消費者セクターにおける世界のM&A動向:2023年上半期最新情報

ポートフォリオの見直しとキャパシティ・ビルディング(基礎能力の構築・向上)への注力により、消費者セクターにおいてM&A市場が活性化するでしょう。

消費者セクターのM&A市場は、2023年上半期には鈍化し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降での最低水準に達しました。マクロ経済の先行き不透明感とインフレによる実質所得の減少が消費者心理とその支出に直接影響しており、2023年中の回復は緩やかでしかないとの見方は変わりません。しかしながら、長期的なトレンドと基底的な要因によって、今年下半期には消費者セクターのM&A市場がより安定すると、見込んでいます。

消費者心理は回復の兆しを見せています。PwCが2023年6月に実施した「グローバル・コンシューマー・インサイト・パルス調査」では、消費者の50%が今後6カ月間でオンラインショッピングの利用を増やす予定であることが分かり、高級品、娯楽・レジャー、旅行などの業種だけでなく、小売業全体でも支出総額の大幅な増加が見込まれています。ディールメーカーは目先の投資戦略を検討する際、安定性の向上を示す手がかりがないか、経済情勢およびその他のデータソースを注意深く観察しています。

売り手と買い手の間には依然としてバリュエーションギャップがあるため一部の資産が市場に出回らない可能性はあるものの、バリュエーションは引き続き低下すると予想しています。消費者セクター全体、特に小売やレジャーサブセクターの一部での再編が増加すると予想されていますが、成長の鈍化、利益率の圧迫、資金調達コストの上昇を考慮すると、驚くことではありません。流動性の問題やリファイナンスに直面する企業が増加していることから、再編が活発化するだけでなく、キャッシュリッチ企業やプライベート・エクイティ・ファンドが買い手になると予想される、(プレ)ディストレストM&Aの可能性も高まるでしょう。

Global M&A Trends in Consumer Markets: 2023 Outlook image

「消費者セクターの企業のCEOは、厳しい経済環境、消費者行動の長期的シフト、テクノロジーの躍進を両立させています。M&Aは、企業が戦略的目標を成功裏に達成するための貴重な促進剤になると信じています」

Hervé RoeschPwC英国、パートナー、グローバル消費者セクターディールズリーダー

私たちは、取引を通じて変革し、戦略的アジェンダの実現を加速させなければならないという企業に対するプレッシャーが、これまでと同様に、あるいはそれ以上に高まっていると考えています。このプレッシャーに拍車をかけているのは、D2Cや生成AIを含むテクノロジーを革新し活用することで、消費者の消費支出をより多く引き出し、新規顧客の転換や獲得を図ろうという意欲と危機感の高まりです。テクノロジーによるD2Cの提供とオムニチャネルモデルの改善は、消費財企業の間で長年のテーマでした。小売企業は、意思決定時点と販売時点の両方において、顧客体験を最適化し、拡大するためにテクノロジーを活用する傾向がより強まっています。サプライチェーンの回復力に対する懸念が、輸送・物流のような垂直統合に焦点を絞ったM&Aに拍車をかけ、企業は、特にラストワンマイル配送に関連した業務を改善し、エンドツーエンドのサプライチェーンを強化するテクノロジーへのアクセスを模索しています。

また、消費者セクターの企業が持続可能性をより重視したポートフォリオの再構築を進めると予想されます。インフレにより消費者の可処分所得と裁量支出の水準が低下しているにもかかわらず、前述した「グローバル・コンシューマー・インサイト・パルス調査」によると、回答者の80%が持続可能な方法で生産された商品により多くの金額を支払う意思があると回答しています。環境、社会、ガバナンス(ESG)がスクリーニング基準として、またデューデリジェンスにおいて重要性を増していると考えられます。

特に今日見られるような株主アクティビズムの高まりを考慮すると、CEOは引き続きポートフォリオの変革と特定の非中核資産やブランドの売却に注力すると予想されます。

今後6カ月間に活発化する可能性が見込まれるもう1つのM&Aは上場企業の非上場化ディールであり、特に小売セクターでは上場企業のバリュエーションの低下によりディールメーカーにチャンスが生まれるでしょう。

消費者セクターにおけるM&A市場を推進する主要テーマ

小売

  • 2023年下半期を展望すると、小売セクターは依然として厳しい状況にあり、消費者向けヘルス&ウェルネス(ヘルス&ビューティーサービスを提供するクリニックを含む)、美容、ペット小売、ペットサービスなど、回復力の高いサブセクターで、リファイナンスや変革の必要性を背景として、M&Aが発生する可能性が高いでしょう。
  • 2023年上半期に発表された注目すべきディールの多くは、ロレアルによるオーストラリアの化粧品小売企業イソップの買収提案、JDスポーツによるフランスのスポーツウェア小売企業クリールの買収提案、ミグロによるスイスのオンライン薬局事業Zur Roseの買収、ビタミン・ミネラル・サプリメント部門やペット用品・サービス部門を含む複数の小売事業を展開する米国企業フランチャイズ・グループの経営陣グループによる非公開化など、これらの部門に関するものでした。
  • アスダがEGグループから英国とアイルランドでガソリンスタンド350店舗とテイクアウト専門店1,000店舗を、ザ・コープからガソリンスタンド併設の食料品小売132店舗を買収すると発表した他、アリメント・クーシュ・タール社が2023年3月に欧州4カ国でサービスステーション2,200店舗とトータルエナジー社のB2B燃料カード事業を買収すると発表し、31億ユーロを投じるなど、燃料・コンビニエンス小売の現場も様変わりしています。これら3件のディールは、ガソリンからの需要シフトに対応し、電気自動車の将来的な充電ニーズに対応するために変化しつつあるこのセクターに対する投資家の幅広い関心を示すものです。
  • インフレの影響で消費者が必需品以外への不要不急の支出を控えているため、家庭用品、ファッション、家庭用電化製品などのその他の小売部門は需要の低迷に直面しています。これらのセクターでは、今後数カ月間、再編やディストレストM&Aが活発化すると予想されます。

