PwC Japanグループでキャリアを積んだ後、新たな道を切り拓いて活躍している卒業生がたくさんいます。どのようなスキルや経験が、その後の仕事に生かされているのでしょうか。元最年少気象予報士という肩書を持つ出本哲氏は、PwCコンサルティング合同会社に4年間在籍しました。現在は東京大学発の気候変動スタートアップ・株式会社Gaia Visionの共同創業者として、新たなビジネス領域の開拓と社会課題の解決に邁進しています。今回は卒業生という外部の視点から、PwCでの経験を振り返ってもらうとともに、現在のキャリアについて語ってもらいました。
話し手
株式会社Gaia Vision共同創業者
出本 哲氏
聞き手
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
林 和洋
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
林:
現在、どのような仕事をされているのか教えていただけますか。
出本:
現在、株式会社Gaia Visionという東京大学発の気候変動スタートアップで共同創業者をしています。当社では気候科学のデータや知見をもとに、気候変動リスクに関する企業のリスクの分析や情報開示などを支援するソリューションを提供しています。具体的には東大の洪水シミュレーション技術などを活用し、企業の拠点情報をもとに洪水リスクを評価するWebアプリケーション「Climate Vision」を提供しています。例えばグローバルに展開しているユーザー企業がアプリに拠点情報を登録すると、各拠点の洪水や気候変動リスクが自動的に分析・可視化される仕組みです。
昨今では、気候変動に伴い台風や洪水などの災害が国内外で激甚化しています。今後さらに地球温暖化が進み、リスクも増えると予測されるなか、気候変動による被害を最小化していくことを目指しています。
林:
出本さんは元最年少気象予報士の肩書をお持ちです。天気キャスターになる選択肢はなかったのでしょうか。
出本:
私が気象予報士の資格を取得したのは14歳の時で、中学から大学までの頃は天気キャスターを目指していたこともあります。ただ、出てきた情報を伝える仕事よりも、社会に何か新たなモノゴトをしかける仕事の方が自分に合っていると思い、今のキャリアの方向性を定めました。
林:
気象予報士の資格を取られて起業するまで、20年ほどの時間が経過しています。また大学時代には、気候科学を専攻されていたとお聞きしています。過去に起業の機会は何度かあったと思いますが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。
出本:
実際、新卒の時に起業の選択肢も考えましたが、当時はマーケット的にビジネスを成長させられるイメージが湧かなかったというのが率直なところです。また海外でビジネスやエンジニアの経験なども積みたいと考えていました。
ただここ数年、気候変動というテーマに対する世の中の関心度は非常に高まっています。マーケットの状況や気候変動の進行具合など考えても「今やるべきだ」と。自分自身が積み上げてきたコンサルタントとしてのキャリアを組み合われれば、独自の価値が出せるという判断もあり、起業に踏み切ることにしました。
株式会社Gaia Vision共同創業者 出本 哲氏
林:
昨今、トレンドとなっているサステナビリティや脱炭素は相対的にコントローラブルで、政府や企業の努力で実現できそうな気がします。一方、気候変動は地球規模の話で、人間が太刀打ちできるものではないという印象があります。難しいからこそ醍醐味があるのか、もしくはビジネス的な勝算があるからこそなのか。新たなテーマにチャレンジする理由は何でしょう。
出本:
CO2の見える化など、サステナビリティや脱炭素に挑む企業は増えています。一方、気候変動の領域にはプレイヤーがまだほとんどいません。たしかにそういう意味では、ユニークかつ難しいから醍醐味を感じるという側面があります。ただチャレンジする最も大きな理由は「社会にとって必要である」ことだと確信しており、また自分のバックグラウンドを考慮した際に最も貢献できる領域だと考えているからです。
林:
Gaia Visionを通じて、多くのクライアントとコミュニケーションを重ねてらっしゃると思います。気候変動が業績に直接的に影響することが多くなると考えると、リスクを低減する取り組みは企業にとって重要になってきますね。気候変動リスクに対する産業側の受け止め方はいかがですか。
出本:
さまざまな反応がありますが、気候変動に対して真剣に向き合う企業がとても増えてきている印象です。特に私が普段接している方々は、今やれることやリスク分析に積極的に取り組まれています。問題は、気候変動を定量的に評価したいと考えた際、既存のデータがないこと。最近では「困っている」という声をよく聞くようになりました。
