2022-06-21
PwCコンサルティングは2021年2月、「新型コロナワクチン接種業務支援室」を立ち上げ、自治体のワクチン接種業務支援の体制を整えました。世界中で急がれたワクチン接種をめぐっては、日本でも接種の加速に向けた機運が高まる一方、現場で混乱が生じた自治体もありました。「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」を自らのパーパス(存在意義)に掲げるPwCでは、この未曾有の社会課題に対し、自社が持つ知見や専門性を活かして解決の一助となるべく行動を起こしました。本稿では支援室のコアメンバーとなったPwCコンサルティング合同会社ヘルス・インダストリー・アドバイザリー ディレクターの髙橋啓、同社パブリックセクター シニアマネージャーの石井麻子、シニアアソシエイトの犬飼健一朗が、支援室の活動を通じて得たことを語りました。
(左から)犬飼、石井、髙橋
髙橋:私はヘルス・インダストリー・アドバイザリー(以下、HIA)部門で、病院や製薬会社、医療機器メーカーなどの経営改善を支援しています。
犬飼:私はパブリックセクター(公共事業/以下、PS)部門に所属し、自治体の支援をしています。また、PwCの「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ(以下、SII)」立ち上げメンバーとして、社会課題解決と経済発展を両立させる活動も進めています。
石井:私もPSに所属し、福岡事務所を拠点としています。地方に拠点を構えるクライアントの業務改善を支援すると同時に、「その改善が地域や消費者に対してどのような価値を提供できるのか」といった視点で、地域住民の生活や体験価値を向上させる取り組みを行っています。
髙橋:2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、日本中がパニックになっていました。そのような状況下、製薬会社がワクチン開発に成功し、全国でワクチン接種を希望する機運が高まっていました。ワクチン接種の推進は各自治体が中心になることが決まりましたが、日本中が一斉にダメージを受けるパンデミックは前例がなく、大きな混乱が生じる懸念がありました。
犬飼:2020年12月に厚生労働省にて「新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」が開催されました。そこで示された内容は、医師会との調整、クリニックの支援、ワクチンの管理・配送、膨大な事務作業など多岐にわたります。さらに、各官庁がそれぞれの業務範囲で出す通達も把握しなければなりませんでした。
例えば、医療関係は厚生労働省から、データ関連は内閣官房から、ワクチンの運搬の特例は国土交通省から通達が出ます。自治体はこれらの情報をまとめて「自分たちは何をすべきか」を判断し、迅速にワクチン接種の体制構築を進める必要があります。
髙橋:今回のワクチン接種業務は各自治体が自ら考えて接種体制を構築することが求められました。しかし、「地域の特性に合わせて判断する」ためには、さまざまな領域での検討や調整が必要です。
犬飼:通常の予防接種業務など対象者が限定されたものは定型業務で進められるものの、今回のような国民全体を対象とした大掛かりかつスピードが求められる接種事業は前例がありません。そうした状況を目の当たりにしたとき、「自分達はこれをただ見ているだけでよいのか…」と自問し、「支援できることがあるはずだ」との思いに至りました。
石井:ワクチン接種に関連する自治体の業務委託の入札・公募情報を見ると「ワクチン配送」「コールセンター」「印刷」など、機能ごとに分割されていました。それらの業務をつなぐ機能がなければ、ワクチン接種を効率的に進めることは難しいでしょう。。
すべての業務を鳥瞰して“交通整理”をする役割が求められていたように思います。しかし、自治体の日常業務ではそれぞれの担当範囲が明確に分かれていることがほとんどですから、「異なる業務の進捗を把握して全体を管理する」という役割があまりフォーカスされていなかったように感じました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 髙橋啓
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 石井麻子
犬飼:「ワクチンが早く安全に国民の皆さんに届くために、どの部分で、どのような支援をすればよいか」ばかりを考えていましたが、正直「とんでもない課題に飛び込むんだな」という思いもありました。
一方、PwCコンサルティングが支援することで、現場で頑張っている自治体職員の身体的・心理的な負担を少しでも軽減したいという気持ちも強かったです。本件を通して複雑な課題への対応ノウハウを確立することは、さまざまな課題に転用出来るのではないかとも感じていました。こうしたノウハウが全国に広まることで、複数のステークホルダーが協働し、より良い社会を創る事に繋がるのではないかとも考えました。
