IFRSを開示で読み解く(第22回)損益計算書の段階損益の表示と計算書方式について

2016-06-30

PwCあらた監査法人
財務報告アドバイザリー部
島津 琢実

今回は、IFRS(国際財務報告基準)を任意適用した日本企業の損益計算書の表示に関して、段階損益及び計算書方式の事例をご紹介します。

1.段階損益に関する検討

IFRSにおいては、純損益、その他の包括利益の合計、当期の包括利益の合計を表示することを要求(IAS第1号「財務諸表の表示」第81A項)していることのほか、段階損益について具体的な定めはないものの、企業の業績の理解に関連性がある場合に、追加的な表示科目、見出し及び小計を表示することを要求しています(IAS第1号第85項)。
一方、日本基準においては、連結財務諸表規則において、売上総損益、営業損益、経常損益、税金等調整前当期純損益の表示が求められています(連結財務諸表規則 第54,56,61,64条)。

日本基準と比較してIFRSの方が、開示が必須となる段階損益が少ないため、IFRSを適用した企業が、日本基準で開示していた段階損益からIFRSにおいてどのような段階損益を表示するようになるか、いくつかの角度から分析します。

 

分析1‐1:損益計算書の段階損益(純損益より前まで)

例:段階損益として、売上総利益、営業利益、税引前利益の3つを表示している会社は、下記表において「段階損益の数」を3とカウントしています。なお、日本基準からIFRSへ移行した有価証券報告書提出企業51社(2016年2月末現在提出済み、非上場含む)を調査対象として分析しました。

段階損益の数

企業数

%

3

37

72.5%

4

7

13.7%

2

5

9.8%

5

1

2.0%

1

1

2.0%

総計

51

100.0%

(注1)段階損益の名称について、同じ意味をなすと考えられるものについては1種類の段階損益として取り扱っています(例:「営業利益」と「営業活動に係る利益」)。
(注2)段階損益が4または5項目ある企業の多くが、非継続事業を有している企業です。

段階損益として、3つの項目を設けている企業が約7割を占めていました。これらの企業の具体的な段階損益の内訳の多くは、「売上総利益」「営業利益」「税引前利益」です。
当該3つの段階損益を設けている企業が多いことの一つの要因として、次のことが考えられます。IFRSにおいては、「企業は、収益または費用のいかなる項目も、純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記において、異常項目として表示してはならない。」(IAS第1号第87項)と規定されています。そのため、IFRSでは、日本基準における経常損益という段階損益を原則的に設けることができないと考えられますが、従来からの表示の継続性を維持するために、上記の3つの段階損益を開示したと考えられます。 

 

分析1-2:業種別の段階損益の数の分布状況(税引前利益まで)
企業間比較の観点から、業種別に段階損益の数の分析を行いました。

東証業種名

段階損益の数

企業数

比率

医薬品

3

7

87.5%

 

4

1

12.5%

医薬品 計

 

8

100.0%

電気機器

3

5

71.4%

 

4

2

28.6%

電気機器 計

 

7

100.0%

輸送用機器

3

5

83.3%

 

4

1

16.7%

輸送用機器 計

 

6

100.0%

サービス

3

3

60.0%

 

4

1

20.0%

 

2

1

20.0%

サービス 計

 

5

100.0%

情報・通信

3

4

100.0%

情報・通信 計

 

4

100.0%

小売

3

3

100.0%

小売 計

 

3

100.0%

卸売

3

2

66.7%

 

5

1

33.3%

卸売 計

 

3

100.0%

その他金融

2

2

100.0%

その他金融 計

 

2

100.0%

機械

3

2

100.0%

機械 計

 

2

100.0%

ガラス・土石製品

4

2

100.0%

ガラス・土石製品 計

 

2

100.0%

化学

3

2

100.0%

化学 計

 

2

100.0%

証券、商品先物取引

2

1

50.0%

 

1

1

50.0%

証券、商品先物取引 計

2

100.0%

総計

 

46

 

(注)上記分析対象46社と51社との差異5社は、業種において1社しかないため、分析対象外としています。

母集団の数や、非継続事業の有無などにより単純には比較できませんが、業種によって段階損益の数に、バラつきが生じています。情報・通信、小売、機械、その他金融、ガラス・土石製品、化学の業種においては、開示している段階損益の数が全ての企業で同じでした。

2.1計算書方式と2計算書方式の選択

IFRSにおいては、財務諸表を構成する計算書である「その期間の純損益及びその他の包括利益計算書」について(IAS第1号第10(b)項)、単一の計算書として表示する方式(以下、1計算書方式)と、純損益とその他の包括利益を2つの計算書で表示する方式(以下、2計算書方式)の選択を許容しています(IAS第1号第10A項)。

IFRS適用企業が、いずれの計算書方式を採用しているかについて分析しました。

 

分析2‐1:計算書方式

計算書方式(1 or 2)

企業数

2計算書方式

42

82.4%

1計算書方式

9

17.6%

総計

51

100.0%

約8割の企業が、2計算書方式を採用しています。一方で、IFRS適用以前において、どちらの計算書方式を採用していたかIFRSを適用する前後の開示比較を行いました。

 

分析2‐2:IFRS適用前後の計算書方式の比較

計算書方式の変更

企業数

従前の会計基準の計算書方式から変更なし

42

2計算書方式から1計算書方式へ変更

5

総計

47

上記分析対象47社と51社の差異4社は、日本基準において包括利益計算書の表示が要求されていなかった企業(IFRSの適用年度が早い企業)が存在すること、及び新規上場によりIFRS以外で財務諸表が開示されていない企業があるためです。
以上から、IFRS適用企業の多くが、日本基準からの計算書方式を踏襲していることが分かります。日本基準における連結財務諸表規則においても、両者の選択を許容しています(連結財務諸表規則 第69条の3)。

3.まとめ

今回は、IFRS適用日本企業の段階損益、及び計算書方式について分析しました。その結果、日本基準からの表示の継続性が考慮されていることが分かりました。
一方で、IFRS適用により、独自の段階損益を表示する企業も存在し、今後、IFRSを適用する企業が増加するに従い、一定の規律(IAS第1号第85A項)の元において企業の判断により多様な表示が増えるものと考えられます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

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