日仏における指名・報酬委員会の設置状況

2017-09-11


コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


先日、東京証券取引所より「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」が公表されました。また毎年フランスでは、上場企業を対象にコーポレート・ガバナンスの開示調査が行われています。今回は日本とフランスにおける委員会の設置状況について比較、解説します。

2017年7月26日、東京証券取引所より「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」1が公表されました。続いて、8月1日に日本取締役協会より「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」2が公表されました。二つの資料をみると、日本の上場企業において指名委員会や報酬委員会を設置する会社が、年々に増えていることがうかがえます。東証一部における指名委員会設置会社は、2015年10.5%、2016年に21.7%、2017年に31.8%と増加傾向を示しています。また、JPX日経400については、2017年7月14日時点で、57%の企業が委員会を設置していることが分かります。

今回のコラムでは、三つの視点から、日本(JPX日経400)とフランス(SBF120)3を比較してみます。

まず、日本における委員会の設置状況はどうなっているでしょうか。

【図表1】JPX400における委員会の設置状況

【図表1】JPX400における委員会の設置状況

(※ 東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」を基に筆者が作成 2017年7月14日時点)

日本のJPX400では、指名委員会が57.0%および報酬委員会が60.1%の企業で設置されていることが分かります。前年と比較し、指名委員会の設置率は+6.3%(前期は50.7%)、報酬委員会の設置率は+6.6%(前期53.5%)と増加しています。

対して、フランス企業の委員会設置状況についてみてみたいと思います。

【図表2】SBF120における委員会の設置状況

【図表2】SBF120における委員会の設置状況

(※ フランスコーポレート・ガバナンス高等委員会「活動報告書2016」を基に筆者が作成 2016年10月時点)

フランスのSBF120では、指名委員会および報酬委員会が100%の企業で設置されていることが分かります4。直近の調査(調査対象は2015年9月から2016年8月)で初めて100%を達成しました。それ以前は、指名委員会の設置率は前々年度92.5%、前年度98.1%、また報酬委員会の設置率は前々年度97.2%、前年度99.1%でした。ちなみにフランスのCGコードでは、報酬委員会、指名委員会は統合しても構わないとされており、SBF120でこの二つの委員会を分離しているのは、30.5%にとどまっており、すなわち69.5%の会社で二つの委員会を統合しています。

両国では、基本となる会社法上の機関設計や、参照するコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が異なるため、一概には比較できません。機関設計の面で言えば、日本の上場企業は、1.指名委員会等設置会社、2.監査等委員会設置会社、3.監査役会設置会社の三つから選択が可能です。一方、フランスの企業は、会社法上、大きく二つの選択肢(単層式および二層式)があるものの、どちらの場合も会社法上、監査委員会、報酬委員会、指名委員会の設置を要求していません。フランスの会社法の機関設計とCGコードの関係については、詳しくは「コーポレートガバナンス・コードの実施状況に関する開示‐フランス」[PDF 329KB]を参照ください。

日本ではCGコードの【補充原則 4‐10(1)】に「上場会社が監査等委員会設置会社または監査役会設置会社を選択している場合、かつ独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである」という柔らかい遠回しな記載がみられます。一方、フランスのCGコード5には、「委員会を設置すべき」と直接的に明記されています。

日本では(指名委員会等設置会社を除き)、指名・報酬に係る委員会の設置が任意であるものの、フランスをはじめ海外企業との比較を考慮すると、これらの委員会を設置しない場合にはなんらかの説明が求められる可能性があるかも知れません。

次に、委員会の構成(社外取締役の比率)について比較してみます。

【図表3】指名委員会の過半数が社外取締役である

【図表3】指名委員会の過半数が社外取締役である

【図表4】報酬委員会の過半数が社外取締役である

【図表4】報酬委員会の過半数が社外取締役である

(※ 筆者作成:東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況」およびフランスコーポレート・ガバナンス高等委員会「活動報告2016」を基に筆者が作成)

「日本(法定)」は、指名委員会等設置会社の機関設定を選択している会社です。指名委員会等設置会社では、会社法に基づいて取締役会の中に社外取締役が過半数を占める委員会を設置することになっていますので、過半数の達成率が100%であるのは当然です。

「日本(任意)」は、機関設定の監査等委員会設置会社または監査役会設置会社を選択している会社であり、委員会設置が会社法上で義務付けられていません。CGコードにも過半数に関する記載はありません。こうした中で、任意に委員会を設置する企業のうちの約半数は、「過半数が社外取締役であること」を達成しています。

フランスにおいては、CGコードの中で、報酬委員会については過半数が社外取締役であることを推奨していますが、指名委員会については特に記載はありません。日本における任意の報酬委員会の過半数が社外取締役である比率(50.5%)と比較すると、フランス上場企業の報酬委員会の過半数が社外取締役である比率(約89.5%)が高い理由は、日本ではCGコードで推奨しない、フランスでは推奨している、というところにあるのでしょう。フランスでも、CGコードで特に推奨していない指名委員会については、社外取締役が過半数である企業は65.3%にとどまっています。

最後に、報酬委員会の委員長の属性をみてみます。

【図表5】報酬委員会の委員長の属性

【図表5】報酬委員会の委員長の属性

(筆者作成:上記※に同じ)

日本のCGコードは、特に委員長の属性について言及していませんが、結果的に約半数(46.6%)の企業において、委員長は社外取締役が担っています。

一方、フランスのCGコードでは、一般に報酬委員会の議長は社外取締役が望ましい、という記載がありますので、企業の94.3%がこれを遵守(コンプライ)しています。第1回第2回のコラムでも触れましたが、役員報酬については、フランス国民の大きな関心ごとの一つであるので、かなりの説得力を持った説明(エクスプレイン)が無い限り、この原則を遵守しないことは企業にとって致命的です。なぜなら「公平性を欠く報酬決定が行われている」という疑念を持たれる可能性が高く、それは非常に勇気がいることだと言えるからです。

今回は、統計を使って日仏のコーポレート・ガバナンスの比較をしましたが、フランスではさまざまな統計を公表していますので、またの機会にご紹介したいと思います。

注記

  1. 東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び委員会の設置状況[PDF 490KB]
  2. 上場企業のコーポレート・ガバナンス調査 日本取締役協会(2017年8月1日)
  3. フランス SBF120は、CAC40とユーロネクスト・パリ(旧パリ証券取引所)に上場されているフランス企業株で時価総額、流動性が最も高い80銘柄から構成されている。
  4. Haut Comité de Gouvernement D’Entreprise – Rapport d’activité (Octobre 2016)
  5. 私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会がAFEP/MEDEFコード(Code de gouvernement d'entreprise des sociétés cotées)を策定している。文中で説明しているCGコードは、2013年6月に発行されたバージョンであり、統計をとった時点において企業が参照していたもの。

阿部 環

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー

コーポレートガバナンス強化支援チーム

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

今後も引き続き、両国のCGコードの違いや、どう進化していくのかを、コラムの中でご紹介していきます。