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PwC Japan合同会社(以下、PwC Japan)は、コレクティブインパクトの創出を目指す「Collective Impact Base」という場・仕組みを設け、ステークホルダーとともに複雑化するさまざまな社会課題に取り組んでいます。2025年9月16日には、「能登半島地震復興支援」の一環として、職人数の減少が著しい伝統工芸・輪島塗の未来を考えるワークショップを開催しました。同イベントでは、茶道家によるウェルカムセッション、木地師・辻正尭氏による輪島塗の現状解説、社内外約40名の有志メンバーによるグループワークなどを行い、参加者たちにとって、輪島塗が抱える課題を深く理解・共有する有意義な機会となりました。
Collective Impact Baseのコモンズ活動チームが主催した「輪島塗の未来を考えるワークショップ」は、初対面のメンバーが多数参加する中、茶道家によるウェルカムセッションからスタートしました。
茶道家は冒頭のあいさつで、「見えないものに気付いていくことが茶会の最大の楽しみ」であると会話を切り出しました。すなわち、亭主(お茶会を主催するホスト)が用意した道具や茶菓子を通して、来客がその意図やメッセージに気付いていくことこそ醍醐味であるというのです。そして、「現代において茶会は互いに質問しあうQ&A形式になりがち。しかし本来は、会話を楽しむ時間だ。今日は輪島塗でお茶をいただきながら、まだ見えないその現状や未来について会話し、考え、気付きを得て欲しい」とワークショップへの期待を寄せました。
このセッションでは参加者たちが互いに輪島塗の茶道具で茶を点て合う「お茶会体験」も実施され、交流を深めていきました。
お茶会体験で会場の雰囲気が和んだタイミングで、PwC Japan有限責任監査法人 パートナーで辻信行が、自らリードするCollective Impact Baseの概要を説明しました。辻は「企業・行政・NPOなど、立場の違う人たちが協力して、社会課題を解決することがCollective Impact Baseの目標の一つ」とした上で、幅広く多様なコミットが社会課題の解決に有益になるはずだと自身の考えを語りました。
「世の中には社会課題がたくさんあるが、例えばNPOのように深くコミットせずとも、まずはその課題について『考える』ことから社会貢献やインパクトは始まると信じている。きっと、今日一緒に輪島塗でお茶を飲んだという経験も、どこか別の機会で気付きやネットワーク構築につながるはずだ。Collective Impact Baseはまず集まることから始める。震災や復興支援に関しては他にも多様なテーマがあるが、今回は輪島塗について自由に語り合ってほしい」。
続いて、「能登半島地震復興支援」の活動を立ち上げたPwC Japan有限責任監査法人の鈴木鉄兵が登壇。Collective Impact Baseという社内活動の中で、復興支援に取り組み始めた経緯について話しました。
「私は石川県金沢市出身であり、小さい頃から伝統工芸に触れる機会が多かった。そのため復興支援では、輪島塗など伝統工芸を後世に残す活動に従事したかった。2024年1月の震災発生後にチームを立ち上げ、昨年、今年と現地視察を行った。また2024年には金沢でワークショップも実施した。まだ活発に活動できる状況ではないが、今後も何か役に立ちたいと考えている。Collective Impact Baseは、社会課題に対して活動を起こせる仕組みだと実感している。ぜひ皆さんにも積極的に活用してほしい」。
能登半島地震復興支援の取り組みに関する紹介に続き、木地師・辻正尭氏による講演が行われました。木地とは木製の椀や食器などの素地を指します。輪島塗の工程は全124工程から成りますが、大きく「木地」「下地」「中塗り」「上塗り」「加飾」に分類されます。その全ては分業制であり、辻氏は最初の工程である木地を担当する職人です。
辻氏は石川県輪島市で「辻椀木地木工芸」という工房を営んでおり、自ら製作した木地を完成品まで仕上げる作家活動も展開しています。震災以降に輪島市では、職人、作家、工房、漆器店などが一丸となり輪島塗を守るための有志グループ「輪島の未来のために」が立ち上がりましたが、辻氏は同団体の副代表も務めています。
