2024年の見通し

金融サービス業における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Financial Services hero image
  • 2024-04-24

金融サービスのM&Aは2024年も厳しい状況が続くと見られますが、金融機関がトランスフォーメーションの必要性に迫られていることから、ディールメーカーは楽観的な見通しを持っています。

多くの金融サービス領域のディールメーカーは、高インフレ、金利上昇、経済成長率の低下といったマクロ経済的要因による不確実性がM&A活動を停滞させた2023年を終え、より楽観的な気持ちで2024年を迎えました。マクロ経済情勢と地政学的緊張は依然として厳しいものの、最近の株式市場の上昇と中央銀行からの金利に関するポジティブなシグナルによって、投資家は徐々に自信を取り戻しています。

現在の市場環境は、デジタル化、サステナビリティ、労働力の課題など、現在進行中の必要な取り組みと相まって、金融サービス業の各プレーヤーに、時代遅れにならず高収益であり続けるためにトランスフォーメーションを加速するよう圧力をかけています。特に、今のマクロ経済の環境下ではオーガニックグロースは厳しい課題に直面している中、内部的な対策に加え、M&Aはトランスフォーメーションの旅に不可欠な要素であり続けています。M&Aに関連したトランスフォーメーションには、買収によって企業や組織の能力を強化し、規模の経済と範囲の経済を通じて将来の成長を促進することが含まれるでしょう。あるいは、事業売却によってオペレーションを改善し、ビジネスモデルに変更を加えることも考えられます。

金融サービスセクターには規制が厳しくリスクを避ける傾向もあることから、トランスフォーメーションを成功させることがより難しいという独自の課題に直面しています。厳しい市場環境は、市場参加者がM&Aを検討する上で強い逆風となります。ディールメーカーは、トランスフォーメーションを促進するために、メガディールではなく、小規模なトランザクションを選好することが予想されます。また、ディールプロセスは長期化し、分析も複雑化すると見込まれます。

「現在の市場は金融サービスセクターのすべてのディール参加者にとって非常に厳しいものですが、セクターにおける将来の位置付けを確固たるものにするために、買収や売却を通じて優位に立つことが、他社が躊躇している今こそ必要だと私は確信しています」

Christopher Sur,PwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービス関連ディールリーダー

サブセクターの動向は以下の各セクションをご覧ください。

スポットライト:保険ブローカー

商業保険ブローカー市場は、非景気循環的な性質、底堅い需要、そして多くの国で依然として非常に細分化された市場であり業界再編の見込みが強いことから、このセクターへの参入を図る投資家にとって魅力的な分野です。この市場には多くの中堅・中小企業が存在するため、シナジー効果とスケールメリットの機会が創出され、厚い利ざやと安定したリターンが見込まれる長期の投資機会を求める投資家にとっての魅力となっています。

プライベートエクイティ(PE)は再編の取り組みの推進力であり、保険ブローカーのディールのかなりの割合を占めてきました。保険ブローカー統合の流れは20年ほど前に米国と英国で始まりましたが、その勢いは衰える気配がありません。他の多くの国は市場統合の初期段階にあり、国内市場が成熟している国の保険ブローカーは、成長のために海外に目を向けて始めています。

欧州・中東・アフリカ(EMEA)の多くの国々では、ライバル企業による保険ブローカーの買収や、PEに支えられた統合企業の成長が、活発なM&Aにつながっています。例えばドイツでは最近、欧州有数の中堅・中小企業向けブローカープラットフォームであるGossler, Gobert & Wolters(GGW)が、非常に細分化されたドイツおよび欧州の保険ブローカー業界における買収による成長戦略に対して、Permiraから出資を受けました。2023年11月にFarmers Groupが米国の保険ブローカー3社の買収を発表したほか、Aonがリスク、ベネフィット、ウェルス、リタイアメントプランのアドバイザリーソリューションの中規模市場における大手プロバイダーであるNFPの買収(134億米ドル)を提案するなど、統合が進んでいます。Aonはインドの保険ブローカー会社を買収する計画も発表しており、これにより現在事業を行っていない都市でも存在感を発揮することになるでしょう。