そんな想いをPwCコンサルティングのリーダー陣は全面的に後押ししてくれました。HIAやPSのリーダーは、「非常に厳しい状況だと思うが、自分達が社会を一歩前進させることができないかを考えて行動しよう!」と常に鼓舞してくださいましたし、大竹伸明CEOも「PwCのパーパス(存在意義)を体現すべく、まずは収益のことを考えず、出来ることを進めなさい」と背中を押してくれました。
こうした強力なバックアップにより常に目の前の課題を見て取り組むと共に、その場では解けないと感じるような課題も積極的に拾うことができました。また、メンバーだけでなく、PwCコンサルティング全体として現状を打破するんだ、という気持ちを常に持っていました。
髙橋:私は長年ヘルスケア領域を専門としていたので、パブリックセクターについては知見がありませんでした。ワクチン接種業務支援の複雑性、自分の専門外である業種・業界の方たちを支援することに難しさを感じていました。「非常に難易度の高いプロジェクトだな」というのが、当時の率直な感想です。
しかし、そうした部分は犬飼さんを始めPSチームが支えてくれました。「下を向くよりも前を向いて頑張ろう」という気持ちのほうが強かったですし、どこかワクワクする気持ちもありました。今振り返ると、PSチームが持つ知識・経験と、HIAが持つ医療業界への知識・経験が1つになったことが、成功の源だと思います。
石井:目の前にはやることが山積し、自治体の職員はそれをこなすだけで精一杯でした。ですから私たちは「何を解消すべきなのか」を基軸に、「何をしなければならないか」を考えていました。こうした課題整理と優先順位付けは犬飼さんのチームが担当してくれたので、私たちはそれを基に現場に寄り添いながら、現場にもっとも負担がかからないワクチン接種のプロセスは何かをずっと考えていました。
髙橋:自治体にアプローチする前に、まずはPwC側で公開情報を基に自治体が直面するであろう課題を整理しました。そのうえでスムーズなワクチン接種の「あるべき姿」の仮説構築を進めました。そして、その仮説を基に「支援させてくださいませんか」と自治体にお声がけをしたのです。
犬飼:複数の自治体にお伺いの電話をかけることから始めました。「PwCコンサルティングと申します。ワクチン接種業務の支援をしておりまして、担当者様に取次いでいただけませんか」と。ワクチン接種支援は社会課題解決の取り組みとして当面は無報酬での活動としていたのですが、残念ながら売り込みと間違われたり、「コンサルティング会社に依頼したことがないので」と断られたりすることがほとんどでした。当時はどの自治体もワクチン接種の検討を慌ただしく進めていましたし、正面からお声がけしても、「それどころではない」と取り合っていただけなかったです。
そんな中、既に千葉市とお付き合いのあったPwC JapanグループのPwCあらた有限責任監査法人のリーダーから紹介を受けたことがきっかけで、同市の課題をうかがったり、私たちが支援可能なことを説明させていただいたりといった協議の機会を得られました。PwCあらたが築いたトラストが今回の支援の始点を作ってくれたのです。
髙橋:千葉市の担当者の方と最初のミーティングをしてから、1カ月後に新型コロナウイルスワクチン接種に関する包括連携協定を締結しました。その間、ワクチン担当の現場に連日お邪魔し、机を並べて議論をしていましたが、現場は大変な状態でした。膨大な書類、鳴りやまない電話、日々変わる前提条件……。その中でも歯を食いしばって頑張っていた職員の方には本当に頭が下がる思いでした。
そうした状況下、日中は現場の方にお話を伺って課題収集を行い、夜にはPwCコンサルティングの内部定例会議でプロフェッショナルとともに仮説を構築し、翌日には現場にお持ちして議論を重ねることを繰り返しました。
石井:自治体職員の皆さんは個々の業務に対する処理能力と正確性がものすごく高いと思います。一方、複数の業務をコラボレーションさせ、新たな取り組みを実施する分野ではお手伝いできることが多いように感じました。私たちが構築した仮説をお持ちして説明すると、「目から鱗が落ちた」と非常に喜んでいただけました。
もう一つ、常に気をつけていたのは「+αの付加価値を提供できないか」ということです。PwCコンサルティングにはサプライチェーンやデジタル推進の専門家が多く在籍しています。支援室の基礎部分はPSやHIA部門が担当していましたが、そこに付加する形で、サプライチェーンの最適化や先進テクノロジーを活用したデータ管理、効率的なカスタマーサービスのノウハウなどを+αで提供できないかを考えていました。
石井:夜の定例会議での議論です。毎日夜8時からPwCコンサルティングのさまざまなプロフェッショナルをゲストに招き、議論を重ねました。支援室のメンバーが現状の課題を共有し、良いソリューションがないかと質問すれば、各プロフェッショナルの視点から的確なアドバイスを返してくれました。業務が夜に及ぶことについては是非もありますが、今回のような非常事態の中で、私自身、コンサルタントとしてとても勉強になりました。
