IFRSを開示で読み解く(第42回)のれんの減損―IFRS適用後①

2023-03-28

2023年3月28日
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部

IFRSにおいてのれんは、規則的な償却は行わず、代わりに減損の兆候の有無に関わらず各年次において減損テストを実施することが求められています(IAS第36号第10項)。

国際会計基準審議会(IASB)は「のれんと減損」プロジェクト(*)において、のれんの事後の会計処理に関して、2022年11月に、減損のみのモデルを維持するという予備的見解を維持することを暫定的に決定しました。また、IASBは同プロジェクトにおいて、2022年9月には、取得後の業績情報についての開示要求をIFRS第3号に追加することなど、開示についても暫定的に決定しています。

(*)プロジェクト名称は2022年12月より「企業結合―開示、のれん及び減損」に変更されています。

IASBは今後、開示提案の詳細とともに減損テストの改善および簡素化について審議した上で、公開草案として公表すべきかどうかを審議・確認する予定です。

本稿では、あくまで現行IFRSののれんの減損テストの要求事項の下、日本のIFRS適用企業がどの程度の減損損失を認識しているかを調査しました。

本文中の基礎情報は掲載当時のものであり、意見にわたる部分は筆者の見解であることをあらかじめ申し添えます。

のれんの減損の状況

日本のIFRS適用企業におけるのれん残高および減損の状況について直近5期間の推移を把握するため、2022年9月末時点でIFRS連結財務諸表を公表している上場企業(251社)のうち、5期前であるFY17*1以前よりIFRS連結財務諸表を開示(155社)し、かつFY17の期首にのれん残高がある112社を調査対象としました(図表1)。

*1 2017年1月1日から2017年12月31日に開始する事業年度。以下、各事業年度をFYで表記。

図表1: 調査対象企業

(1)5期間における減損認識状況

調査対象とした112社のうちの約3割にあたる34社が、調査対象期間である5期間において1度も減損損失を認識していませんでした。残りの78社は5期間のうち1期以上において減損損失を認識していました(図表2)。

図表2: のれんの減損認識

(2)のれん期末残高と減損認識割合の推移

のれんの残高は近年増加傾向にあります。これはM&Aによるのれんの増加、直近期においては為替変動による増加が影響しています。のれんの減損損失については、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響を強く受けたFY19やFY20に多くの企業が認識していますが、のれんの前期末残高に対する認識割合はそれぞれ1.45%、2.02%であり、5期間の中でも際立った数値ではありませんでした(図表3)。

図表3: 期末残高および減損損失割合の推移

(3)業種別比較

各期におけるのれんの減損損失を認識した企業数を業種別に比較すると、FY19は業種を問わず多くの企業が減損損失を認識しており、特に「サービス業」と「情報・通信業」においては半数以上の企業が認識していました(図表4)。「電気機器・精密機器」では調査対象期間を通じて企業数に大きな変動はなく、「医薬品・化学」および「その他の業種」では割合(減損損失を認識した企業数が各業種内の企業数に占める割合)としては各期ともに低い状態が継続していました。

図表4: 減損損失を認識した企業数(業種別)

最後に

日本のIFRS適用企業におけるのれんの残高と減損認識の状況に関する調査の結果は以上のとおりです。

直近5期間を通じて、毎期、複数の企業においてのれんの減損損失が認識されています。減損損失を認識した企業は、IFRSにおいて減損損失の認識額、減損損失の認識に至った事象と状況などの開示が求められます。

また、減損損失の認識の有無にかかわらず、のれんを認識している企業は、減損テストに用いた見積りに関する情報を開示することが求められています。

次回は、減損テストの開示状況などについて紹介します。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

執筆者

住田 晋一郎

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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飛田 朋子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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