2024年のM&Aホットスポット

2024年のM&Aホットスポット(活発な分野)は以下の通りです。

  • アセット/ウェルスマネジメント(AWM):既存事業の売上減速とマージンの縮小に直面するAWMは、規模の拡大や新分野の獲得、特にサステナビリティ、オルタナティブ資産、ユニークな資産運用のスペシャリストの獲得を目的としたM&Aを継続・強化するでしょう。
  • 保険:保険セクターでは継続的なディールが予想され、各社はコスト削減と資本効率の改善を目的として、複雑な旧来型の保険ポートフォリオの売却を検討しています。市場関係者の間では、保険会社のリスクキャリア部門と資産運用部門の分離が引き続き検討されています。さらに、前節で述べたように、非常に細分化されたこの市場の再編が進行中であり、PE投資家を引き続き惹きつけるでしょう。
  • PE:金融サービスに特化し、専門チームを編成し、ファンド量を増やしている投資家は、保険ブローカー、ペイメント(決済)、プラットフォーム、フィンテック、インシュアテック、レグテック(金融規制に対応する金融ITソリューション)などの金融サービスや関連トピックに注目しています。そのため、これらの分野でのM&Aはさらに活発化すると予想されます。しかし、PE投資家は資本コストの上昇やレバレッジの制限によってリターンに対する強いプレッシャーに直面していることから、価値創造にフォーカスすることがこれまで以上に重要になるでしょう。
  • ペイメント(決済):マクロ経済面からの逆風がM&A市場に影響を及ぼしているにもかかわらず、多くの投資家にとってペイメント(決済)分野は依然として非常に魅力的です。PEファームも銀行やペイメント業者も、ペイメント事業は他の金融サービス事業に比べて拡張性があり、規制が緩やかで、収益性が高いと見ています。PEファームがペイメント事業を成長させる際には、バイ・アンド・ビルド戦略が一般的です。
  • フィンテック:金融サービス各社は、エコシステムを構築し、ビジネスモデルをさらに発展させるために、フィンテック企業や新たな販売パートナーなどと戦略的パートナーシップを結んでいます。しかし、多くのフィンテック企業にとって、新たな資本や流動性へのアクセスはますます困難になっています。その結果、魅力的な買収候補となるフィンテック企業もあれば、ディストレストM&Aの対象となる企業もある一方で、うまくいかず消滅する企業も出てくるでしょう。
47%

の金融サービス企業のCEOが、今後3年間に買収を計画している。

出典:PwC第27回世界CEO意識調査

金融サービス業における2024年の主要なM&Aテーマ

リストラクチャリング

マクロ経済面からの強い逆風にもかかわらず、全体的な信用の質は底堅く推移しています。しかし、マクロ経済の厳しい状況が長引けば、特に商業用不動産(CRE)関連において、銀行が保有する不良資産が増加する可能性があります。これを受けて、銀行セクターのバランスシートを強化し自己資本比率を改善するために、金融サービス業のプレーヤーは非中核資産や不良債権(NPL)の売却などのリストラ策を強化することになるかもしれません。

ESG

金融サービス企業は、ESG基準を経営判断に反映させるよう、規制当局やステークホルダーからますます強い圧力を受けています。規制当局は、ESG基準が監督下にある企業の戦略・事業計画の策定やリスク選好において中心的な役割を果たすようになることを期待しています。従業員、顧客、バリューチェーンパートナー、NGO、メディアなど他のステークホルダーも、ESG基準が金融サービス企業の更なる発展にとって重要であると考えています。そのため、投資家も投資判断や事業戦略の決定の際にESG基準をますます重視するようになってきています。

DXとテクノロジー

フィンテックや金融サービス以外の企業によるディスラプション(既存ビジネスの破壊)を背景に、金融サービス業のプレーヤーは消費者の期待に応え、市場での地位を確立する必要があるため、デジタル化は引き続き戦略的優先事項となります。2024年のM&A、戦略的パートナーシップ、アライアンスでは、データの活用、高まるサイバーセキュリティ上の懸念に対するソリューションの導入、業務の効率化の推進、取引プロセスの迅速化などを実現するディールに焦点が当てられる見込みです。

2023年のM&A件数と金額

金融サービスセクターのディール件数と金額(2019-2023年)

Bar chart showing M&A volumes and values for the financial services sectors. Deal volumes and values in FS declined by 12% and 40%, respectively, between 2022 and 2023.

出典:LSEGおよびPwC分析

2022年から2023年にかけて、世界の金融サービス業におけるM&A件数は12%、金額は40%減少しました。2021年と2022年の金融サービス業のディール活動の大幅な増加に加え、2023年初頭に金利が上昇し、関連銀行の破綻が相次ぎ、銀行セクターだけでなく金融サービス業全体やより広範に市場の不確実性が高まった結果、2023年のM&Aは抑制されました。ディール件数は2019年と2020年の水準に戻ったものの、ディール金額は前年を下回りました。ディール金額の減少は、ディールメーカーがトランスフォーメーショ ンを達成するために、メガディール(50億米ドルを超えるディール)ではなく、より小規模なディールを行う傾向にあったことをある程度反映しています。メガディールの件数は、2021年の21件から2022年は7件、2023年はわずか3件に激減しました。

金融サービス業における世界のM&A動向

2023年の銀行セクターのディールメーキングは、銀行の破綻、金利の上昇、貸出債権の潜在的リスクに関連する不確実性によって、減少しました。

規模の不足や、似たようなビジネスモデルの銀行の一部セグメントでの飽和状態といったシステム上の課題を克服するためには、再編はある程度避けられないと見られています。例えば、米国では地方銀行やコミュニティバンクの数が多いため、規模の拡大と活用の手段として再編の機会が生まれています。規模を拡大すれば、複雑化・厳格化する規制や自己資本規制の強化に伴うコスト増を吸収できると見込まれます。さらに、大規模な金融機関の方が、金融サービスセクターを侵食しつつあるフィンテック企業や豊富な資金力を有する消費者ブランドなどの新規参入企業に対抗するために、テクノロジーや顧客体験への投資に十分な予算を確保できる可能性が高まります。

