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PwC Japanグループでは、農業分野における課題や可能性を公共・地域・産業の視点から捉え、社会実装につながる価値を構想し、農業の持続可能性や地域のありかたを探求する活動を推進しています。
その活動の一環として2025年6月、埼玉県狭山市で江戸時代より350年以上の歴史を持つお茶農家・狭山茶製造元の奥富園ご協力の下、職員12名が参加し実施されたお茶摘み体験イベントの様子をご紹介します。
当日、参加者は東京から鉄道で1時間程度の場所にある、狭山丘陵に広がる奥富園の茶畑に集まりました。奥富園の茶畑は、住宅と畑が入り混じる生活圏の中にあり、暮らしのすぐ隣でお茶づくりが営まれている風景が印象的でした。
畑の前には視界を遮るものがほとんどなく、整然と並ぶ茶の木の向こうには、のびやかな空が広がっています。朝露に濡れた茶葉はみずみずしく、やわらかな光を受けて、きらきらと輝いていました。
茶畑では、まずオーナーの奥富雅浩 氏から茶葉の摘み取り方を教わりました。「一芯二葉」と呼ばれる、新芽(芯)とその下の2枚の葉からなる、枝先の最も若く栄養のある部分を摘み取る方法です。
早速、参加者は茶畑に入り、お茶摘み体験に臨みました。ほのかにお茶の香りがする新芽の柔らかさが指先に伝わり、参加者たちは新芽を傷つけないよう、慎重に摘み取っていきます。「一芯二葉」の感覚をつかむと余計な力を入れなくても「ぷちっ」と軽い手応えで茶葉が摘み取れ、その小気味よい感触を楽しみながら、参加者たちは茶葉を丁寧に摘み取り、初めてのお茶摘み体験を楽しんでいました。
奥富氏の指導の下お茶摘みをする参加者たち
お茶摘み体験中、奥富氏から狭山茶の歴史や栽培の特徴について説明を受け、狭山茶農家の方が栽培から製造・仕上げ、小売・販売までを自ら行っていること、そのため育てる品種、選ぶ肥料や農薬などを販売先に合わせて一つ一つ考えていることを教えていただきました。そういった丁寧な取り組みが「味の狭山茶」と呼ばれる品質に直結することを実感しました。
お茶摘み体験の後は製茶を行う工場に移動し、製茶工程についての説明を受け、奥富園で栽培している複数品種の飲み比べを行いました。品種や製法の違いによって香りや甘み、余韻が大きく変わることに、参加者からも驚きの声が上がりました。参加者からは「普段はペットボトルでしか飲んでいなかったが、茶葉から丁寧に淹れてみたい」「生産者の方の話を直接聞くことで、価格の背景にある努力が理解できた」といった声が聞かれました。
摘みたての茶葉が入った茶摘み籠
奥富園の緑茶をみんなで試飲する様子
奥富氏との意見交換の場では、狭山茶を取り巻く経営環境について率直なお話を伺いました。農家の高齢化が進み、機械設備の更新ができずに離農するケースが増えていること、肥料や燃料価格が一時期の約1.5倍に上昇していることなど、厳しい現実が共有されました。担い手不足も深刻ですが、新たな挑戦に対して地域内で慎重な姿勢が見られることから、「人手不足」と「変革の難しさ」が同時に存在するという構造的な課題を感じました。
そのような中で、奥富園では付加価値の向上を目指し、従来の枠にとらわれない製茶手法に挑戦しています。その一つが、摘採した茶葉を日陰や日光下でしおれさせ水分を抜き、茶葉に含まれる酸化酵素を活性化させることで、独特の華やかな香りを引き出す「萎凋(いちょう)処理」です。もともと茶葉の新鮮さが重視される緑茶の製茶には用いることの少なかったこの工程ですが、あえて取り入れることを決断。専用のビニールハウスを独自に作り、果実や花のような「萎凋香」が香る緑茶を生産しています。こうした取り組みにより、お茶生産者がお茶の出来栄えを競う産地取引においても高い評価を獲得し、市場での評価向上につなげています。
また、多品種栽培や海外展開にも挑戦し、「買いに来てもらえる商品づくり」を志向されています。価格競争に依存しない経営モデルを模索する姿勢は、強く印象に残りました。
こうした現場での試行錯誤や挑戦のお話を伺う中で、今回の体験は単なる収穫体験にとどまらず、狭山茶の現状を知る機会となり、参加者それぞれが自身の関心や専門性と向き合う時間にもなりました。
今回のお茶摘み体験イベントには、さまざまなバックグラウンドや関心を持つ職員が参加しました。生産現場での体験や生産者との対話を通じて、それぞれが異なる気づきや問いを持ち帰る中で、今回の体験を自身のこれまでの歩みと重ね合わせて受け止めていた一人が、PwC Japan有限責任監査法人の西藤悠馬さんです。お茶摘み体験は西藤さんにとって、これまで抱いてきた問題意識や原体験とあらためて向き合う時間にもなったと言います。
西藤さんは当初、緑茶・紅茶・ウーロン茶をそれぞれ異なる品種の茶葉だと思っていたほど、お茶に関する知識はほとんどありませんでした。しかし、そうした素朴な疑問をきっかけにお茶への関心を深め、次第に探求の道を歩み始めました。
お茶との出会いは、現在の西藤さんのキャリアにも大きな影響を与えていると言います。大学時代に有機栽培に取り組む静岡県のお茶農家と出会い、「良いものを作っていても、それだけでは売れない」という現実に直面する姿を目の当たりにしたことが、サステナビリティに関心を持つ原点となりました。静岡での4年間の実習では商品のブランディングや販路拡大にも携わりましたが、個々の工夫だけでは構造的な課題の解決には至らないという問題意識を持つようになったと言います。産業全体が持続可能であるためには、ビジネスの仕組みそのものを見直す必要がある。そうした問題意識が、現在の専門領域へとつながっています。
今回、狭山茶の経営課題について率直な議論を行う中で、産業を取り巻く構造そのものに向き合う必要があるのではないかという、当時抱いた問いが今もなお続いていることを、改めて実感したと言います。設備更新の難しさや離農の進行、単価向上の必要性、世代交代といった課題はいずれも、理念ではなく経営そのものの問題として現場に突きつけられています。
西藤さんはPwC Japan有限責任監査法人において、大手企業のGHG排出量算定や削減戦略の策定、非財務資本を軸とした成長戦略の立案などに携わっています。制度や戦略の設計という立場から企業の持続可能性を支援する一方で、今回農業の現場で語られた課題はより具体的で、長期的な視点を要するものが多いと感じたと言います。農家の方々の意思決定や自然との向き合い方に触れることで、自然資本や価値創造を捉える視点にも広がりが生まれました。
また、以前から関心を寄せていた農業分野にPwCの取り組みとして関われることは、自身の仕事の意味を再確認する機会にもなっています。社内で関心を共有する対話が生まれ、新たなつながりや活動へと発展している点も、こうした取り組みが持つ一つの価値だと捉えています。
今回のお茶摘み体験を通じて、生産現場に足を運び、生産者の声に直接触れることは、狭山茶の魅力だけではなく、その背景にある課題や想いにも目を向ける機会となりました。こうした体験から生まれた気付きや問いは、この場で完結するものではありません。
それらをより多くの人と共有し、立場の異なる参加者とともに狭山茶の未来を考える場として、私たちは2026年1月に開催された「狭山茶フェス 2026」に参加しました。
その様子は「多様な視点で狭山茶・農業の未来を考える「狭山茶フェス 2026」開催」でご紹介します。
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