PwC在職時代には林さんとサイバーセキュリティのプロジェクトをご一緒させていただきましたが、課題が顕在化してない時はほとんど誰も真剣に捉えていませんでした。やがて大きな事故が相次いで起こるなかで徐々に取り組み広がっていった。気候変動の領域でもまさに同じことが起きていると思います。気候変動がサプライチェーンに深刻な打撃を与えることが増えるなかで、重要な経営課題の1つとして捉える企業が増えているのです。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 林 和洋
林:
冒頭で、社会に何か新たなモノゴトをしかける仕事がしたかったというお話がありましたが、PwCコンサルティングに入社を決めたのはどのような経緯だったのでしょうか。
出本:
コンサルティングファームでのインターン経験があり、そのプロセスに非常に面白さを感じたということが最初のきっかけです。情報技術がとても好きでしたし、コンサルティングスキルを掛け合わせることで、独自の活動の在り方を模索できると考えました。そこでIT領域の戦略立案支援ができるコンサルティング企業としてPwCコンサルティングを選びました。ロールモデルとなる方がいたことも入社を決めたきっかけです。
林:
PwCコンサルティングには4年在籍されましたが、当時の役割や印象に残ったプロジェクトについて教えてください。
出本:
PwCコンサルティングではTechnology ConsultingのDigital and Disruptive Technologyというチームに所属していました。シニアアソシエイトとして、主にAIやIoTなど技術領域における戦略立案を担当していました。
印象深かったのは、外資大手電機メーカーのIoTに関する戦略立案を支援させていただいたプロジェクトです。当時「IoT」はバズワードで、クライアント内でもさまざまな意見が錯綜していました。プロジェクトではやるべきことの方向性をしっかり示すことができ、クライアントからも感謝いただきました。
また大手ITサービス企業のサイバーセキュリティ戦略の立案から実装まで、一貫して支援したプロジェクトも印象強く記憶に残っています。クライアントと密に取り組み、成果を上げられたことや、自分自身初めてリーダーとして立ち回ったことは貴重な経験となりました。
林:
PwCコンサルティングに在籍していた期間中に、どのようなスキルが身につきましたか。
出本:
企業経営には多面的な視点やイシューがありますが、そのなかで筋を通して企業戦略に落とし込んでいく戦略思考を身につけることができたことが個人的に大きいと思っています。それ以外にもヒューマンスキルやITに関するテクニカルスキルも得ることができました。
一方でPwCコンサルティングに在籍していた頃は上流の仕事が多く、データアナリティクス技術やコーディングなど、実際に手を動かす下流の業務にも携わりたかったという心残りがあります。
林:
今お話にあったような、PwCコンサルティングで培った経験は現在の事業にどのように役立っているのでしょうか。
出本:
個人的にはセキュリティの経験がとても役立ちました。セキュリティと気候変動はリスクマネジメントという観点で一致しています。セキュリティというと、サイバー攻撃対策などがイメージされがちですが、本質的には企業のリスク評価およびマネジメントという極めて重要な経営課題という側面があります。PwCコンサルティングでは、林さんをはじめ上司や同僚とさまざまな議論をさせていただいたからこそ、リスク管理、すなわち経営課題であるという視座を持つことができたと思います。
林:
出本さんとご一緒したプロジェクトは、当時、日本で最大規模のサイバーセキュリティ案件でしたね。クライアントが大きな戦略転換をして、バラバラだったネットサービス事業を統合し、データや情報を1カ所に集めることになった。セキュリティの担保が重要となる中、どの程度の投資をしてどのレベルのセキュアな世界観を目指すのか、というのは非常に難しい経営課題だったと思います。経緯を重ねてみると、たしかにセキュリティと気候変動の話は本質的に近しいですね。
出本:
自分が経営に携わりながら思うことは、リスクにどのくらい投資するのが妥当なのかという判断はとても難しいテーマであるということ。PwCコンサルティングではセキュリティリスクのインパクトを定量化して投資する意義を明確化することに努めましたが、その時の経験はGaia Visionの事業にも大きく生かされています。
林:
出本さんは起業前に他のコンサルティング企業でも業務経験があります。PwCコンサルティングの好きなところや魅力について教えてください。
出本:
