分野や知的財産を含むエンターテインメント分野のクラスが充実しており、興味深いものばかりです。エンターテインメント業界で活躍する実務家や起業家のセミナーも毎週のように開催されており、期待していた通り、業界の最先端の議論を体験できています。

また生活や環境面では、妻と、出発当時2歳の息子を帯同しての留学であったため、生活環境の安全性、気候、自然環境の充実度も重要な要素でした。加えて、個人的に西海岸の音楽や映画の文化に以前から親しんでいたこともあり、その文化を作り上げた街の空気感を実際に体感してみたいという風土への憧れもありました。

Q3.勉強面で苦労していることはありますか?

最初に苦労したのは、コモンローの思考方法へ適応することです。判例を起点にルールを積み上げていく思考プロセスは、日本法の体系的・条文中心の理解とは異なるため、頭の切り替えが必要でした。

法務博⼠(Juris Doctor)の学生と合同のクラスでは、教授と学生のディスカッションのスピードが非常に速く、リスニング面で苦労することがあります。授業の中には対話を通じて相手に自ら考えさせ真理を導き出す教育・探求手法であるソクラテス・メソッドで行われるものもあり、クラスの流れを止めないように、毎回の予習を丁寧に行っています。

また、私が履修しているネゴシエーションのクラスでは、交渉の理論を学ぶため、具体的なケースを前提として学生同士で一対一または複数当事者間の交渉を実践します。交渉当事者はそれぞれ相手方には開示されていない情報を持っており、相互にそれらを聞き出した上で柔軟に解決策を模索する必要があります。限られた時間の中で、英語で自分に必要な情報を獲得することや、瞬時に説得力のある表現を組み立てることに難しさを感じています。また、日本の学生同士であれば暗黙の了解の下で比較的円滑に進むように思われる交渉であっても、異なる文化的背景を持つ外国の学生との間では想定以上に難航することもあり、価値観の違いを実感する場面も多いです。一方でこの経験は、語学力だけでなく、論点整理力や構造化能力の良い訓練にもなっていると感じています。

Q4.PwC弁護士法人での経験はどのように活きていますか?

PwC弁護士法人での業務では、海外の弁護士との協働案件に関与する機会が多かったため、そこで培った比較法的な視点で問題を整理・理解する力は、授業のディスカッションやレポート作成の場面で役立っていると感じています。また、これまでの経験から、英語での法的コミュニケーションや論点整理にはある程度慣れており、その点は、留学生活をスタートするのに大きな助けになりました。

さらに、実務経験があることで、抽象的な法理論も「実際の案件ではどう使われるか」という視点で理解することができるので、自分の中で体系的に実務経験を整理できる良い機会になっていると感じています。

Q5.実際に留学生活を送ってみて、感じたことを教えてください。

生活面では、まずロサンゼルスの気候の良さに驚きました。年間を通して気温は温暖で湿度が低く、雨も少ないため、とても過ごしやすい環境です。ロサンゼルスは、西海岸やユタ州とアリゾナ州にまたがるグランドサークル周辺の国立公園へのロードトリップの拠点としても非常に便利で、週末には家族や友人と国立公園を訪れることが多くあります。また、周知のとおり、ロサンゼルスは、野球やアメリカンフットボール、バスケットボールなどのスポーツも盛んです。特に2025年シーズンは、ワールドシリーズで街全体が大変盛り上がりました。私も家族と何度もスタジアムに足を運んで日本人選手の活躍に元気をもらいました。最近では、ロサンゼルスのローカルなライブハウスに足を運び、バンドカルチャーに触れることも楽しみの一つになっています。

留学生活を通じて世界中から集まっているLL.M.プログラムの同級生たちと交流を深めることができ、世界がより身近になったように感じています。日常会話の中で、外国の学生に対して、日本の文化、歴史、社会などを紹介するような場面も多く、日本を客観的に見つめ直す良いきっかけにもなっています。

Q6.お気に入りの場所はどこでしょうか?

予定のない日には、家族でビーチに出かけることが多く、特にマンハッタンビーチやサンタモニカビーチを気に入っています。息子と海岸で遊んだり、夕日を眺めたりしながらゆっくり過ごす時間は、留学生活の中で良いリフレッシュになっています。

ロサンゼルスには身近に自然を感じられる場所が多く、日常生活の中でリラックスできる時間を確保しやすい点も魅力だと感じています。

Q7.日本での生活とはどのような違いがありますか?

まず一番の違いは、自由な時間が多いため、家族と過ごす時間を確保しやすくなったことだと思います。子どもの成長を間近で見守ることができる点には非常に大きな価値を感じています。また、これは米国全体に言えることだと思いますが、ロサンゼルスでは、子育て世帯に対して温かい雰囲気があると感じています。子どもと一緒にいると、レストランやスーパーマーケットでも気さくに話しかけられることが多く、子どもをきっかけに楽しくコミュニケーションがとれる機会も多いです。米国の中でも特にロサンゼルスには、さまざまな国・地域から移住してきた人々が多く暮らしているため、多様な文化的背景を持つ人々と日常的に交流することができる環境であることも、日本との大きな違いの一つだと思います。

より具体的な生活面に触れると、外食費が高いため、自炊の頻度が増えました。家族で料理をしたり、友人家族とバーベキューやホームパーティーをしたりする機会が増え、生活スタイルがより家庭中心になったと感じます。

Q8.印象に残っている旅行先はありますか?

キングスキャニオン国立公園の奥地で家族とキャンプをした経験は、特に印象に残っています。周囲を雄大な自然に囲まれた環境の中で、すぐ近くを流れる小川の音や、動物や虫の声を聞きながらたき火を囲んで過ごした時間は、アメリカ大陸の自然のスケールの大きさを実感する貴重な体験となりました。

また、冬休みには、約1カ月の長期休暇を活かして家族でさまざまな場所を訪れました。ロサンゼルスからニューメキシコ州の国立公園までの長距離のロードトリップや、中南米への旅行も良い思い出です。また、年末年始には、アラスカ州のフェアバンクスを訪れ、オーロラを見ました。オーロラ鑑賞は昔からの夢だったのですが、家族と一緒に緑と赤の光がカーテンのように揺れているのを見ることができ、感動しました。アラスカでは、犬ぞり体験や、氷点下40℃の中での露天風呂など、得難い体験をすることもできました。

日本からは移動距離や時差によってアクセスする機会が限られる場所も比較的気軽に訪れることができるのは、留学ならではの魅力の一つだと感じています。

Q9.今後の目標を教えてください。

ロースクールではデータプロテクションなどのテクノロジー関連分野に加えて、M&Aなどのコーポレート分野も組み合わせて学んでいます。PwC弁護士法人ではこれまで幅広い分野の案件に関与してきましたが、留学で得た体系的な知識を土台として、帰国後はM&Aやデータ・テクノロジー関連法務といった分野で経験を重ね、より専門性を高めていきたいと考えています。

グローバルな視点を持ち、国際案件にも対応できる実務家として、クライアントに対してより高い付加価値を提供できるようになることを目標としています。

ある日のスケジュール(例)

7:00

起床・家族と朝の時間を過ごす

9:00

学校に到着、当日の授業の予習

10:00

午前のクラス(データプロテクション)

12:00

クラスメートとランチ

13:00

午後の授業の予習・課題

15:00

午後のクラス(M&A)

17:00

帰宅、家族とビーチで夕陽を眺めてリラックス

19:00

帰宅、家族と夕食

21:00

翌日の授業の予習

23:00

就寝

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