「輪島塗の発祥は明確にはなっていないが、1500年頃にはその原型が存在したとされる。その特徴はまず軽さと耐久性だ。輪島塗の木地は丸太から製材して1年ほど、さらに加工して4か月ほど自然乾燥させる。そうして、変形やひび割れを起こしにくい器の下地が出来上がる。堅牢な下地なので、修理すれば新品同様に使うことも可能だ。加えて、『呂色(ろいろ)』と呼ばれる磨き上げの工程を経て実現する光沢も特徴。材料となる漆は抗菌・殺菌性に優れ、器そのものの強度をさらに高める役割も果たしてくれる」(辻氏)。
歴史や特徴に次いで、辻氏は輪島塗の現状について解説を展開しました。中でも危機感をもって強調したのが職人数の減少です。輪島塗職人の数は1990年の2,893人をピークとし、2022年には1,045人まで減少しました。約30年で6割程度がいなくなった計算です。震災が起きた2024年にはさらに750人まで数が落ち込み、今後も減少傾向は続くと予想されています。
「木地師の中でも椀木地を専門とする同業者は輪島に8人しかいない。しかも60歳以上の方が大半のため10年後にはさらに減る可能性が高い。職人の数を増やすことは、輪島塗を守るための最も大きな課題だ」(辻氏)。
辻氏は、職人減少の最大の要因は収入面にあると指摘します。長時間働いても得られる収入が少ないため、多くの職人が将来に希望を持ちにくい状況に置かれているのです。さらに、職人は自営業であるがゆえに将来の保障も確実ではありません。キャリアでは独立して一定の安定を得るまでには少なくとも5〜10年もの歳月を要すため、家族や子どもを抱える若い世代にとっては、職人という道を選ぶこと自体が非常に難しくなっています。
「職人数が減少する中で、職人一人当たりの負担が大きくなっている。これまで分業制だったプロセスの多くを一人でこなさければならず、さらにその労働量の増加に対して収入も見合っていない状況だ。しかも輪島塗には機械化や自動化できない工程があり、職人の作業量は限界を迎えつつある。根本的に状況を見直さなければ、労働環境の悪化と職人減少という悪循環は止まらないだろう」(辻氏)。
昨今ではさらに物価高の影響による材料の高騰、震災による工房喪失などが、職人減少に追い打ちを掛けていると辻氏は付け加えました。
「職人になるという選択肢自体が無くなりつつある。そのため、日本人の日常使いというニーズを今後も前提にすべきなのか、あるいは高所得者や外国など販売先やニーズを新たに開拓すべきかなど、輪島塗の価値を高めるための根本的な問いと対策が必要とされている」(辻氏)。
辻氏の講演を受け、ワークショップでは2つのテーマ、「輪島塗を適正な市場および価格で売るためには」「未来の輪島塗職人を増やすためには」を設定してディスカッションを行いました。そして輪島塗の現状をより深く理解するため、質疑応答も実施しました。
会場からは、「原価」「適正価格の判断基準」「自動化」「輪島塗の耐久性およびコストパフォーマンス」「プラスチック樹脂などへの素材転換の可能性」「輪島塗が発達した地理的背景」「品質の定義」「現在行われているPR活動」「職人の育成が難しい工程」「育成のための制度や機関」「分業における収入の不均衡」「職人同士・業界内部におけるコミュニケーション不在」など幅広く質問が寄せられました。
参加者たちは輪島塗の置かれた背景をより深く理解した後、それぞれのグループに分かれディスカッションを行いました。約1時間でしたが、用意されたボードいっぱいにアイデアが貼り出された様子が印象的でした。
アイデアの1つとして、「従来は、輪島塗には作品そのものに価値があるというブランディングがされてきました。しかし、それだけではなく124工程に関わった職人一人ひとりの顔が分かり、その職人が作品に込めたエピソードをQRコード経由で表示するなど、デジタルと組み合わせることで、購入者の共感を軸に展開していくブランディングをしてはどうか」との内容も上がりました。
辻氏は各グループのアイデアを聞き、輪島全体で課題に取り組む重要性について再認識したと言います。「職人、業界関係者、自治体など多様なステークホルダーを巻き込み、新たなアクションを起こしていきたい」と展望を語り、参加者に対し感謝の意を表しました。
PwC Japanグループはこれからも、コレクティブインパクトの創出に向けたさまざまなステークホルダーとの協働を推進してまいります。
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