こうした背景から、再編の波は以前から予想されていました。しかし、いくつかの緩和要因があるため、今のところ統合は進んでいません。その要因には、規制のばらつき、レガシーインフラの統合とシナジーの実現が難しいこと、高金利、買収ターゲット銀行の貸出金や債券のポートフォリオに評価損が含まれていることなどがあります。高金利がもたらす評価損の拡大に備え、買い手は資産の精査を強化しなくてはならず、多くの買い手が取引を躊躇しています。さらに、規制当局による銀行M&Aの承認に要する期間が長期化していることも、買い手候補の意欲を削ぐ要因となっており、買い手の多くはより魅力的な他の成長戦略を選好しています。

全体として、保険セクターは厳しいディール環境下でもレジリエンスを維持しており、減速する他セクターと比べてディール活動は活発です。特に、以下のようなトレンドやトピックが、現在および将来の保険セクターのディールを促進すると予想されます。

  • 保険ブローカー:非常に細分化された市場において、ブローカーの統合が進むと予想されます。スポットライトのセクションで述べたように、規模の経済から利益を得るために統合を行うPE投資家からの注目と需要が高まっています。
  • ポートフォリオの最適化: 保険会社はコア商品に集中し、業務の複雑性を軽減するために、資本集約的な生命保険・年金事業の売却を続けています。これにより、保険会社はコストを削減し、資本効率を改善し、資本を中核事業に再配分する機会が得られます。
  • 競争: 新たなプレーヤーが既存のバリューチェーンを破壊しています。デジタルプラットフォームやハイテク大手など、従来とは異なる競争相手の出現は、既存の保険会社にプレッシャーを与えています。
  • パートナーシップ: 保険会社はインシュアテック企業と協業し、機械学習やAIなどの分野におけるデジタル化の取り組みを活用することを目指しています。

アセット/ウェルスマネジメント(AWM)産業は、前例のない存続の危機に直面しています。DX、投資家の期待の変化、統合、「リテール化」といった分野は、市場のボラティリティや金利上昇と相まって、資産運用会社や投資家の懸念事項の上位に挙げられています。PwCの「資産運用業界における変革への対応:新しい時代」では、2027年までに既存のAWM組織の16%が他社に吸収されるか、消滅を余儀なくされると予想しています。AWMセクター全体がオーガニックグロースの減速と利幅の縮小に見舞われているため、焦点とスケールが重要となっています。そのため、AWM企業はM&Aを活用して事業を成長させ、規模と範囲の経済を実現しています。現在、AWM分野におけるディールは以下のような要因によって促進されており、今後もその傾向が続くと予想されます。

  • 戦略的パートナーシップ:金融サービス業の企業は、収益向上のためだけでなく、コスト構造を最適化する手段としても、戦略的パートナーシップを模索するようになってきています。このような提携により、企業は収益機会を共有しながら、バックエンド業務を戦略的に効率化し、コスト削減を図ることができます。
  • ポートフォリオの最適化: マクロ経済面で厳しい市場であることから、運用会社は収益性とバリュエーション向上のためにポートフォリオの最適化に注力しています。既存ポートフォリオの見直しによって、バリュエーションを高め、全体的な収益性を最大化するためには資本配分をどこに集中し、どこから撤退すべきかを特定することができます。
  • 多様化: 金融サービス業の企業は、買収、新たな販売チャネル(顧客基盤を含む)や新たな資産クラスによって商品を多様化し、商品イノベーションを強化することで、課題に対応しています。
  • 規模とレバレッジの追求: 買収を通じて成長する大規模な資産運用会社は、その規模を活用してコストをより広範なアセットベースに分散させることができ、ディールをより機敏に実行することができます。

金融サービスにおける2024年のM&Aの見通し

昨年は金融サービスセクター全体でディール活動が鈍化し、厳しい市場環境となりましたが、2024年中にディールフローが改善し、M&Aが増加する可能性があると見ています。金融サービス業のプレーヤーは、現在および将来の課題に対応し、持続的な成果を生み出すために、ビジネスモデルのトランスフォーメーションをさらに進めなければならないという大きなプレッシャーにさらされています。M&Aは、将来の成長を促進するための事業買収や、収益性の低い事業や非中核事業を売却して経営の焦点を絞ることにより、トランスフォーメーションに必要なステップのカタリスト(触媒)の役割を果たすでしょう。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2023年12月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2024年1月3日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。本データは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報で補完されています。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Christopher Sur 
PwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービス関連ディールリーダー

Thorsten Egenolf
PwCドイツ、シニアマネージャー

※本コンテンツは、PwC米国が2024年1月に公開した「Global M&A trends in financial services: 2024 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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