PwC Japanグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。PwC税理士法人に6年間在籍した深貝晋平氏は、株式会社メルカリで活躍後、スイス・国際経営開発研究所（IMD）でMBAを取得。現在は新天地・米国に渡り、住宅のイノベーションを目指すスタートアップ・HOMMA Group, Inc.でHead of FP&A（Financial Planning & Analysis）として奮闘しています。今回は卒業生という外部の視点から、PwCでの経験を振り返ってもらうとともに現在のキャリアについて語ってもらいました。
話し手
HOMMA Group, Inc.
Head of FP&A
深貝 晋平氏
聞き手
PwC税理士法人
パートナー
山岸 哲也
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
スマートホーム技術で住宅のイノベーションを目指す米HOMMA Group, Inc.に入社
山岸：
本日はお時間いただきありがとうございます。米スタートアップ・HOMMA Group, Inc.（以下、HOMMA）に就職されて数カ月が経過したと伺っています。まず会社の事業内容やご自身の役割について教えてください。
深貝：
HOMMAは米国で創業されたスタートアップで、カリフォルニア州シリコンバレーに拠点を構えています。ファウンダー・本間毅は、90年代半ばのインターネット黎明期に学生起業したスタートアップを経て、ソニー、楽天といった日本の大手企業で事業開発を担いました。2008年よりアメリカへ赴任し、楽天では執行役員としてグローバルコンテンツの事業戦略を担当していました。そして6年前に起業したのがHOMMAです。
HOMMAは独自の建築デザインと、自社開発のスマートホーム技術を融合させたユニークなアプローチで「住宅のイノベーション」を目指しています。米国では多くのイノベーションが起きてきましたが、住宅に関しては100年前のデザインと変わらず、利便性や快適さも低いまま。不動産というハードとソフトウェアを融合させることで、「未来の住生活を創造する」ということが当社のミッションです。
HOMMAはまだ社員20名ほどの小さい会社ですが、建築士、デザイナー、不動産のプロ、セールス、ソフトウェアエンジニア、ファイナンスなど、各ファンクション別に多彩なメンバーが集まっています。私自身はHead of FP&A（Financial Planning & Analysis）というポジションで、資金調達やプロジェクトファイナンス、財務会計や管理会計などファイナンス業務全体を担当しつつ、コーポレート業務も兼務しています。
山岸：
深貝さんは、PwCを退職された後に株式会社メルカリで活躍されました。メルカリ退職後はスイスの国際経営開発研究所（以下、IMD）への留学を経て、スタートアップであるHOMMAに転職されるというキャリアを歩まれています。HOMMAに転職した理由について教えてください。
深貝：
IMDでMBA取得後、次の仕事を探す際にふたつの軸を意識しました。ひとつはスタートアップという軸です。メルカリで経営陣の思いに触れて働いた5年間の経験は私にとって尊いものでしたし、また可能であれば次はよりアーリーステージのスタートアップに入社したいという気持ちを以前から抱いていました。
もうひとつは、日本市場ではなく、世界を舞台にしているという軸です。
HOMMAはアーリーステージスタートアップ×グローバル、そして日本人が米国で起業したというユニークな立ち位置にあります。非常に面白い掛け算になると思い入社を希望しました。
就職活動は2022年の秋頃から行っていて、新たな就職先は40～50社検討しました。そのうちHOMMAは、メルカリ時代の知り合いから紹介され知ることになりました。
なお会社を選ぶ際には、自分自身が会社のファンになれるか否かという視点も大事にしています。PwCもメルカリも大好きでしたし、選考過程でHOMMAのプロダクトや会社のカルチャーに触れることで、HOMMAもきっと好きになるという直感がありました。
HOMMA Group, Inc. Head of FP&A 深貝 晋平氏
グローバルな強みに惹かれてPwC税理士法人に入社を決意
山岸：
Head of FP&Aという職種は、日本ではまだあまり馴染みのない職種ですよね。外資系企業には以前からFP＆Aという職種や組織がありましたが、日系企業でも経理部門改革などの一環でFP&A組織を新設して、経理部門の機能を強化する動きが出てきています。今後、FP&Aの経験がある人材は日本でも強く求められるでしょう。
深貝さんは、PwC税理士法人には2011年から2017年まで6年間在籍されていました。入社を決めた理由は何だったのでしょうか。