犬飼:私も夜の定例会議が印象に残っています。現場では前提条件が日々変わるので、「新たに発生する問題を現場で課題に落とし込み、夜に解決策を見出す」というサイクルがほぼ定着していました。課題を見つけてチームと共有し、夜の定例会議でその分野の最前線で活躍しているプロフェッショナルと議論してアドバイスをもらえる。非常に心強かったですね。
例えば、ワクチン配送の課題ではサプライチェーンチームや物流チーム、ワクチン管理の課題ではエマージングテックチームなど、多くの人に助けられました。こうしたことがすぐに実現できるのはPwCならではだと思います。それぞれプロフェッショナルとして日々の業務が忙しいはずなのに、「この取り組みは重要だ。頑張って!」と言いながら議論に加わってくれたことで、翌日に胸を張って現場に向かうことができました。
髙橋:千葉市の支援が決まってから大竹CEOと2週間に1回ミーティングをし、現状報告と追加支援のあり方などを話し合いました。その中で特に印象に残っているのは、「今回の支援プロジェクトは、解けないナゾナゾを解くようなものだ」と言われたことです。「どんなに現状が過酷で難解な課題であっても、全力で解決方法を考えて実行すれば光は見えてくる」という意味だと捉えています。
こうした活動をPwCコンサルティングが全社を挙げてバックアップする背景には、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのパーパスを全社員が共有し、個々の社員が「未曾有の課題に対してわれわれは何をすべきなのか」を真剣に考える土壌があるからです。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 犬飼健一朗
髙橋:私は今回の支援活動を通じ、「PwCには組織全体でコラボレーションする力がある」ことを再確認しました。当初、日本のワクチン接種は、欧米やオーストラリアと比較して遅れていました。そのため支援チームでは先行して国のワクチン接種を支援していたPwCオーストラリアの担当者に話を聞きました。他国のPwCグローバルネットワークのメンバーファームにもワクチン接種推進にかかる課題を聞き、どの部分が日本の支援に移植できるのかを考えました。こうしたアプローチは、グローバルでビジネスを展開しているPwCだからこそ実現できたと思います。
犬飼:今回の経験は、今後、前例のないような緊急性の高い事態に直面した際に役立つと確信しています。具体的な支援のノウハウが蓄積されたことはもちろんですが、PwCコンサルティングのメンバーが、「自分たちは、協働により、複雑化した社会課題を解決する一助となれる」ことを実感できたのは大きな学びだと思います。
石井:私自身、こうした案件を悲壮感なくできたことは大きな収穫でした。今、振り返って「なぜできたのか」を考えると、やはりPwCがパーパスを軸にしたプロフェッショナル集団であり、「これはやるべきだ」という意思統一ができたら、同じ目標に向かって邁進する人たちが揃っているからだと思います。また、テリトリー(国)・法人・部門・チームを超えた協働が自然に発生するのはPwCならではだと思います。
髙橋:今回の取り組みは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのパーパスを具現化したと考えています。そして、これらの取り組みを一緒に進めたメンバー、サポートしてくれた社内の各分野のプロフェッショナル、人的リソースがひっ迫する中でも「社会に欠かせない取り組みだからやろう」と決めた経営陣にも感謝しています。
私は支援活動を通じ、「大きな社会課題は一人の人間の力では解決できない。しかし、さまざまな力を持つ人間が集結し、意思を持って前進すれば解決できない課題はない」ことを再認識できました。
PwCは「社会課題に対してアクションをしたい」という情熱を持った人の集団です。僭越ですが、古参の社員がそうした姿勢を示すことで、若手にもその思いは受け継がれていくと確信しています。これからもPwCが掲げるパーパスを大切にしながら、日々の業務に取り組んでいきます。
犬飼:今回の支援活動を通して、「PwCっていいな」と思うことがたくさんありましたし、改めてPwCが好きになりました。私のような若手でも職階や部門の違いを超えてフラットに議論ができたり、誰もが惜しみなく知見を与えてくれたりと枚挙に暇がありません。
こうした経験は、私のコンサルタント人生で大きな糧になりました。「さまざまなチームの人が応援してくれる」ことは非常に心強かったですし、将来、私もそうした役割を果たして“恩送り”のようなことができたらよいと考えています。
石井:PwCには協働を促進しそれを周囲が応援する文化があり、一人一人のマインドに根付いていると強く実感しました。髙橋さんや犬飼さんが指摘したとおり、「インパクトを起点に考え、部門間の壁を取り払ってコラボレーションを促進する」という文化が根付いていると思います。PwCの一員として、私もそうした文化を継承していきたいと考えています。