日本の相談役・顧問等の開示

2017-09-01


コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム


2017年8月2日に東京証券取引所より、相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂が公表されました。今回はこの改訂に至るまでの背景や改訂による追加の記載内容などについて解説します。

本年3月、経済産業省により策定された『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)』1は、本編と二つの付録からなっています。着目すべき点は多数ありますが、その中でも本編の「相談役・顧問」の章、付録の「後継者問題」と「ダイバーシティ」の三つは特徴的なものです。前回のコラムで、日本の顧問制度のユニークな点について触れましたが、今回は「相談役・顧問」について取り上げます。

先日(本年8月2日)、東京証券取引所より相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂2についてのアナウンスがありました。これは政府が、『未来投資戦略2017』 において、「コーポレート・ガバナンスに関する透明性向上の観点から、退任した社長・CEOが就任する相談役、顧問等について、氏名、役職・地位、業務内容等を開示する制度を株式会社東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施する」との方針を示したことを踏まえた取り組みとなっています。

上述のGSSガイドラインの作成の基となったアンケート結果3では、回答があった871社のうち、顧問制度が存在すると回答した企業は6割にのぼりました。そのうち、人数を把握していないという会社が5%程度あり、また役割を把握していないという企業が1割ほどありました(参照:図表1の茶色枠)。このような「人数を把握していない」という状況については、ステークホルダーから「ありえない」と言う声があったと言われています。こうした状況を改善していくことが、記載要項の改訂の目指しているところと言って良いでしょう。

【図表1】

【図表1】

(出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p118を基に筆者加工)

では、何を開示するように促しているのかみてみたいと思います。大きく二つあります。

まず一つ目は、代表取締役社長等を退任した者の状況についての開示です。例えば社長等であった者が、取締役等会社法上の役員の地位を退いた後、引き続き、相談役や顧問等何らかの役職に就任している、または何らか会社と関係する地位にある場合には、それぞれの者ごとに以下の項目について記載します。また、その合計人数を記載します。

【図表2】代表取締役社長等を退任した者の状況

項目

補足

1.指名

2.役職・地位


3.業務内容

社内で経営にかかわっている場合には、その内容。社外の活動(公職等)に会社を代表して参加している場合には、その内容。

4.勤務形態・条件

報酬については、給与、顧問料等費目の名称を問わない。

5.代表取締役社長等の退任日

元代表取締役社長の他、元CEO(最高経営責任者)や元代表執行役社長を含む。

6.相談役・顧問等としての任期

任期の定めが無い場合には、その旨、記載する。

(出典:東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」より)

一方で、具体的な業務内容や会社を代表しての活動が無く、単に役職名の肩書きの使用を許諾しているのみの者については、上記1、2、5、6のみ記載した上で、3や4の欄に、業務内容や勤務実態が無い旨の説明を記載することが示唆されています。

具体的な活動が無いというケースは一瞬、想像しにくいでしょうか。しかし、前述のアンケート結果によれば、7%の企業が「活動は特になし」と答えているのが実態です(参照:図表1の赤色枠)。

二つ目の情報開示として、「その他の事項」の欄に、会社における制度の運用状況について記載することが提案されています。一つは、相談役・顧問等の存廃に係る状況(「すでに廃止済み」、「制度はあるが現在は対象者がいない」等)、もう一つは、相談役・顧問等に関する社内規程の制定改廃や任命に際しての、取締役会や指名・報酬委員会の関与の有無、です。

これらの情報開示を促すことによって何が変わるでしょうか。次の三つのようなことが考えられます。一つ目は、従来社内で議論をしにくかった分野について、情報開示を契機に、議論が行われる可能性があります。二つ目は、開示に真摯に取り組む会社においては、一連の開示がステークホルダーに対して会社の特色を見せる手段になり得ます。三つ目は、社外取締役からの「いつの間にか知らないところで、相談役が増えていた」というようなネガテイブなコメントを減らし、社外取締役と経営陣のコミュニケーションの強化を促すことができます。

開示が始まることにより、CGSガイドラインによるところの「相談役・顧問の役割は、各社によってさまざまであり、社長・CEO経験者を相談役・顧問とすることが一律に良い・悪いというものではないこと」が、よりリアルにみえてくることになるかも知れません。

改訂された記載要項の利用は、2018年1月1日以降の報告書から利用可能とされていますので、それまでの間、企業は情報収集などの準備をする必要があると思われます。

注記

  1. 経済産業省より公表[PDF 2,377KB]
  2. コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領(2017年8月改訂版)※変更履歴つき[PDF 817KB]
    2018年1月1日以後、提出する同報告書から、改訂後の様式および記載要領を用いた記載が可能となる。
  3. コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果[PDF 8,280KB]

阿部 環

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー

コーポレートガバナンス強化支援チーム

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

今後も引き続き、両国のCGコードの違いや、どう進化していくのかを、コラムの中でご紹介していきます。