消費財ホスピタリティ&レジャー輸送・物流の各部門の主要なトレンドをお読みください。

消費財

  • 消費財セクターは、M&Aの観点からは引き続き魅力的であり、ポートフォリオの見直しや戦略的ディールが活発化しています。例えば、アルトリアによる電子タバコとVAPE製品のメーカーであるNJOYの買収や、ディアジオによるプレミアムラム酒のドン・パパ・ラムの買収などです。
  • イタリアのIRCAによるKerry GroupのSweet Ingredients Portfolioの買収計画に示されるように、M&A市場は食品素材とアグリビジネスのサブセクターで活発化すると予想しています。また、ポスト・ホールディングスが米国のJ.M.スマッカー社から一部のペットフードブランドを買収したように、ペット用品セクターも引き続き活発な動きが続くと予想されます。コンシューマーヘルスケアなど、個人消費の低迷に対して強いセクターでも、M&Aの案件組成が継続する可能性が高いでしょう。
  • また、コンシューマーサービス(芝生の手入れ、ホームクリーニング、食料品や食品の宅配など)への関心が高まっていることも指摘されており、投資家は、収益の経常性とサービス提供のためのデジタル基盤に魅力を感じています。

小売ホスピタリティ&レジャー輸送・物流の各部門の主要なトレンドをお読みください。

ホスピタリティ&レジャー

  • 全体として、今年上半期のホスピタリティ&レジャーセクターにおけるM&A市場は、スポーツのサブセクターが中心でした。最も注目された取引は、NFLのワシントン・コマンダーズの60億米ドルの買収案でした。クラブ、リーグ、放送権所有者など、その他のスポーツ関連資産も数多く取引されており、2023年下半期も引き続きディールが活発に行われると予想されます。

  • ビジネストラベルは2019年の水準にほぼ戻っており、その結果、旅行サブセクターのM&A市場も活発化しています。フライトセンターによるハイエンドな旅行会社スコット・ダンの買収や、ハイアットが発表したロンドン拠点の高価格帯の宿泊施設のプラットフォームであるMr & Mrs Smithの買収計画など、M&Aは主に企業が主導しています。

  • 全体的なM&A件数は引き続き低調に推移するものの、投資家は引き続き優れた事業の買収に目を向けると予想されます。最近の例では、Mohari Hospitalityによるタオ・グループの買収や、日本のコングロマリットであるトリドールがCapdesiaと提携してFulham Shoreを非公開化するなど、企業主導の活動が引き続き好調であることが見られます。

小売消費財輸送・物流の各部門の主要なトレンドをお読みください。

輸送・物流

  • パンデミックによる需要増とそれに伴うサプライチェーンの混乱によって利益増の恩恵を受けたセクターにおいて、2021年から2022年半ばにかけてM&A案件数が記録的な水準となった後、輸送・物流セクターにおけるM&A市場はその後沈静化し、2023年上半期にはパンデミック前およびパンデミック後の両方の水準を下回っています。

  • 未公開企業の評価額が売り手と買い手の間で再調整されるまでは、ディールフローは低調に推移すると思われます。しかし、ブルックフィールド・インフラストラクチャーによる貨物コンテナの大手賃貸業者であるトリトン・インターナショナルの非公開化など、上場企業の非上場化の取引がさらに増える可能性があると予想しています。

  • 2023年5月に発表されたCMA CGM SAグループによるボロレ・グループのロジスティクス事業の買収案件は、大手国際荷主が主導する垂直統合トレンドの一例です。

  • 買収を通じてイノベーションを加速させようとする大手事業者によるキャパシティ・ビルディング型M&A(物流サービスやテクノロジーに重点をおいたもの)が、多数の中小規模のディールとともに、今年下半期の輸送・物流M&A市場を牽引すると考えています。

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消費者セクターにおける2023年下半期のM&A見通し

全体として、経済背景と資金調達の課題を考慮すると、2023年も消費者セクターのM&A市場は引き続き厳しいものになると予想されます。楽観的な見方が徐々に広がるとはいえ、ディール規模は過去の水準を下回る可能性が高く、ディールの資金調達や全ての関係者のダウンサイド・プロテクションをサポートするために、より複雑なストラクチャーが含まれるようになるでしょう。成功するディールメーカーは、準備を整え、適切な機会を捉えて行動し、戦略目標を実行して、十分に検討された価値創造プランを通じて持続的な成果をもたらす企業となるでしょう。

※本コンテンツは、PwC米国が2023年6月に公開した「Global M&A Trends in Consumer Markets: 2023 Mid-Year Update」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

消費者セクターにおける各国のM&A動向については、以下の国・地域を選んでご覧ください。

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