深貝：
説明会などを通じて他の監査法人系税理士法人と比較した際、PwCはグローバルに強みがあると知りました。また、それらの中でPwC税理士法人が唯一、会計士試験後すぐに入社できる税理士法人だったというのも理由です。クライアントに対するコンサルティング業務を通じて、国際税務など将来的に武器になる知見やノウハウを得られると確信し入社を決めました。
山岸：
PwC税理士法人在籍時は、具体的にどのような仕事をされていたのでしょうか。
深貝：
金融部に配属され、最初はいわゆる税務申告の仕事がメインでした。6年間在籍するなかでタックスマネージャーも任せていただき、最後の方は主に国内外の金融機関に対する国際税務や、M&A関連のアドバイス業務を担当してました。案件としては、日本のメガバンクの海外進出や、外資系プライベートエクイティファンド、投資ファンドが日本に投資する際のアドバイスなどに携わっていました。
山岸：
PwC時代に特に印象に残ってることは何ですか。
深貝：
学びはいくつもありましたが、特にメガバンクの海外進出案件が忘れられません。M&Aの現場はハードなことがたくさんあり混乱しがちですが、上司のパートナーとチームが一丸となって最後の最後まで詰め切り、クライアントに対してベストなサービスを提供していきました。
その際のチームの仕事の徹底ぶりには心を打たれました。当時の上司は「この目の前の仕事をベストな形で提供することが信頼の構築につながり、次の受注にもつながるから、全力で取り組む」と言っていて、その言葉が今でも頭から離れません。
「良い仕事が次の仕事を呼ぶ」という哲学は、今でも私の仕事の指針のひとつになっています。
山岸：
当時の上司の方は、とても重要なことをおっしゃっていたのですね。PwCの業務経験で培った経験やスキルは、他にどのようなシーンで生かされていますか。
深貝：
ベースとなる会計・税務に関する知見はもちろん、コミュニケーション能力や、グローバルのメンバーを仕切りながらリードする経験は今でも生きています。特に、ディール中の高いプレッシャーとどう付き合っていくか、そのなかでお客様にどう価値を提供していくかという考え方やテクニックは、PwC時代に身に付いたものです。
山岸：
メルカリでは他の税理士法人とも付き合いがあったとお伺いしています。PwC税理士法人と他のファームとの違いについてはどう捉えていますか。
深貝：
当然どのファームも一定の成果物を提供してくれますが、PwCはクライアントの悩みの背景や本質的な問題点をいち早く察知し、早いタイミングから深度あるアドバイスをすることが多いと感じました。また、ファーム内に蓄積されている過去事例や部門を超えた連携をスムーズに行うのも強みだと思います。総合的に見て、時間ベースの報酬を超えた価値を提供しているのだなと実感できました。
山岸：
私たちはクライアントの課題に向き合い、その根源がどこにあるのか深く読み取り、本質的にクライアントの課題を解決できるように支援することを心がけていますが、実際にそのような声を聞くとうれしくなります。
PwC税理士法人 パートナー 山岸 哲也
アルムナイネットワークを卒業生たちが安心して帰ってこられる場所に
山岸：
PwCを卒業しておよそ6年が経過しようとしていますが、現在も当時のメンバーとコミュニケーションを取っていますか？
深貝：
はい。金融部の同期とは今でも互いに近況報告しますし、PwCに在籍されている先輩には転機ごとにお話させていただいています。社会人の最初の一歩、20代の一番元気かつ吸収力があった頃に、楽しいことも辛いことも一緒に経験してきた方々ですので、話をさせていただくととても励みになります。PwC時代には大変な仕事を終えた後でも1杯飲みに行って、互いに鼓舞し合うことも多かったです。あれがなければ多分頑張れなかったですし、今の自分もないと思います。
山岸：
アルムナイネットワークから刺激を受けていることはありますか。また提案などがあればお聞かせください。
深貝：
同期や卒業生たちのチャレンジしている姿は刺激になります。自分も安心してチャレンジしようと思うことができ、精神的に大きな財産だと思います。
また、アルムナイネットワークは、グローバルなキャリアを築く際にもとても貴重だと思います。ネットワーキングの場で、PwC出身者同士だとすぐに仲良くなって、仕事を紹介してもらったり、土地のことを聞かせてもらったり、ビジネス機会につなげてもらうこともしばしば。卒業から6年経った今、とてもありがたみを感じています。
卒業生の中には在籍中お世話になった方々に御礼を伝えたり、アドバイスをもらったりしたいものの、どうお会いしてよいか迷っている方もいらっしゃるかと思います。卒業生たちが安心して帰ってこられる場所＝アルムナイネットワークになって欲しいです。