PwCの魅力は一言でいえば「働きやすさ」です。周囲からは「未経験でコンサルティングファームに転職したけれども、なかなか続かなくて辞めてしまった」という声をよく聞きます。「やさしい、コンサル」を志向するPwCコンサルティングでは、あまりそういうことは起こらないと思います。
林:
最近、中途採用の方たちを頻繁にインタビューするのですが、PwCコンサルティングに入社した決め手について「優しそうだった」「人の良さには惹かれて選んだ」と答える人がほとんどです。
また他社と比べて縦割り感がなく、他チームとのコラボレーションが評価につながる社内制度や文化が整っている点も入社理由として多く挙げられています。
出本:
PwCコンサルティングでは自分が意思を持って道筋を立てることが求められていて、そのとおりにやれるという意味でも働きやすいと思います。私が在籍していた頃は、生産的にディスカッションできる同僚および上司の方が多くいらっしゃいました。また、私が関わった中途入社の方向けのオンボーディングトレーニングも、自主的に携わるメンバーが多かったです。与えられた枠組みだけでなく、プロアクティブに動くことが奨励される環境という印象がとても強いです。
また卒業すると、PwCネットワークの強さを改めて感じます。私の場合、1年目から米国に行く機会をいただき、それがネットワークをつくるきっかけになりました。ネットワークの人数や規模もさることながら、きちっとつながって仕事や世の中の役に立つという質の面でも魅力を感じます。
現在、在籍時にとてもお世話になった上司とAlumniとして改めてつながって、ある自治体向けの仕事をさせていただています。私のケイパビリティやテーマに対する備えを覚えていただいたからこそ、新たに生まれた仕事だと思います。
林:
Gaia Visionの今後の展望はどのように考えてらっしゃいますか。
出本:
まずリスク評価のシミュレーションおよびソフトウェアの価値を高め、プロダクトマーケットフィットを目指していくことが直近の目標です。またサステナビリティ関連の情報開示など、企業の新たなニーズに積極的に対応していきたいです。
また今後は、アセスメントだけでなくモニタリングまでしっかり行えるよう準備し、将来的なリスク予測ではなく、明日・明後日の予測や、適切な対応策をサービスとして提供していきたいです。究極的にはビジネスによりグローバルな視点を盛り込みながら、世界レベルで気候変動リスクを低減していくことを目指します。
林:
可能ならばPwCとのコラボレーションも視野に入れて、互いのビジネスを刺激し合えるようなフォーメーションが築ければうれしいです。最後にAlumniネットワークやPwCのメンバーたちに伝えたいことがあれば、ぜひ教えてください。
出本:
PwCコンサルティングでは戦略思考的やテクニカルスキル、人間力など欲しかったスキルを手に入れることができました。多くの方にとっても、やりたいことを見つけられる懐の深い会社だと思います。また未経験であっても、周りと助け合いながらクライアントに価値を提供できる環境が揃っています。私自身、PwCコンサルティングに在籍していた頃にソフトウェア系プレイヤーと組むケースを数多く経験してきました。サステナビリティ支援は幅広いので、コラボレーションすることでマーケットにより高い価値を提供できれば幸いです。
卒業生同士、もしくはPwCと卒業生のつながりが広がっていけば、マーケットでの存在感はきっとさらに大きくなっていくはず。自分にできることを模索しながら、積極的に貢献していきたいです。
林:
本日はありがとうございました。
出本 哲
株式会社 Gaia Vision 共同創業者
気候変動リスク分析プラットフォームClimate Visionや関連するコンサルティングサービスを提供している。事業開発の責任者であり、技術・研究開発を含めた経営全般を担う。
東京大学大気海洋研究所気候システム研究センターにて気候変動に関する研究を行い、理学修士号を取得。
PwCコンサルティング合同会社、外資系戦略コンサルティングファームにてAI・ロボット関連の戦略コンサルティングに従事した後、株式会社アラヤにて執行役員CSOとしてAI・ニューロテック関連事業の経営、戦略立案、事業開発に従事。元・最年少気象予報士
林 和洋
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
監査法人系コンサルティング会社やITセキュリティ企業の取締役など、セキュリティ業界で約20年の業務経験を持ち、サイバーセキュリティ対策のロードマップ策定、セキュリティオペレーションセンター構築、CSIRT構築など平時のセキュリティ管理態勢整備はもとより、インシデント発生時の第三者委員会支援、フォレンジック調査支援などのサービスを提供している。公認情報システム監査人(CISA)、公認不正検査士(CFE)。