山岸：
大企業だけでなく、自分で起業している方やスタートアップで活躍している方もたくさんいらっしゃるので、そこで新たなつながりが生まれると面白いですよね。私も深貝さんにご紹介したい方々がたくさんいらっしゃいます。
これまで培ったファイナンス×グローバルの知見で日本のスタートアップエコシステムに貢献
山岸：
今後のHOMMAの展望について教えてください。
深貝：
現在私たちは会社としてグロースフェーズに差し掛かっているところです。2022年にオレゴン州ポートランドにて18世帯からなるタウンハウス物件をローンチし、HOMMAが追求するスマートホームの理念を具現化することができました（スマートデバイスのビルトイン、センサーによる自動運転、クラウドを介したソフトウェアのアップデート、アプリでの一元管理等）。また大手デベロッパーとパートナーシップを組み、高層マンションにHOMMAのテクノロジーを導入する実証実験も進めているところです。これからは、HOMMAのテクノロジーをより多くの物件に導入し、会社を大きくグロースさせていくことが目標です。
またインドネシアをはじめ、人口や平均収入が増加傾向にあり、テクノロジーと親和性が高い若者の数が多い東南アジアの国々を中心に、ビジネスのグローバル展開を検討しています。また、当然ですが日本での事業展開も大きな可能性を秘めていると考えています。スタートアップであるため、会社のフェーズに合わせてフォーカスすることが大事ですが、常にバランスを意識しながら事業機会を探っています。
山岸：
深貝さん個人のキャリアプランはいかがでしょうか。また最後にPwCなどプロフェッショナルサービスファームに興味を持っている方々や、目指している方々にメッセージをいただけますか。
深貝：
スタートアップは生き残るのが本当に大変です。数年後会社がどうなっているかは誰にも分かりません。それでも自社が成長し、ミッションを実現させ、社会に貢献することを信じて、全力で目の前のことに注力したいです。
HOMMAに入ってまだ日は浅いですが、日々多くのことを学んでいます。やはりグローバルな働き方をアメリカで学べるというのは大きいですし、一つ一つの意思決定が会社の未来を変えていくという手触り感も魅力です。個人の中長期的なキャリアとしても、HOMMAでの経験を通じてグローバル×スタートアップという文脈で自分の専門性を活かしながら、日本のスタートアップエコシステムに貢献していきたいと考えています。
プロフェッショナルとしてのキャリア構築の観点で、PwCは非常に良い環境です。さまざまなプロジェクトの機会、個人の成長機会が豊富にあり、パートナーやマネージャーの方々との対話を通じて自分の能力や見識も磨くことができます。プロフェッショナルとしての道を極めていくのもいいですし、培ったスキルは他の仕事でもとても役に立ちます。プロフェッショナルファームに興味を持っている方には臆することなく飛び込んで、成長に向けてチャレンジしてほしいです。
山岸：
本日は貴重なお話をありがとうございました。これからも、深貝さんにはアルムナイネットワークへの心強いフィードバックを期待しています。
プロフィール
深貝 晋平
HOMMA Group, Inc. Head of FP&A
2011年12月に税理士法人プライスウォーターハウスクーパース（現PwC税理士法人）に入所、金融部に配属。国内外の大手金融機関に対して、国際税務アドバイザリー業務を提供。同部およびM&A Taxチームのマネージャーとして、数多くのクロスボーダーM&A案件に従事。2017年7月に株式会社メルカリに入社。メルカリのIPO、新インセンティブ制度の設計、M&A/グループ内組織再編、新規事業立ち上げ、海外進出案件に従事。2023年2月にHOMMA Group, Inc.に入社。会社全体のファイナンスおよびコーポレート業務を担当。
公認会計士・税理士・スイスIMD Business School MBA。
山岸 哲也
PwC税理士法人 国際税務・ディールズタックス パートナー
公認会計士・税理士・米国公認会計士（イリノイ州）
20年以上にわたるM&Aおよび国際税務に関する豊富な経験を有し、ストラテジックバイヤー、フィナンシャルバイヤー双方にデューデリジェンスや買収ストラクチャリングを中心としたディールズタックス・サービスを提供するとともに、国内外のさまざまな多国籍企業に対して国際税務プランニング、クロスボーダー組織再編に関する国際税務アドバイスを提供している。
1999年、プライスウォーターハウスクーパース税務事務所（現PwC税理士法人）入所。2004年より2007年までPwC米国シカゴ事務所出向。2007年、イリノイ大学アーバナシャンペーン校（UIUC）ビジネススクール（Master of Tax）修了。
